仮面を脱げば、靴を売る┊︎貴州
中国・貴州省の山あいにある、小さな村。
なにもなさそうな村だった。
雨上がりの路地はしんとしていて、
色らしい色は、
刺繍の靴と、木彫りの仮面くらい。

小さなものを縫う手。
その昔、
普段は畑を耕し、戦になれば兵士になった村人たち。
平和になっても、戦い方を忘れないよう、
600年たった今も、神を迎え、
仮面をかぶって、
戦国時代の英雄たちの物語を演じている。

またの名を「跳神」。
不便だから終わるとは、限らないらしい。
ときどき面倒なことほど、残ってしまう。
この村では、それが戦だった。

ずいぶん手間がかかる。
そして、古の時代と同じように、
仮面を脱げば、また露店に戻ったり、土仕事をしたり。
英雄だけでは暮らしていけない。

案内してくれた人が言う。
──「この営みも、そのうちなくなるかもしれません」
へー。
「残ってほしいですね」と答える。
こういう返事だけは、いつも早い。

存続できるために寄付をするわけでもなければ、
毎年訪れてみるわけでもない。
翌日には別の町で、
またちがう景色に夢中になって、
呑気に麺をすすっているくせに。

古い店は残ってほしい。
伝統も続いてほしい。
他人にはもっと冒険してほしい。
自分のことは3ヶ月悩むのに、
他人のことは3秒で決まる。

気前よく願う。
最近、友人が、私のいる街を離れると言った。
本当は、ずっと住んでいたかったらしい。
「好きでも、暮らすのとは別だから」
そう言って、笑っていた。
親しい人は、近くにいてくれたらうれしい。
でも、それは私の都合で。

「泳ぐと頭が整理されるよ」
「水やりすぎだって」
「前髪伸ばしたら?」
「絶対後悔するって」
それにしても、
こういうことは毎日そこらじゅうで発生している。
言われたり、言ったり。
悪気はない。
なのに、言ったほうは忘れて、
言われたほうだけが、律儀に背負っていたりする。

あの日の私も、
「この村にはずっと残っていてほしい」と言った。
上機嫌に、そんな願いを置いて帰ったくせに。
あれから、もう10年。
村はきっと、今も続いている。
そして私は、行き方すら覚えていない。

──置き逃げしたほうは、もう忘れている。
