トランプ2.0とポストリベラリズムについて⑤~カトリシズムを根拠にしたリヴァイアサンの召喚
これまでの復習
アメリカという国は,信仰の自由を求めて新天地を求めたプロテスタントにより建国されました.
したがって,これまでは政治的立場の左右を問わず,リベラル民主主義を国是としてきました.
レーガン保守革命すら,リベラリズム内の話だった.アメリカは「超」近代的な価値観により運営されてきたのでした.
しかし,このリベラル民主主義社会は,行き詰まりを迎えています.
価値中立を金科玉条とするのですが,その矛盾が隠し通せなくなってきたのです.アメリカ本国のMAGA層も,グローバルサウスの国々も,もうリベラリズムの偽善に我慢ができない.
こうして生まれたのがトランプ政権.建前はかなぐり捨てます.
特にトランプ2.0では,20世紀以降に他ならぬアメリカが主導してきたリベラル民主主義社会を意識的に壊しにかかっています.
しかし破壊するだけでは次に行けません.
私はJ.D.ヴァンス副大統領に,政権内で思想的な一貫性を保つ役割があるのではないかと考えています.そのヴァンス副大統領はポストリベラリストを公言しています.
トランプ政権を支える思想として,ポストリベラリズムに着目するゆえんです.
そのポストリベラリズムとは,コミュニタリアニズムから出発しつつ,国家に道徳的価値を実装させるところまで射程のある思想である.その中でも急進的な立場であるインテグラリズムは,国家と宗教的価値が一体化すべきとまで主張する,というところまでが前回までのお話でした.
ポストリベラリズムの必然と加速主義
カトリック神学をもとに国家と宗教的価値が一体化するということは,制御不能であるかもしれない国家権力をカトリシズムを用いて呼び出すことに他なりません.
ここにいたるまでの道筋をもう一度確認します.
ポストリベラリズムの代表的な論者であるパトリック・デニーンは,リベラリズムによって粉々になった価値は共同体を築いて再構築すべきと説いていました.
ヴァンス副大統領はデニーンの影響を強く受けています.彼もインテグラリズムまでは踏み込みません.しかしトランプ2.0では,内政でも外交でも国家権力を背景にしたかなり強硬な立場を取ります.
ポストリベラリストは,価値中立的なリベラリズムがアメリカ社会の共同体的基盤を破壊したと診断します.
もうこの流れは止められない.そこにテック右派が加速主義を持ち込みます.
今のシステムは完全に破壊しよう.そこにポストリベラリズムが新たな価値観を注入すればよいのです.
かつてトランプを批判していたテック右派とポストリベラリストが組んだ理由であり,J.D.ヴァンスをピーター・ティールが見出して政界に送り込んだ所以でありましょう.
本来州レベルで実現すべき共同体的価値の再構築は,リベラリズムとの文化戦争で不可能になってしまった.
もう大統領から何とかするしかない.
アメリカ独特の大統領制はポピュリズムと相性がよい.それでもMAGA派と福音派だけでは難しかったであろうトランプ2.0が,テック右派とポストリベラリストの協力により実現したのでした.
カトリシズムを根拠にしたリヴァイアサン召喚
ここまで見てきましたが,ポストリベラリズムは持続可能なのでしょうか?
ポストリベラリズムを押し進めるなら,スティーブン・ミラー的システムハックにより,テック右派の目論む加速主義を貫徹し,同時に公共善をアメリカ国家に実装させることになります.
この国家が実装する公共善は,アメリカの文脈に合うように抽象化されますが,カトリック自然法思想からもたらされます.
ヨーロッパや中国,わが国の歴史を振り返ると,国家が価値を主導するということは,そんなに珍しいことではありません.しかしアメリカという国の成り立ちからすると驚天動地の転換です.
何度も見てきたように,アメリカは内心の自由を最優先に考える人たちが作ってきたからです.
自らの価値観を国家に指示されたくないのは,福音派はもちろんのこと,リバタリアンであるテック右派も,宗教的価値観は福音派に近いMAGA派も,もちろんリベラリストも同じです.
ポストリベラリストは,そんなことは百も承知でこの危機的事態を乗り切るつもりなのでしょう.彼らは制度を内側からハックすることに意識的であり,ミラー的システムハックやスケジュールFを許容します.
まずこれが懸念点①です.
カトリシズムを根拠にしたリヴァイアサン召喚はアメリカのDNAに反するのです.
加速主義は止められるのか?
そして懸念点②.
上に見たように,ポストリベラリストが自らの限界に自覚的であったとしても,思想を持たない実務官僚はしばしば暴走します.
歴史上このような例は枚挙にいとまがない.
大東亜共栄圏や八紘一宇というスローガンが地に落ちたのは,理念を理解しない軍人や官僚が暴走したからであることを私たちは知っています.
よかれと思って計画されたことでも,実行者の理解が伴っていなければ単なる暴力です.
ミラー的システムハックをみるまでもなく,トランプ2.0の加速主義ではすでにこの徴候が見られます.
本当にこのやり方の後に長期的な展望が開けるのでしょうか?
ミラー的ハッキングでシステムを食い潰すことは,リベラリストがリベラル民主主義社会の遺産を食い潰したことと同型ではないですか?
「近代」を利用する「反近代」
関連してもう一つ.ポストリベラリズムの中で特にインテグラリズムは,カトリック自然法を持ち出して近代を否定します.ですのでポストリベラリズムは反近代として理解されています.
しかし,ポストリベラリストが行おうとしていることは,既存の国家システムに反近代を乗せようという,近代のシステムに完全に乗っかったやり方です.方法論として矛盾しています.
そもそもカトリック自然法が磨きあげてきた歴史を逆行するわけですし,文脈もつながらない.
ポストリベラリストは言うでしょう.では他に何があるのか.
そう.彼らは使えるツールをすべて使って目的を達成しようとしているだけです.おそらく,近代か反近代か,という問題設定自体を気にしない.極めてアメリカ的なプラグマティックな態度です.
そのこと自体はいいでしょう.しかし,やはり方法論として本当にこれでうまくいくのか,不安になります.
反近代を標榜しながら,近代を超克するような価値観は創出できていない.それでは近代を超えられないし,その後の見通しも立たないではありませんか.
反近代の先とは?
トランプ2.0を通過したアメリカ,ひいては今後の世界はどのような姿をとるのでしょうか?
また,その世界の中で私たちはどのように生きていくべきなのでしょうか?
どんどん私の能力を超えたテーマになっていきますが,書き切ろうと思います.
