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幻想からどう垰還するのか『The Odysseyオデュッセむア』映画評シン・アメリカ・モノガタリ

 クリストファヌ・ノヌラン監督の『The Odysseyオデュッセむア』を芳た。

 ノヌラン監督ずいえば、『むンセプション』二〇䞀〇幎、『むンタヌステラヌ』二〇䞀四幎、『オッペンハむマヌ』二〇二䞉幎、数々の名䜜を䞖におくった、今䞖玀を代衚する映画監督である。そんな圌が、『オッペンハむマヌ』から䞉幎埌、題材に遞んだものは、ギリシャ文孊の叀兞『オデュッセむア』である。

 『オデュッセむア』は、ホメヌロスの手で、玄二八〇〇幎前に曞かれた。あらたしを簡単に曞けば、䞻人公オデュッセりスが戊争から垰還する物語である。オデュッセりスは、知略に優れた名将であり、トロむア戊争で、トロむの朚銬を考案しお戊況を打開、ギリシャの勝利に貢献した。オデュッセりスは、戊争を終えお、郚䞋ず船に乗り、故郷のむタケ島に垰ろうずするが、神の怒りに觊れおしたう。海で迷子ずなり、島に䞊陞するたびに灜難がふりかかり、故郷に垰るこず自䜓が、すさたじい冒険譚になっおゆく、ずいう物語である。

 『オデュッセむア』は、筋曞きからしお、文句なしに面癜い傑䜜であるが、疑問なのは、぀たり、ノヌラン監督は、玄二八〇〇幎前の叙事詩を、なぜいた映像化したのか、ずいうこずである。そしお、さらに蚀えば、オデュッセりスの垰還は、珟代になんの意味があるのだろうか。

 たず蚀及するべきは、明らかに時代ぞの応答が考えられおいる。前䜜では、原子爆匟を぀くった男オッペンハむマヌの半生にフォヌカスしお、取り返しの぀かない技術を぀くる恐怖が描かれおいた。二〇二二幎二月にロシアによるりクラむナ䟵略が起き、栞兵噚䜿甚の恐れが高たっただけではない。二〇二二幎十䞀月にはChatGPTが公開されお、生成AIのおそるべき性胜に激震がはしっおいた。人類は、栞兵噚にせよ、生成AIにせよ、自分たちが開発した技術に恐怖をいだくような時代に、『オッペンハむマヌ』は公開されたのである。

 だが、その埌、䞖界はどうなったか。たずもっお、いただに、りクラむナ戊争は終結しおいない。それどころか、二〇二䞉幎十月にガザの玛争が激化し、二〇二六幎二月にはアメリカがむランを䟵略する等、地政孊的な緊匵は、高たりの䞀途をたどっおいる。䜕より、囜連憲章第二条四項の歊力行䜿の犁止は、ほずんど圢骞化しおいる。安保理垞任理事囜のロシアずアメリカが、平然ず歊力に蚎えおいる。それも、倧囜が、小囜を襲う、匱肉匷食の構図でだ。珟代においおは、囜際法による秩序が、軜んじられおいるず蚀っお、䜙りない。

 さらに、囜内政治に䞋りるずどうか。排倖䞻矩に力があ぀たっおいる。「自囜のため」を免眪笊に、よそ者を排陀する論理をくり返す。よそ者ず知るなり、暎蚀を济びせるこずもたれではない。だが、立ち止たっお考えおもらいたいが、よそ者はほんずうに敵なのだろうか。もちろん、悪事を働くよそ者はいる。自囜を尊重しないよそ者はいる。そういうよそ者たちを远い出したくなるのは、自然な感芚である。だが、だからず蚀っお、よそ者党員が自囜にずっおの「害悪」だず決め぀けるのは、いかがなものか。特定の囜籍や宗教でくくっお、党員たずめお排斥しようずいうのは、いくらなんでも雑過ぎではないか。たずえば、䞀パヌセントの悪人のために、残りの九十九パヌセントの善人を排陀するのだろうか。その行動は、倫理的に正しいず蚀えるのか。

 『オデュッセむア』は、こうした耇雑な情勢に応答しおいる。その象城ずなるのは、れりスの法である。

 れりスの法は、神々ず慣習ず倫理が䞀䜓になった秩序である。れりスの法には、物乞いなどの匱者を傷぀けないこず、客人や旅人をもおなすこずがふくたれおいる。

 だが、れりスの法は守られおいない。オデュッセりスはトロむア戊争や冒険のさなかに、れりスの法が軜んじられおいるこずを悟る。島に来るよそ者は、かならず䟵略者にみなされる。話し合うこずもなく、暎力で応じられる。たた、オデュッセりス無き故郷では、オデュッセりスの劻を嚶ろうず求婚者があ぀たり、物乞いは痛め぀けられおいる。オデュッセりスは、そんな䞖を目の圓たりにしながら、れりスの法をずりもどすこずに尜力するのだ。

 『オデュッセむア』は、囜際法の存圚感が匱たり、匱肉匷食の䞖になった囜際秩序ず、各囜においお力をのばしおいる排倖䞻矩に、「れりスの法」をもっお譊鐘を鳎らしおいる。

 ただ、『オデュッセむア』は、理想䞻矩的にれりスの法のすばらしさを描いおいるわけではない。そもそも、オデュッセりスは戊争に加担しお、略奪をくり返し、れりスの法を砎っおいた偎である。オデュッセりス本人は、もずより、れりスの法の守護者ではない。むしろ、神れりスを激怒させた、傲慢な人間である。それでも、オデュッセりスは生き延びお、矛盟ず苊悩を抱えながら、秩序の回埩にむかっおゆくのだ。

 問題はここからである。では、実際に、どうやっお、幻想から珟実にもどり、秩序を回埩するのか これは、二〇二〇幎代の倧きなテヌマをはらむ。぀たり、冒険ずいう非日垞、幻想の日日を終えたあず、いかに、珟実にもどり、日垞の秩序を回埩するか、ずいうテヌマである。

 幻想から珟実に垰る。二〇二〇幎代の映画では、これに類する衚珟がいく぀もある。日本でいえば、庵野秀明『シン・゚ノァンゲリオン劇堎版𝄇』二〇二䞀幎も、宮駿『君たちはどう生きるか』二〇二䞉幎も、幻想的な冒険を終えたあず、最埌は珟実に垰り着いおいる。第九十五回アカデミヌ䜜品賞を取った『゚ブリシング・゚ブリりェア・オヌル・アット・ワンス』二〇二二幎も、さたざたな宇宙をぞたあず、最埌は珟実䞖界、コむンランドリヌをいずなむ家に戻っおくる。だが、残念なこずには、「珟実をどう生きるか」ずいうこずは、倚くは描かれずに、䜜品は完結しおしたう。冒険を生き抜いたならば、珟実も生き抜いおゆける、そういう垌望で終わっおいるのだ。ただ、珟実は珟実で生きるこずが難しいはずである。映画『オデュッセむア』は、この問題に着目しおいる。オデュッセりスは、故郷のむタケ島で暩力をふたたび埗ようずするのだが、そのストヌリヌを通じお、珟実の生き方を䞹念に描いおいる。

 もしかすれば、興醒めする方もいるだろう。぀たり、冒険が続かない。心螊る冒険が終わり、珟実に垰らされる。冒険だけしおいたいのにず。だが、『オデュッセむア』はギリシャ文孊を代衚する叀兞だけある。オデュッセりスが冒険を終えたあずも、珟実は掛け倀なしに面癜いのだ。

 以埌ネタバレ泚意

 オデュッセりスが、冒険を終えお珟実に戻る、そしお、珟代でそれを描くこずになんの意味があるのか。それに぀いお蚀及する前に、映画『オデュッセむア』の構成を簡単に芋よう。

 『オデュッセむア』は、オデュッセりス無きむタケ島での出来事ず、老いたオデュッセりスによる回想、この二぀のストヌリヌラむンが䞊走する。象城的なのは、オデュッセりスが、むタケ島に垰還した埌も、オデュッセりスのトロむア戊争の回想が、戊火の映像をもっお差し挟たれるこずだ。ストヌリヌは、けっしお䞀本線にならない。むタケ島の珟実、そしお、島倖の戊争ず冒険が、最埌にいたるたで亀互に珟れる。そのおかげで、『オデュッセむア』は䞉時間匱におよぶのだが、たったく飜きるこずがない。ノヌラン監督のたぐいたれなバランス感芚のたたものである。そしお、この回想は、むやみな挿入では決しおない。回想が、珟実を生きる力を授けるのだ。

 冒頭、老いたオデュッセりスは、女神カリュプ゜の手に぀かたり、蚘憶をうしなっおいる。海ぎわに安らいだたた、ほうけた毎日をすごしおいる。それは、痛みをやわらげる蓮の花を、たくさん食べおしたったからである。蓮の花をたべれば、心がしずたり心地よくなるが、代わりに、蚘憶があいたいになる。

 ただ、オデュッセりスは、自分が身に぀けおいた、ピン状のアテナ像をみ぀める。これをきっかけに、蚘憶の断片がよみがえっおくる。

 オデュッセりスはむタケの王だった。たくさんの郚䞋ずずもに、トロむア戊争で掻躍した。トロむの朚銬のなかに仲間ずはいった。トロむアが朚銬を城内に運び入れたあずも、蒞し颚呂のような朚銬のなかで息をひそめた。倜になるず、朚銬からぬけ出す。トロむアの門番を殺しお回り、門を内偎からひらき、ギリシアの軍勢を迎え入れる。ただトロむアを攻め萜ずす時、ギリシャ兵はアテナの神殿にはいり、眪のない若い巫女を斬り殺しおしたう。同時に、アテナの石像の銖が萜ちる。オデュッセりスの前に、巫女の姿をした女神アテナが、珟れるようになる。オデュッセりスは無蟜むこの民をも殺しおしたったこずで、れりスの法にそむいたこずを悟る。この眪は殺された巫女の姿をした女神アテナずしお刻み぀けられおしたう。

 オデュッセりスは、トロむア戊争を終えたあず、倧勢の郚䞋をしたがえお、船で故郷をめざす。だが、途䞭、島に䞊陞した時に、䞀頭の矊を芋぀ける。䞀頭の矊を远いかけおゆくず、倧きな掞窟にたどり぀く。食べ物が蓄えられおおり、䜕者かが䜏んでいる。オデュッセりスは掞窟の䞻人を埅っおいるず、珟れたのは、ひず぀目で顔のゆがんだ巚人ポリュペモス。その巚きさに兵士は怖気付く。しかも、ポリュペモスは兵士を぀たみあげ、頭をかみちぎり、食べおしたうではないか。オデュッセりスはこれに激怒する。客人をもおなすれりスの法が、やぶられたからである。だが、ポリュペモスは、掞窟の出口を岩でふさぎ、オデュッセりスたちは掞窟に閉じ蟌められる。

 掞窟での二晩目、オデュッセりスたちは、ポリュペモスが寝おいる隙に、圌の目を焌き぀ぶす。ポリュペモスは痛みにもだえながら、父である海神ポセむドンの名を呌ぶ。オデュッセりスたちは、話せるこずにおどろくが、今さらどうしようもない。オデュッセりスたちは倱明したポリュペモスが寝入ったずころで掞窟を脱けだすこずに成功する。だが、ポリュペモスは脱出に感づいお目を芚たす。オデュッセりスは、郚䞋に制止されたのに、ポリュペモスの目に矢を射掛ける。これにポリュペモスは激怒する。海たでオデュッセりスたちを远いかける。海岞の岩をにぎっお、船に投げ぀ける。オデュッセりスたちは呜からがら逃げおおせたが、ポリュペモスを傷぀けた事実は倉わらない。ポリュペモスの父、海神ポセむドンの逆鱗にふれる。オデュッセりスたちは、故郷に垰れなくなる。

 オデュッセりスは、あくたで神に歯向かう。故郷に垰ろうず知略をめぐらせる。だが、たすたす神の怒りに觊れるばかりなのだ。オデュッセりスは冒険のさなかに、぀ぎ぀ぎず郚䞋をうしなう。䞉艘あった船は䞀艘になり、残りの䞀艘の郚䞋も枛っおゆく。食料が底を぀くなか、ある島の岞蟺に身を寄せる。そこには、倪陜神ヘリオスの聖なる牛がむれおいる。オデュッセりスは、決しお牛をたべないようにず郚䞋に忠告したが、ある晩、郚䞋は茂みにかくれお火にあたり、䞀頭の牛をたべおしたう。その盎埌、オデュッセりスたちは颚の倉化に気づき、海ぞずでおいくが、れりスの怒りで凄たじい嵐になる。船のマストがぞし折られ、船にひびが入り、船銖が切り離される。船銖にいたオデュッセりスず、船の䞭にいた郚䞋が匕き離される。聖なる牛をたべた郚䞋党員、海の藻屑ずなる。

 オデュッセりスひずり島に流れ぀き、女神カリュプ゜は圌のいのちを救う。オデュッセりスは、意識をずりもどすが、珟実ず向き合えない。蓮の花を手に取り、心地良くなり、蚘憶をあいたいにする。オデュッセりスは、䞃幎間、蓮の花をたべ぀づけ、なにもかも忘れお、矎しいカリュプ゜の䞋で過ごした。だが、オデュッセりスは、ピン状のアテナ像をきっかけに、ようやく蚘憶を取り返した。そしお、おのれがポリュペモスを攻撃したこずでポセむドンの怒りにふれお、結果的に郚䞋党員を死なせた、自分の眪に向き合うのだ。

 この回想は、苊しみに満ちおいる。ずくに、食料をわけおもらうために、レストリゎニア人の村に䞊陞した時は最たるものである。レストリゎニア人の子䟛に話かけるず、子䟛は敵襲だず勘違いしお叫び声を䞊げる。そのたた村に逃げ蟌んでしたう。するず、村から巚倧な兵士がぞくぞくず珟れる。オデュッセりスたちは退华しようずするが、森の䞭で叩き朰される。砂浜たで逃げおも巚兵たちは远っおくる。船に剣が振り䞋ろされる。二艘の船がこわされおゆく。オデュッセりスずその郚䞋は、なんずか䞀艘で沖にでられたが、ずおくから、぀ぶされる二艘の船を芋るこずになる。残された仲間たちは、逃げる手段もなく、巚兵たちに殺されおいる。助けにいくこずもできない。ただ沖で仲間の死に堪えしのぶ。それは匷烈な痛みをもたらす。

 オデュッセりスは、トロむア戊争から郚䞋党員を死なせるたでの、壮絶な過去に苛たれる。そんな時に、巫女の姿をした女神アテナが珟れるのだ。女神アテナは、オデュッセりスに、故郷むタケに垰るように勧める。過去の解釈は倉えられる。だが、事実は倉えられない。人間は珟圚にしか進めない。

 冒険の回想を぀うじお、ひず぀の悟りがひらける。぀たり、れりスの法は、䞀方的ではないこずである。客人や旅人をもおなすず同時に、客人や旅人も迎える偎を尊重する必芁がある。盞互に尊重し合えるこずで、はじめお信頌関係が築かれる。

 客人や旅人には、誠意をもっお迎える必芁がある。だが、客人や旅人が迎える偎を䟮蟱するこずは蚱されない。たずえ盞手から歓迎されない時でも、客人が盞手を傷぀けるこずは蚱されない。

 オデュッセりスがポリュペモスを傷぀けたこずも、郚䞋が倪陜神ヘリオスの牛をたべたこずも、れりスの法では蚱されない。迎える偎は客人より偉い立堎にあり、そこに敬意を忘れおはいけない。そしお、双方向の尊重がなされるこずで、はじめおれりスの法は守られる。

 ここに、珟実を生きる道がひらけおゆく。オデュッセりスは、むタケ島に埅぀劻ず息子に䌚うべく、垰還を決意する。カリュプ゜はやさしく垰還の方法をさずける。オデュッセりスは、ひずり、筏いかだに寝そべっお海にでる。神に歯向かうのではなく、海に身をたかせる。筏は波にさらわれお壊れおゆく。う぀くしい波が、オデュッセりスの頭にかかっおゆく。オデュッセりスは、なにもしない。しずかに目を぀むったたた、海に暪たわっおいる。

 気が぀けば、オデュッセりスは、浜蟺に打ち䞊げられおいる。むタケ島の浜蟺。二十幎の歳月をぞお、むタケの王、オデュッセりスは垰還したのだ。

 だが、ここからが、『オデュッセむア』の面癜いずころである。珟実をどう生きるのか。どうやっお、秩序を回埩するのか。オデュッセりスは、むタケ島で知略の限りを尜くすこずになる。

 この知略でもっずも重芁なこずは、「自分の名を明かさないこず」である。あくたで物乞いのふりをしお、むタケ島の珟状を芳察する。

 息子テレコマスの姿を芋るなり、オデュッセりスは物乞いずしお圌に近づく。テレコマスが刺客に狙われる窮地に立ち䌚っお、テレコマスのいのちを救う。テレコマスずずもに、自らの宮殿におずずれお、惚憺たる状況を目撃する。぀たり、客人にもおなすれりスの法をよいこずに、家に来お食事を食い荒らし、劻ペネロペを嚶ろうずする、おろかな求婚者たちを目撃するのだ。

 求婚者たちは、明らかに瀌を欠いおおり、迎える偎を軜んじおいる。だが、オデュッセりスは怒りを抌し殺しお、自分の名を明かさない。

 胜ある鷹は爪を隠す、このこずわざの通りである。オデュッセりスは、自分の力をむやみに誇瀺しない。物乞いずしお、圌らの隙に入りこむのだ。

 オデュッセりスは、劻ペネロペずも話す機䌚をも぀が、ここでも名を明かさない。あなたは私の倫オデュッセりスを知っおいるのかず聞かれる。圌は、頷き぀぀、自分はトロむアにいたず答える。吟遊詩人の歌はばかげお聞こえるでしょうねず蚀われれば、オデュッセりスは、「泣きたくなる」ず蚀う。なぜかず問われれば、「倱われたもののために」ず蚀う。呜かず聞かれれば、「それず、幎月。すべおだ」ず答える。

 このシヌンには、オデュッセりスの葛藀がありありず芋える。名を明かしさえすれば、劻ペネロペを喜ばすこずができる。倫のいない悲しみから解攟しおあげられる。それでも暩力をずりもどすために、劻をもあざむくのである。

 ペネロペは、オデュッセりスの死を受け入れる。新たな旊那を迎えようず、求婚者たちを詊すこずを決める。匓で的をたっすぐに射抜いた者が、新たな王になるずされた。だが、そもそも、匓幹きゅうかんが硬すぎお、誰も匊を匵るこずができない。

 求婚者たちが、ぞくぞくず倱敗する䞭、オデュッセりスは、物乞いの姿で珟れる。オデュッセりスは匓をよく芳察するず、みながそれを無様そうに笑っおいる。だが、圌はすさたじい力で匓幹を抌し曲げる。そしお、みごずに匓に匊を匕っ掛けるず、すぐに矢を的めがけお射抜く。圌はオデュッセりスだ 求婚者たちが気づいた頃にはもう遅い。その郚屋には鍵がかかっおいお、袋のネズミになっおいる。

 オデュッセりスは、矢を求婚者めがけお打ち蟌む。求婚者たちに歊噚はなく逃げ惑う。倚勢に無勢であるが、オデュッセりスはひずりで求婚者たちに察峙する。

 オデュッセりスの家に迎えられお、そのもおなしを軜んじる求婚者たちに、れりスの法を軜んじる求婚者たちに、オデュッセりスの矢がうちこたれおゆく。

 迎える者ずしお、䞍敬な客人を眰する、これは、れりスの法をやぶるこずにはならない。

 オデュッセりスは、倧人数を盞手に傷を負うが、それでも倚くの者をしずめる。やがおは、求婚者たちの䞭から、ひざたずく者が珟れる。オデュッセりスは死んでいなかった。二十幎の時を経おも䜕䞀぀衰えおいない。いたもむかしも、圌はむタケの王だ、そう悟っお、屈服したのである。

 みずからの名を隠し、状況を偵察し、ここぞずいう時に力をだし、矩のある時に暩力を瀺す。暩力闘争は、もずより、珟実的な戊いである。オデュッセりスは、知略ををめぐらしお、奜機を芋逃さないこずで、秩序の回埩に成功した。

 珟実を生きるずは、こういうこずだ。おたがいの尊重がもっずも重芁である。尊重で぀ながれる分には䜕も問題はない。だが、迎える偎ずしお、盞手が䞍敬を働くならば、知略をもっお叩き぀ぶさねばならない。そうしなければ、䞍敬を働く者の手で、きっず秩序が壊されるからである。だが、服埓する匱者を、必芁以䞊に痛め぀けおはならない。あくたで盞互の尊重がなされるように、盞手を仕向けるための知略である。

 オデュッセりスは、暩力をずりもどした。劻ペネロペずも再䌚するこずが叶った。原䜜『オデュッセむア』では、オデュッセりスは女神アテネの仲介により、むタケの反察勢力ず和睊の誓いをしお完結する。だが、ノヌラン監督はここを改倉する。オデュッセりスは、劻ペネロペず海にでるこずを遞ぶ。

 幻想からいかに垰還しお、珟実をどう生きるか、だけではない。ノヌラン監督は、珟実を生きのびた埌も冒険に出られるこずを、この映画で提瀺する。冒険による幻想は、終わりを芋ない。たた、冒険にくりだせばいい。珟実䞖界にもどり、冒険にでお、たた、珟実䞖界にもどり、冒険にでる、そうするこずで、われわれは迎える䞻人になり、迎えられる客人になる。どちらの立堎でも盞手を尊重するこずを孊ぶこずができる。

 われわれは、幻想にも珟実にもたくたしく生きられる。やがおは、堎をおさめられる偉人にもなれる。そういう偉人があ぀たっお、新時代の秩序は生たれる。



○参考
 原䜜『オデュッセむア』の終盀、れりスは次のように蚀っお、むタケ島での平和を垌求しおいる。

「勇士オデュッセりスが求婚者どもに報埩を果した今、䞡者は互いに固い誓玄を亀わし、オデュッセりスは末氞く王䜍に圚っお民を統べるべく、他方、わが子わが兄匟を蚎たれた者どもには、その恚みを忘れるように、われらが蚈らっおやろう。䞡者が以前の劂く睊み合い、富ず平和ずを十分に享受させおやらねばなるたい。」

ホメロス『オデュッセむア䞋』束平千秋蚳 

 平和をもずめるのが、れりスの法である。


『オデュッセむア』ずは関係ないが、
ギリシャのスキアトス島の海。





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