見出し画像

シンプル警察。┊︎Hötorgshallen, Stockholm

「シンプルに」という言葉が気になる。

最初は夫だった。
「シンプルに言うと──」と言う。

どこまでシンプルになるだろうか、とワクワクする。
でも今のところ、シンプルになった試しはない。

▲ “シンプル”な市場から、今日の話を。
(Stockholm, Sweden)


それにしても「シンプル」はすっかり大出世。

話も、暮らしも、デザインも。
「シンプル」と言っておけば、なんとなく褒めたことになる。


▲ 整列すると、多さは落ち着くらしい。


そんなことを考えていると、不思議なことが起きる。
世の中の人が、みんな「シンプルに」と言いはじめた。

もちろん、
急に増えたわけじゃない。
私の耳が、勝手に拾うようになっただけなんだけど。


▲ 目のほうは、
整頓されたものばかり拾い始める。


YouTubeでも。
仕事でも。
友達でも。

「シンプルに」
「シンプルに言うとさ」

気になり始めると、「シンプルに」は一日に何人も現れる。


▲ 「短く」が、礼儀の時代だし。


──そんなころ、
私は、この市場を歩いていた。

魚は魚。
パンはパン。
オリーブはオリーブ。

写真を撮っていいですか、と聞くと、
市場の人は決まってちょっとだけ手を動かした。

少しはみ出していた紅茶の缶を元の場所へ戻したり、
ニシンの酢漬けをきれいに盛り直したり。


▲ ひと手間で、よそ行きの顔。


「はい、どうぞ」

そのほんの数秒が、なんか好きだった。

整っているというより、整え続けられているマーケット。
ごちゃごちゃするはずのものを、シンプルに見えるように、何度も並べ替えてきたのかもしれない。


▲ 整った、ごちゃごちゃ。


ちなみに私は「シンプルに」と言う習慣はない。
夫婦の口癖ってうつるけど、
「シンプルに」は、今のところうつっていない。


▲ つい、整えたくなる。


でも私は、なにか話すと、
最後は決まって「知らんけど」と言う。
たぶん、もう長年の癖。
“知らんけど警察”がいたら捕まる。


▲ 目が合うと、ちょっと焦る。


「シンプルに」と言いながら、ごちゃごちゃしたり。
「知らんけど」と言いながら、ちゃんと意見を言っていたり。


▲ 話は、まっすぐ飛ばない。


そういえば、昔仲の良かった友達は、なにかあるたびに「足の裏よりどうでもいいけど」と言って、話し始めた。
でも、どうでもいい話だった試しがない。


▲ 整頓された雑多。


シンプルに憧れるけど、
「シンプルに」と前置きしながら、
ごちゃごちゃした話をする人が、なんか好き。

この市場も、
シンプルそうに整頓されていたけれど、
見れば見るほど、いろんなものがいた。

違うものが、同じ場所に並ぶ景色が好きなのだと思う。
整ったごちゃごちゃ、に弱い。


▲ 知らんけど。




いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集