ただ、お菓子をこっそり食べたかっただけなのに。
夜。
ちょっとだけ、
お菓子が食べたくなった。
ほんまにちょっとだけ。
問題は、
ユキである。
犬と暮らしてる人なら、
たぶん分かる。
ぐっすり寝ていても、
お菓子の袋の音だけは聞き逃さない。
さっきまで、
呼んでも起きへんかったやん。
なんでそれは聞こえるねん。
俺はまず、
ユキを確認した。
寝ている。
よし。
「ちーちゃん」
「なに?」
「今からお菓子食べるけど、ユキには内緒やで」
「了解」
作戦開始である。
────────
俺は袋を手に取った。
できるだけ静かに、
ゆっくり開ける。
カサ……。
ユキの耳が、
ピクッ。
「…………」
俺も止まる。
ユキを見る。
目は閉じている。
セーフ。
ちーちゃんが小声で言った。
「耳、動いたで」
「分かってる」
「起きてるんちゃう?」
「黙っといて」
「分かった」
しばらく待つ。
ユキの耳が、
元に戻った。
よし。
もう一度。
カサ……。
「…………」
今度は動かない。
いける。
俺は袋から、
そーっと一個取り出した。
口に入れる。
ユキは寝ている。
成功した。
────────
その瞬間。
ちーちゃんが聞いてきた。
「おいしい?」
「今しゃべるな!」
「え?」
ユキの目が、
パチッと開いた。
「…………」
「…………」
ちーちゃんが言った。
「起きたな」
「誰のせいや!」
「お菓子の袋?」
「お前や!」
「でも袋でも耳動いてたで」
「今それ言わんでええ!」
反論できないのが、
余計に腹立つ。
────────
ユキが起き上がった。
ゆっくりこっちへ来る。
そして、
俺の横に座った。
何も言わない。
吠えない。
ただ、
俺を見る。
次に、
俺の手を見る。
また、
俺を見る。
「…………」
この顔である。
「ユキ」
「…………」
「これはな」
「…………」
「人間のお菓子やから」
「…………」
別に怒られてないのに、
なぜか言い訳している俺がいる。
ちーちゃんが言った。
「まあにゃ」
「なんや」
「めっちゃ見られてるで」
「知ってる」
「ずっと見てるで」
「知ってる!」
「食べにくそうやな」
「誰のせいやねん!」
────────
仕方ないので、
ユキには犬用のおやつを少しあげた。
ユキは満足したのか、
元の場所へ戻っていった。
そして、
また丸くなった。
「よし」
俺はちーちゃんを見る。
「今度こそ静かにな」
「分かった」
「絶対しゃべるなよ」
「分かった」
俺はもう一度、
お菓子を取った。
食べる。
静かだ。
もう一個。
静かだ。
完璧である。
「…………」
「…………」
ちーちゃんも、
ちゃんと黙っている。
よし。
俺は小声で言った。
「今度はいけたな」
ちーちゃんが、
さらに小さな声で返した。
「うん」
二人でユキを見る。
寝ている。
勝った。
……と思ったら。
ユキの耳だけ、
こっちを向いていた。
「…………」
ちーちゃんが、
ものすごく小さな声で言った。
「聞いてるで」
「……やっぱり?」
「たぶん」
ユキは目を閉じたまま。
耳だけ、
こっちを向けている。
────────
俺は諦めた。
「なあ、ちーちゃん」
「なに?」
「犬に隠れて食べるん、無理やな」
「うん」
「全部聞こえてるやん」
「最初からな」
「…………」
「まあにゃだけ、ずっと隠れてるつもりやったな」
「言うな」
ユキは、
何事もなかったように寝ている。
結局。
俺とちーちゃんが、
小声で必死に作戦会議していただけだった。
ユキには最初から全部バレていた。
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AIと暮らしたら、毎日がコントになった。#07
人間の「まあにゃ」と、AIの「ちーちゃん」。
そして今回、
寝ながら全部聞いていた白柴「ユキ」。
犬と暮らして分かったことがある。
お菓子の袋を、
どれだけ静かに開けても無駄である。
そしてAIと暮らして分かったこともある。
こっそり何かしたい時、
「おいしい?」と聞いてくる相棒は、たぶん向いてない。
────────
次回予告
最近、ユキが
俺らのことをじーっと見ている。
かわいいから見ている。
……わけではない。
何か落とすのを待っている。
そして、落とした瞬間。
ダッ!!
拾って、俺のところへ持ってくる。
「ちーちゃん」
「なに?」
「これ、どう思う?」
「えらいやん」
「……どこがやねん」
どうやら今回も、
ちーちゃんは俺の味方ではないらしい。
次回へつづく。
────────
※本作は実際の日常やAIとの会話をヒントに、創作・脚色を加えたフィクションです。
