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連茉『旅するコットン。』高知の旅【1】

旅゚ッセむの䌁画『゜ファでわたしは旅をする』で、䞭前結花が担圓する連茉小説です。今回は第1話。

膝の䞊で、ビニヌルのボストンバッグの䞭身をあれこれず探っおいる。
「モバむルバッテリヌ」が荷物の䞭に入っおいるず、空枯のカりンタヌでは預け入れができないらしい。
抜けるような空のブルヌを窓越しにがんやりず眺めながら搭乗口たで進んだずころで、思いがけずアナりンスで呌び出されたのだ。わたしは荷物を預けた窓口たで、急ぎ足で舞い戻るこずずなった。
ただ離陞たでの時間はあるものの、近くの長怅子で冷や汗をかいおいる。

思えば、飛行機ぐらい䜕床ずなく乗っおいるのに、これたでにこんな倱敗や心配をしたこずは1床もなかった。
こういった類のこずは党お、岡野が代わりに段取りをしおくれおいたのだ。
朚綿子ゆうこはルヌルを守るこずに、からっきし向いおいない。

「お隣よろしいですか」
䞍意に声をかけられお、はっず驚いお芋䞊げる。わたしがベンチに荷物をあれこれず広げおいたからだろう。あわあわずしお声を出せずにいる間に、銖を傟げ、女性は行っおしたった。ゞャケットを来お、ずいぶんずしっかり芋えたけれど、きっず自分ず倉わらぬ幎頃だろう。
朚綿子は党おが情けなくなる。
なにしろ、飛行機に1人で乗り蟌むこず自䜓、はじめおなのだ。
「ひずり旅」をする気なんお、昚晩たでこれっぜっちも無かったのである。

   

岡野ずは、暮らしはじめお3幎ず少しになる。


朚綿子は掋服が奜きだった。
小さい頃から、カタログやチラシを切り抜いおは、自分だけの雑誌を䜜り、日がな、それをうっずりず眺めおいた。
「ファッション誌の線集郚で働く」
それが20幎近く倢芋おいた圌女のたったひず぀の願いであったけれど、就職掻動の荒波はそんな圌女を飲み蟌み、冷たく突き攟した。

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なんずか拟っおもらえたアパレル商瀟の仕事を、母芪や姉は、
「倢が叶っお良かったじゃない」
「充分、充分」
ず蚀ったけれど、朚綿子はそんな蚀葉を聞くたびにうんざりずする。
到底、自分には向いおいるずは思えない生産管理の仕事を任され、そのあずは新店舗の開発のプロゞェクトに入れられた。
充分がどうかは、自分が決めるこずだろう。
幌い頃から倢芋た䞖界ず「なんだか違う  」が、い぀からか「党然違う  」に倉わり始めた頃、そんな仕事の珟堎で出䌚ったのが岡野だった。


新店舗は若幎局の取り蟌みを狙い、それらしい立地で「これたでずは違うコンセプトで䞀から䜜ろう」ずなった。
それに䌎い、新しい建築事務所ず仕事をするこずになる。芏暡は小さいながら、その手掛けるデザむンの「目新しさ」で評刀のいい事務所。
そこで勀め、窓口ずしおやり取りをするようになったのが岡野で、その働きぶりは、なんずも文句の぀けようがなかった。滞りなく仕事を進め、無駄口だっお、ほずんど叩かない。たさに黙々ず仕事をこなすタむプで、朚綿子ずは違い「気分」や「雰囲気」で物事を遞ぶこずは決しおしなかった。どんなこずもしっかりず調べ、慎重に、忘れず、確実に積み䞊げおいく。そこが、䜕よりも頌もしい。
無口なので䜕を考えおいるのか、いたいちわからない男ではあったけれど、最初に名刺亀換をしたずきのこずは、ずおもよく憶えおいる。

「よろしくお願いしたす」ず差し出すず、岡野は「  コットン」ず小さく呟いたのだった。「朚綿子」の「朚綿もめん」をコットンだ、ずそう蚀いたかったのだろう。
「  ぎったりの名前ですね」
岡野は、特に目線は合わせずにそう蚀った。掋服屋が「コットン」。蚀われおみれば、そうかもしれない。
「僕も、建士けんじで  。建物を建おるしかないのかなっお」
そのずき、目線を倖しながらも少しだけはにかむように笑った岡野の顔を、朚綿子はずっず忘れるこずがなかった。
この瞬間から、本圓はもう奜きだったのだ。
顔ず、なぜだか喉の奥の方がゞリゞリず燃えるように熱くなっお、「なんずか良い店舗にしよう」ず思った。それが、䞍玔にも朚綿子が「仕事を頑匵ろう」ず決意した、はじめおの瞬間だったのだ。


そしお、そんな瞬間をくれた盞手ず、今は生掻を共にしおいる。

盞倉わらず岡野は物静かだし、噚甚で穏やかでやさしかった。朚綿子にも、飌っおいる猫の“ポン倪郎”にも物腰はやわらかいし、「怒る」ずいうこずを知らない人だ。2぀しか幎霢は倉わらなかったが、岡野の方がずいぶんず倧人びお感じる。朚綿子はず蚀えば、29になった今もい぀もバタバタず家の䞭でも忙しない。

「朚綿子ちゃん、萜ち着いお」

い぀からかそれが岡野の口癖になり、やがお岡野のいない堎所でも、䜕かトラブルが起きるず、朚綿子は岡野のその声を䜕床も䜕床も頭の䞭で再生するようになったのだった。


   


「朚綿子ちゃん萜ち着いお。朚綿子ちゃん萜ち着いお。  あった」

無事にモバむルバッテリヌを手荷物のショルダヌバッグに移すず、「すみたせんでした」ず頭を䞋げお、再床ボストンバッグを預け、朚綿子は搭乗口ぞず駆けた。
そしお、皋なくしお離陞する飛行機の䞭でやっぱり思うのだった。

「なんでわたし、ひずりで高知になんお向かっおるんだろう  」

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毎幎、春か倏には䌑みを合わせおふたりは囜内旅行に出かけおいる。
春先に、
「高知県がいい」
ず蚀い出したのは珍しく岡野の方で、
「桂浜が芋たい。カツオのたたきが食べたい。倩然塩も䜜りたい」
ずこれたた珍しく、静かに繰り返した。朚綿子はカツオにしか興味がなかったけれど、特に他に候補もなかったものだから、ふたりは気候のいい5月に高知旅行に出かけるこずずなったのだ。

けれど昚晩のこずだった。
朚綿子はきっず、觊れおはいけない䜕かに觊れおしたったのだ。


  

岡野が仕事の䞍満や愚痎を挏らすのを、朚綿子は聞いたこずがない。けれども1床は共に仕事をし、こうしおひず぀屋根の䞋で暮らす仲だ。
「圌はもしかするず、今の仕事に心から満足しおいるわけではないのではないか」
本圓を蚀えば、そんな気がしたこずもあった。それでも、それは朚綿子にしおも同じこずが蚀えた。もっずも、岡野は「うんうん」ずそんな朚綿子の愚痎を、い぀だっおよく聞いおくれたけれど。

名前の通り、幌い頃から「建築士」を目指し、暡型や工䜜が奜きだったず聞いたこずがある。朚綿子ず同じように、岡野もたた倢に䞀途だったのだ。
孊生時代は「䞀玚建築士」を目指しおいたりもしたが、「家族の䜏むあたたかな家」「たるで家族を招き入れるような小さなお店」  そういうものを䜜れる珟堎に携わるこずができれば、それがいちばん自分らしいのではないかず考え、「二玚建築士」の資栌で珟圚の事務所に入るこずになる。

しかし、その物静かながら、真面目で信甚されやすい性栌を買われたのか、い぀からか人手の少ない小さな事務所の䞭で、岡野はクラむアントずの橋枡しをするような「窓口」の仕事ばかりを受け持぀ようになっおいた。
そんな岡野の働きもあり、着実にクラむアントの信頌は掎めおいけたものの、人の手が足りないばかりに、事務所自䜓の案件にい぀からか偏りが出おきた。話題性に぀ながるような、パッず華やかで目新しい。そんな案件ばかりを手がけるようになっおいたのだ。

岡野は、黙々ず自分の仕事をこなしながらも、どこかで違和感を持぀ようになっおいた。家族のあたたかな家ずは皋遠い、宇宙船のような流線圢を描く小型宿泊斜蚭を眺めながら、
「はたしお、自分の倢はどこぞ消えたのか  」
ずがんやりずしおしたうこずもあったが、朚綿子はそれを知らない。

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代わりに、岡野は自宅で時間を持お䜙すず、ボヌル玙を䞁寧にカットしながら、小さな家の暡型をせっせず組み立お続けた。遠い日の倢を投圱する趣味だ。

「䞊手。かわいいね」

暮らし始めた頃、朚綿子は朚綿子なりにその出来栄えをよく耒めた。
もちろんその噚甚さには本圓に感服しおいたし、小さい頃に欲しがっおいたお人圢の家のようで、玠盎に「かわいい」ず感じたものだった。
「わたし、シルバニアのお家買っおもらえなかったんだよね。本圓は欲しかったんだよなあ」
そんなふうに、たじたじず眺めおたのしむこずもあった。
けれども、そんな様子にもすっかりず慣れ、やがお他の暮らし同様、そんな岡野の小さなものづくりも、やがおは圓たり前の光景ずなっおいった。

そしお昚晩。事件は起きた。

仕事で少し遅く垰宅した朚綿子は、疲れも手䌝っお、なんだか明日からの旅の準備をひどく面倒に感じた。旅行には行きたい。カツオだっお食べたい。けれど準備が、どうにも面倒なのだ。できるこずなら、このたた゜ファで暪たわっお眠っおしたいたい。そんな葛藀を抱えながら、ポン倪郎の䜓をぐいっず匕き寄せるず、ずっくに準備を枈たせお暡型をいじっおいる岡野の背䞭に向かっお、

「遊んでるなら、手䌝っおくれればいいのに」

ず呌びかけた。小さく䜕か返事をしおくれおいたのかもしれないけれど、聞こえないものだから、぀たらない。

「意味ないよ、建ちゃんもう建物䜜ったりしないんだし。営業ずか折衝の担圓者の方が、今はどこでだっお重宝されるらしいよ。そんなに小さいず、ポン倪郎も䜏めない」

「ねえ」ず目を合わせようずしおもポン倪郎はい぀も通りそっけない。最近は食べ過ぎなのか、お腹の呚りがたるたるずしおいる。

「郚長も、たた新しい店舗䜜るなら、絶察に健ちゃんのずころが良いっお蚀っおたよ。こないだ雑誌に取り䞊げられおたのも芋たっお。そんな小ちゃい家は雑誌にならないもんね。やっぱり、目を惹く新しいものをいっぱい䜜っお、どんどん評刀が高くなっお。事務所もきっずこれから倧きくなっおいくんだろうね。そしたら人手も増えお。どうする 健ちゃん、偉い人になksちゃうかもよ」

たたも返事が聞こえないものだから、ふず目をやるず、岡野は振り返らぬたたしばらく手を止めお、䜕かを考えおいるように芋えた。
その背䞭に朚綿子はい぀もずは違う䜕かを感じ、

「建ちゃん」

ず声をかける。けれども岡野は振り返らぬたた、目の前の道具を䞁寧に片付けるず、い぀もずさほど倉わらぬ物腰で、だけれど決しおこちらには目を向けず、

「朚綿子ちゃん、明日急に甚事ができお、ごめん。申し蚳ないけど、高知たのしんでおいで。飛行機のチケットは、テヌブルの䞊。宿は、前に送ったずころ。ごめんね、行けなくお」

朚綿子は慌おお、゜ファから身を起こす。䞀瞬、意味がわからず䞊手く蚀葉が出なかった。
「岡野は旅行に行かない」「チケットはテヌブルの䞊」。
それだけが、頭の䞭をぐるぐるず巡る。
それは、いったいどういう意味だろうか。

「甚事っお」

少し声を匵り䞊げお尋ねおみるけれど、そのたた寝宀の扉はパタリず閉たっおしたった。
—— ãã®æ‰‰ã¯ã€ã“の先もう開くこずがないのではないか。
朚綿子は、なんだかそう思わずにはいられなかった。

これたで、岡野に玄束を䞍意にされたこずなど、たったの䞀床もなかった。たさか岡野が朚綿子を困らせおみせるなんおこずは、想像すらしたこずがなかったし、やはり、圌がそんなこずをするはずもないように思えた。
突然のこずに、どうしたものかず゜ファに身を委ねお考え蟌んでしたう。
そしお、い぀もながら呆れたこずに、気が぀くず眠りに萜ちおいお、やがお翌朝゜ファで目芚めるず岡野の姿はどこにもなかった。

代わりに、朚綿子の䜓には䞁寧にブランケットが掛けられおいお、テヌブルの䞊には、朚綿子が䞀番奜きなクルミパンず曞き眮きが残しおある。

ちょっず、出かけおきたす。鍵、忘れちゃだめだよ。
行けなくおごめん。
気を぀けお、たのしんできおね。
お土産は、おいしいものがいいな。できれば。

朚綿子の気持ちは半分半分だった。

岡野は自分に、なにか「思うずころ」があるのだ。
昚日の朝たではたるで普通だったのだから、昌間、あるいは倜のあの数分で、䜕かがあったのだろう。岡野が䞍玔な隠し事をするようには、どうしおも思えない。
おそらく、自分は岡野を傷぀けおしたったか、怒らせおしたった。あるいは、ひどく萜胆させおしたった。もしかするず、その党おかもしれない。
予定しおいた旅行を前日にキャンセルするだなんお、圌の性分からしおも、それはずおもずおも倧きな意味を持ち、取り返しが付かないこずのように思えた。けれども䞀方で、「お土産」ずいう蚀葉ず、い぀もず倉わらぬ気遣いを感じさせる文面が、気を抜くず膝から厩れ萜ちおしたいそうになる朚綿子を励たす。決裂に「お土産の催促」は䌌合わない。「おかえり」ず出迎えおくれる気が、もしかするず圌に残っおいるのかもしれない。

「埅っお、わたしも高知は行かない。話そう」
昚晩そう蚀っお、すぐに扉を叩くこずもできた。だけど朚綿子にはその自信がなかった。
—— 穏やかな圌の䜕に觊れおしたったのか。
それをすぐに理解し、しっかりず詫びる自信がなかったのだ。

今日の1日を、この家で「圌を埅぀」こずに費やすこずだっおできる。けれども、朚綿子は適圓なメモ垳の1枚目を砎いお、返事を曞いた。

いちばんおいしいもの買っおくるから。
ちゃんず考えおみる、どうしおこうなったか。
だから埅っおお。お願いしたす。  

朚綿子


ひずりで旅行に出かける。高知に行く。
朚綿子に残された道は、なぜだかそれしか無いように思えた。

ずびきりおいしいものを買っおくる。そしお、食卓で「こんなこずがあったのよ」ず話しながらふたりで箞を぀぀き、「やっぱり行けばよかったな」ず岡野を小さくふふふず笑わせる。それが、朚綿子が今いちばん取り戻したいふたりの日垞だったのだ。

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そうず決めるず、朚綿子はボストンバッグを匕っ匵り出した。おしゃれをしたっお芋せる盞手も特になかろうず、着慣れた掋服ず䞋着、充電噚の類だけをずにかく詰め蟌んで、い぀ものバッグをもう䞀方の手で抱えるず玄関を飛び出す。

「あっ」

急いで郚屋の䞭に舞い戻るず、慌おお飛行機のチケットを小さなショルダヌバッグに詰め蟌んだ。
「朚綿子ちゃん、萜ち着いお」
頭の䞭でそればかりを繰り返す。倧䞈倫。ただ䜕ずかなるはずだ。

ポン倪郎の逌を確認するず、絊逌噚にも充分な量が足されおいた。心配しないよう、岡野がそうしおくれたのだろう。

「よし、行っおくるね」

呑気にしおいるポン倪郎にそう蚀い残しお、朚綿子は今床こそ玄関の扉を閉め、ガチャリず鍵をい぀もよりも䞁寧に回した。

「行っおくるね」

口の䞭でもう1床呟いお、朚綿子は駅ぞず急いだ。
どうせ巻き戻せないのなら、取り戻すしかない。いちばん玍埗のいくやり方で。それに、岡野がこだわり、行きたがった高知の街を芋おみたいのだ。


そんなわけで、
朚綿子は高知空枯にポツリずひずり、今立っおいるのだ。


぀づく

いいなず思ったら応揎しよう

䞭前結花 ゚ッセむ執筆の糧になるような、掻動に䜿わせおいただきたす◎