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『花のトンネル』

『花のトンネル』

下校の時間は、いつもと同じだった。

チャイムが鳴って、
友達と途中まで一緒に帰って、
交差点で手を振って、ひとりになる。

そこからは、まっすぐの道。

春は、桜が咲く。



その日は、もうほとんど散っていた。

枝の先に、少しだけ残っているくらいで、
地面の方が、ずっと桜色だった。

歩くたびに、ふわっと音がする。



いつもの道だった。

なのに、途中で、少しだけ足が止まった。

なんとなく。

理由は、よくわからない。



前の方だけ、花びらが落ち続けていた。

上を見る。

もう、そんなに残っていないはずなのに、
そこだけ、まだ降ってくる。

風が吹いているのかもしれない。

でも、周りの枝は、ほとんど揺れていなかった。



一歩、進む。

少しだけ、視界が白くなる。



くぐった、という感じはなかった。

ただ、歩いていたら、通り過ぎていた。



気づくと、道の色が少しだけ違っていた。

さっきより、濃い。

桜の色も、少しだけ、近い。

手を伸ばすと、すぐ触れそうなくらいに。



音が、やわらかかった。

遠くの車の音も、靴の音も、
なぜか、少しだけ丸く聞こえる。



誰もいなかった。

でも、さっきまでと同じ道だった。

曲がる場所も、電柱の位置も、
全部、知っているはずなのに、

少しだけ、違って見える。



そのまま歩いた。

考えなくてもいい気がした。



気づいたときには、
もう、いつもの道に戻っていた。

花びらは、もう降っていなかったし、

風も、なかった。



振り返る。

そこには見慣れた、
ただの道があった。



家に帰ると、
すぐにお母さんに声をかけられた。

「いつもより、20分も遅いけど何してたの?」

何も答えられなかった。

だって、何もしていない。



次の日、その道を通ったけれど、
何も起きなかった。

桜は、ほとんど残っていなかった。



それ以来、

道に咲いている花に、
少しだけ、声をかけるようになった。



返事は、ない。

けれど、

風が吹くことがある。



それでも、
世界は変わらない。


この物語は
eko222 さんの
沖縄から発信「チャンプルー文化」日常より
という記事から着想を得て創作しました。



#創作大賞2026 #オールカテゴリ部門

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