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仮面を脱げば、靴を売る┊︎貴州

中国・貴州省の山あいにある、小さな村天龍屯堡
なにもなさそうな村だった。

雨上がりの路地はしんとしていて、
色らしい色は、
刺繍の靴と、木彫りの仮面くらい。


▲ 何時間もかけて、
小さなものを縫う手。


その昔、
普段は畑を耕し、いくさになれば兵士になった村人たち。

平和になっても、戦い方を忘れないよう、
600年たった今も、神を迎え、
仮面をかぶって、
戦国時代の英雄たちの物語を演じている。


▲ 「地戯」
またの名を「跳神ティアオシェン」。


不便だから終わるとは、限らないらしい。
ときどき面倒なことほど、残ってしまう。

この村では、それが戦だった。


▲ 忘れないためとはいえ、
ずいぶん手間がかかる。


そして、いにしえの時代と同じように、
仮面を脱げば、また露店に戻ったり、土仕事をしたり。

英雄だけでは暮らしていけない。


▲ 神様が帰っても、お客さんは来る。


案内してくれた人が言う。

──「この営みも、そのうちなくなるかもしれません」

へー。

「残ってほしいですね」と答える。
こういう返事だけは、いつも早い。


▲ 人は、とりあえず願う生きものらしい。



存続できるために寄付をするわけでもなければ、
毎年訪れてみるわけでもない。

翌日には別の町で、
またちがう景色に夢中になって、
呑気に麺をすすっているくせに。


▲ 一杯のお茶で、すっかり身内気分。


古い店は残ってほしい。
伝統も続いてほしい。
他人にはもっと冒険してほしい。

自分のことは3ヶ月悩むのに、
他人のことは3秒で決まる。


▲ 自分が続きを生きなくていい暮らしには、
気前よく願う。


最近、友人が、私のいる街を離れると言った。
本当は、ずっと住んでいたかったらしい。

「好きでも、暮らすのとは別だから」
そう言って、笑っていた。

親しい人は、近くにいてくれたらうれしい。
でも、それは私の都合で。


▲ 他人の靴は、他人の足専用。


「泳ぐと頭が整理されるよ」
「水やりすぎだって」
「前髪伸ばしたら?」
「絶対後悔するって」

それにしても、
こういうことは毎日そこらじゅうで発生している。

言われたり、言ったり。
悪気はない。

なのに、言ったほうは忘れて、
言われたほうだけが、律儀に背負っていたりする。


▲ 出ていくつもりで路地を曲がった日もあったのかな。


あの日の私も、
「この村にはずっと残っていてほしい」と言った。
上機嫌に、そんな願いを置いて帰ったくせに。

あれから、もう10年。

村はきっと、今も続いている。
そして私は、行き方すら覚えていない。


▲ 帰る私と、残る人。



──置き逃げしたほうは、もう忘れている。




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