シンプル警察。┊︎Hötorgshallen, Stockholm
「シンプルに」という言葉が気になる。
最初は夫だった。
「シンプルに言うと──」と言う。
どこまでシンプルになるだろうか、とワクワクする。
でも今のところ、シンプルになった試しはない。

(Stockholm, Sweden)
それにしても「シンプル」はすっかり大出世。
話も、暮らしも、デザインも。
「シンプル」と言っておけば、なんとなく褒めたことになる。

そんなことを考えていると、不思議なことが起きる。
世の中の人が、みんな「シンプルに」と言いはじめた。
もちろん、
急に増えたわけじゃない。
私の耳が、勝手に拾うようになっただけなんだけど。

整頓されたものばかり拾い始める。
YouTubeでも。
仕事でも。
友達でも。
「シンプルに」
「シンプルに言うとさ」
気になり始めると、「シンプルに」は一日に何人も現れる。

──そんなころ、
私は、この市場を歩いていた。
魚は魚。
パンはパン。
オリーブはオリーブ。
写真を撮っていいですか、と聞くと、
市場の人は決まってちょっとだけ手を動かした。
少しはみ出していた紅茶の缶を元の場所へ戻したり、
ニシンの酢漬けをきれいに盛り直したり。

「はい、どうぞ」
そのほんの数秒が、なんか好きだった。
整っているというより、整え続けられているマーケット。
ごちゃごちゃするはずのものを、シンプルに見えるように、何度も並べ替えてきたのかもしれない。

ちなみに私は「シンプルに」と言う習慣はない。
夫婦の口癖ってうつるけど、
「シンプルに」は、今のところうつっていない。

でも私は、なにか話すと、
最後は決まって「知らんけど」と言う。
たぶん、もう長年の癖。
“知らんけど警察”がいたら捕まる。

「シンプルに」と言いながら、ごちゃごちゃしたり。
「知らんけど」と言いながら、ちゃんと意見を言っていたり。

そういえば、昔仲の良かった友達は、なにかあるたびに「足の裏よりどうでもいいけど」と言って、話し始めた。
でも、どうでもいい話だった試しがない。


シンプルに憧れるけど、
「シンプルに」と前置きしながら、
ごちゃごちゃした話をする人が、なんか好き。
この市場も、
シンプルそうに整頓されていたけれど、
見れば見るほど、いろんなものがいた。
違うものが、同じ場所に並ぶ景色が好きなのだと思う。
整ったごちゃごちゃ、に弱い。

