験担ぎをやめさせるのが、いちばん危ないやり方でした…178人の大学生選手を調べてわかった、「お守りが効く人」と「お守りに縛られる人」の決定的な差
― 験担ぎの数は、燃えつきと関係していませんでした。関係していたのは、その手前にある「不安」でした ―
験担ぎは、心を落ち着けます。ただし、勝たせてはくれません。178人の調査では、験担ぎの数ではなく、その手前の不安の高さが燃えつきの分かれ目でした。取り上げるのではなく、置きかえる手順を示します。
第1章 結論を、先に書きます
はじめまして。スポーツ心理学を専門とし、メンタルコーチとして25年、約70,000人のアスリートをサポートしてきました笠原彰です。
試合前に、決まったものを食べる。決まった靴下から履く。お守りを握る。同じ道を通って会場に入る。
こうした「験担ぎ(げんかつぎ)」を、あなたも一つは持っているのではないでしょうか。
そして、周りの大人から一度は言われたことがあるはずです。
「そんなの、意味ないよ」
この記事の結論を、先に書きます。
験担ぎは、心を落ち着けます。これは研究で何度も確かめられています
ただし、験担ぎは、勝たせてはくれません。成績そのものを上げた証拠は、驚くほど乏しいのです
そして、いちばんまずいやり方は「意味ないよ」と取り上げることでした
分かれ目は、験担ぎの「数」ではありませんでした。その手前にある「不安の高さ」でした
つまり、こういうことです。
験担ぎは、良いものでも悪いものでもありません。あなたが験担ぎを使っているのか、験担ぎにあなたが使われているのか。それだけが問題なのです。
この記事では、1948年のハトの実験から2026年の最新の総説まで、国内外の研究をたどりながら、その見分け方と、置きかえ方を、順番にお伝えします。
第2章 ほとんどの選手が、何かをやっています
まず、事実の確認からです。
2026年に発表された最新の総説(Pirwani ほか, 2026)は、27本の研究をまとめて、こう報告しています。
何かひとつは験担ぎがある選手は、約55.1%
競技ごとの決まった動作まで含めると、90%を超える
若い選手のほうが、年上の選手より験担ぎが多い
個人競技より団体競技、アマチュアよりトップ選手のほうが多い
「トップになれば、そんなものは卒業するのだろう」と思うかもしれません。逆でした。上に行くほど、多くなっているのです。
もう一つ、古典的な調査を紹介します。オランダのサッカー・バレーボール・ホッケーのトップクラブ23チーム、197人を調べた研究です(Schippers & Van Lange, 2006)。
何かひとつ以上の験担ぎを挙げた選手は、158人(80.3%)
ひとりあたりの平均は、2.6個
しかも、その中身が面白いのです。多かった順に並べると、こうなります。
決まったものを食べる(66回)
リラックスして過ごす(51回)
決まった服を着る(51回)
決まった順番でフィールドに入る(46回)
決まった順番で着替える(27回)
論文には、こんな例も出てきます。すね当てを家から会場まで着けたまま移動する選手。試合前に必ず「13」の数字を一度は見なければ気がすまない選手。ピッチの踏み荒らされた場所にガムを置く選手。
笑ってしまうかもしれません。でも、この人たちは全員、その国のトップクラブの選手です。
第3章 「たまたま」を「おかげ」だと、人は思ってしまいます
なぜ、こんなことが起きるのでしょうか。
いちばんわかりやすい説明は、1948年のハトの実験です(Skinner, 1948)。
実験の中身は、とても単純でした。
箱の中のハトに、決まった時間ごとに自動でエサを出す
エサが出るタイミングは、ハトが何をしているかとは、まったく関係ない
それでもハトは、エサが出たときにたまたましていた動きを、くり返すようになった
首をかしげていたハトは、首をかしげ続けました。ぐるぐる回っていたハトは、回り続けました。
エサは時間で出ていただけです。動きとは、何の関係もありません。それでもハトは「この動きのおかげだ」と思ったかのように、その動きを続けたのです。
Skinner は、これを「迷信的行動」と名づけました。
人間でも、まったく同じことが起きます。
勝った日に、たまたま黒い靴下を履いていた
次も黒い靴下を履いたら、また勝った
三度目からは、黒い靴下でなければ落ち着かなくなる
心理学では、これに近い現象を「コントロールの錯覚」と呼びます(Langer, 1975)。人は、自分では動かせないはずのことまで、自分が動かせているように感じてしまう。とくに、運と実力が混ざっている場面ほど、その錯覚は強くなります。
スポーツは、まさにその場面です。実力だけでも決まらない。運だけでも決まらない。この「混ざっている」ことこそが、験担ぎの温床なのです。
ここまでで、大事なことを一つ確認させてください。
験担ぎは、心が弱いから生まれるのではありません。人の脳が、原因と結果を結びつけようとする、ごく自然な働きから生まれます。
だから「くだらない」と笑うのは、的外れなのです。
第4章 大事な試合ほど、こだわりは強くなります
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