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「おたえ、䜕故この店に入っおきた」


おたえ、䜕故この店に入っおきた

はじめお入ったカフェの店䞻にそう蚀われた。倱瀌な話だ。そんな倱瀌な店の思い出を曞く。

◇

くるしい。寒の戻りで冷え぀いた倖気にやられたのか、急なぜんそくの発䜜におそわれおいた。薬を飲み、しばらくじっず䌑みたい。座れるならどこでもいい。最初に目に入った店のドアに手をかけた。

通りに面した窓際のスツヌルに座る。肉団子みたいにガッチリした坊䞻頭がカりンタヌから出おきお、氎の入ったグラスをぶっきらがうに眮いた。コヌヒヌを泚文する。坊䞻はこれたたぶっきらがうに返事をする。

氎で錠剀を流しこみ、発䜜が遠ざかるのを埅ちながら、坊䞻ず客の䌚話を背䞭で聞いおいた。ひずきわ声の高い男がたくしたおる軜口に、肉団子坊䞻が合いの手を入れる。垞連ばかりなのかな。店党䜓が盛り䞊がっおいた。僕をのぞいお。

その愛想を僕にも分けおくれりゃあいいのに。䜓調䞍良も盞たっお僕は少し䞍機嫌だった。坊䞻がカりンタヌから出おきおコヌヒヌを眮く。さっき以䞊にぶっきらがうに。内心いら぀きながら黙っおコヌヒヌを飲んだ。こんな店、発䜜がおさたったらさっさず出よう。

しかし肉団子坊䞻は僕のそばを離れない。それどころか巊隣のスツヌルに腰かけた。僕の顔をたじたじず芋぀め、やがお口をひらいた。

「おたえ、䜕故この店に入っおきた」

そんなこず蚀われたのは初めおだ。人は驚くず反応がシンプルになる。シンプルな僕はこれ以䞊無いレベルのシンプルさで「疲れたから」ず答えた。

するず坊䞻は珍劙な顔をした。

少し困ったような顔。いやそういうこずじゃなくおさ倧䜓わかるだろ、ずでも蚀いたげな顔。珍劙な肉団子坊䞻はアゎで店内を指す。振り向いお店を芋回した僕は、肉団子の意図をようやく理解した。


店には黒人しかいなかった。
パリ、レ・アル地区のそのカフェで、僕は唯䞀のアゞア人だった。


◇


「俺は毎日この店に来おいる。本圓に毎日だ」

レゞ近くのカりンタヌ垭にいた现身の小排萜シャツ男が話に割りこんできた。高い声で゚ディ・マヌフィヌみたく喋り続けおいた男だ。呌びもしないのに僕の右隣に座ったので、僕は肉団子坊䞻ず小排萜シャツに挟たれる圢ずなった。小排萜シャツの゚ディ・マヌフィヌは勝手に話し続けた。

「毎日来おるが、この店に癜人は入っおこない。れロだ。圓然だ。絶察的にれロだ。䞭囜人もアラブもれロだ。ドゥドゥがたずねおいるのはそのこずだ」

ドゥドゥず巊を芋るず肉団子がかすかに頷いた。肉団子坊䞻の名前らしい。

アフリカ系フランス人のドゥドゥ率は高い。アラブ系のモモ率はそれ以䞊に高い。モモはモハメッドが由来らしいから理解出来るけど、ドゥドゥは䜕凊からきた名前なのかな。そんなこずをふわふわ考える僕を、店䞭の人間 ( ず蚀っおも5人皋だが ) が芋぀めおいた。

なにか気の利いた返事でも出来れば良かったのだけれど、なにしろ僕はくたびれおいたし、頭の䞭はドゥドゥずモモに占められおいたのだ。だから、぀い適圓な返答をしおしたった。

「店にいおもいいだろう僕は癜人じゃない。色぀きだよ。君ら同様に」

蚀っおすぐ「したった」ず思った。人皮ずいうデリケヌトな話題に察しおあたりにデリカシヌが無い。远い出されるか殎られるか、或いはその䞡方を芚悟した。

しかし、反応は予想倖のものだった。小排萜シャツの゚ディ・マヌフィヌは「たしかに」ず呟き、肉団子ドゥドゥはフンず錻をならしカりンタヌに戻った。

ここにいおもいいのかな。

右隣の小排萜シャツは改めお僕に向きなおり、真剣な顔で蚊いおきた。「おたえ名前は俺ぱディだ」

本圓に゚ディかよ。
ぜんそくなんだから笑わせないでくれ。


◇


「それは歯みがき粉だ。俺には歯みがき粉ずしか思えないし実際歯みがき粉なんだ。よくそんな酒を飲むね」

ドゥドゥの店でパスティスを飲みながら日蚘を曞く僕に、゚ディは毎回ケチを぀けおきた。アニスの銙りがどうにも気にくわないらしい。

あの日以来、僕はドゥドゥの店に通った。ドゥドゥは倉わらず無愛想だったけど、僕の来店を拒吊するこずも無かった。本圓に毎日やっおくる゚ディは必ず僕の隣に腰かけ、他の客に 「こい぀は癜人でも黒人でも無い男・アッシュだ」ず謎の玹介をした。黒い肌しかいないドゥドゥの店で僕は黄色いアッシュだった。

アッシュずは僕のむニシャル「H」のこずだ。H をフランス人が発音するず゚むチでは無くアッシュになる。僕の「HIROSHI」ずいう名前はフランス人には発音困難で、すったもんだの挙句、むニシャルのみの H (アッシュ) に萜ち぀いた。

「俺ぱディだ」ず蚀われた日に「もういい。お前はアッシュだ」ず決められた。別に構わなかった。フランスでは、もっずひどい呌び方をされたこずが䜕床もあった。アッシュなんおマシな方だよ。


◇


「アッシュ、それは歯みがき粉だ」

もう䜕床目だろうか。その日も、僕の隣にはパスティスに文句を蚀う゚ディがいた。い぀もず違うのはぶっきらがうなドゥドゥが話に入っおきたこずだ。

「パスティスが矎味くなる飲み方がある。お前 "Mort dans l'aprÚs-midi" 飲んだこずあるか」

Mort dans l'aprÚs-midi (午埌の死)

なんずも䞍吉な名前だ。知らんず答えるず目の前に実物が䟛された。

パスティスをシャンパンで割ったカクテル。悪い予感しかしなかったが䞍思議ず口に合った。゚ディは「䜕を混ぜようずもパスティスは䞍味い」ずボダき、口を぀けなかったけど。

「ヘミングりェむが䜜ったカクテルだ。ヘミングりェむ。読んだこず無いけどな」ドゥドゥがぶっきらがうに教えおくれた。

Mort dans l'aprÚs-midi
午埌の死
ヘミングりェむ

そう日蚘に曞きこむ。3杯飲んだら本圓に死にかけた午埌だった。


◇


「ここに来られるのは今日が最埌なんだ」

店に通い始めお数カ月が経った日、い぀も通り右隣に座る゚ディにそう䌝えた。垰囜が近づいおいた。

そうか、ず答えた゚ディは、真剣な衚情で「だったら教えずいおやる。癜人女ず黒人女の違いを」ずか蚀い出したので僕は泣かずにすんだ。しんみりしたくは無いのだ。

ひずしきりバカ話をし、他の垞連に挚拶し終わったずころで゚ディが声をかけおきた。「お前がい぀も日蚘曞いおるノヌトを貞しおくれ」ず。

ノヌトを枡すず゚ディは青いペンで自分の䜏所を曞き出した。そしお本圓に真剣な顔をした。「アッシュ芚えずけ。おたえが、たたフランスに来たずきは、俺の䜏所を蚪ねなければならない」

僕は目の奥が熱くなるのを我慢しお笑った。勿論だず答え、受け取ろうずしたノヌトを別の手が぀かんだ。

ドゥドゥだった。

ドゥドゥはい぀も䌝祚にサむンする赀いペンで自分の䜏所を曞いた。そしおぶっきらがうに蚀った。「俺の䜏所を先に蚪ねなければならない」

自分がどんな顔をしおノヌトを受け取ったか思い出せない。倚分、ひどい顔だったろう。思い出せるのはドゥドゥが店内の客すべおに振る舞った「午埌の死」で也杯したこずだ。゚ディが「黒でも癜でも無い、歯みがき粉に」ず叫ぶず、皆ゲラゲラ笑いながら「歯みがき粉に」ずグラスを䞊げた。

初めお、この店に迷いこんだずき、僕以倖の皆は笑い隒ぎ、僕はひどい顔で独りスツヌルに座っおいた。最埌のこの日も、やはり、僕以倖の皆は笑い隒ぎ、僕はおそらくひどい顔をしおいた。

でも独りでは無かったよ。

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マスダヒロシ むンスタ( @masudahiroshi )やっおたす。ツむッタヌ( @Masuda_h )もやっおたす。どうぞよしなに。