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Menina Veneno

17歳の頃
私は、大好きだったブラジル人男性からプロポーズされた。
そして、その瞬間に流れていたのが
Menina Veneno。

あの頃の私は、ただただ幸せだった。
人生でいちばん幸せだと、迷いなく思えた。

その幸せを信じて、
夢のような時間を生きていた。

彼を愛し、
ブラジルを愛し、
一生、ブラジルで生きて行くと決めた。
骨を埋める場所は、ここだと。

そう決めた時、
心がふっと軽くなった。
やっと “自分らしく” 生きられる
そう信じていた。

けれど、人生はそんなに優しくなかった。

20歳の誕生日に結婚式を挙げる筈だった。
19歳。あと2ヶ月で、20歳。

5月のあの日。

彼は、私を庇って亡くなった。

信じられなかった。
夢だと思った。
頭が真っ白になり
彼の名を何度も叫び
そして
気を失った。

病院で目覚めたとき、
彼も、お腹の子も、もういなかった。

泣く気力さえ残っていなかった。

私は Menina Veneno だったのだろうか。

魂が千々に砕け散り、
抜け殻と化した。
周りの声も、何も届かなくなった。

悲しみ、憎しみ、喪失。
そんな言葉では、とても足りなかった。

ブラジルに居る理由が一瞬で消えた。
どうやって帰国したのか、殆ど覚えていない。
正気でいられるのが奇跡のようだった。
いっそのこと、狂ってしまいたかった。

マイアミへ向かい、ロサンゼルスへ。
そして、ハワイへ。

1ヶ月ほど、ぼんやりと彷徨いながら
フラフラあちこち滞在した。
「ここで消えてしまいたい」と、何度も思った。
それでも、涙は出なかった。

若かった私には、あまりにも過酷すぎた。

もう海外はいい。
日本でいい。
夢は見ない。
ここで生きていく。

そう決めた。

24歳の頃
海外と縁のある男性たちは避けて
海外とは全く縁のなさそうな男性からのプロポーズを受け、
長男、長女、二人の子どもに恵まれた。

19歳の頃に思い描いた
「男の子なら」「女の子なら」とつけた名前が、
現実になった。

そしてまた、人生は動き出す。

30代の頃、思いもよらなかったパートナーのシカゴ転勤。
娘は臨月、息子は2歳。

彼が先に渡り、
私は娘を出産してから後を追った。

シカゴの空は広く、
どこまでも続き、
そんな広い空に包まれながら
私は運転免許証を取得
人生がまた変わり始めた。
息子はすぐに英語を覚えた。
5歳になる頃には、まるでネイティブのように話していた。

「この子が、クラスでいちばん早くアルファベットを覚えたのよ」
先生にそう言われた日のことを、今も鮮明に覚えている。

その後、人生は再び形を変え、
新しいパートナーと歩み始めることになった。

「もう海外はない」と思っていた筈なのに、
40代の頃、今度はブリュッセルへ。

子どもたちを連れて、再び海を渡った。

ヨーロッパ独特の匂いに包まれ、
10代の子どもたちは学校生活を思い切り楽しんでいた。
嘗て私が、ブラジルで過ごしていた頃のように。
私もまた、
アウトバーンをあてもなく走り、
ひとり、解放感に浸っていた。

望んだわけでもないのに、
なぜか私は、何度も海外へ引き戻される。

ドライブをしながら
「いったい、私の人生は何なんだろう」
そう思いながらも、流れの中で生きてきた。

本当は日本で
占い師さんたちが安心して働ける場所を作りたかった。
嘗て20代の頃私が働いていたような商業施設の中に。

けれど、人生はいつも思い描いた通りには進まなかった。

それでも、
50代になって日本に暫くの間落ち着けるようになり
ようやく作品として形にした。

星マリアのイーチンオラクルカード。
星マリアのマンガでわかるイーチン。

そうしているうちに、
子どもたちはそれぞれの道を歩き始めた。

息子のパートナーは英語圏の女性。
娘のパートナーはスペイン語圏の男性。

二人とも言う。
「お母さんのおかげで、道がひらけた」と。

そしてそのパートナーたちからも、
「素敵な彼を、彼女を育ててくれてありがとう」
と言われるようになった。

もし孫ができたら、
私はどこでその子に会うのだろう。

そんなことを思いながら、
気づけばまた、世界のどこかへ向かう自分がいる。

あれから、40年。
あと2ヶ月で、還暦になる。

ふと、あの曲を聴きたくなった。

Menina Veneno。

19歳の私へ。

あなたの還暦は、笑顔だよ。

還暦までちゃんと生きてるし、
40年、良い人生を歩んでいるよ。

あなたは、
Menina Veneno なんかじゃなかった。

あの人に生かされて、
かけがえのない子どもたちに恵まれて、
歪んでしまった私を、
そのまま受け止めてくれる人にも出会えた。

良い人生を、送ることができた。

そして今

私は、やっと涙を流している。

悲しみではなく、
嬉しさで。


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