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【第2講】なぜ牛はCowで牛肉はBeefなのか?―英語に残るノルマン征服の記憶

こんにちは!ただの医学生です。

【初めての方へ】
このブログでは、医学生の暗記術を応用した「英単語を”暗記”から”教養”に変える語源学習法」をベースに、様々な言葉のルーツを解説しています。当ブログのコンセプトである学習法について、まだ読んでいない方はぜひこちらの記事からご覧ください! 


今日は先日の第1講で予告したように、英語の歴史を追っていきたいと思います。学生時代、世界史を学んだことがない方にもわかりやすいように、ざっくりまとめようと思っています!


まず質問です。
最初に英語を話していた国はどこでしょう。

バイト先の学生で
「アメリカ!」
と元気に答えてくれた学生がいましたが、ちょっと待てと。
いくら世界史をやったことがなくても、アメリカが独立してできた国だというのは常識として持っておきたいです。

この事実を忘れてしまうと、自由の女神像は何のためにアメリカに来たのか分からなくなってしまいます。
彼女はフランスから、独立達成100周年を祝福される形でアメリカに送られました。
右手のたいまつは有名ですが、左手に何を持っているか知っていますか?

それは、「独立宣言書」です。

アメリカの独立は1776年7月4日で、現在でも「Independence Day」として国民の休日になっていますね。

この名前を聞くと、映画が思い浮かんだ人もいるでしょう。私もあの映画は大・大・大好きです。
続編の『リサージェンス』じゃないですよ!?『インデペンデンス・デイ』にしろ、他の名作パニック映画にしろ、続編は軒並み元の作品を超えられないという「映画あるある」はさておき……(笑)。

独立記念日を控えた7月2日に、突如地球に襲来した巨大宇宙船に立ち向かう人類たち!
若き頃のウィル・スミスもかっこいいですが、ビル・プルマン演じるホイットモア大統領の演説はしびれます。

言葉選びもさることながら、韻が踏まれていて聞き心地も最高です!

We will not go quietly into the night! We will not vanish without a fight! We're going to live on! We're going to survive!
Today, we celebrate our Independence Day!

…これ以上喋ると熱が入りすぎるので、アマプラでぜひ見てみてください。


映画ではエイリアンからの独立を勝ち取ろうと奮闘しますが、現実の歴史では、アメリカはイギリスから独立しました。つまり、英語の歴史を追うにはイギリスの歴史を紐解くのが手掛かりです。

ゲルマン人の「泥臭い」英語と、ノルマン人の「高貴な」英語

むかしむかし、イギリス本土には、紀元前からブリトン人が住み、ケルト語を話していました。ところが、4世紀末からアングロサクソン人(ゲルマン民族の一派)がイギリスに入り、支配権を握るようになりました。

現在のEnglandは、Angle +landが語源であり、「アングロ人の土地」という意味です。アングロ人はもともと現在のドイツ周辺に住んでいた民族で、ゲルマン語系を話していました。そのため、英語の最も基本的な語(make, do, have, house, bread など.)や文法はゲルマン語系から成っています。
ドイツ語には、名詞に性別があったり、文中の役割に応じて格の変化も生じるので、初期の英語は現在の英語よりも文法が複雑でした。

そんな中、1066年イギリスで一大事件が起こります。
世界史を学んだことがある人なら、想像はついているでしょう。

ノルマン・コンクエストです。

フランスに領土を持っていたノルマン人がイングランドを征服しました。フランスにいた彼らは、かつてのローマ帝国の公用語であった「ラテン語」の影響を強く受けた言葉を話していました。これが、英語に大量のラテン語系(およびギリシャ語系)の語彙が流れ込んだ最大の理由です。

ここで、私が自分なりに見出した法則を紹介します。
「泥臭い・日常的な単語=ゲルマン語系」
「かっこいい・学術的な単語=ラテン語系」

例えば、
・cow(牛)とbeef(牛肉)
・pig(豚)とpork(豚肉)
・sheep(羊)とmutton(羊肉)
肉になるだけで名前が変わりますよね。これは、庶民(ゲルマン系の英語を話す人々)が育てた家畜を、上流階級(ラテン・フランス系の言葉を話すノルマン人)が「お肉」として食べていたという、当時の身分社会の歴史が単語に刻まれているからです。

牛(bos)から広がる、バターと狂牛病の歴史

ここでせっかくなので、「beef(牛肉)」の語源についても寄り道してみましょう。

古代ギリシャ語で「牛」は bous(ブース)、ラテン語では bos(ボス) と言います。
例えば、朝食でおなじみの「Butter(バター)」は、bous(牛)+ tyros(チーズ)が組み合わさって「牛のチーズ」という意味から来ています。
beef も、このラテン語の bos からフランス語を経由して英語に定着した言葉です。

さて、このラテン語の「bos(牛)」は、医学や獣医学の世界でも重要な単語に派生しています。
それが bovine(牛の) という形容詞です。

皆さんは、中学受験や高校の社会科で BSE という病気を習った記憶はないでしょうか?
正式名称は Bovine spongiform encephalopathy
日本語では「牛海綿状脳症」、一般的には「狂牛病」として知られている疾患です。
異常プリオンというタンパク質性の感染粒子が原因で、その名の通り、牛の脳に空洞ができて「スポンジ(海綿:spongiform)状」になってしまう恐ろしい病気です。
1986年にイギリスで報告された後、感染した牛の肉や骨を粉末にした飼料(肉骨粉)を他の牛に与えるという「共食い」のような連鎖が起きたことで、爆発的に感染が広がりました。

牛から人へ、人から人へ。プリオン病の恐怖

実は、この「異常プリオンによる脳の海綿状変化」は、人間の世界でも起こります。
その代表格が 「クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)」 です。
多くは原因不明(孤発性)で発症し、急速に認知症が進行する致死的な指定難病ですが、中にはBSEに感染した牛肉を人間が食べることで発症する「変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)」というタイプも存在し、世界的な社会問題となりました。
特に、日本では2001年に初めてBSE感染牛が確認され、当時の食肉偽造事件とも重なって、食品業界全体の信頼が揺らぐ結果となりました。
消費者の食の安全に対する不安が拡大し、企業倫理や政府対応の遅れが問題となり、これ以降企業や消費者の意識改革が進んできました。

クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)の脳MRIです。
脳が「スカスカ」になっています…
(Pract Neurol, via Wikimedia commons)

さらに歴史を遡ると、「感染した同種の肉を食べてプリオン病が広がる」という恐ろしい事態は、BSEの牛たちだけでなく、人間同士の世界でも起きていたのです。

それが、パプアニューギニア東部の先住民族にみられた風土病 「クールー(Kuru)病」 です。
この地域ではかつて、亡くなった家族を弔うための儀式として「死者の脳や肉を食べる(カニバリズム)」という習慣がありました。
この儀式を通じて、異常プリオンが人から人へと経口感染し、村の中でクールー病がまん延してしまったのです。
なお、現在ではこの儀式は禁止され、クールー病も終息しています。

神話に登場する「牛」

この「牛」、ギリシャ神話においても非常にキーとなる動物なんです。
色男であるゼウスが、美女(エウロペ)をかっさらう際に自ら「白い牛」に変身して近づいて油断させたり。 あるいは、愛人(イオ)との浮気が正妻であるヘラにバレそうになって、慌てて愛人を「牛」に変身させたり……。

やたらと神々の情事に絡んできますね(笑)。

The Rape of Europa (Guido Reni作)
『エウロペの略奪』
National Galleryにて
The Rape of Europa (Agostino Carracci作とされる)
『エウロペの略奪』
スコットランド国立美術館にて

実は、第1講に載せた「アルゴスとメルクリウス」の絵画のネタは、この愛人イオの浮気騒動が絡んでいます。(牛に変えられたイオを見張っていたのがアルゴスでしたね)ヘラに恨まれたイオは、世界中を牛の姿のまま逃げ回ります。その時に彼女が通った海域のひとつが、現在の「イオニア海」と名付けられました。 また、現在のトルコにある「ボスポラス海峡」も彼女に由来しています。Bosphorus はギリシャ語の bous(牛)+ poros(渡る)からなり、「牛の渡り場」という意味。イオが牛の姿で海を渡ったとされる場所が、まさにこのボスポラス海峡なのです。

Juno discovering Jupiter with Io(Pieter Lastman作)
『イオといるユピテルを発見するユノ』
National Galleryにて

さて、英語の響きの話に戻りましょう。 実は、このゲルマン系の「泥臭い」印象と、ラテン系の「かっこいい」印象は、私の個人的な感覚ではありません。
誰もが直感的に感じ取ることができるものなのです。

音声学的に見ても、ゲルマン系の単語は子音がぶつかり合う「濁ったゴツゴツした音」ラテン系の単語は母音が綺麗に響く「澄んだスマートな音」という明確な違いがあります。そのため、単語の響きを聞いただけで「あ、これはラテン語っぽいな〜」とか「ゲルマン語っぽいな〜」というのは何となく推測できてしまうのです!

この「音の響きの違い」を頭の片隅に置いておくと、いつかこのブログで解説する予定の「グリムの法則」という面白いルールが、めちゃくちゃすんなり理解できるようになります。
そちらも楽しみにしていてくださいね!

…と、ここまで少しゲルマン系をディスってしまった(?)ので、フォローとしてゲルマン人の一派である「ゴート人」に由来する素晴らしい建物をお見せしようと思います。

イギリスのヨークにある「ヨーク・ミンスター(York Minster)」や、ロンドンの「ウェストミンスター寺院(Westminster Abbey)」です。


York Minsterの外から


York Minsterの内から
275段のらせん階段を上ると、外に出られます!
かなり急でしんどくなるので若いうちに行くべき…


ピサの斜塔よりも高いところからヨーク市街を見下ろせます。


昼のWestminster Abbey
夜もいい雰囲気を醸し出しています。


これらは、イギリスにおける「ゴシック建築」の最高傑作のひとつとされています。 さて、これがどこがゴート人と関係あるのかって?

Gothic という単語をよく見てください。 Goth(ゴート人) が隠れていますよね。つまり、「ゴシック」という名前そのものが「ゴート人の」「ゴート風の」という意味なんです。

実はこの言葉、ルネサンス時代に生まれた当初は「古代ローマを滅ぼした野蛮なゴート人みたいな(=洗練されていない)」という、ゴート人に対するゴリゴリの悪口でした。

しかし時代が下るにつれて再評価され、今ではルネサンス以前の中世の建築や書体、芸術を指す立派なジャンル名になっています。 天を突くような尖ったアーチや、張り出したゴツゴツとした外観、そして壁を覆い尽くす巨大で美しいステンドグラス……。当時のルネサンス期の人々からは「野蛮だ!」と叩かれたスタイルですが、個人的にはめちゃくちゃ荘厳でかっこいいと思います!

さらに、イギリスのゴシック建築を語る上で、どうしても紹介したい場所がもう一つあります。 ヨークから足を伸ばした海岸沿いの町にある「ウィットビー・アビー(Whitby Abbey)」です。

Whitby Abbeyの外観
Whitby Abbeyの内部

ここはかつての修道院の「廃墟」なのですが、海を見下ろす崖の上にそびえ立つ、骨組みだけになったゴシック建築のシルエットは、なんとも言えない不気味さと美しさがあります。

実はこの廃墟、ある「超有名なホラー小説」のインスピレーションの源になったことで知られています。 それが……

『ドラキュラ(Dracula)』です! 作者のブラム・ストーカーは、このウィットビーの町と修道院の廃墟を訪れた際にインスピレーションを受け、あの吸血鬼伝説を書き上げました。

Whitby Abbeyの隣にある墓地。
夜に来たらドラキュラが出てきそう…

さて、ここでドラキュラから医学の話に繋げてみましょう(笑)。

日光を極端に嫌い、血を好み、青白い顔をして歯が剥き出しになる吸血鬼。実はこの伝説、ある現実の病気がモデルになったのではないかという有名な医学的仮説があります。

それが「ポルフィリン症(Porphyria)」です。

ヘム(血液の赤色色素の成分)を作る過程の酵素が欠損することで、体内にポルフィリンという物質が蓄積する代謝疾患です。この病気の症状が、ドラキュラ伝説と見事に一致するんです。

  • 光線過敏(Photosensitivity): 日光を浴びると皮膚に水疱や激しい痛みが出るため、夜しか出歩けない(=太陽の光が弱点)。

  • 歯茎の退縮と変色: 歯が赤褐色に変色し、歯茎が痩せることで犬歯が長く鋭く見える(=吸血鬼の牙)。

  • 赤色尿: 尿が赤ワインや血のように赤くなる(=血を飲んでいると勘違いされた?)。

ちなみに「ポルフィリン(Porphyrin)」という名前も、ギリシャ語の「Porphura(紫)」に由来しています。尿が赤紫色になることから名付けられました。

ゴート人の建築(ゴシック)からドラキュラが生まれ、それが血液の病気の歴史やギリシャ語の語源とも繋がってくる。言語や歴史、そして医学は本当にどこかで繋がっていて面白いですよね!

医療現場で「お腹痛い」と言わない理由

ここまで医学英語にあまり触れていなかったので、少しだけ触れようと思います。これでも一応医学部生なので(笑)。

日本語でも、「お腹」と「腹部」、「みぞおち」と「心窩部」という言い回しの違いがありますよね。「今朝、激しい心窩部痛があり嘔吐したんだよね…」なんて日常会話で言う人は、間違いなく医療従事者です。

これと全く同じ感覚が英語にもあります。

  • kidneyrenal(腎臓)

  • liverhepato-(肝臓)

  • heartcardio-(心臓)

  • lungpulmonary(肺)

日常的には左側のゲルマン語系を使いますが、学術的な世界では右側のラテン語(ギリシャ語を含む)由来のパーツがメインになります。

語源を繋げば、単語は無限に増える

ラテン語やギリシャ語の強みは、パーツ(語源)をパズルのように組み合わせて、無限に語彙を増やせることです。

「興奮したり、熱中しているときに出るホルモン」といえば何が思いつきますか?ボクサーは試合中、額が切れてもあまり痛みを感じないと言いますが、それは「アドレナリン(Adrenalin)」が出ているからです。

この単語、よく見ると renal が隠れているのが見えましたか? Ad- は「~の方へ、~の上、くっつく」を表す接頭辞です(例:Adhere=くっつく、粘着する)。つまり、Adrenalin は「腎臓の上にある臓器(副腎)」から出るホルモンという意味になります。

実は、アメリカの医療現場ではアドレナリンよりも Epinephrine(エピネフリン) という言葉がよく使われます。これも Epi-(~の上)+ nephr-(ギリシャ語の「腎臓」。例:Nephron=ネフロン)の組み合わせで、作りの構造はAdrenalinと全く同じです!
全く違う語に見える単語が、語源レベルでは同じ意味を有しているのが興味深いですね。なぜAdrenalinを使わずにEpinephrineなのかは、日本人の活躍とアメリカの特許事情が関わっています。長くなるので詳細は省きますが、気になったらぜひ調べてみてください!

数学も歴史も、すべては繋がる

理系の受験生なら、数Ⅲの二次曲線で Cardioid(カージオイド) という曲線を習ったはずです。

これも Cardio-(心臓)+ -oid(~のような)からなり、「心臓のような形(♡型)」の曲線を表します。ちなみに数Ⅲには Asteroid(アステロイド:星芒形) という図形も出てきますが、これも aster(星)+ oid で「星のような形」、さらには宇宙空間にある「小惑星」という意味にもなります。

この -oid(~のような) という接頭辞は超便利で、他分野でも頻出です。 例えば、医学英語なら

  • Amyloid(アミロイド) = Amyl(デンプン)+ oid = デンプン様物質 (※アミロイドは本当はタンパク質なんですけどね(笑)。この名称は、偉大なる病理学者Virchowが「これはデンプンだ!」と勘違いしてしまったことに端を発します)

  • Thyroid(甲状腺) = Thyr(盾)+ oid = 盾のような形の腺

地理や歴史で習う人種区分の言葉も同じです。

  • モンゴロイド(Mongoloid) = モンゴル人+oid(黄色人種)

  • ネグロイド(Negroid) = 黒っぽい+oid(黒色人種)

では、コーカソイド(Caucasoid) は何だと思いますか?

現在のトルコの北側に「コーカサス山脈」があります。18世紀のドイツの学者が、この地方の頭蓋骨を「人類で最も美しい」と考え、ここを人類発祥の地とみなしたことから「コーカサスのような」=白色人種、と名付けられました。 神話でいえば、キリスト教の教典である聖書に登場する「ノアの箱舟」が流れ着いた(アララト山)のも、このコーカサス山脈の一部とされています。つまり、ノアの末裔たるヨーロッパの人類こそが「最も美しい正統な人類」であると考えたわけです。なかなかに露骨な選民思想ですよね。

ちなみにこのコーカサス山脈、神話にも登場します。ゼウスがプロメテウス(これも映画の名前になっていますね!)を罰するために縛り付けた山です。 不死の神であるプロメテウスは、毎日「肝臓」を大鷲に食べられては復活し、また食べられるという永遠の苦痛を受けました…。

Ashmolean Museum(Oxford)で見た縛り付けられているプロメテウス

医学生的な視点から言えば、肝臓は人体で唯一、強力な再生能力(代償性過形成)を持つ臓器です。古代ギリシャ人がなぜ「心臓」や「胃」ではなく「肝臓」が再生する神話を作ったのか……偶然にしては面白すぎませんか?

どうでしたか!
このように、学術的な単語にはラテン語・ギリシャ語のパーツが含まれており、分野横断的に派生して語彙を爆発的に増やすことができます。私のブログでは、この方法で単語を解説していくので、勉強の休憩がてら読んでみてください!

「へぇ~!」と思ったら、ぜひ「スキ」やコメントをいただけると嬉しいです。「情報量が多すぎてパンクした…(笑)」といった感想でも大歓迎です!私もまだまだ知らない世界がたくさんあるので、「こんな雑学もあるよ!」という方がいれば、ぜひコメントで教えてください。

次回をお楽しみに!


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