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歩くこと【エッセイ】一六〇〇字

 パスモなるものを、初めて買った。
 日比谷で開かれる演劇講座に通うためだったのだが、思わぬ副産物があった。学生時代の芝居熱が一気に蘇ったのである。演劇の街・下北沢で四回、紀伊國屋ホールで二回、東京芸術劇場では一回、観た。―― そうそう、戸山公園野外舞台でも。そして、そうこうしているうちに、今度はクラシックコンサート熱までが再発。以来、パスモが活躍している。ピッとタッチして改札を通るたび、四十六歳まで十六年間勤めた会社員時代の定期券を思い出す。

 考えてみれば、電車やバスを利用しない生活が長く続いていた。

 三十年前に会社を興して、憧れていた車通勤になった。そして二十年ほど前にウォーキングを始めてからは、今度は逆に「歩き」が中心の暮らしになった。取引先もほとんどが歩いて行ける範囲。私用で出かける先も、自分が目安としている往復八千歩に収まる場所ばかり。半径四千歩、三キロ弱。防衛省近くの自宅から、新宿、青山、神楽坂、早稲田など、それなりの街へ行ける。
 “遠隔地”へはその都度切符を買って出かけていたのだが、駅構内で迷うことが多くなった。だからますます、歩いて行ける場所を選ぶようにもなった。

 「往復八千歩」。
 私が目安にしているのには、そもそもの理由がある。

 その根拠が、青栁幸利博士の“奇跡の研究”と呼ばれる中之条メソッドだ。
速歩きを交えながら八千歩ほど歩く習慣は、心肺機能や筋力の維持だけでなく、糖尿病や高血圧など生活習慣病の予防、認知機能の維持にも効果があるとされている。歩くことは、「健康寿命」を延ばす基本と言われている。

 おかげで、喜寿が近づいた今でも、軽やかに歩いている(つもり)。
 だからだろうか。「転倒」がきっかけで寝たきりになり、健康寿命を縮める高齢者の話題がよく取り上げられるが、どこか他人事のように聴いていた。

 だが、一番危ないのは私かもしれないと思った。

 歩くことで健康を保ってきた人間が、もし骨折で歩けなくなったら、一気に老け込む。
 実際、高齢者では一度の転倒が骨折につながり、活動量が減ることで筋力やバランス能力が低下し、さらに転びやすくなる悪循環に陥ることが少なくないという。
 だから私も、「転倒」だけは絶対に避けたい。足元には今まで以上に気を配る。しかし、それでも歩くことはやめない。いや、むしろ今まで以上に頻度を高めようと思う。それが健康寿命を守る、一番確かな方法なのだ。

 健康とは、特別な健康法で得られるものではない。「“正しく”速歩きで歩くこと」。それが健康を支える「基本中のキ」なのだと思う。

 そう考えると、劇場やコンサートホールも人参のゴールになる。
 ルートのひとつとなっている母校キャンパスには、演劇博物館がある。そして、その帰り路にある戸山公園の野外舞台では、最近では毎週、芝居が上演されるようになったようだ。これからは、ゴールデンルートになる。
 
 そして次は、クラシックコンサート。片道八千歩の東京オペラシティまで歩こう。帰りは、のんびりバスで。
 せっかく買ったパスモを使って。

(おまけ1)
よく見かける“あるある”話で、イラついている自分を想像してしまいました。(◎_◎;) 
でも、こんな子がレジにいたらワタクシも並びます。^^ そして、これに気づいて投稿した高校生にも、アッパレ!\(^o^)/

朝日新聞朝刊(2026年6月30日)

(おまけ2)
もうひとつ、アッパレ!\(^o^)/ あの怖いお姉さまでさえホッと胸をなでおろしたようです。
やはり「草の根」から始めることです。
そして、
あの超保守派の局「フジテレビ」系・関西テレビのスタッフ陣にも\(^o^)/

東京新聞朝刊(2026年7月1日)

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