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ブルーカーボンがもたらす環境と経済への影響

 

1-1 地球温暖化対策における新たな選択肢
21世紀の国際社会において、地球温暖化および気候変動への対策は最優先事項である。環境問題の世界的な対策として1997年、京都議定書が採択された。その後、2015年に採択されたパリ協定以降、各国は「2050年までのカーボンニュートラル(温室効果ガス、二酸化炭素の排出量と吸収量のバランスを実質ゼロにする状態)を達成することを掲げた。他にも、再生可能エネルギーの導入や電気自動車の普及を進めてきた。この協定の特徴として、ボトムアップ方式が採用されている。これは、参加国すべてに課せられた努力義務であり、一部の国(先進国)に対して、国際的に規定された目標を定めている京都議定書(トップダウン方式)に比べて、国際共同的である。
このような取り組みを経て、現在に至るまで環境問題の議論は多くされてきており、「脱炭素」についてもよく取り上げられている。
こうした中、近年急速に注目を集めているのが、海洋生態系が吸収・貯留する炭素「ブルーカーボン」である。海は人間活動で排出されたCO2の多くを吸収してきた最大の炭素の吸収能力をもつ。また、地球の表面積の約7割を占める海洋は、現代の技術を持ってしても海洋生態系の9割を解明できていない。
ここで、海洋生態系が持つ果てしないポテンシャルをどのように守りながら活用するかが、陸地の森林だけに頼るこれまでの環境政策から脱却する方法の一つである。

1-2.ブルーカーボンの定義とその効果
「ブルーカーボン」という言葉は、2009年10月に国連環境計画(UNEP)が発表した報告書『Blue Carbon』で初めて公表された。それまで温暖化対策の主役として考えられてきた陸上植物により吸収された炭素(グリーンカーボン)に対し、海草藻場、海藻藻場、塩性湿地・干潟、マングローブ林などが、「沿岸や海洋生態系」によって大気中または、海水中に溶け込んでいる二酸化炭素を取り込み、海底や深海に蓄積された炭素がブルーカーボンである。
国土交通省の資料によると、この役割を担うブルーカーボン生態系(主要な吸収源)は主に以下の4つに分類されている。
 1. 海草藻場:アマモやスガモなど、種子で増える高等植物が繁茂する所
 2. 海藻藻場:コンブやワカメ、アラメなど、胞子で増える藻類が岩礁に広がる所
 3. 塩性湿地:潮の満ち引きで冠水と干出を繰り返す泥地や、ヨシなどが群生する湿地。
 4. マングローブ林:熱帯や亜熱帯の汽水域(淡水と海水が混ざる場所)に発達する樹木林。
また、有機炭素の海底における蓄積のプロセスも上げている。
「有機炭素の隔離・貯留のプロセス」

  1.    枯死したブルーカーボン生態系の植物体(海草・海藻・マングローブ)が海底に堆積したり、底泥へ埋没したりすることで長期間貯留される。

  2.    枯死したブルーカーボン生態系の植物体が細分化され流出し、長期間分解されずCO2に戻らない粒子状の細片(難分解性粒状態有機炭素:RPOC)として沿岸域に堆積する。

  3.    潮流や波浪などでちぎれたブルーカーボン生態系の植物体が、外洋に流され、浮力を失って深い層に沈降し、長期間、中深層などに留まる。

  4.    ブルーカーボン生態系の植物体から溶け出す分解されにくい有機物(難分解性溶存態有機炭素:RDOC)となり、長期間海水中に貯留される。

とある。この作用により、海中のCO2濃度が減るため大気中のCO2を吸収する。加えて、海底では、ほぼ無酸素状態であり微生物による分解が非常に遅いため、吸収されたブルーカーボンが数千年にわたって海底に閉じ込められる。これが、大気中のCO2濃度減少に貢献し、地球温暖化に対する解決策になりうると言われる所以である。
さらに、ブルーカーボン生態系の能力について、環境ジャーナリストの枝廣淳子氏の著書『ブルーカーボンとはなにか 温暖化を防ぐ海の森』によれば、ブルーカーボン生態系が占める面積は、世界の全森林面積のわずか数%にすぎない。しかし、単位面積あたりの炭素吸収・貯留能力は陸上森林を大きく上回るといわれている。このように、陸上に比べ圧倒的な効率性をを持っている「海の森」のメカニズムをさらに解明することが環境問題解決への一歩となる。

2 経済との融合:「Jブルークレジット®」の仕組み
このブルーカーボン生態系政策の取り組みをSNSで訴えかけたり、ボランティアをしたりするだけでは十分に活用できず持続的に機能させることは難しい。そこで重要視されているのが、この政策の環境的、社会的な可能性を一つの価値として現代の経済(市場経済)に組み込むということである。
具体的に、国土交通省の許認下で設立された「ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)」によって運営される、「Jブルークレジット®」 というブルーカーボン政策のクレジット化がある。
※「Jブルークレジット®」の仕組み
1、活動主体(NPO、漁協、地方自治体など)が藻場の保全やアマモの植樹を行い、増やした CO2吸収量を科学的に測定・申請する。
 2、JBEに設置された審査委員会による厳正な審査を経て、その吸収量が「クレジット(価値)」として認証・発行される。
 3、これを欲しがる企業や団体がこのクレジットを購入し、その資金が活動主体の元にいく。
つまり、ブルーカーボン生態系によって吸収された分のCO2をクレジットとして、企業や団体に売る。ということである。この企業、団体は企業活動により排出したCO2を相殺できるだけではなく、地域貢献や地球環境問題への取り組みをしているという事実により、企業価値の向上も得られる。
JBEが公表しているデータによると、Jブルークレジットの認証または発行の量は制度開始(2020年)以降、年々拡大を続けている。近年流行している、企業の環境・社会をに重点を置いた投資(ESG投資)の波に乗り、利用者に多くの利益が生じる経済循環が生まれている。

 3 海洋生態系の破壊と定量化
ここで問題となってくるのが、、日本での「ブルーカーボン生態系の消失」が進んでいるということだ。それが、「磯焼け」という現象である。
地球温暖化による海水温の上昇で活性化したウニやアイゴ(魚類)などが、コンブやカジメなどの藻場の植物を食べ尽くしてしまい、砂漠のようになってしまうという現象である。地球温暖化によって吸収量、吸収源を増やすどころか、元々あった生態系を維持することが難しくなっている。
また、おもに「Jブルークレジット®」で必要となってくる「炭素吸収量の測定と定量化の難しさ」というのも、政治や行政的な面で大きなネックとなっている。
陸上の樹木であれば、木自体の太さや高さを測ることで比較的楽に炭素貯留量を計算することができる。しかし、海の中にある藻場は、潮の満ち引きや季節による変動が激しいため、陸上の樹木の場合にもよく用いられる上空からの衛星写真による測定が非常に難しい。計測コストや調査にかかる人件費が非常に高くつくため、小規模な環境団体でも手続きや費用面での負担が大きいという課題が問題視されている。

 4.技術革新によるブルーカーボンの発展
これまでに述べたように、これほどの利点と将来性を持ち合わせているブルーカーボン生態系をこれからの社会で無視するわけにはいかない。このシステムを最大限利用するためには必要となるのがやはり「最先端技術」の発達であると思う。
日本製鉄株式会社で主導されているプロジェクトでは、鉄鋼を製造する時に出る副産物(鉄鋼スラグ)を活用して海の栄養分を補い藻場を再生する技術の開発が進められている、他にも水中ドローンやAI・を組み合わせて藻場の現存量を正確に、かつ低コストで自動計測するシステムが、民間企業や大学の連携によって進められている。国としても算定・反映する体制を整え、民間の政策に対してを後押しをしている。これらの技術革新によって計測コスト、地域設備を解決してクレジット市場への信頼性を高める試みが今まさに進んでいるのである。
これからの政治経済に求められるのは、環境を犠牲にして経済を回す旧来型の資本主義的な体制ではなく、かと言って、経済成長を止めて環境を優先する体制でもない。環境の保存とそれが富、利益を生み出すという両立的な経済発展が求められているのである。
四方を海に囲まれた日本という国において、ブルーカーボンを軸とした次世代の環境政策を進めることは、地球規模問題の気候問題への貢献と地方の一次産業を再復興させるための強力な手段であると思う。

 論文全体の参考文献・資料一覧
 1. 枝廣淳子(2020)『ブルーカーボンとはなにか 温暖化を防ぐ海の森』岩波書店
 3. 国土交通省港湾局 「みなとにおけるブルーカーボン推進」公式ページhttps://www.mlit.go.jp/kowan/kowan_tk6_000069.html
 4. ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)公式ウェブサイトhttps://www.blueeconomy.jp
6国土交通省 ブルーカーボン拡大に向けた取り組み https://www.mlit.go.jp/kowan/content/001981646.pdf
 5. 水産庁「磯焼け対策ガイドライン」関連資料https://www.jfa.maff.go.jp/j/isoyake/isoyake_guide.html
6日本製鉄株式会社「海の森作り」https://www.nipponsteel.com
7農林水産省「農林水産分野における カーボン・クレジットの拡大に向けて」https://www.maff.go.jp


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