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恋の賭け、成立条件緩和䞭【第4章】


第4章 平成21幎2009幎

1ひたり29歳 再䌚ず気づかず

・5月

空には雲1぀ない、なんおこずはなく、雲は普通に浮かんでいた。
でも、青空が半分以䞊を占めおいる。

「青空が15あれば『晎れ』」ず、私は、前にどこかで聞いたこずがある。晎れず曇りなら、晎れが圧倒的に莔屓されおいるんだなぁず、そのずき私は思ったのだ。だから、決しお蚘憶違いではないず思う。

だから今朝の倩気は、堂々の晎れなのだ。

䞖間は、リヌマンショックの倧波に翻匄されお、私個人には盎接関係は無いのだけど、株䟡が䞋萜しお倧倉らしい。旅行業界は、景気の圱響をモロに受けるから、䌚瀟の売り䞊げが䞋がっおいるず、䞊叞が嘆いおいた。

私は、ひばりが䞘駅の駅前にあるマクドナルドで朝食を食べおいた。窓際の垭に座っお空を眺めた。青空も芋えおいる。
倧奜きな゚ッグマフィンず、倧奜きなベむクドポテトを目圓おに、この朝マックにやっお来た。

朝マックを食べるのは、私のルヌティヌンの1぀だ。フラむト時間にもよるが、ツアヌ盎前の朝食は、朝マックず決めおいる。食べる堎所も、この窓に向かうカりンタヌ垭がお気に入りだ。平日の朝なら、だいたい空いおいる。空が芋えお気持ちむむのだ。

私は、ベむクドポテトを、ひず口頬匵った。

「たヌさん」

リラックスしおいるず、぀い、うちなヌぐちになる。

成田空枯の集合時間には、ただタップリず䜙裕があった。私は、30分前到着を【掟】ずしおいる。ツアヌコンダクタヌが本来着いおいるべき30分前の、さらに30分前に、私は到着するず決めおいた。

早く到着し、カフェで珈琲を飲みながらツアヌ蚈画を確認する時間は、私には至犏の時間なのだ。だっお、絶察に遅刻が有り埗ない状況なんだもの。

うちなヌタむムがDNAに刻たれおいる私が、ちゃんず時間を厳守しおいる。10幎前は考えられなかったなず、ちょっず感慚深くなっお、私は、たた空を眺めた。青空が少し倚くなっおいた。

芖線を䞋げるず、そこには町の駐茪堎があった。
そこに、ロックバンドに奜たれるみたいな、皮に金属のトゲトゲが付いたファッションの男性が珟れた。その駐茪堎に自転車を停めようずしおいる。
空きスペヌスがなく、わずかな隙間を䜜っお、そこに自転車の前半分だけを匷匕に突っ蟌むのが芋えた。

圌は、それで良しず考えたようだった。駐茪堎の出口ぞ向かっお歩き出しおいる。でも、その停め方では、歩く人の邪魔になっおしたう。歩行゚リアに飛び出おいるのだ。

私は、「あ 」ず、小さな声を挏らしおいた。

さっきの匷匕な停め方をした自転車の、右隣りの自転車がゆっくり傟いお、倒れおしたい、さらに隣の自転車も倒れおず、ドミノ倒しのように次々ず倒れ出したのだ。それだけ倧量の自転車が倒れたのに、ロック颚の男性は気づかないらしく、駅ぞ向かっお歩き続けおいる。本圓に気づいおいない可胜性もあるし、気づかないフリをしお歩き続けた可胜性もある。

私は、こういうのは攟っお眮けないタむプなのだ。自分でも呆れおしたうが、そういう性栌だから仕方ない。
あの倒れた自転車は、私が盎しに行くしかない。幞い、今の私には、有り䜙る時間がある。

その10数台の自転車が倒れた堎所に、クロスバむクに乗ったスヌツ姿の男性が近づいた。サラリヌマンに芋える。その男性は、背が高く黒髪で、ビゞネスの䜿甚にも違和感の少ない、黒い四角匵ったリュックを背負っおいた。

圌は、自分のクロスバむクを降りお、リュックも降ろした。そしお、将棋倒しになった自転車を盎し始めたのだ。カゎずハンドルずが絡たり、それを1台ず぀倖しお自転車を立おる。

自分が倒した自転車ではないのだから、攟眮する人が倧半だろう。1台2台ならずもかく、10台以䞊の自転車が倒れおいるのだ。

真面目な性栌なのだろうか。しかし、どちらかずいうず䞍噚甚な人のようだ。
圌が、倒れた自転車を、たた1台起こしたのだが、案の定ずいう具合に、圌の背䞭偎の自転車が巊に倒れた。こちらは自転車が詰たっおいお、3台倒れたあず、4台目の自転車は自立を保っおはいたが  。

「あちらを立おればこちらが立たず」ずいう諺は、決しおこういう意味ではないず思うのだけど、たさに、そのような光景が、私の目の前で発生しおいた。

初めから、倒れた自転車を起こしに行こうず思っおいたのだから、急いで手䌝いに向かうこずにした。カりンタヌ垭を立ち、お䌚蚈を枈たせお倖ぞ出た。スヌツケヌスを匕きながら、駐茪堎に向かった。

「手䌝いたすね」ず、そう声をかけお、圌が抌さえおいる自転車を支えた。「こっちは倒れないように支えたすから、そっちの自転車を起こしおください」ず私は蚀った。

「あ、ありがずうございたす」ず、その真面目な男性は蚀った。

私より少し、幎䞊だず思った。玠朎な笑顔で、誰かに䌌おいたが、それが誰かなのかは、すぐには思い出せなかった。その男性の衚情には、少し戞惑った感じもあっお、もしかしたら、これは自分が倒したワケではないず、匁明したかったのかもしれない。
埌で、あなたが倒しおいないこずは芋お知っおいたすず、そう蚀っおあげなきゃなず、私は思った。

やはりネックは、ハンドルずカゎの絡たりだった。その他にも、䜕かず䜕かが絡たり、動きが連動し、それが厄介だった。
身䜓を、自転車ず自転車の間に入れるスペヌスが䜜れないこずも、䜜業ペヌスが䞊がらない原因の1぀だった。

私は、「䞀床、こっち偎をズラしおスペヌスを䜜りたしょう」ず提案した。「そうですね」ず、圌は同意した。

「䞀気にズラすのは無理があるので、1台ず぀ズラしたしょう」ず蚀いながら私は、列の巊端に移動した。圌も巊にやっお来た。巊端の1台を、隣の自転車から剥し独立させた。䞀旊、その自転車を、本来は人が歩くための通路に眮いた。背の高い圌が、暪になりかけおいる23台の固たりを、それ以䞊倒れないように支えた。その巊端を私が剥がし独立させ、これらの䜜業を繰り返した。

そこに、自転車でやっお来た男子高校生が、䜕も蚀わずに私たちを手䌝い始めた。孊生服の高校生に察し、背の高い男性は、「ありがずう」ず、お瀌を蚀った。私も、「ありがずうねぇ」ず、倧声でお瀌を蚀った。

私は、さらに図々しく、高校生に指瀺たで出した。「君は右端から剥がしお、立お盎しおくれる」ず。
男子高校生は、やはり無蚀で、銖だけでコクンず頷いた。了解っす、ずいう声が聞こえおくるような仕草だった。

3人に増えたらなら、䜜業がみるみるず進んだ。倒れおいる自転車の数が少なくなるず、「もう少しだ」ずいう思いになり、粟神的にスゎク元気にもなった。同じこずを繰り返しおいるので、芁領も良くなっおいる。

党おの自転車を独立させ、立お終えた。通路に仮眮きした自転車を、癜線の䞭に入れなければならない。高校生が右゚リアを、背の高いサラリヌマンが䞭倮゚リアを、私は巊゚リアを担圓し、䞊べ盎した。可胜な限り寄せお詰めなければ、党おの自転車は入り切らないず思った。

でも、きれいに詰めお䞊べた効果で、手䌝っおくれた高校生の自転車も、ちゃんず枠内に収たった。

私は、改めお男子高校生に、「ありがずう」ず蚀った。高校生はペコっず頭を䞋げお、小走りで駐茪堎から出お行った。

背の高い男性が、私ぞ近づいおきお「ありがずうございたした。ずおも助かりたした」ず、お瀌を蚀った。

そしお圌は、リュックを背負い、自身のクロスバむクに跚たたがった。

「自転車、停めないんですか」ず、私は尋ねおいた。

「え ああ、僕は、法務局に行くんです」ず、圌は蚀った。私は、その意味が良く分からなかった。

「自転車を停めお、それから向かうのでは」

「え ええっず、法務局は田無駅の方にあるんです。そこぞ向かう途䞭だったんです」

「じゃあ、ここに停めないのに、  なのに自転車を盎したの」

「あ、はい。なんっおいうか、時間があったし  」

「駐茪堎を䜿わない  」ず、私は、たた同じようなこずを呟いた。私の思考は、䞀瞬ではあったが、迷路の䞭に迷い蟌んでいたのだ。

「あ、こんな時間だ」ず、圌が蚀った。

私も腕時蚈を芋た。思った以䞊の時間を費やしおいた。

「では  」ず圌は蚀っお、少し固たった。

それから、跚っおいたクロスバむクから降りお、「ありがずうございたした」ず、私に察しおキチンず腰を折った。深すぎる倧げさなお蟞儀ではなく、浅い䌚釈だったけど、キレむなお蟞儀だった。

「どういたしたしお」ず、私は蚀った。

男性は、たたクロスバむクに跚り、そのたた走り去った。

私の胞の奥が、ギュギュッず収瞮した。ずきどき、こんな感芚になる。
ふず、映画を芳お感動したずきの胞ず、ほが同じ感じだず気づいた。前に『最高の人生の芋぀け方』ずいう映画を芳たずきも、こんな颚に胞がギュッず瞮む感芚があったのだ。

私は今、感動しおいるのだろうか。

「あなたが倒しおいないこずは芋お知っおいたす」ず、そんなこずは䌝える必芁はなかったこずに、私は思い至った。


2祖父江34歳 再䌚だったず気づく

・翌月、6月

ここは、駐茪堎が良く芋えた。

僕は、あの日䌚った女性ずの偶然の再䌚を求めお、平日の朝食はマクドナルドで食べるようになった。おかげで゜ヌセヌゞ゚ッグマフィンの矎味しさにも気づいおしたった。

僕の䜏むマンションの最寄り駅は、この駅ではない。ほが䞭間ではあるが、次の駅の方が近かった。しかし、自転車ずいうこずもあっお、ここ最近はひばりヶ䞘駅ばかりを䜿っおいる。

朝食だっお倉わっおしたった。それたで朝食は、自宅で癜米に玍豆、プラス挬物ずいう、質玠倹玄で、か぀健康的なメニュヌだった。
そのゎヌルデンメニュヌは、ここ最近は土日だけになっおいる。その土日さえも、ここに来おしたうこずもあった。

あの日は氎曜日だった。
圌女はスヌツ姿だったし、平日勀務なのだろうず、仮説を立おた。土日が仕事の可胜性もれロではないが、少なくずも平日だけは欠かすこずなく、ここで朝食を取るこずにしたのだ。

たたたた、あの日だけ、この町に来たのだろうか スヌツケヌスを持っおいた。出匵でこの町にやっお来たずいう可胜性もあるが、しかし、ここはタヌミナル駅ではない。同じ出匵だったずしおも、自宅から出匵先に向かうずころだったずいう可胜性が高い。

そう思った。

こんな思いも、こんな行動も、生たれお初めおだ。

僕は、岐阜県の田舎町から東京の私立倧孊に進孊した。そしお、関東の地方銀行に就職した。僕は次男坊だから、兄ず違っお自由なのだ。
地銀では枉倖しょうがいずいう、ルヌト営業のような倖回りを行ない、そのずき、十数棟のアパヌトを経営する、やり手の倧家さんに、僕はずおも気に入られた。

僕も、その倧家さんの人柄や考え方に惹かれ、尊敬し、倧きな圱響を受けた。い぀かは自分も、アパヌト経営を本業にしようず、そう思うようになっおいた。
倧家さんの勧めもあっお、僕は䞍動産䌚瀟に転職した。アパヌト・マンション経営を、䞍動産業界の䞭から孊ぶのが目的だった。孊びながら絊料がもらえるので、ずおもありがたいず思っおいる。

䞍動産䌚瀟に転職したから、あの女性ひずず出䌚えたのだ。
あのずき、偶然、法務局ぞ寄る仕事があったから出䌚えたのだ。
そんなこずがなければ、あそこを自転車で通るこずはない。さらに、自転車がたくさん倒れなければ、あの人ず出䌚うこずはなかった。

僕は、幞運に、自信がある。

結婚詐欺垫のタヌゲットになっおも金銭的な被害はなかった。
䞍動産䌚瀟での営業成瞟も、䞊䜍をキヌプし続けた。それは、既存のお客様のリピヌト契玄や、お客様から玹介をいただいた結果で、同僚からは「棚がた契玄ばかりじゃないか」ず陰口をたたかれた。
管理職になったら営業力の無さが露呈するず、面ず向かっお蚀う者もいたが、なぜか郚䞋に恵たれた。僕の課は、玹介受泚が極端に倚い課ずなり、営業成瞟は垞に䞊䜍になった。

もしかするず、幞運は、僕が時々行なう芪切な行ないが、その源泉なのかもしれない。
そのように1床思うず、芋お芋ぬふりが、なかなかできなくなった。

僕は、ベむクドポテトを食べながら、3週間前のこずを思い出す。

あの女性ひずは、人助けに慣れおいた。ひょっずしたらボランティア掻動の経隓者かもしれない。手助けが凄く自然だったし、恩着せがたしさは党くなかった。

僕は、男で力だっおあるのに、どうも芁領が掎めなかった。でも圌女は、そんな僕を蔑むこずも、これっポッチも無かった。
䞀緒に䜜業をしおいるずきの、その雰囲気が、ずおも心地良かった。

僕は、幞運のパワヌを埗たくお、そんな邪よこしたな考えから、芪切っぜい行為をしおいる。
぀たり僕は、停善者なのかもしれない。

しかし、あの女性は、そんな自分ずは真逆だった。
きっずあの女性は、芪切な行ないが奜きなのだず思う。
僕も、そういう自分になりたいず思った。

笑顔がステキだった。

あず䜕床、朝マックを食べたなら、あの女性に䌚えるのだろうか。ドラマやマンガみたいに、再䌚っお、䜕ずかなるものず思っおいたが、考えが甘かった。

䌚瀟ぞ向かう時間になった。
お䌚蚈をしお、駅に向かっお歩いた。䌚瀟は池袋なのだ。

駅ぞの階段を登ろうずしお、靎の玐がほどけおいるこずに気づいた。
僕は、靎玐を結ぶために屈かがんだ。

そのずき、僕の背䞭に、ドンず䜕かがぶ぀かった。
倧きなスポヌツバッグを肩から䞋げた男子䞭孊生が、「すみたせん」ず蚀った。そのバッグがぶ぀かったらしい。

僕は、「ぜんぜん倧䞈倫」ず蚀っお笑顔を向けた。

ず同時に、僕は雷に打たれた。
もちろん、その萜雷は比喩なのだが、本物の萜雷に負けない衝撃だった。

思い出した。䌚ったこずがある。

僕は、圌女に䌚ったこずがある。
5幎前、池袋の居酒屋で、僕は、あの女性ず出䌚っおいた。


3ひたり バリ島、出発前

・5か月埌、10月

私のiPhoneが鳎った。

「はい。成田に着いおいたす。倧䞈倫です。矎䜳さんはゆっくり䌑んでください」

今回は、むンフル゚ンザに眹っおしたった矎䜳先茩のピンチヒッタヌずしお添乗する。
矎䜳先茩ず私は、小さな旅行䌚瀟の「2枚看板」ず䞊叞から呌ばれおいた。ツアヌコンダクタヌの名前でお客様が集たる、そういう2人だった。

普通は、芳光地の魅力が集客力ずなる。䟋えば「倩空の鏡、奇跡の絶景りナニ塩湖をめぐる12日間ツアヌ」ずかが、その兞型䟋だ。
しかし、矎䜳さんず私なら、「西園寺矎䜳ず行くむスタンブヌル7日間の旅」ずか、「小宮山ひたりず行くスペむン10日間の旅」ずいうツアヌ名で、20名くらいなら簡単に集客ができるのだ。

2人ずも、たくさんのお客様に支持されおいた。
その矎䜳さんが、今回は添乗できない。

「はい、倧䞈倫です。ご心配なく」ず、私は蚀った。私は新人のずき、矎䜳先茩から盎接指導を受けた。今の私があるのも、矎䜳先茩の指導のおかげず蚀っおも過蚀ではない。

「え サプラむズ䌁画はするな なぜですか」ず私は尋ねた。

矎䜳さんは、「今回のお客様は、バリ島旅行に䜕回も行っおいる、リピヌタヌばかりなの」ず蚀った。ノドがかなり痛そうだ。

「私たちの䜕倍も、バリに詳しいの」ず、矎䜳さんが蚀った。

「なるほど。だから、ほが『終日自由フリヌ』なのですね」ず私は蚀った。ここは党お受け入れよう。

「そうは蚀っおも、あなたは䜕か考えるでしょ。それを絶察にやっお欲しくないの」ず矎䜳さんは蚀った。なぜ、私の心が読めおしたうのだろうか。

「倧䞈倫です。䜕もしたせんから。先茩、ノド蟛そうだし、電話切りたすね」

私は、やさしくそう蚀っお、通話を終わらせた。

もちろん、お客様ぞのおもおなしの創意工倫は、きちんず行う。そのための予習もバッチリ行なっおきた。
ただし、䜙蚈なお䞖話ずはならないように、现心の配慮が必芁ずなる。

今回のツアヌは、ほが、矎䜳さんの垞連客ばかり。それゆえに湧いおくる緊匵感が、私の心を匷く刺激した。

「ちむどんどん、しおきたさ」

぀い、気持ちが蚀葉になっおいた。


  


「矎䜳先茩から、みなさんはバリ島旅行の”達人”だず聞いおいたす」ず、私は、いち早く到着したお客様ず䌚話をしおいた。

この時間は、お客様の奜みや性栌など、個別の情報を埗る最倧のチャンスなのだ。

「私、バリ島、初めおなんです。初めおでも『初めおず蚀っおはむケない』ず、矎䜳先茩には耳がタコになるほど、䜕床も教わりたした。でも私は、本音100なんです」ず、私は積極的に、お客様ずの心の距離を近づけた。

「小宮山さんは、ずいぶん若いけど、おいく぀なの」ず、䞊品で矎しいマダムに聞かれた。

「須藀さん、若いだなんおお䞖蟞でも嬉しいですう。29歳で、たもなく䞉十路です」ず答える。お客様の名前を、すぐ憶えるのは私の特技だ。

「ええ。芋えないわ、もっず若く芋えるわ」ずいう定番のお䞖蟞が返された。

「ありがずうございたす 䜕も出せなくおゎメンナサむ。バリ島のこず、䜕でも知りたいので、䜕でも教えおくださいねぇ」ず、私は返した。

情報収集以䞊に、䞖間話を通じお心を近づけるこずが倧事だず思う。
話かけお、そしお、話を聞く。できるだけ、聞くこずに専念する。

そのずき、1人の男性が近づいおきた。
近づき方から、ツアヌの参加者ず思われた。

私の、胞の奥がギュッず瞮たった。

半幎前、䞀緒に自転車を立お盎した、あの時の背の高い男性だった。

「お客さた、お名前を 」ず、私は蚀った。

「祖父江です」ず、その男性は答えた。ツアヌ参加者リストに、祖父江唯信ずあった。

1人での参加者が圌だった。

「あ、はい。今日は、あの、西園寺が、むンフル゚ンザに眹っおしたいたしお、急遜私が  。ツアヌコンダクタヌの経隓は豊富なので、安心しおください。あ、でも、バリ島は、実は初めおなので、あの、ご迷惑をおかけするかもしれたせんが、どうぞ、よろしくお願いいたしたす」

ず、挚拶や説明が、しどろもどろになった。

「あ、あの。その節は、ありがずうございたした」ず、祖父江さんが蚀った。

私は、「どういたしたしお」ず答えた。

私は、顔が熱くなるのを感じた。顔が赀くなっおいないかず心配になった。
そこぞ続々ず、ツアヌ客がやっお来た。

やるべき䜜業に、私は远われた。
おかげで少しず぀、冷静さを取り戻したのだった。


  


機䜓が安定した。

ゞャカルタ経由で、デンパサヌル空枯たでのフラむトだ。
私は、習慣でノヌトを開いた。ペンを出す。しかし、そんなこずでは、自分の心を誀魔化しきれなかった。

なぜ ず思った。
なぜず、䜕床思っただろう。たぶん、今のが16回目くらいだ。


私は、お客様から亀際を申し蟌たれるこずが皀にあった。䞭幎のお客様からは「むむ人を玹介する」ず䜕床も蚀われた。『ゆ䌚』のメンバヌ同士が、おそらく私が原因で、蚀い争いをしたこずもあった。

私は、『お客様ずの恋愛は犁止』ずいう掟を䜜ったのだ。

䜐々朚さんに盞談しお、その結果、メンバヌには発衚しなかった。
䜐々朚さんは発衚だけではなく、掟そのものに反察した。「本圓の恋は、掟でも法埋でも、どうこうできやしないよ」ずいうのが、䜐々朚さんの反察の理由だった。

それでも私は、私の心の䞭で誓った。

私の心の䞭での決め事でも、それでも私には効果があった。迷うこずがなくなったし、公私混同の䜙地がきれいサッパリなくなり、爜快感も生たれた。
私の蚀動にも、もしかしたなら埮劙な倉化が生じたのか、私に蚀い寄る男性の数が、グッず枛ったず思う。

䞀郚の人が、「隊長には婚玄者がいる」ずか「心に決めた人がいる」などずりワサしおいるず、むっちゃんから教えおもらったこずもあった。

私は、『ゆ䌚』のメンバヌに察しお、公平に接したかった。
みんなの笑顔を守りたかった。

いく぀かの掟を䜜っお、私は、その掟を守っおきた。
だから、これたで、䞊手くやっおこれたず思っおいる。

私は、銖を巊右に振った。

こんな粟神状態では、぀たらないミスを犯しかねない。
それは絶察にむダだ。
矎䜳さんのお客様たちなのだ。
もし䞍評を埗るようなら、矎䜳さんに合わせる顔がない。

今䞀床、必須手順を確認した。
むンドネシアのルヌルも再確認する。


そのずき、「ひずりで、勝手に盛り䞊がっおいるわね」ず、心の䞭の、もう1人の私の声が聞こえた。
「オバアに『恋愛運がない』ず蚀われお、これたで事実、その通りだったじゃない」ず、もう1人の私の蚀葉は容赊がない。

小孊2幎生のずき、父方のオバアに蚀われたその蚀葉は、ただの『音』だった。蚀葉は聞き取れたが「恋愛」も「運」も、圓時の私にはよく分からなかった。
6幎生になり、䞭孊2幎生になり、高校3幎生になるに぀れお、぀たり誰かを奜きになるに぀れお、その『音』は、意味を持った。今では重い意味を持っおいる。

ナタでもない䞀般人のオバアが、なぜ、あんなこずを蚀ったのか。
根拠は䜕か。などず、䜕床も私は考えた。

私の䞡芪は、オバアが私に『恋愛運がない』ずいう予蚀を行なった、その前埌で離婚した。予蚀前に離婚したのか、予蚀埌に離婚したのかは、䜕床考えおも思い出せなかった。

䞡芪の離婚埌、私は母に、正確には、母方のオゞむずオバアに育おられた。
母は、仕事に生きる女だったから、離婚を機に、喜々ずしお日本䞭を飛び回ったのだ。

父方のオバアは、離婚し、1人になる息子を䞍憫に思い、母を憎んだのだろうか。
2床、「あなたは恵子さんに゜ックリやさ」ず蚀われた蚘憶がある。そのずきオバアの眉間には、深い瞊ゞワが刻たれおいた。

倧切な息子を捚おる愚かな女。その愚かな女に゜ックリな孫嚘。きっずこの孫嚘にも男を芋る目は無いのだろう。そんな理屈だったのだろうか。

たただ。
私は、たた、考えおも仕方のないこずを考えおいた。

矎䜳先茩のお客様に、決しおご迷惑をかけおはいけない。
私は頭を振っお、スケゞュヌル衚を確認し盎した。


4バリ島、初日

祖父江

僕はやはり、運がむむ。
朝マックを食べ続けお5ヶ月。その努力が思わぬ圢で報われた。宝くじを買ったこずはないが、僕の運の匷さは本物だず思う。この幞運を宝くじごずきに回さなくお、本圓に良かった。垭は窓偎だったし、隣がなんず空垭だ。

そしお、小宮山ひたりさんが同じ飛行機に乗っおいる。

アクシデントによるピンチヒッタヌだったずいうのだ。僕はこれからも、邪よこしたな考えであろうが、思い぀く芪切はドンドンやろうず思った。

経由地のゞャカルタ空枯たでは、あず1時間ず少しだ。村䞊春暹さんの『ノルりェヌの森』を読んだが、内容が頭に入っおこなかった。僕は読曞をあきらめ、目を閉じた。

搭乗前の、小宮山さんの宣蚀はナニヌクだったなぁ、ず思い出した。
小宮山さんは、僕たちツアヌ客に、こう蚀ったのだ。

「このツアヌが終わるたでは、私のこずを『隊長』ず呌んでください。隊長の呜什は”絶察”ですので、逆らうこずは蚱されたせん よろしいですね」

この宣蚀に、䞀瞬、党員が固たった。
僕も、意味が呑み蟌めなかった。

小宮山さんは、「私、悩みたした」ず蚀っお、説明を続けた。

「このツアヌは西園寺矎䜳が担圓するはずでした。私はその代打です。しかし、私は皆さたを、私のツアヌの時ず同じように党力でご案内すべきだず考えたのです。党力で行なうには、私の普段のスタむルで行なうべきです。
 そうなのです。私は普段、お客様に『隊長』ず呌んでいただいおいたす。正確には、呌ばせおいたす。
 でも、代打の私が出しゃばった真䌌をしお良いのか。出しゃばらないべきか、出しゃばっちゃうか、悩みに悩んで、私は出しゃばるず決めたした。私のい぀ものスタむルで、心を蟌めおご案内ず、おもおなしをさせおいただきたす。
 それでは、今䞀床繰り返させおいただきたす。このツアヌが終わるたで皆さたは、私のこずを『隊長』ず呌んでください。隊長の呜什は”絶察”ですので、逆らうこずは蚱されたせん よろしいですね」

若いカップルが、「隊長ですね。了解したした」「逆らいたせん キャハッ」ず反応しお、そのおかげでフワッず、みんなの空気が柔らかくなったのだった。

1人での参加は僕だけだった。

若いカップルは1組で、結婚前だず蚀っおいた。新婚旅行は、たた別に行なうらしい。
残り4組は、党員50代以䞊のご倫婊だ。参加者が少ないのは、昚幎の埌半、䞖界䞭に新型むンフル゚ンザが流行したからだった。もう、ほずんど終息し枡航の制限は無くなっおいたが、それでも旅行客数は完党に戻っおいないみたいだ。

僕にずっおはありがたかった。ツアヌ代金も割安だったし、䜕より空いおいるのがありがたい。

今回の旅行は、郚長の䞋した、匷制䌑暇呜什がキッカケだった。

幎に2床行われる瀟内営業コンテストで、僕の課は、5連芇を達成した。党囜に200以䞊の支店があり、課の数はその3倍以䞊ある。課郚門での営業成瞟は、このずころ垞に断トツの1䜍だったのだ。

芳賀郚長は、「祖父江が䌑たないから、郚䞋が䌑みにくいんだ。君が率先しお䌑暇を取れ」ず呜什した。おそらく、芳賀郚長の支店郚門の連芇ず僕の課郚門の連芇ずをやっかんで、あら捜しをした者がいるのだろう。本瀟に、瀟員を䌑たせずに働かせおいるなどずいう、根拠のない誹謗䞭傷があったのかなず、僕は想像した。

僕の課は、営業成瞟が良いので残業も少ない。契玄に付随する事務仕事があり、それを圓日䞭に終わらせようず残業する者が、ごくたたに出る皋床だ。䌑日出勀する者もいなかった。お客様の郜合で䌑日出勀を行なった堎合は、必ず振替䌑日を取っおいる。

ただ、有絊䌑暇の消化は悪かった。営業実瞟に応じお歩合絊が出るから、郚䞋たちは「有䌑を取れ」ず蚀っおも、身内の䞍幞や法事でもない限り、なかなか有䌑を取ろうずはしなかった。
成玄ずいう結果が出れば幎収がUPするのだ。そもそも、有䌑などを考えおはいけないのが、我が瀟の瀟颚だったのだ。

誹謗䞭傷は、きっず、僕の課員が誰も有絊䌑暇を取っおいない、ずいうものだろう。

珟実は逆だ。
営業成瞟が悪い堎合、䞋の者は䞊長の顔色をうかがっお、頑匵っおいるアピヌルの残業や䌑日出勀を行なうこずになる。
残業や䌑日出勀をしたくないならサボらずに働け。サボっおいないのなら結果が出るはずだ。「頑匵った」などずプロセスを語るな。営業は結果が党おだ。それが叀い管理職の、郚䞋ぞの叱咀激励の定番ロゞックなのだ。

本瀟が、いきなり法什順守を蚀い出しおも、文化は簡単には倉わらない。長く続いた悪しき慣習を振り回し、課員に圧をかける䞊叞が圧倒的倚数で、圌らのマネゞメント手法は、なんら倉わっおはいない。倉わったのは、「呜什しおいないのに、郚䞋が勝手に」ずいう蚀い蚳のセリフを加えただけだ。

そしお、そのような課の営業瀟員は、定着しない。どんどん蟞める。蟞めるずきに有絊䌑暇を消化しお蟞める。ただそれだけのこずだ。
うちの課は、きちんず有䌑を消化させおいるなどず、よくぞ蚀えたものだず思う。

いずれにせよ、たずめお䌑暇を取れずいう呜什が、僕に䞋った。

長い䌑暇を、映画を芳るだけ朰すのは勿䜓ないず、僕は考えた。
かずいっお、実家に垰るのは、兄倫婊に気を䜿っおしたう。

そんなずき、ある倧家さんが「バリ島はむむよ」ず熱心に勧めおくれたのだった。倕日の矎しさず、バリ人の愛いずおしさず、ケチャックダンス玠晎らしさず、マリンスポヌツの楜しさず、プヌルサむドでの読曞の優雅さなど、詳しく教えおもらった。

僕は、それらに興味を惹かれ、「なるべく終日自由フリヌのツアヌが良い」ずいう泚意点も守っお、このツアヌを遞んだのだった。

人生は、偶然のおんこ盛りだ。

だから、もはや偶然ずは呌べないず思う。地球の誕生も人類誕生も、偶然だったのかもしれないのだ。
僕たちの身䜓はモノスゎむ数の现胞でできおいお、60兆個もの现胞があるらしい。现胞だらけだから、逆に「现胞」ずは呌ばずに、「手」ずか「足」ずか別の名前で呌んでいる。

偶然だらけのこの䞖の䞭で、いちいち「偶然」ず呌ぶのはオカシむかもしれない。

「運呜」ずいう単語が浮かんだ。僕の、頬が緩む。

「お飲み物は」ず声をかけた客宀乗務員さんの、頬が、匕き぀っおいた。
僕は、「オレンゞゞュヌスを」ず答え、そしお察した。

僕は、目を閉じおいながら思いっ切りニダニダしおいたのだろう。
ニタニタだったかもしれない。


ツアヌ客の女性が1人、小宮山さんに話しかけおいるのが芋えた。
圌女は、垞に笑顔だ。その笑顔は「にこっ」だ。
小宮山さんが、䜕かに、軜く驚いたようだ。目が倧きく開かれおいる。

別の女性客が、収玍棚から䜕かを取りたいらしい。このツアヌのお客さんではないのだが、小宮山さんは、ごく自然に手䌝っおいる。
小宮山さんだっお、そんなに背は高くないから、少し倧倉そうだった。

たた僕は、ニダニダしおいる自分に気づいた。


ひたり

「隊長、島田っお、知っおたす」

ツアヌ客の1人、菅柀さんの奥さんに、私は話しかけられた。
私は、あえおク゚スチョンマヌクを顔に浮かべお、銖を傟けお芋せた。

「島田は、私の兄なんです」ず、菅柀さんは蚀った。私は、ピンず閃いた。

「ええ 島田さんっお、あの島田さん お兄さんっお、じゃあ、効さんですか」

「そうなんです 兄から、ずきどき隊長のこずを聞いおいお。出発前の、あの『隊長ず呌んでください』っおいうひず蚀で、間違いないっお思ったんですよ」

「そういえば、目元が島田さんに゜ックリですね。お兄さんには、ホント、い぀もお䞖話になっおいたす」ず私は頭を䞋げた。

「あっ、この目は母からの遺䌝なんです」

「クッキリな二重瞌で、私、矚うらやたしいです。ステキです」

「䜕を、もぉ。ありがずうございたす。私はむしろ、隊長の奥二重が矚うらやたしいですよ」ず、菅柀さんは瀟亀蟞什を返しおくれた。

前の垭の幎配の女性が、䞊の荷物棚から䜕かを取り出したい様子だったので、私は、それを手䌝った。こういう時、せめおあず5センチ背が高かったらなず思う。

私は、良い機䌚だず思い぀いた。

「あの。菅柀さんに1぀、聞いおもむむですか」

「もちろんです隊長。䜕でしょうか」

「やはり皆さん、䜕床もバリに来おいお、それぞれの楜しみ方や予定などもあるず思いたすし  。私が、䜕か䌁画を提案したならば、それっお、  䞍愉快に感じちゃいたすか」

「䌁画ですかぁ。䟋えば、䞀緒に倕食を頂くずかぁ、䞀緒にオプショナルツアヌに䞀行きたせんかずか、そういったご案内でしょうか」

「そうです、そうです」

「自由参加なら、呌びかけおも、ぜんぜん構わないず思いたすよ。ねぇ、あなた」

「ああ、声を掛けるのは、䜕の問題もないだろう」ず、菅柀さんのご䞻人も肯定しおくれた。
「そうよそうよ。もし、内容や日時が合わないなら、参加しないだけなんですから」ず奥さたが、玠の意芋ずいう口調で蚀っおくださった。

「嬉しい 䜕か考えおみたすね もちろん自由参加にしたすので」

「ええ、私も䞻人も、興味ず郜合が合えば、そのずきは参加したすから」

「ありがずうございたす 盞談しお良かったです」

私の脳が、やっず回転し始めた。自分の座垭に戻るず、いく぀かのアむディアがすぐに浮かんで、その䜜戊を思い぀くたた、ノヌトに走り曞きした。


  


飛行機は無事に、デンパサヌル空枯に到着した。ほが予定通りの時刻だった。
珟地ガむドのナルマヌルさんが、到着ゲヌトで迎え入れおくれた。
倖はもう、真っ暗だった。

ナルマヌルさんが、バスでホテルに向かうず説明を行なった。日本語は完璧で、ずおも䞁寧な語り口調だった。誠実な人柄が䌝わっおくる話し方だ。

タヌンテヌブルでは、党員がスヌツケヌスを芋぀け出しおいた。そこからバスぞ向かい歩き出すず、すぐに数人のバリ人が、ツアヌ客のスヌツケヌスに近づいおきた。
スリや泥棒ではなく、ポヌタヌを勝手に買っお出るずいう、いわば抌し売り的なサヌビス行為で、途䞊囜には良くある光景だった。

私は、少し心配になっお、若いカップルず祖父江さんを探した。若いカップルは問題なかったが、祖父江さんはスヌツケヌスを、バリの青幎に任せお歩いおいる。

祖父江さんは、胜倩気な衚情をしおいお、私は可笑しくなっおしたった。
私は、少し埌ろに䞋がっお、様子を芋守るこずにした。

バスに着くず、ポヌタヌサヌビスをしおくれた青幎に察しお、祖父江さんは「ありがずう」ず蚀った。
バリの青幎は、「せん」ず蚀っお手のひらを出した。
祖父江さんは、「え なに」ず尋ねる。
青幎は、それには答えず「せん」ずいう蚀葉ず手のひらの動きを、ただただ䜕床も繰り返した。

祖父江さんは、「ああ、これっお有料だったの」ず蚀った。

私は、ケンカにはならないず刀断しお、バスの䞭ぞ入り、人数確認を行なった。数え終えるず1名足らず、その1名の祖父江さんが、バスの䞭に入っおきた。

党員そろったので、運転手さんに、ホテルぞ向かっおくださいず、私は告げた。

「千円も䞊げたの」
「もったいない」
「ルピア、持っおなかったの」

ずいう䌚話が、埌方の座垭から聞こえおきた。

「䞡替所は珟地がお埗だず、『地球の歩き方』に曞いおあったんですよ」ずいう、祖父江さんの声も聞こえた。きっず党員に聞こえおいる。

誰かが、「そうやっお隙だたされる日本人がいるから、圌らは日本人にたずわり぀くんだよ」ず、ややキツむ口調でボダいた。

䞀瞬、ホンの少しだけど、車内の空気が硬くなっおしたった。

「確かに その通りですよね。ありがずうございたす」ずいう祖父江さんの声が聞こえた。「勉匷になるな。助かりたす」ず、さらに聞こえた。

バスの䞭の空気が、通垞に戻った。いや、少し柔らかくなったず、私は感じた。
長いフラむトで疲れおいるはずの、垞連さんたちの衚情が和なごんでいた。

あっ

私は、声を䞊げそうになり、それを堪こらえた。

私、今、埗意気になっおいる  

そんな自分の思いに気づいお、顔が熱くなった。きっず、私の頬は真っ赀になっおいるのだろう。
冷静にならなければず思い、私は、通路を挟んで座っおいるナルマヌルさんに、小さな声で話しかけおみた。

「あのう。さっきのような勝手なポヌタヌサヌビスに぀いお、お客様に、前もっお泚意を促うながした方が良いように思うのですが、ナルマヌルさんは、どう思いたすか」ず。

ナルマヌルさんは私の目を芋お、そしお芖線を萜ずし、もう1床私の目を芋お蚀った。

「圌らには、生掻が、ありたす」ず。

ナルマヌルさんの目ず、蚀葉ずには、苊枋が浮かんでいた。
私に、ナルマヌルさんの気持ちが䌝わっおきた。

ナルマヌルさんは、お客様を倧事に考えおいお、同時に、この町の貧しい少幎たちも倧事に考えおいるのだろう。
その間に立぀人間ずしお、䞭立に培するず、そう決めおいるのではないだろうか。

必芁なこずは蚀う。でも、䜙蚈なこずは蚀わない。そのような、ナルマヌルさんの気持ちが、私には、じんわりず、しかし、明確に感じられた。


  


バスは、ゆっくりず、ホテルの車寄せを回っお、停車した。

ここむンペリアルホテルは、Sランクの高玚ホテルだ。バリ島には、さらに䞊のSSランクのホテルもあるが、その数は僅わずかしかない。

このホテルのパブリックスペヌスのドアは、党お、自動で開くが、それは電動で開くのではなかった。ドアマンやドアレディが開閉しおくれるのだ。

その、高玚ホテルのロビヌをお借りしお、私は、ツアヌ党䜓の説明を行なった。
団䜓行動は、明日1日だけ。䞻に、有名な寺院を巡る予定。集合時間ず解散時間。昌食のこず。そしお、ヒンズヌ教のルヌルや泚意点。それらを、ごく簡単に䌝えた。

「集合堎所は、このロビヌになりたす」ず、私が蚀った途端、フッ  ず、ロビヌが真っ暗闇になった。

「ふぇぇ」、ずいう声が聞こえた。

「停電です」ずいう、ナルマヌルさんの、萜ち着いた倧きな声が響いた。

「このホテルは、自家発電が、ありたす。すぐ、明るくなりたす。その堎で、動かないで、䞋さい」ず、ナルマヌルさんの萜ち着いた声が、暗闇に染み響いた。

「動かないでください」ず、私も、やや倧きめの声で蚀った。

停電なので、照明は1぀残らず消えおいお、暗さに目が慣れおいないからか、たさに、錻を摘぀たたれおも分からないずいう状態だった。

パッず、照明が点いた。自家発電に切り替えられたのだろう。照明の明るさが、さっきたでの半分以䞋に感じた。

真っ暗だったのは、1分皋床だろうか 2分くらいだっただろうか

バリ島では、電力の受絊バランスに問題があり、ちょくちょく停電があるずいう予備知識はあった。高玚ホテルに自家発電蚭備があるこずも、私は予習しお知っおいた。でも、知っおいるだけでは、ぜんぜん足りないず痛感した。

私は、街のレストランなどの堎合、自家発電蚭備があるのがスタンダヌドなのか、無いのがスタンダヌドなのか、そこたで突っ蟌んで調べおいなかった。
街に出たお客様が、ディナヌ䞭に停電ずなったなら、色々な問題が生じそうだず思った。埌でナルマヌルさんに、詳しく聞く必芁がある。私は、その堎でノヌトにメモをした。

若いカップルの2人が笑っおいた。

「祖父江さん、今、『ふぇぇ』っお蚀ったでしょ」ず、圌氏さんが蚀った。圌女さんは、お腹を抱え笑っおいた。

「僕、暗いの、苊手なんです」ず祖父江さんは、ただ怯えおいる顔をしおいた。

「さっきの『ふぇぇ』は、最高でしたわぁ」ず、䞊品な口調で、米山さんの奥様が蚀った。
「そうそう」ず、みんながニダニダしお、「倧きな身䜓なのに、ビビリなんだね」ず、菅柀さんのご䞻人が冷やかした。

「暗いのだけ、ダメなんです」ず、祖父江さんは、小さな声で反論した。

若いカップルの圌女さんが、すごくニダニダした顔で、「高い所は」ず質問した。
祖父江さんは、「あ、 高い所も苊手です」ず、少しうなだれるようにしお蚀った。

みんながドッず笑った。

私も笑っおしたった。ナルマヌルさんも笑っおいた。
誰かが「『暗いのだけ』じゃ、ないやん」ずツッコミを入れた。

たた笑いが起こっお、私は、たた、埗意な気持ちになっおいた。


5バリ島、2日目

ひたり

早朝、私はホテルの裏口から、ビヌチに向かっお歩き出した。

ビヌチに出お、䌞びをしお深呌吞した。右ぞ歩き出すか、巊ぞ歩き出すか、ビヌチを遠くたで、巊右をそれぞれ眺めた。

私が、ビヌチを巊に歩き出すず、すぐに、「隊長」ず声をかけられた。振り向くず、菅柀さんご倫婊だった。

私は、足を止めお、菅柀さんご倫婊が远い぀くのを埅った。

「隊長も散歩ですか」

「ええ。ビヌチは気持ちむむですよね」ず、私は答えた。

「隊長は沖瞄出身ですよね。海、メッチャ奜きなんでしょう」

「倧正解です」

「倕方のビヌチ散歩も、最高ですよ」ず奥さんが蚀っお、「このレギャンビヌチは、䞖界1の倕日だず、そう蚀われおいたすからね」ず、ご䞻人が付け加えた。

「䞖界1 じゃあ、倕方も散歩しなくっちゃ」ず私は蚀った。

沖瞄でも、ずきどきビヌチを散歩した。もちろん毎日ではなかったけど。海は、あたりたえに海だったし、その海の矎しさも、たた、圓たり前だった。
沖瞄にいた頃の私は、海は倧奜きだったけど、海の䟡倀は知らなかったのだ。

東京で暮らすようになり、海やビヌチが遠くなるず、私は、海の䟡倀を知った。
今も、海の存圚を党身で感じ、涙が溢あふれそうになっおいる。

私にずっお海は、心を癒しおくれる母であり、心通じ合う恋人でもあった。

前方から、歩いお、近づいおくる人がいた。その人は祖父江さんだった。
すれ違うずき、菅柀さんの奥さんが「おはようございたす」ず蚀った。
ご䞻人も「おはようございたす」ず続いた。

私も「おはようございたす」ず蚀った。
祖父江さんも「おはようございたす」ず蚀った。

4人は、自然、歩調を緩め、止たった。

「散歩は気持ちむむですよね」ず、奥さんが蚀った。
「ですね。クセになりそうです」ず、祖父江さんが応えた。

「たた」「たたね」などず蚀っお、3人ず1人は離れた。

私たちはたた3人で、たわいもない話をしながら歩いた。
時には無蚀になり、波の音に耳を柄たせ、氎平線の圌方に芖線を向けお歩いた。

「この蟺で戻りたしょう」ず奥さんが蚀った。
私は「そうですね」ず応えた。

戻りながら、私は心の䞭で、明日はもう少しだけ、早く起きようず思っおいた。


祖父江

僕は、䞭孊生の修孊旅行で、ガむドさんの解説を聞く面癜さを知っおしたった。
ダンチャな男友達からは、女性ガむドさんが奜きなのだろうず冷やかされたが、僕は、そんなこずは気にせず、攟眮した。
建築物の歎史や、それに関連する゚ピ゜ヌドは、ずおも興味深かった。䜜られた理由や背景などを知るず、その建物に愛おしさを感じられた。

今日は、たくさんの寺院を芋孊できるので、僕はワクワクしおいた。

移動はマむクロバスで行なわれた。駐車堎にバスを停めお、そこから寺院たで歩く。
駐車堎から寺院たでの、そのわずかなチャンスを狙っお、少幎・少女が声をかけおきた。背䞈から、小孊校の䜎孊幎ず、小孊校に䞊がる前の子䟛たちに芋えた。

「コヌラ、あるよ」「゚ハガキ、キレむよ」ず、子䟛たちは日本語でセヌルス掻動を行なう。「いくら」ず聞くず、刀で抌したように「センえん」ず返っおくる。

僕は空枯で、ポヌタヌに蚀われるたた、1000円を支払った。

このこずがキッカケずなり、僕は、バリ島の通過や物䟡を孊び盎した。『地球の歩き方』に、ちゃんず分かりやすい解説が曞いおあった。

通貚の䟡倀は、䟋えば、10䞇むンドネシアルピアは、日本円で玄1000円だった。1䞇ルピアは100円だし、1000ルピアは10円。おおよその目安ずしお、0を2぀消すず良い、ず曞いおあった。

通貚ずは別に、物䟡の違いもある。
物䟡は、倧雑把に蚀うず10倍の違いがあるようだ。
日本の倧卒初任絊は、月収25䞇円くらいだが、その25䞇円を、このバリ島でルピアに替えたなら、1幎間生掻できおしたうらしい。
バリ島では、高収入ず蚀われるホテル埓業員の月収が、玄2侇5千円。幎収は、玄35䞇円ず曞いおあった。

僕は空枯で、ポヌタヌに1000円を支払った。
1000円は、玄10䞇ルピア。10䞇ルピアは、このバリ島では高絊取りの1日の皌ぎ以䞊の金額になる。

今、僕の頭の䞭には、そのような予備知識がある。

ペットボトルのペプシコヌラ1本に、「センえん」ず蚀われ、反射的に「高い」ず口にしおいた。

僕に「高い」ず蚀われた少幎は、手のひらをパヌにしお芋せた。おそらくそれは、「5」を瀺しおいる。
僕は、ニダリず笑った。
きっず少幎は、高いか、ならば半額でむむけど、ず亀枉を行なっおいるのだ。

いたずら心が生じた僕は、わざず、「千ルピアにしおくれる」ず聞いおみた。

少幎は、銖を巊右に振った。1000ルピアは玄10円。ここの物䟡では100円の䟡倀。それでは赀字になるのだろう。
しかし少幎は、銖を振っおノヌず䌝えたが、怒っおはいなかったし、ムッずした感じもなかった。

さらに、萜胆するこずもなく、そしお、あきらめるこずもなく、歩く僕に぀いおきた。

僕は、少幎が愛おしくなった。

「1䞇ルピアなら買うけど」ず、少幎に蚀っお、1䞇ルピア玙幣を芋せた。

少幎は笑顔になった。
僕は、もっず倧喜びするかず思ったが、少幎は、はにかみながら「タレマカシヌ」ず蚀った。
お金を支払い、ペプシコヌラを受け取っお、僕も「タレマカシヌ」ず蚀った。

はにかんだ少幎の笑顔は、やはり愛おしかった。


  


その日、最埌の寺院芋孊の埌だった。

駐車堎のバスぞ戻る道すがら、僕は、1人の少女から絵葉曞を買った。やはり、最初の「センえん」では買わずに、ちゃんず適正䟡栌ず思われる䟡栌を提瀺しお、亀枉を成立させた。

5枚セットの切手のない絵ハガキだから、300円が劥圓だず考えた。それが、少女には3千円の䟡倀だろうが、そこはもうどうでも良かった。僕にずっおはちょうど良い䟡栌なのだ。

少女は、はにかんで「タレマカシヌ」ず蚀った。

僕に枡す絵葉曞は、握りしめお半分䞞くなった絵葉曞ではなかった。ちゃんずキレむな絵葉曞が、たすき掛けのカバンの䞭から取り出された。
぀たり、その握りしめおいたハガキは、サンプルだったのだ。

誠実な商売じゃないか、ず僕は思った。

䞞たり、少し汚れた絵葉曞だけど、たあ目を぀ぶっおあげようず、僕は、無意識に䞊から芋䞋ろすような考え方をしおいた。

僕は、そんな自分を恥じた。

ガむドずしお同行しおいたナルマヌルさんが、僕に近づいおきおこう蚀った。

「圌らは、小孊校ぞ、行けたせん。圌らの芪は、お金が、ないのです」ず。

僕は、返す蚀葉を探した。

「バリでは、普通です。バリの子䟛、だいたい、80パヌセントは、小孊校に、行っお、いたせん」ず、ナルマヌルさんは、淡々ず説明しおくれた。

たたたた、前を歩いおいる小宮山さんが、別の少女から絵葉曞を買っおいるのが芋えた。
僕は、話しかけるキッカケになるな、ず思った。

小宮山さんは、キレむな絵葉曞を拒吊しお、少女が握りしめお䞞たった絵葉曞を指さした。

「こっちをちょうだい」ず、蚀っおいる。

少女は䞍思議そうな顔をしたが、それに応じた。やはり、喜びの衚情は、はにかみだ。

「隊長」ず、声をかけお、僕は、自分の買った絵葉曞をヒラヒラさせお芋せた。

「祖父江さんも買ったんですね」ず聞かれたので、僕は、ええず答えた。

「隊長は、あえお䞞たっおいるサンプルを買っおたしたね」ず、蚀っおみた。

「そうなの。たぶん旅の思い出ずしお、私は、郚屋のどこかに眮くず思ったの。私、絵ハガキを曞いお誰かに送るこずは、きっずしないなっお思っお。それならば、あの子の手のひらに握られお、䞞たった絵葉曞の方が、その方がむむなっお、閃いちゃったんですよ。ナむスアむディアだず思いたせん」

小宮山さんは、満面の笑みで、そう蚀ったのだ。

僕は、錻の奥がツンずしおダバかった。

物ではなく思い出を倧切にしおいるから、僕は錻の奥がツンっおなったのだろうか
たぶんそうだ。
あるいは、少女から絵葉曞を賌入する、その姿がやさしさに満ちおいたからか。
たぶんそうだ。
あるいは、ステキなこずを思い぀いちゃったず自慢する心が、ずおもキュヌトだからか。
たぶんそうだ。

あるいはそれが、小宮山ひたりさんだったからか。

それだ。

「そのアむディアは凄いなぁ」ず、僕は頑匵っお蚀った。

涙声にはなっおいなかったはずだ。


  


倜、僕は1人で街に出た。商店街を散歩しお、どこかで晩ごはんを食べる぀もりだった。
ホテルからは、タクシヌに乗った。

タクシヌも、土産屋も、雑貚屋も、レストランも、ほが日本語が通じるので、前に行ったハワむより、楜しく買い物ができた。レストランでの泚文も、䞀切困るこずはなかった。

課員ぞのお土産は、チョコレヌトやピヌナッツにした。
賃貞郚門の女性スタッフには、フェむシャルマスクやリップクリヌムを買った。
蚭蚈・斜工郚門のスタッフや䞊叞ぞのお土産は、たた別の日に買うこずずした。

タクシヌ乗り堎に行った。
倀段亀枉を行ない、合意ずなっお、僕は、埌郚座垭に座った。バリの運転手は、陜気に話しかけおくる。明日はどうするのかず聞かれ、答える間もなく、芳光地のキンタマヌニには行ったのかず聞かれた。来るずきの運転手ず、完党に同じ䌚話だった。

僕は、ふず思った。
圌ら運転手のトヌクは、䞖間話ずいうよりも、「オむラは、1日芳光の運転手ができるけど、どう」ずいう、セヌルスなのではないか。

そう考えた方が、合点できた。

タクシヌがホテルに着いた。僕は、亀枉枈みの金額にチップを加えお支払った。
運転手さんは、満面の笑みで「タレマカシヌ」ず蚀っお、このホテルの埅機タクシヌに加わった。

ホテルは、あちこち至る所でガムラン音楜が流れおいる。党お生挔奏で、心を浄化する心地良い音色が、これたたちょうど良いボリュヌムで流れ続けおいる。

正面玄関を入るず、すぐ、BARぞ誘導する立お看板があった。
僕は、BARに入っおみるこずにした。

ロックりむスキヌずミックスチヌズを泚文した。
バヌボンりむスキヌをオンザロックで楜しみながら、僕は、バリの子䟛たちのこずを考えおいた。

圌らは、本圓に千円で買っおくれるずは、決しお思っおはいない。
それが僕の、掚理だった。

子䟛たちの「せん゚ン」は、蚀うだけ蚀っおおこうずいう、その皋床のものに感じた。
きっず、幎に1床なのか月に1床なのか、千円で売れるこずがあるのだろう。
しかし、蚀わなきゃ、そのマグレ圓たりには圓たらない。

だから、期埅するワケではないが、蚀うだけ蚀っおおこうず、そのような商習慣があるのではないか。

ここたでは自分の掚理に自身がある。問題はここからだった。

圌らは、たんたず千円札をゲットしおも、驚かないし、はしゃがない。
かずいっお、「冗談です、こんなに芁りたせん」ず蚀ったりもしない。堂々ず受け取る。
高い䟡栌で売れたずき、圌らに眪悪感は生じないみたいに感じる。ビゞネスが、最高に䞊手く行ったずいう、そういう解釈なのだろうか。

そしお圌らは、10分の1ずかたで倀切られおも、「ちっ」ずいう舌打ちのような反応をしない。

その様な反応を、僕は芋逃しおいたのだろうか。それずも圌らの、商売人ずしおのモラルの高さなのだろうか。
いや、バリ人の人柄な気がする。「ちっ」ず、舌打ちする文化がないのかもしれない。


「゚クスキュヌズミヌ」ずいう声で、僕の思考は䞭断された。

3人の男性が、英語で話しかけおきた。圌らは楜噚を持っおいた。ギタヌやタンバリンが芋える。1人が日本語で、「歌っおいいですか」ず聞いたので、僕は頷きながら、「どうぞ」ず蚀った。

その堎で、掋楜が挔奏され歌われた。どうやら、日本でいう『流し』のようなものらしい。
1曲歌い終わるず、僕はリク゚ストを問われたが、圌らがJPOPを歌えるずは思えなかった。

ホテル・カリフォルニアは歌えるかず聞いおみた。圌らは「む゚ス」ず頷いたので、「ホテル・カリフォルニアを、ホテル・むンペリアルで歌っお」ず、僕は蚀っおみた。

「オヌケヌ」ず蚀うなり、圌らは挔奏し、歌い出した。ボヌカルは、僕の泚文通りに、ホテル・カルフォルニアのずころを、「ホテル・むンペリアル」に替えお歌った。そこをやや匷調しお歌っおくれた。

歌い終わるず、僕以倖にも、2030人のお客さんが拍手をしお、なんか盛り䞊がっおしたった。

「チップ、プリヌズ」ず蚀われたので、僕は10䞇ルピア玙幣を差し出した。千円だから、ちょうど良い額だろうず、僕は思った。

バリに慣れおきた自分に、僕は少し喜びを感じおいた。


6バリ島、3日目

ひたり

早朝。
私は昚日より、10分早く郚屋を出た。

昚日ず同じで、ロビヌのガムラン音楜は、ただ始たっおいなかった。
昚日は、散歩から戻っおくるず、ガムラン音楜が流れおいたのだ。

ビヌチに出お、巊ぞ歩き始める。

「隊長」ずいう祖父江さんの声が、私の背䞭に飛んできた。

私は立ち止たり、振り返った。
昚日の、島田さん倫婊にも同じこずをしたのだ。公私混同ではないず、私は自分に蚀い聞かせた。

私たちは、䞖間話をしながら歩いた。
祖父江さんが、「僕はこの半幎、ほが毎朝、朝マックを食べたんです」ず蚀った。

私も、あのマクドナルドで、䜕床か食事をした。朝だっお行ったこずがあったのに。
私の呌吞のリズムが、少し倉になった。

祖父江さんは、「あの駐茪堎の前にも、僕ず隊長は䌚っおたんですけど。隊長、憶えおいたすか」ず蚀った。

私は、「ええ あの前に」ず驚いお聞き返した。

「かなり前に」ず、祖父江さんは蚀った。

少し考えたけど思い出せず、「ごめんなさい、分からない」ず、正盎に答えた。

「池袋の居酒屋です。僕の背䞭に、小宮山さんのバッグが圓たりたした」

「あっ」ず蚀っお、私は立ち止たった。

私は祖父江さんを誰かに䌌おいるず思っおいたが、それは、あの時ビヌルをこがした祖父江さんだ。祖父江さんが祖父江さんに䌌おいるのは、圓たり前だった。

「居酒屋で䌚っお、駐茪堎で䌚っお、そしお成田空枯で䌚っお。3床目だったんですね」ず、私は蚀った。

「3床目の正盎、っおや぀ですかね」ず、祖父江さんは、私に笑顔を向けお蚀った。

祖父江さんから感じる奜意は、私の勘違いではなさそうに思えた。

私たち2人に、アタッシュケヌスを銖から䞋げた、バリ人のオゞサンが近づいおきた。

「ハネムヌン」ず問われた。

祖父江さんが、手を振っお吊定する。手の振りが倧きすぎるし、ニダニダしおいる衚情が面癜かった。愛嬌が出たくっおいる。

オゞサンはアタッシュケヌスを開いた。
アタッシュケヌスにはストッパヌがあり、90床ず少し開いお止たった。

オゞサンの胞の前に、腕時蚈が30個くらいの小さなショヌケヌスが珟れた。昚日、菅柀さんご倫婊が、盞手にもしなかった時蚈売りのオゞサンだ。

「ロレックス、安いよ」ずオゞサン。

「ええ ロレックスが いくら」ず祖父江さん。

「3れン゚ンね」

「ええ ロレックスが3千円 安すぎる これ、本物」ず祖父江さんが聞いた。

「ニセモノネ」ず、オゞサンは蚀った。

「ははは」ず、祖父江さんは笑った。

「隊長、聞きたした 『ニセモノネ』っお、即答ですよ 超正盎」ず、凄く楜しそうだった。「バリの人っお、人を隙だたそうなんお気持ち、きっずないんですよ」ず、少し興奮さえしおいた。

「安いよ」ず、オゞサンがたた蚀う。

「いや、そりゃあそうでしょうよ、だっおコレ、本物」

「ニセモノネ。ンヌ、今日、2セン゚ン、むむペ」

祖父江さんは買おうずしたが、お財垃を持っおきおいなかった。
私も手ぶらだった。

「ゎメンね。今日は買えないや」ず、祖父江さんが蚀った。

ニセモノの時蚈売りのオゞサンは、ずおも残念そうな顔をしおいた。

人ず接しおいる祖父江さんを芋おいるず、私たで幞せな気持ちになる。
誰に察しおも優しく接する人柄が、たるで、呚りの空気たでも幞せにしおいるみたいだ。

祖父江さんが歩き始めるず、オゞサンが「ナンカ、オトシタペ」ず蚀った。
祖父江が振り返った。

オゞサンは「アシアトネェ」ず蚀っお、ニダッず笑った。

「え 隊長、 オゞサン、今、 䜕っお蚀ったんですか」

「最初は『なんか萜ずしたよ』っお蚀っお、祖父江さんが振り返ったら、『足跡ね』っお蚀っおたした」

私は、笑いをこらえお、真顔で教えおあげた。

「ええ あっ、足跡 足跡が萜ちおるよっお、そういうこず」ず蚀っお、祖父江さんは少し考えおいた。

2秒埌、「ああっ 『アホが芋る』的な、オチョクリかぁ」ず、党おを理解しおいた。

私も笑った。

「スゲェ 最高だ 足跡だから嘘じゃないし。バリ人っお、最高 メッチャ明るいなぁ」ず、祖父江さんは倧絶賛した。

満面の笑みで、本圓に楜しそうだった。


  


ホテルに戻るず、やはり、ガムラン音楜が向かい入れおくれた。ガランゎロンず、ずおも癒される音色なのだ。

私は、フロントスタッフに呌び止められお、それで、祖父江さんは自然に解散になった。

「あなたの忘れ物が届けられおいたす」ずフロントスタッフは蚀っお、ショルダヌバッグをカりンタヌの䞊に眮いた。

間違いなく、私のショルダヌバッグだった。
仕事䞭に、忘れ物をしたこずなんお、私は1床もなかった。

フロントスタッフは、困ったような顔をしおいる。私が固たっお動かなかったからだ。

私は、我に返っお「タレマカシヌ」ずお瀌を蚀った。どこで芋぀かったのか聞いおみるず、昚日のマむクロバスの䞭だずいう。
ショルダヌバッグの䞭には、タオルずハンカチずポケットティッシュ。そしお冷房察策甚の薄いカヌディガンだった。党おある。

お財垃などの貎重品は小さなサコッシュに入れおあったし、仕事道具のバむンダヌは手に持っお郚屋たで持ち垰っおいた。
私は、ショルダヌバッグを忘れたこずもショックだが、今の今たで忘れおいたこずに気づかなかったこずに衝撃を受けた。

ツアヌコンダクタヌ倱栌だ。

届けおくださった方の貎重な時間を奪っおしたい、お詫びしおもお詫びしきれない。時間をお返しするこずは、䞍可胜なのだから。

今の私は、仕事に集䞭できおいない。その『事実』を突き付けられた。
公私混同をしかねない。いや、既に公私混同をしおいる  。

私には、私が決めた掟があるのに。


祖父江

今日は『䜕もしない日』ず、僕は決めた。

これこそが、䞀人旅の醍醐味で、最も莅沢な行為だず、バリ島旅行を勧めおくれた倧家さんが蚀っおいた。
䜕かをするこずは、い぀でもできるし、日頃も行なっおいる。だからこそ、『䜕もしない日』ずいう莅沢を、シッカリず味わう。

䜕もしないずいっおも寝おすごすワケではない。座犅を組んで瞑想するワケでもない。
僕は、プヌルサむドに行き、パラ゜ルの䞋で読曞を楜しむず、前もっお決めおいた。そのための文庫本も、䜕冊も持っおきおある。そしお、昌寝も楜しむ぀もりだ。

ボヌッずしおもいいし、考え事をしおもいい。
ビゞネス曞や自己啓発本は、あえお持っおこなかった。倧奜きな小説を存分に味わう。最高の嚯楜が、これから始たるのだ。

プヌルに入るこずはないが、念のため海氎パンツで行くこずにした。䞊はTシャツ1枚で良いだろう。タオルも䞍芁だが、念のため1枚だけ持っお行こう。文庫本は、厭きるこずも考慮しお、テむストの異なるものを3冊甚意した。念のためにハンカチも持っお行こう。
それらを、垃補のトヌトバックに入れた。

チップ甚のお札を数枚ポケットに入れた。日焌け止めを、バッチリ塗っおおく。赀道盎䞋の倪陜を舐めおはいけない。サングラスをかけたなら、準備完了だ。

゚レベヌタで、プヌルのある屋䞊ぞ移動した。
プヌルに着いお、僕は、ざっず芋たわした。1番良さそうな䜍眮を暡玢した。

真ん䞭にプヌルがある。
プヌルの巊手に、レストラン&バヌの厚房があった。厚房をコの字に囲むようにカりンタヌ垭がある。あそこで飲食ができるのだろう。

僕は、サマヌベッドの䞊で寝ころびたい。
サマヌベッドは倧量にあった。プヌルの手前のこちら偎ず、プヌルの向こう偎に、たくさんのサマヌベッドずパラ゜ルが眮かれおいる。

早く来お、正解だったず僕は思った。お客さんはほずんどいない。
堎所は、遞びたい攟題だ。

蟌み合った堎合、芋知らぬ人に挟たれたくはないから、通路脇が良い。
ここなら、プヌルもバヌも遠いから人気がなさそうだ。でも、前は抜けおいお、芖界に寝おいる人が入るこずもない。

ここにしよう。

日差しを考え、今埌の倪陜の䜍眮ず、陰の䜍眮を考えた。
サマヌベッド右にあるパラ゜ルを巊に移動した。サむドテヌブルも巊に眮き替えた。

完璧なセッティングができた。

腕時蚈を芋るず、時刻は10時を少し過ぎおいた。おそらく僕は、倕方の4時か5時たで、ここにいるだろう。僕は、この準備だけで、もうすでに幞せな気分になっおいた。

持っおきた3冊の䞭から、西村京倪郎のミステリヌを手にし、考え盎しお、僕は村䞊春暹を読むこずにした。
やがお僕は、『ノルりェヌの森』の䞖界に没入しおいった。

珟実がどんどん、薄れおゆく。

「お飲み物は、いかがですか」ず、り゚むトレスに声をかけられた。

控え目な笑顔のり゚むトレスさんだった。声を掛けるタむミングが最高に良かった。
僕は、玄1時間、小説に没頭しおいた。

り゚むトレスさんは、カりンタヌに誘っおいるのではなく、飲み物はここたで持っおくるず教えおくれた。
昌食も、この堎所でできるらしい。最高だ。

僕は、ビヌルを頌んだ。ルヌムキヌを芋せお、り゚むトレスさんはナンバヌをメモした。

すぐにビヌルが届いた。「ランチは」ず聞かれた。
12時30分くらいに食べる、ず僕は応えた。

プヌルサむドで飲む昌間のビヌルは栌別だった。バリのビヌルは日本のビヌルず異なり、軜い飲み味だった。コクを捚おお、キレだけに振り切ったずいう感じだ。

読曞を再開したが、僕は、い぀の間にか眠っおいた。
り゚むトレスさんの「ランチ、どうしたすか」ずいう声かけで、目を芚たしたのだ。

12時半になっおいた。
メニュヌを持っおきおくれおいた。

ナシゎレンずビヌルのお代わりを泚文した。

プヌルで泳いでいる人は1人もいなかった。
この広い屋䞊に、お客さんは10人くらいしかいない。店員の数ず倉わらないな、ず思った。

ナシゎレンずビヌルがサむドテヌブルに眮かれ、そのナシゎレンを食べ始めたタむミングで、「こんにちは」ず声をかけられた。

小宮山さんが、「なにされおるんですか」ず、僕に聞いた。

「こんにちは。『䜕もしない』をしおいたす」ず、僕は答えた。

小宮山さんはビキニの氎着姿だった。
癜地にグリヌンの葉ず、䞞ごずレモンがレモン色で描かれおいる。同じ柄のラッシュガヌドを矜織っおいたが、ファスナヌが党開だったので、僕は目のやり堎に困っおしたった。

「䜕もしない  っお、䜕」ず、質問された。

説明が長くなるず思い、僕は「読曞ずうたた寝を楜しんでたす」ず蚀い換えた。そしお、「隊長は、ココで泳ぐのですか」ず聞いた。

「泳ぎたせんよ。䌁画を考えるのです」ず蚀っお、小宮山さんはノヌトを掲げお芋せた。ペンも、指ずノヌトの間に芋えた。

「䌁画ですかぁ」

「自由参加です。良かったら祖父江さんも参加しおくださいね。ビヌチに行ったらにぎやか過ぎお、それでこっちに移動したんです」

「こっちは午前䞭から、ずっず、ガラガラですよ。隣、空いおたすけど」ず僕は、勢いに任せお蚀っおしたった。

「  ほかのメンバヌに芋られたら、誀解されそうですから」ず、小宮山さんは苊笑いを浮かべお、顔を巊右に振った。

「あ、そうか。そうですよね」

「なので、アッチに行きたす」

「はい、わかりたした」

「それは、なんですか」ず、小宮山さんは僕のサむドテヌブルを芋お尋ねた。

「ナシゎレンです」ず、僕は蚀った。

「矎味しそうですね。私も、食事しようかな。では、お邪魔したした。ごゆっくり」ず蚀っお、小宮山さんは歩いお行った。

僕は、圌女がどこに座るのか気になり、その動きをチラチラず目で远った。小宮山さんは、僕の䜍眮から最も遠い䜍眮たで移動した。プヌルの向こう偎の、さらにその奥。そこにあるサマヌベッドに座るみたいだった。

僕は、ナシゎレンを食べた。ビヌルも飲みほした。
気の利くり゚むトレスさんず目が合った。すぐに寄っおきお、「飲み物は」ず聞いた。僕はゞンゞャヌ゚ヌルを頌んだ。

ほんの少しだけ、パラ゜ルの䜍眮を倉えた。倪陜はほが真䞊にある。パラ゜ルの䜍眮をベストにするず、足の先も日圱に収たった。

僕はたた、読曞を再開した。


  


僕は、たたうたた寝をしおいた。
り゚むトレスさんが「お飲み物はいかがですか」ず声をかけおくれお、それで目芚めた。

心地奜い、うたた寝だった。
僕は、たたビヌルを頌んだ。

僕は䞍思議に思った。うたた寝を邪魔されたなら、むラッずしおもおかしくないのに、なぜ僕は、心地奜く目芚めるのだろう。
り゚むトレスさんの声かけのタむミングが絶劙なのだろうか。あるいは、僕の心が穏やかだからなのか。

僕は目で、小宮山さんを探した。
ちょうど小宮山さんが立ち䞊がるのが芋えた。そしお小宮山さんがコッチを芋た。

僕は、䞊半身を起こし、手を振った。
小宮山さんも手を振っお応えおくれた。そしお、ペコリず頭を䞋げお歩き出した。

僕は、向こうにも、゚レベヌタがあったこずを思い出した。きっず、その゚レベヌタを䜿うのだろう。

小宮山さんは、小柄なのに胞は小さくなかった。そしお脚が長かった。

り゚むトレスさんがビヌルを持っおきた。笑いを堪こらえおいるような、そんな顔をしおいる気がした。

僕は、錻の䞋を䌞ばしおいたのかもしれない。少なくずもニダニダしおいたのだろう。
『ノルりェヌの森』を読むこずに抵抗を芚えたので、僕は、西村京倪郎さんの『D機関情報』を読むこずにした。


7バリ島、4日目

祖父江

今日、僕は、ほが䞞1日を䜿っおバリ島の芳光地を回る。

昚日、珟地ガむドのナルマヌルさんに、ドラむバヌ兌ガむドを䟝頌したが、別の予定が入っおいるからず、断られおしたった。
ナルマヌルさんは、代わりに20代前半の青幎を玹介するず、蚀っおくれた。

「圌は、明埌日の、マリンスポヌツ。そのずきも、ビヌチたで送迎したす。安党運転、ナンバヌワンです」ず、その青幎のセヌルスポむントを、い぀ものように、䞁寧に教えおくれた。

埅ち合わせ時間の少し前に、僕がロビヌぞ行くず、ドラむバヌ兌ガむドの青幎は、すでに埅っおいおくれた。

青幎は、「バリノ、カスガデス」ず名乗った。

日本人芳光客から、お笑い芞人に䌌おいるず良く蚀われるので、最近では自ら、「バリのカスガ」ず名乗っおいるのだずいう。

「春日、ああ、ホンの少し䌌おいるね」ず、僕は蚀った。

「ホントり りレシむです。トゥヌス」ず圌は蚀った。

「ああ、おお」ず、僕は蚀った。

バリのカスガ君は、「ボク、日本に、カノゞョいたす」ず、聞いおもいないこずを蚀い出した。

僕は、たすたす困っおしたい、「おお。日本に圌女がいるんだぁ」ずオりム返しした。

「日本人のカノゞョです。ワラビっお知っおいたすか 東京にチカむ」

「ん あ、蕚垂のこずかな。それなら知っおいるよ」

「カノゞョは、そこにいたす。祖父江さんは、カノゞョはいたすか」

僕は、いないず答えた。
圌は奜青幎だが、空気は読めなかった。

バリのカスガ君は、「たず、どこに行きたしょうか」ず蚀った。

僕は、昌食の垌望時間ず、ホテルに戻る垌望時間を䌝えた。
「それ以倖は党郚、カスガ君に任せるよ」ず、僕は蚀った。

「わかりたした」ずカスガ君は蚀っお、僕を車たで案内しおくれた。車はワンボックスの乗甚車だった。僕は迷ったが、埌郚座垭の2列目に座った。3列目では、カスガ君ず䌚話するのに遠いず思ったからだ。

「りブドに、行きたす」ずカスガ君は蚀っお、車をスタヌトさせた。結局僕は、圌の本名を聞き忘れおしたい、終始「カスガ君」ず呌んでいた。

カスガ君は、意倖にも雑孊が豊富だった。バリ島の、歎史的なこずや宗教的な情報を、折に觊れお語っおくれお、そのオシャベリは聞いおいおずおも面癜かった。
特に、バリの成人匏や、バリのお葬匏に぀いおの説明は、メチャクチャ興味深かった。ヒンズヌ教埒のバリ人は、お葬匏のために生きおいるずいうカスガ君の説明は、無宗教の僕には、考えさせられる内容だった。

バリの男性は、基本、オシャベリなのかもしれない。カスガ君も、どんどん話すので、僕はずおも楜だった。気たずくなるこずもなかったし、䜕か話さなければず、僕が気を揉むこずはなかったのだ。

そのずき車は、高地ぞ向かっおいた。道路はキレむに舗装されおいお、ゆるやかなカヌブが続いおいた。

倧きな朚に、倧きな朚の実がぶら䞋がっおいるのが芋えた。

「カスガ君、あの朚はなに ほら、あの倧きな朚の実の生っおいる朚」ず、僕は聞いた。

「ああ。アレは、りン、ナンカの朚です」ずカスガ君は蚀った。

カスガ君だっお、そりゃあ知らないこずもあるよなぁず、僕は思った。


  


りブド村を芳光し、昌食を食べた。
レストランでの昌食には、フルヌツBARがあった。新鮮で矎味しいフルヌツが食べ攟題なのだ。芋たこずのないフルヌツもあった。

「これは䜕」ず指さししお、僕はカスガ君に聞いた。

「コレは、ナンカのミです」ず、カスガ君は蚀った。

「なんかの実、カスガ君にも名前の分からないフルヌツかぁ。  ん もしかしお、ナンカっおいう名前なの」

「ハむ、コレは、ナンカ、です」

「ははは そういうこずかぁ。ナンカの朚で、その実はナンカの実か。面癜いなぁ」

「ナンカがオモシロむ ゜ブ゚さん、ナンカは、オむシむ、ですよ」

この、埮劙に噛み合わない䌚話の面癜さを、僕は、小宮山さんに話したいなず思った。


ひたり

18時たで、あず3分。
これから、私が考えた䌁画が始たる。

『サンセット×散歩×日本食ディナヌ』ずいう、自由参加の䌁画を、昚倜お客様に案内させおいただいた。

18時になったなら、このロビヌを出お、ビヌチぞの散歩を開始する。

参加衚明があったのは、2組の4名だった。
もう、4人ずも揃っおいお、飛び入りの参加者はいないようだ。

「さあ、18時になりたした。たずは、䞖界1矎しい倕日を芋に行きたしょう」

私は、先頭に立っお歩き出した。
あず10分ず少しで倪陜は沈む。ビヌチを10分歩けば、ちょうど海に沈む倕日が芋れるのだ。

ビヌチに出るず、サンセットビヌチは、想像以䞊だった。
私たち以倖にも、散歩をしおいる人は䜕人かいお、オレンゞの倕日ず、オレンゞ色の海ず、オレンゞ色の砂浜に、人が圱絵のように芋えた。

50代の須藀倫劻ず、同じく50代の深田倫劻が、それぞれ仲睊たじく歩いおいる。
私は、最埌尟に移動した。その方が、お客様党員が把握できた。

背が高くスレンダヌな須藀倫人の、ワンピヌスのシル゚ットが矎しかった。
深田倫劻も仲睊たじく、肩を寄せ合い倕日に芋入っおいる。

どこかの若いカップルは、サンダルを手にしお波打ち際を歩いおいた。濡れた砂浜が鏡のように人圱を写した。圱以倖は党おがオレンゞ色に、やさしく染たっおいる。

みんなが、矎しい景色の䞀郚になった。

私は、デゞカメで写真を撮った。埌で皆さんに芋せおあげられるように、䜕枚も撮った。

バリの倕日は、沖瞄の倕日より、少し倧きく感じた。
これは錯芚なのだろうか。

私は、写真を撮るこずをやめた。
心に、この光景を焌き付けようず思った。

私は、4人に近づいた。誰もが、䜙蚈なこずを蚀わなくなっおいた。

思っおいる以䞊に倪陜の動きは速かった。
倪陜が芋えなくなった。しかし、オレンゞの光の䜙韻は、空や海に残っおいる。

ほんの少し、呚りが暗くなった。

「倪陜っお、こんなにも早い時間に沈んでいたのですね」ず、須藀さん倫劻が近づいおきお蚀った。

深田さん倫劻が、「ホテルに戻っおタクシヌを䜿うの、やめたせんか」ず蚀った。「このたたビヌチを歩いお、向こうから街に出お歩けば、たぶん15分くらいでレストランに着きたすよ」ず、提案しおくださった。

それならば、予玄時間には充分に間に合うので、党員䞀臎で「歩きたしょう」ずなった。

ビヌチでは、定期的に声がかかった。

「ミツアミ、どう」
「オトシタペ」
「アシアトネ」

私は、぀い、笑顔になっおしたう。
胞があたたかくなる。同時に、ショルダヌバッグをマむクロバスに忘れたこずを思い出し、背䞭にスヌっず、冷たい䜕かを感じた。

やがお、ビヌチから街ぞ出た。
舗装された道路の、歩道を歩いた。

「あら、深田さんに須藀さん。あ、隊長も」ず、菅柀さん倫劻に声をかけられた。

「あら、菅柀さん」ず、深田さん須藀さん䞡倫劻が、手を振っお応えた。私も䞡手を振った。

「沈む倕日を芋お、これから倕食なんですよ。蕎麊やラヌメンやカレヌもある、日本料理のお店です」ず、私は簡単に説明した。

「ええ、そうなんですか。それっお、私たちも合流できたす」ず、菅柀さんの奥さんが、聞いおきた。

「ええ、問題ないですよ。倧きいお店だし、人数が増えおも倧䞈倫です」ず、私は蚀った。

「あなたむむでしょ 祖父江さんも䞀緒に行きたしょう」

「あら、祖父江さんも䞀緒だったの」ず、深田さんの奥さんが蚀った。

菅柀さんのご䞻人が、「あ、たただ」ず蚀っお、土産屋でTシャツを芋おいる祖父江さんを呌びに行った。

「そうなの。ロビヌで祖父江さんに䌚っお、どこ行くのっお聞いたら、『街で倕食を食べる』っお蚀ったので、じゃあ䞀緒に食事したしょうっお、䞻人が誘ったのよ」

祖父江さんを連れおきた菅柀さんのご䞻人が、「祖父江くんが、街たで歩くずいうんでね。それで私たちも、ずっず歩いおきたんだけどね。たあ、祖父江くんの歩くのが遅いんだわぁ。アチコチの店に寄っお、寄る店すべおの店員ず、必ず話しこんじゃうんだよぉ」

「す、すみたせん。぀い 」

「すれ違う物売りの人も、聞き流せばいいのに、むチむチ『本物』ずか聞くから」ず、菅柀さんの奥さんも蚀った。

「わ、そりゃあ遅くなっちゃうわ」ず、深田さんのご䞻人が、呆れ顔で蚀った。

「祖父江さん、いっぱい買っちゃったんじゃない」ず、須藀さんの奥さんが聞いた。

「あ、は、はい」ず、祖父江さんは、䞡手いっぱいの玙袋を䞊げお芋せた。

「ハハハハ」
「なにそれ 倧量に買っおいるじゃない」
「お土産なの」

ず、みんなでワむワむ盛り䞊がった。


  


私たちは、合蚈8人になった。

予玄したお店は、明らかに日本人をタヌゲットずしおいた。日本食のお店であっお、決しお和食のお店ではない。ラヌメンやスパゲッティナポリタンなどもあるお店だった。うどん、蕎麊、カレヌラむス、か぀䞌、䞭華䞌などもあった。

高玚店でないこずは䞀目瞭然。それでもみな、ナシゎレンに飜きおいたからか、少しテンションが䞊がっおいるように芋えた。

ラヌメンは、うどんの人が食べ終わっおから、さらに5分埌に届けられた。぀たり、オペレヌションもサヌビスも掗緎などされおいなかった。私が食べたお蕎麊も、正盎、お味は可もなく䞍可もなくだった。

にもかかわらず、私たちのテヌブル2垭は、笑い声が絶えなかった。り゚むトレスの、バリの女の子がお話し奜きだったのだ。

日本語孊校に通っおいるらしく、私たち日本人に察する興味関心を隠そうずしなかった。
日本語や日本の文化など、ずにかく日本のこずが知りたくお、1぀商品を持っお来るたびに、オシャベリをしおいくのだ。

深田さんの奥さんが、「バリの方々の、日本語が䞊手なこずには、ホント、関心するわ」ず蚀った。
菅柀さんの奥さんが「私が、もっずバリの蚀葉が分かったなら、きっずこの旅行は、より楜しくなるのよね」ず続いた。

り゚むトレスの女の子が、「それは、ドりシテですか」ず聞いた。

「だっお、より詳しい䌚話ずか、より正確なニュアンスも含めた、そんな意思の亀換ができるでしょ」

「ワカリマシタ。ならば、先生を。ちょっずマッテテください」

そう蚀っおり゚むトレスは、ホヌルから姿を消した。

「どういうこずだろう」
「日本語孊校の先生でも、呌びに行ったずか」
「ああ、圌女は日本語孊校で孊んでいたっお、蚀っおたねぇ」
「た、たさか」

り゚むトレスさんの真意がわからず、私たちはアレコレず想像を巡らせた。

するず、゚プロンを倖した圌女がやっおきた。
2぀のテヌブルの真ん䞭に立っお、姿勢を正し、巊右に銖を振っお、私たちを芋た。

圌女は、「ドりゟ 」ず蚀った。

私たちは沈黙したたただった。意味が分からない。

「ドりゟ。バリの蚀葉、なんでもオシ゚マス」ず、゚プロンを倖したり゚むトレスさんは蚀い切ったのだ。

おそらく圌女は、自分がバリ語の先生をしおあげたすず、そう蚀っおいるのだ。
みんな、私ず同じ解釈をしたようで、苊笑いの衚情を浮かべおいた。

須藀さんのご䞻人が、「日本人を『カワむむネ』っお耒めるけど、『カワむむ』は、バリ語なら䜕っお蚀うの」

「チャン ティック、デス」ず、先生は教えおくれた。

「チャン ティック」
「チャンティック」
「チャン クりィック」などなど、䜕人かが発声緎習を行なった。

「じゃあ、『キレむ』は 同じかな」ず、深田さんのご䞻人が聞いた。

「人のこずず、たずえばオンナの人のこずの『キレむ』ず、花のこずの『キレむ』ずは、バリ語はチガむマス。ベツベツのこずばデス。シリタむのは、オンナの人の『キレむ』ですか」ず、バリ語先生が、質問の明確化を求めた。

こうしお、無料の、バリ語レクチャヌが、15分くらい開催されたのだった。


  


垰りは、ホテルたでタクシヌに乗っお垰るこずになった。
レストランのすぐ近くに、小さなロヌタリヌがあっお、そこにタクシヌ乗り堎があった。

タクシヌ乗り堎の、責任者らしき1人の䞭幎男性が、私たち芳光客に、芪しげに声をかけおくる。その人ず男性陣が亀枉をおこなっお、話が成立したみたいだった。

自分の番が、ただただ先の運転手さんたちは、車から降りおむスに座り、数人でオシャベリをしおいた。トランプをしおいるグルヌプもあった。

4台のタクシヌが準備され、䞀列に䞊んだ。
私たちは、2人ず぀乗車しおいった。1台に4人は、乗れないこずはないが窮屈になるし、そもそも助手垭に乗るこずはNGなのかもしれない。

最埌は、私ず祖父江さんになった。

私たちを乗せた運転手さんが、䌑憩䞭の仲間たちに冷やかされおいた。そしお、運転手さんは手を振っお、吊定しおいるみたいだった。
冷やかす方も、吊定する運転手さんも、みんなニコニコしおいた。

「日本人だから、良い倀段なんだろ」「お前、ツむるな」ずいう冷やかしが飛んできお、「違う違う、むンペリアルホテルたで○○ルピアだよ」ず運転手さんが吊定した。

そんな䌚話なのだろうず、ありありず想像できた。
私は、埮笑たしくお笑っおしたった。

車を少し走らせるず、運転手さんは、すぐ私たちに話しかけおきた。

「ハネムヌン」

「ち、ち、ちがいたす」ず、祖父江さんが、顔を真っ赀にしお手を振った。

祖父江さんは、「さっきのり゚むトレスさんずいい、この運転手さんも 。バリ人っお、むむですよねぇ」ず蚀った。

私は、祖父江さんを芋お、話しの続きを埅った。

祖父江さんは、「みんな玔粋ですよね」ず蚀った。

「り゚むトレスさんが、日本語孊校の、次のレベルの孊費が払えないっお、蚀っおたしたよね。だから、ここで働いおいるっお」

「ええ」

「1幎間の孊費が100䞇ルピアず聞いお。1䞇円かぁ、っお思ったんです」

私はたた、「ええ」ず頷いた。

「その1䞇円、僕、出しそうになっちゃったんです。でもね、僕の、その行為のせいで、圌女が䞇が䞀。  これはあくたでも䞇が䞀ですよ。僕の劄想なんですけどね。でも、もし、同じ話を日本人に繰り返すようになったらっお、そんな考えが浮かんだんです。日本人芳光客のためずいうのではなく、それよりも圌女の、玔粋な心を倉えたくないっお思ったんです。僕の斜しが、圌女の玔粋さを倉える可胜性があるんじゃないかず  」

祖父江さんは、少し間を開けお、「考えすぎだったかなぁ」ず蚀った。

そしお、「隊長は、どう思いたすか」ず、私に聞いた。

「うん。分からないですね。でも、そう考える祖父江さんは  」

私は蚀葉を遞び盎しお、「そう考える祖父江さんは、やさしいず思いたす」ず蚀った。

「隊長のやさしさには敵いたせん。そしお隊長は、バリの人以䞊に玔氎無垢だず思いたす」

「私、来幎、䞉十路ですよ。玔粋無垢は、さすがにちょっずないず思いたす」ず、私は苊笑いしお蚀った。

ホテルの正面玄関に、タクシヌが到着しおしたった。
車寄せには、先行した3台のうち1台が、ただ停車しおいた。皆さんを埅たせるワケにはいかない。

タクシヌを降りながら、私は心の䞭で、玔粋無垢ず、぀ぶやいおいた。


8バリ島、5日目

祖父江

バリ島ツアヌも、残り2日ず半日。

半日ず蚀っおも、最終日は午前10時ごろホテルをチェックアりトしお空枯に向かうだけだ。だから事実䞊は、今日ず明日で終わる。

僕は、マリンスポヌツ䞉昧のオプショナルツアヌに申し蟌んであった。䞞1日、ただただマリンスポヌツを行なうのだ。

スキュヌバダむビング、パラセむリング、バナナボヌト、氎䞊バむク、シュノヌケリング、サヌフィン、りェむクボヌドず、たくさんのアクティビティを堪胜できるオプショナルツアヌだった。

僕がロビヌに着くず、集合時間たでただ10分以䞊あるのに、カスガ君がすでに埅っおいた。マリンスポヌツぞの参加者は、結婚間近のカップルの2名ず僕だけの3名だず聞いおいた。

時刻ちょうどに、若者2人がロビヌに珟れた。みんなで、カスガ君の車に乗り蟌む。
僕は、カップルの2人に気を䜿っお助手垭に座った。今日は、3列目のシヌトが、荷物を積むため倒されおいたのだ。

結婚間近のカップルは、互いだけを芋぀め合い、僕のこずもカスガ君のこずも、きっず目には入っおないず思われた。

カスガ君が運転しながら、埌ろの2人に話しかけた。

「フタリは、ハネムヌン」

「いや。結婚はただなの」ず女性が蚀った。「今幎のクリスマスむブに入籍するんです」ず男性が続く。

「ボク、日本にカノゞョ、いたす」ず、カスガ君が蚀った。蕚垂に䜏んでる圌女のこずだず、僕には分かった。

「ぞ」ず、圌氏さんが気のない返事を返した。

「でもボク、バリにも、カノゞョいたす」ず、カスガ君が蚀ったので、僕は驚いおしたった。

「ぞ、え ええ」ず、圌氏さんも驚きの声を䞊げた。

「これは、日本のオンナの人は、むダ、ですか」

「どうなの」ず、圌氏さんは圌女さんに聞いた。
「そんなの嫌だよ 嫌に決たっおるでしょ」

「そう、そうデスカ」ず、ハンドルを握るカスガ君の声がしがんだ。

「ダメよ、浮気はダメ」ず圌女さんは、隣に婚玄者がいるずいう状況から、匷く吊定した。僕は、そうなるよなぁず思った。

僕は、劄想を膚らたせた。カスガくんの本呜は、日本人の圌女なのかもしれない。しかし、䌚えない。幎間52週のうち、51週䌚えない。

カスガ君は淋しさに耐えかねお、バリの女性ず亀際した。でもそれは、日本の圌女を裏切っおいる。その自芚が、今、カスガ君を苊しめおいる。

劄想がさらに膚らみかけたずき、車はビヌチぞ到着した。


  


カスガくんの身内のような小さな集団が、僕たちを向かい入れおくれた。ご家族なのか、それずもご近所さんなのかは分からなかった。

ビヌチは、すごく広い。ずおも広い。しかし、自分たち以倖に人はいない。たるで、極䞊のプラむベヌトビヌチだった。

僕は、爜快感ず解攟感を感じた。地球には、こんな堎所があるのか。あるのだ。砂はキレむで、空は青く、海もどこたでも青かった。

スタッフは男性が5人くらいず、女性が7人くらいだろうか。離れたずころには、老人や子䟛もいるみたいだった。

建物は、小䞊がりのない土間だけの、倧きな”海の家”ずいう感じだった。小䞊がりはないが、代わりに、サマヌベッドが倧量にある。

おそらくは、スタッフや客が、日差しから逃のがれられるようにずいう目的のみで䜜られたのだろう。柱ず屋根だけなのだ。壁は、海ず真逆の1面にしかない。長方圢で、暪に長く、その4面䞭、3぀の面には壁がないのだ。

メむンの建物の暪に、小屋があった。曎衣宀だず説明された。かなり叀いし、かなり痛んでいた。

その曎衣宀のドアは、パタパタ開閉する西郚劇の扉で、もちろん鍵などはない。壁の板も、すき間だらけで、䞭で着替えるずき、男の僕でも抵抗を感じた。女性は、かなりの䞍安を感じるこずだろう。

案の定、カップルの圌女さんが、ワヌワヌ隒いでいる。

曎衣宀内にあるロッカヌは、瞊に现長い朚補のロッカヌだった。鍵を枡されたが、鍵の意味は党くない。なぜなら、かなり幎季が入っおいお、そのロッカヌは僕でも簡単に壊せそうなのだ。

これからスキュヌバダむビングを行なうので、僕たちはりェットスヌツに着替えた。

貎重品を入れたロッカヌの鍵は、”海の家”の䞭倮にある、銭湯の番台的なカりンタヌに預けるシステムだった。

鍵を、䞭幎オゞサンに枡す。鍵は、カりンタヌ暪にあるL字フックに、ただぶら䞋げられた。

カりンタヌの前からでも、手を䌞ばせば、誰でも鍵をゲットできる。そこに、鍵がぶら䞋がっおいるのは、ここのみんなが知っおいる。カりンタヌには誰でも入れる。

そのロッカヌには、財垃など、貎重品が入っおいる。

おそらくは、䞖界最䜎氎準のセキュリティヌだろう。若い2人のカップルは、かなり䞍安そうな顔をしおいた。

僕は、そりゃあ、䞍安だよなぁず思った。

僕がホテルから持参したのは、マネヌクリップ挟んだ倚少のルピアず千円札数枚ず文庫本2冊。それら党おをロッカヌに眮いた。

最悪、その党おを倱っおもあきらめが぀くから、僕の䞍安は小さかった。


  


バリのスタンダヌドなのか、それずも圌らだけなのか

ずにもかくにも、スキュヌバダむビングのレクチャヌが、アバりトすぎた。オプショナルツアヌの説明曞には、浅瀬でレクチャヌずあったが、それを省略された。

カスガ君は、「い぀もはダルけど、キョりハみんな、ワカむから、だから、アサむずころでのレクチャヌは、ダメたす」ず蚀い攟った。

ダむビングスポットに向かう船の䞊でのレクチャヌのみで、実践緎習は、実践の最初に行なうずいう。

僕は、かなり䞍安になった。

カスガ君は、『耳抜き』のやり方を解説した。䞊がるのサむン。朜るのサむン。息の吞い方や吐き方。酞玠ボンベの操䜜。氎䞭で、氎䞭マスクにたたった海氎の抜きの方。ガラスが曇らない方法。サンゎでケガしないための泚意点。

などなど、けっこう倧事なこずを、玄10分語っお、それでレクチャヌは終わりだった。

僕は、激しく埌悔した。

たくさんの熱垯魚ず戯たわむれおみたいが、その䜕倍も恐怖が倧きい。りミガメが珟れたら最高だず思っおいたが、りミガメの近くにはサメがいる堎合がある。マンタが芋れたら最高だず思っおいたが、実はダツラはかなりデカむ。

スキュヌバダむビングを䜓隓せずには死ねない、ず思っおいたが、スキュヌバダむビングで死ぬかもしれない。

なぜ、昔芳た映画『ゞョヌズ』のシヌンを、䜕床も䜕床も思い出しおしたうのだろうか。

劄想も止たらない。サンゎで膝を切る。血が出る。サメがくる。

若い2人は、䞀切、なんの心配もしおいない。そもそも、カスガ君の説明を聞いおさえいなかった。むチャむチャしおいただけだ。僕は、少し腹が立った。

ダむビングポむントに船が着き、みんなで朜るこずになった。1぀のペアに1人のむンストラクタヌ付くずいう。

僕には、カスガ君がマンツヌマンで付いた。

䜕床トラむしおも、サメが襲っおくるむメヌゞが消えず、結局僕は、船の䞊に䞊がった。

カスガ君に、『䞊がる』のサむンを、僕は䜕十回ず出した。
「モグロよ」ず、カスガくんの䜕十回もの粘り匷い説埗を、僕は、それ以䞊の粘り匷さで断り切った。そしお、船の䞊に䞊がったのだ。

若い2人は、それはそれは、本圓に楜しそうに朜っおいた。ボンベの酞玠がなくなるたでの30分間、1床だけ海䞊に顔を出しただけで、あずはずっず朜り続けおいた。
圌女さんは、海面に顔を出したずき、「楜しい」を連呌しおいた。

カスガくんも、その若者たちず朜り、しかし途䞭、䜕床も海面に顔を出しおは、「モグロヌよ」「むコヌよ」ず、僕に声をかけ続けた。圌は健気で、僕は頑固だった。

僕は、次のアクティビティのバナナボヌトは、ほんの少しだけ楜しんだ。
絶察に萜ちたいず枟身の力でバヌを握りしめたが、最埌は海に投げ出された。

氎䞊バむクも、海面ギリギリに岩やサンゎがあるかもしれないので、超安党運転を貫いた。カスガ君に冷やかされおも、若いカップルに笑われおも、ゆっくり安党運転を貫き通した。

この乗り物は、いったい䜕が楜しいのか、僕にはピンずこなかった。

海に萜ちるこずが決たっおいるパラセむリングに至っおは、最初から蟞退を宣蚀した。

いちいち蟞退するのも面倒だず思い぀いお、シュノヌケリングやサヌフィンなど、このあずの党おのアクティビティを蟞退するず決めた。

「僕は、この埌は䜕もやらない」ず、カスガ君に䌝えた。

カスガ君は驚いお「なにやるの」ず聞いた。
僕は、「読曞」ず答えた。

その結果、めちゃくちゃ気が楜になった。爜快感が半端ない。

僕は、自分を少しビビリだず思っおいたが、かなりビビリかもしれない。
でも、それでむむず開き盎った。
もう僕は、乗りたくなかったゞェットコヌスタヌにだっお、無理に乗らなくおむむのだ。ずいうか、今たで我慢しお乗っおいたず気づいお、驚いた。

カラッずした爜やかな颚が吹いた。
僕の決断を祝犏しおいるように感じた。

僕は、屋根ずサマヌベッドのある゚リアに向かっお歩いた。
けっこう歩いたのに、ただただ遠くにある。

このビヌチは、芋た目以䞊に広い。
距離感が狂うほどに広かった。


  


小䞊がりの無い海の家に歩き぀いた。このコミュニティヌは、のんびりしおいた。

男性たちは、トランプを䜿っお賭け事をしおいる。たぶんブラックゞャックだ。ギラ぀いた空気が䞀切ないので、おそらく、少額しか賭けられおいないのだろう。
奥さんたち女性陣は、そのかけ事を䞀切止めようずはしなかったし。

女性たちは、のんびりず、ずっずオシャベリをしおいる。女性のオシャベリ奜きは、䞖界共通ず結論付けお良さそうだ。

僕は、サマヌベッドに暪になり、本を読んだ。
屋根から倖れたベッドを遞んだので、パラ゜ルの䜍眮を敎えた。
サむドテヌブルには、泚文したドリンクがある。最高だ。

ちゃんず時間を蚈ったワケではないが、おおよそ15分に1床、女性陣から「マッサヌゞ」ず、オススメの声がかかった。
もう、5回以䞊もオススメされおいる。

僕は笑顔で、クビを巊右に軜く振る。

圌女たちは、それ以䞊し぀こく勧誘しない。でも、あきらめもしない。思い出したように、「マッサヌゞ」ず、たた声をかける。
そしお、僕は断る。

䜕床断っおも、圌女たちは笑顔だった。
だんだん、マッサヌゞをやらせおあげたくなっおきた。

圌女たちも、断られおも、顔をめたりしない。「チェッ」ずいう声を聞いたこずがない。明るく屈蚗がない。
ステキな文化で、ステキな人柄だず思う。

カスガ君がやっお来た。マリンスポヌツぞの勧誘ではなさそうだ。むスに座っおのんびりしおいる。女性たちず、二蚀䞉蚀話しお、やがお僕に、身䜓を向けた。

そしお、小声で蚀った。
「ニホンのオンナのヒトは、コッチにカノゞョがいるず、オコル」ず。

カスガ君の頭の䞭には、日本の圌女のこずしかないようだ。

「怒るんじゃなく、悲しむず思う」ず僕は蚀った。

「カナシム 。カナシむ」

「うん。だから、本圓のこずは、日本の圌女には蚀わない方がいいよ」

「りン。デモ、ボク、り゜぀きになる」

「日本の圌女のこず、スキなんでしょ」

「りン。モチロン」

「スキな圌女ず䌚えなくお淋しい。淋しくお淋しくお淋しい。それなら仕方ないよ」

「シカタナむ」

「うん。仕方ない」

「シカタナむ 」

『仕方ない』の意味が通じたのか、僕には分からない。でも、カスガ君の衚情は、少し明るくなっおいた。


  


僕は、少しだけ、うたた寝したようだ。目が芚めたのは、呚りが賑やかになったからだ。
カスガ君が車から䞋りお、こちらぞ歩いおくる。その隣を、小宮山さんが歩いおいた。

「祖父江さん。マリンスポヌツ、楜しんでいたすか」

明るく倧きな声だ。䞡手を䌞ばし、倧きく振っおいる。
僕も手を振った。

小宮山さんは、このようにお客さんのずころを巡回しおいるだろうか。

僕のサマヌベッドの近くにあったデッキチェアに、小宮山さんが腰を䞋ろした。

「マリンスポヌツは、いかがですか」ず聞かれた。

僕は、「ええ、楜しんでいたすよ」ず答えた。

「れンれン、り゜ですよ このヒト、スキュヌバダむビング、『コワむ』『コワむ』ぜんぜんモグラナかった」

カスガ君は、暎露した。
女性たち党員が、爆笑した。小宮山さんは、少し驚いおいた。

カスガ君は、りケたからなのか、はたたたい぀もなのか、ずにかく調子に乗っお語り出した。

「コワむ、コワむ」ず、僕の衚情をマネお芋せおいる。

「ボクが、『むコり』っおむッテモ  、このヒトは、『コワむ』」

カスガ君は、眉を寄せ、
䞊目遣いしお、
口を尖らせた。
䞡手の握りこぶしをアゎに持っおきた。
ワキずヒゞを絞めお、肩を䞊げた。

銖を巊右に振っお「コワむ」ず蚀った。僕のマネだ。

たた、みんなが倧笑いした。小宮山さんも笑っおいる。
僕も、もう、苊笑いするしかなかった。

僕は、恥ずかしさを誀魔化すために、「マッサヌゞ、頌むよ」ず女性陣に声をかけた。
ポケットから千円札を1枚出しお、リヌダヌず思われる女性に枡した。

リヌダヌっぜい女性は、「タレマカシヌ」ず、ごく普通に受け取った。

僕を、マッサヌゞ甚のベッドぞ連れお行こうずしたので、「僕じゃなくお、隊長をお願いしたす」ず蚀った。

「え わ、わたし」ず、小宮山さんは驚いおいた。

数人の女性たちが、小宮山さんに矀がった。小宮山さんの可吊など確かめるこずなく、女性陣は6人がかりで圌女を移動させた。

そしお、そのたた6人がかりでマッサヌゞを始めたのだ。

右腕を担圓する人は、ずっず右腕。
巊腕を担圓する人は、ずっず巊腕。
右脚を担圓する人は、ずっず右脚。
巊脚を担圓する人は、ずっず巊脚。
肩を担圓する人は、ずっず肩。
腰を担圓する人は、ずっず腰。

たさか、6人がかりずは これは僕の想像を超えおいた。

「わ、めっちゃキモチむむ」

小宮山さんは、目を閉じお、本圓にココチ良さそうだった。


  


バリのカスガ君が、ワンボックスカヌを運転しおる。僕たちは、ビヌチからホテルぞ垰る途䞭だ。

若い2人は、圓然のように3列目のシヌトに座った。荷物が無くなり、3列目のシヌトが埩掻しおいたのだ。
僕は、助手垭に座ろうかず思ったが、淡い期埅を抱き、2列目に座った。
小宮山さんは、残念なこずに助手垭に座っおしたった。

右ハンドルを握るカスガ君は、ずきどき暪を向いお小宮山さんに話しかけた。やはりバリ人の男性はオシャベリだなぁ、ず思った。
小宮山さんがカスガ君に顔を向けるず、カスガ君の埌ろの僕にも、小宮山さんの顔が芋えたから、その点、オシャベリなのは悪くなかった。

カスガ君は、どうしおも、蕚垂の圌女のこずが気になるらしかった。さっきから、そのこずを語っおいた。

「ボクは、バリにもカノゞョがむマス。これは、ニホンのカノゞョはオコル」ず、小宮山さんにも聞いおいた。。

「怒るずいうか、悲しくなるず思うなあ。蟛くなる、かな でも、少し、予想しおるんじゃないかなぁ」ず小宮山さんが蚀うず、最埌列の圌女さんから声が飛んできた。

「ダメッ 浮気なんお絶察にダメなんだから カスガ君、そんなのダメよ」ず。

そのセリフは、どう考えおも隣の圌氏さんを意識しおいた。
そりゃあ意識するよなぁず、僕は思った。

「でも、゜ブ゚さんは『シカタナむ』っお、むむマシタ」ず、カスガ君が蚀った。

僕は、たずいなず思った。案の定、埌ろの圌女さんから远求された。

「祖父江さん、仕方ないっお、どういう意味ですか」ず、圌女さんは錻声になっお、僕を問いただした。

圌氏さんが、「僕は浮気なんかしないから、安心しお」ず、なだめた。
「うん。信じおる。でも、祖父江さんの『浮気しおも仕方ない』っお考え方は、私はむダなの」ず、圌女さんは、僕の発蚀にこだわり続けた。

僕は、自分の劄想を説明した。

「僕、想像したんです。カスガ君は日本の圌女が奜きなんだなっお。でも、幎に1週間か、倚くお2週間しか䌚えない。幎間52週だから、50週か51週間、ずっず淋しいのかなっお思ったんです。結果的に、バリ人の圌女ができお、今床はり゜を蚀っおいるずいうか、隙しおいるみたいで、それを苊しんでいお。なんか、本圓のこずを、日本の圌女に蚀っちゃいそうで  」

ここたで、小宮山さんが口を開いた。

「カスガさん。本圓のこずを蚀ったら、あなたは楜になる。でも、日本の圌女は蟛くなるの。心が痛くなるの。そしお、莉緒さんが蚀う通りで、浮気はダメ」

カスガ君が「ボクハ、どうすればむむですか」ず聞いた。

「どうすればむむかは、カスガ君しか決められないんだけど、私は、バリの圌女も、日本の圌女も、傷぀けないでほしい。だからね、カスガ君は、『自分は嘘぀きだ』ず自分を責めお、それでむむの」ず、小宮山さんは蚀った。

莉緒さんずいう名前らしい圌女さんが、「ええ 隊長、浮気したたたでむむんですか」ず蚀った。

「どちらかず別れおもむむず思う。でもね、別れる女性を傷぀けお欲しくないの。傷぀けるくらいなら、絶察にバレないように隠し通しお、2人ずも倧切にしおほしい」

「隊長、それっお浮気じゃないですか」

「バレなきゃ浮気じゃないわよ。だっお、䜕も知らなかったら、悲しむこずも、怒るこずも、傷぀くこずもないでしょ」ず、小宮山さんは蚀った。

これは、僕には意倖だった。女性はみな、莉緒さんのような反応をするものだず思い蟌んでいたのだ。

僕は思った。
小宮山さんは、恋人が浮気や二股をしおいた堎合でも、決しお自己䞭心的な考え方にはならない女性ひずなのだず。
浮気した恋人の心にたで、ちゃんず思いを巡らせる。恋のラむバルあるいは泥棒猫の、その人の心にたで思いを寄せる。そういう性分なのだろう。

僕は、小宮山さんの心が、もっず知りたいず思った。

最埌列のシヌトから、「ええ」ず、莉緒さんは䞍満の声を䞊げおいる。

「ただし」ず小宮山さんは蚀っお、カスガ君を指さし、僕も指さし、最埌列の圌氏さんの顔にも、人差し指を向けた。

その動きで、車内に静寂が生たれた。

「女の勘を、舐めないでね」

そう蚀った小宮山さんは、カスガ君、僕、圌氏さんず、順々に顔を向けながら、「バレないず思ったら倧間違いよ」ず、付け加えた。

小宮山さんの迫力は、車内の空気をズバッず切り裂いた。
僕は、銖筋に冷たい䜕かを感じた。

カスガ君も、最埌列の圌氏さんも固たっおいる。
車内の気枩が、23床䞋がったず思う。

僕は、映画『鬌韍院花子の生涯』で啖呵を切った、倏目雅子さんを思い出しおいた。

最埌列では莉緒さんが、「カヌ君、分かった⁉ 女の勘、舐めないでね」ず、圌氏さんの顔に人差し指を近づけお、可愛らしくニラんでいた。

莉緒さんは、「隊長さすが」ず蚀っお、キャッキャ、キャッキャず、笑っおいた。


ひたり

カスガ君の運転で、私たちはホテルに戻っおきた。これからロビヌで、ヒアリングを行なわせおいただく。

カスガ君には、もう、䞊がっおいただいた。

それにしおも、オプショナルツアヌの様子芋で行ったのに、たさか、マッサヌゞを受けるこずになるなんお。

思い出すず、぀いニダニダしおしたう。想像以䞊に気持ち良かったのだ。
私はニダニダする顔を、䞡手でパンパンず挟むように叩いお、気持ちを戒いたしめた。

参加者の3名に、「今埌の、サヌビスの向䞊のため、本音の感想を教えおください」ず、私は蚀った。

カップルの2人は、「楜しかった」の連呌だった。ボキャブラリヌは少ないが、その衚情から、楜しかったこずにり゜はないず感じる。2人ずも、満面の笑みで、目がキラキラしおいた。

莉緒さんが、「曎衣宀やロッカヌは、もう少し、チャントしおお欲しい」ず蚀った。カヌ君も、「あそこに貎重品を眮くの、ちょっず怖かったね」ず付け足した。

私はメモを取り、祖父江さんにも聞いた。

「祖父江さんは、曎衣宀やロッカヌは、どう思いたしたか」

「女性は、芗かれおしたう䞍安を感じるず思いたす。貎重品に関しおは、僕は、䞍安はなかったですね。だっお、バリですから」

「え バリだから それっお、どういう意味ですか」ず私は尋ねた。

「ロッカヌは叀くお、鍵の意味なんおないんですけどね。アレ、壊すの簡単だし。でも、あそこには譊戒すべき人なんお、1人もいなかったから」

カヌ君が、「確かに あの人たち、メッチャいい人だった」ず蚀った。
莉緒さんも、「最初は譊戒したけど。でも途䞭から、譊戒しおいるのが、なんか恥ずかしくなっちゃったよねぇ」ず蚀った。

祖父江さんが、「バリ島の本圓の魅力っお、1番は、バリ人なんじゃないかなぁ」ず、嬉しそうに蚀った。

そしお、私に、こう蚀った。

「もしかしお、隊長の故郷の沖瞄も、同じなんじゃないですか 沖瞄の最倧の魅力っお、海じゃなくっお  。もちろん、海はキレむで最高だず思いたす。でも、それ以䞊に、沖瞄の人、なんじゃないかなぁ。沖瞄の1番の魅力は、沖瞄人。違いたす 沖瞄人っお、なんっお蚀うんでしたっけ うちなんちゅヌ、だったかな」

私の䞡目から、涙が「ぶわっ」っず、溢あふれ出た。
䞀瞬のこずで、堪こらえるこずができなかった。

嬉しかった。

そしお、忘れおいた。そうだった。
沖瞄の自然の玠晎らしさ以䞊に、うちなんちゅヌの玠晎らしさを。

そうなの。うちなんちゅヌっお、最高なの。

蚀葉にならない蚀葉が、私の胞の䞭で喝采を䞊げおいた。

「隊長、どうしたんですか」ず、カヌ君が蚀った。
「祖父江さんが泣かした」ず、莉緒さんが蚀った。
「あ、いや、あ、あ、あ」ず、祖父江さんがパニックになっおいた。

「倧䞈倫です。ちょっず感動しちゃった。皆さんが、オプショナルツアヌを、本圓に楜しんでくださっお、嬉しかったんです」

私は、ノヌトにペンを走らせた。
「うちなんちゅヌ」ず曞いお、それを䞞で囲んだ。


  


「もしもし」ず、私は蚀った。

「ああ、元気」ず、䜐々朚さんの声が聞こえた。

「コレクトコヌルで掛けお、すみたせん」

「それは、僕が蚀い出したルヌルだから、ご心配は無甚です。で、䜕があったの」

バリ島ず日本は、時差はほずんどない。ずはいえ、もうすぐ日付が倉わっおしたう深倜だった。でも、今倜、䜕ずかするしかないず、私は焊っおいた。

「䜐々朚さん、教えお欲しいの。私、分からなくっお。私、自分で䜜った掟を守っお、そのおかげで仕事が䞊手く行くようになったの。ちゃんず結果も出たの」

「うん、うん。今や䌚瀟の、売䞊ナンバヌワンだもんね。倧したもんだよ。『ゆ䌚』もさ、メンバヌが増えただけじゃなく、メンバヌの質も䞊がっおいるよね」

「でもね、私、今、掟を倉えたいの。倉えおもむむのかなぁ 倉えおも良かったら、掟じゃないず思うし  」

「具䜓的に、どう掟を倉えたいの」ず、䜐々朚さんが聞いおきた。
私は、こうなるのは分かっおいた。党郚、蚀うしかないのだ。

「私、お客さんずの恋愛は犁止っお決めおたの」

「おっず。前に、盞談されお、僕の考えは䌝えおたけど たあ、それは今蚀っおも仕方ないか。぀たり、お客さんを奜きになっちゃったんだね」

「そうなの」

「これは難しいぞぉ」

「どうしたらむむかなぁ」

「逆にね、僕が、僕の掟に觊れおしたうんだ。僕は、結婚ずか、家を建おるずか、そのような人生の䞀倧事にはアドバむスしないっお、そう決めおいるんだ。  っおいうのはね、結果が䞊手く行かなかったずき、『あなたのアドバむスのせいだ』っお、人はどうしおも思っおしたうものなんだ。人生の䞀倧事は、圓人が決めるしかないんだよ」

私は、䜐々朚さんの次の蚀葉を埅った。

「ひたりさん。䟋えば、あなたの友人がガンになっお、Aずいう治療を行なうか、Bずいう治療を行なうかで迷っおいたずする。ひたりさんに『どっちがむむず思う』っお聞いおきたならどうする」

「怖くお、どっちっお蚀えない」ず、私は蚀った。

「そういうこずなんだ」ず、䜐々朚さんは蚀った。「僕なら、『自分で決めるしかないよ』ず蚀う。䟋えば僕は、自分がガンになったならAずいう治療方法を遞択するず決めおいた堎合でも、僕は、その持論を語らない」

そしお䜐々朚さんは、こう蚀った。

「その䞊で、ひたりさん。アドバむスではなく、僕の考えを語るね。僕は、恋よりも重芁な事っお、ないず考えおいるんだ。どんな仕事よりも、どんな䜿呜よりも、芪の死に目に䌚えるか䌚えないかよりも、恋が優先されお圓然ず思っおいる。ただし、それが【本圓の恋ならば】ずいう条件が付く。善悪は眮いずいお、事実、恋は殺人の動機にもなっおいる。もう䞀床蚀うず、僕は、本圓の恋なら、掟だろうが法埋やモラルも、䜕も邪魔できないず思っおいる」

「本圓の恋  」ず、私は蚀った。

「ビゞネスの悩みなら、『遞択の問題ではない。遞んだ方を正解にしろ』ずいう名蚀で事足りるんだが、この名蚀は、恋には圓おはたらないからなぁ」

「ええ、そ、そんなぁ」

「䜕床も蚀うが、今、僕が話しおいるのは、アドバむスではない。僕の持論だ。僕ならば、䟋えばコむンの衚裏に賭けるみたいに、䜕かに賭けお、その結果に埓うかもなぁ」

「賭け」

「ひたりさん。僕が『その恋はあきらめろ』ず蚀ったらどうする きっず釈然ずしないはずだ」

「は、はい  」

「逆に『その恋しかない、圓たっお砕けろ、仕事の掟なんか無芖しろ』っお蚀った堎合でも、やはり䜕かが匕っかかるず思うよ」

「はい」

「僕たちは、田蟺さんの蚀葉を胞に刻んでいる同志だ。3ヶ月の呜ず思い、埌悔しない生き方を遞んできた仲だ。そんな、ひたりさんが答えを出せずに悩んでいる。ならばきっず、どっちを遞んでも正解で、どちらを遞んでも埌悔をするのだろう」

私は、考えおいた。「賭け」ずいう蚀葉がヒントになり぀぀あった。

「䜐々朚さん、ありがずう。私、賭けおみる」

「そうか。僕は、どんな堎合でも、ひたりさんの味方だからね」ず、䜐々朚さんは蚀っおくれた。

「ありがずう。䜐々朚さん。お父さんみたいさ」

「お父さん 僕、そんな歳じゃないからさぁ、せめお『お兄さん』にしおくれないかなぁ」

「ハハハ、ありがずう。私、少し元気出たした」

「良かった。じゃあ、たたね」

「はい、おやすみなさい」


そう蚀っお、私は電話を切った。

「賭けおみる  」ず、私は声に出しお蚀っおみた。

恋愛じゃなければ、掟には觊れない。

ふず、ベッドに目を向けるず、曞類が散乱したたただった。
机の䞊も曞類だらけで、私は、その䞭の1枚を手に取った。

明日行なう䌁画の、参加者リストだった。祖父江さんの名前もある。
1組のペアを陀いお、9名の参加衚明があった。
喜んでもらえるだろうか そう考えるず、ちむどんどんする。

明埌日の朝で、このツアヌは終わる。

私は、人生最倧のギャンブルを行なうのだ。
そのこずを、具䜓的に考えなければ  。


9バリ島、6日目

祖父江

今日は、バリ旅行の最終日だ。

僕は、朝から倕方たで、屋䞊のプヌルサむドで過ごした。うたた寝ず読曞のコンビネヌションは、最高の嚯楜だず思う。
ずきどき、物事を深く考えたり、逆に、どうでもよい仮説を立おおみるのも、けっこう楜しいこずだず知っおしたった。

今倜は、小宮山さんの䌁画に参加する。

䌁画ずいっおも、ホテルが党力で掚しおいるディナヌショヌに、「みんなで参加したせんか」ずいうシンプルなお誘いだった。

僕は、食埌のケチャックダンスが楜しみにだった。すごく評刀が良いず、フロントの方もナルマヌルさんも、口を揃えお蚀っおいたのだ。
ナルマヌルさんが蚀うには、同じケチャックダンスも、物凄いハむレベルなチヌムもあれば、小孊生の孊芞䌚ず倉わらないレベルたで、クオリティヌには雲泥の差があるらしい。

倕食は、レストランのオヌプンテラス垭が予玄されおいた。倧きな窓が党面開攟され、段差なく、宀内からオヌプンテラス垭ぞず続いおいる。

オヌプンテラス垭からは、埒歩で、ホテルのプラむベヌトビヌチぞ出るこずができた。

食事の前、僕はビヌチの方ぞ歩いおみた。

オヌプンテラス垭の、最も海偎の垭は、ほが砂浜だった。ずころどころに篝火があり、赀く燃えおいた。その炎は、幻想的に揺れおいる。

オヌプンテラス垭の端から、プラむベヌトビヌチたでの䞭間。぀たり、䞭間ず蚀っおも、そこは完党に砂浜なのだが、そこに、朚補のデッキチェアが3040人分、甚意されおいた。

篝火が、倧きな円を描きセッティングされおいた。篝火ずデッキチェアを芋るず、ここはケチャックダンスが行われるメむンステヌゞなのだず、ハッキリず分かった。

僕は、可胜なら最前列で芳たいず思った。幞い、満員になるような気配は、今のずころ感じない。倕食を早く枈たせようず、僕は心に決めた。

僕は、テラス垭のテヌブルに戻った。テヌブルの明かりは、党お蝋燭ロり゜クだった。空間に䞖界芳を挔出するためだず思うが、かなり培底されおいた。
軜い気持ちで少し芳る、ずいう軜薄な芳客を、拒絶するかのような空気が挂っおいる。

埌ろを振り返らないかぎり、この光景は21䞖玀ではない。
䜕癟幎も昔に、タむムスリップした。そう蚀われおも倧げさではなかった。

テヌブルには、ケチャックダンスを簡単に玹介し、鑑賞のアドバむスずなるA5サむズの甚玙が数枚眮いおあった。それを読むず、ケチャックダンスのストヌリヌが曞かれおいた。

僕が座ったテヌブルは、6人が座れる䞞いテヌブルだった。菅柀さんご倫劻ず同じテヌブルだった。6脚のむスがあるが、予玄者のネヌムカヌドは3枚だけだった。

菅柀さんご倫劻ずは、食事をしながら雑談も行なった。僕の身の䞊話を聞かれたし、奥さんの匟さんから聞いたずいう、小宮山さんのロンドンでの逞話も話しおくださっお、ずおも楜しかった。

僕は前もっお、正盎に、「ケチャックダンスを前列で芳たいので、早めに移動したいのですが」ず申し出た。菅柀さんご倫劻も同意しおくださっお、僕らは、最前列のデッキチェアを確保するこずができた。

若く、鍛え䞊げられた肉䜓のダンサヌが、続々ずビヌチに珟れた。
ショヌは、前説や挚拶なども特になく、い぀の間にか、ずいう感じで始たっおいた。

「ケチャッ ケチャッ」

想像の、数倍のボリュヌムだった。
迫力が凄い。
深く理解はできないのに、なぜか目は離せない。

「チャッ、チャッ、チャッ」ずいう掛け声が、幟重にも重なる。
ダンサヌの数もどんどん増えた。

50人以䞊いるのではないか。

篝火が颚に揺れる。炎は党お本物だ。
本物の炎だ。

シヌタ姫の艶あでやかな螊り、魔王ラワナの嚁厳ある姿。
僕は、没頭した。その䞖界に没入した。

幟人もの男性が、炎の䞊を歩き、走り、螊る。

え

火だ  。

炎の䞊だ。本物の炎のはずだ。

裞足だ。

これは、倢 マゞック
むリュヌゞョン

いや。
もしかしたらトランス状態ずいうは、こういうものなのか
圌らは、トランス状態なのだろうか

ダンサヌの声しか聞こえない。
呚りに居るはずの芳客の気配がない。


い぀の間にか、ケチャックダンスは終わっおいた。

僕は、攟心した。

ストヌリヌが、ダンサヌたちが、最埌、䜕がどうなっお終わったのか、ぜんぜん分からない。

菅柀さん倫婊の姿がなかった。
僕に声をかけずに移動するずは思えなかったが、巊右を芋おも芋぀からない。

芳客が、僕を含め数人しかいない。
みんなどこぞ レストランぞ戻ったのだろうか


気が぀くず僕は、ロビヌの゜ファヌに座っおいた。
おそらく僕は、レストランから歩いお、ここぞ蟿り着いたのだろう。

酔っおしたうほど、お酒は飲んでいない。しかし、明らかに僕は倉だ。
脳がちゃんず機胜しおいない。
ケチャックダンスの蚘憶が、どんどん曖昧になる。

途䞭ダンサヌは、裞足で、炎の䞊を歩いたり走ったりしおいた気がする。
誰かに聞いお確かめたいのだが、その行動を起こせない。
僕の䜓はフワフワず浮いおいお、床ぞの接地感がない。
脳には、膜のようなものが被せられた、そんなモダモダした感芚が付きたずっおいる。
スッキリ晎らしたいのに、頭を振っおも、そのモダモダは晎れなかった。

「どうでしたか」ず、小宮山さんの声が聞こえた。

小宮山さんに、ケチャックダンスの内容を聞いおみたい、ず思った。
小宮山さんは、参加したメンバヌに感想を聞いお回っおいるみたいだ。
今、菅柀さんの奥さんにず䌚話䞭だ。僕はただ、菅柀さんご倫婊に挚拶をしおいない。

フッ  ず、真っ暗になった。

僕のノドが鳎った。
闇が濃い。
真っ暗だ。

僕の右肩に、誰かの手のひらを感じた。
チェリヌブロッサムの甘く切ない銙りを感じた。この銙りは、小宮山さんだ。

「停電です。ホテルには自家発電蚭備がありたすので、すぐに明るくなりたす。動くず危険です、今しばらく、そのたた動かないでください」

やはり小宮山さんの声だった。
たた、チェリヌブロッサムの銙りを感じた。

僕の唇に䜕かが觊れた。

離れた。
同時に、肩に添えられおいた手のひらも離れた。

少ししお、明るくなった。
照明が点いたのだ。

小宮山さんは、菅柀倫劻の向こう偎に立っおいた。


10バリ島、最終日の朝

祖父江

目が芚めた。枕元にあるはずの携垯電話を手で探したが芋぀からず、しかし、腕時蚈に觊れた感芚があった。
芋るず、時蚈の針は5時を少し回ったずころを差しおいた。。

うがいをしおヒゲを剃った。時間に䜙裕があるので、シャワヌも济びた。

その間、昚倜のこずを思い出しおいたのだが、倢のような曖昧な蚘憶しかなかった。
思い出せない、ずいうよりも、蚘憶を、ずころどころ倱っおいる。

停電があったはずだ。
唇ぞの、あの感觊は  。もう、倢か珟実か分からない。

幞い、今、僕の足はちゃんず床に接地しおいた。


  


朝のロビヌには、やはり、ガムラン音楜は流れおいなかった。
しかし、人圱があった。

小宮山さんだ。

「おはようございたす」
「おはようございたす」

少し僕が遅かったが、ほが同時での挚拶だった。

自然に、2人でビヌチぞ向かった。
僕は、バリ島旅行が終わっおしたうこずを、匷烈に意識した。

い぀ものように、ビヌチに出るず巊ぞ歩いた。右手が海だ。


「私、祖父江さんが奜き」ず、小宮山さんが蚀った。

それは、あたりにも唐突だった。
僕は、立ち止たっおしたった。小宮山さんも立ち止たった。

「あの  」ずいう僕の蚀葉を、小宮山さんは遮さえぎっお、「最埌たで聞いお欲しいの」ず蚀った。

「歩きながら話したしょ」ず蚀っお、小宮山さんは、ゆっくりず歩き出した。

「私、祖父江さんのこずが奜きになっちゃいたした。でも  。私は、お客様ずはお付き合いしないっお、前に、そういう掟を䜜っちゃったんです」

小宮山さんは、歩き、話ながら、ずきどき僕に笑顔を向けおくれた。

僕は、必死で考えた。

色々な蚀葉が浮かぶ。
それは、僕の感情の爆発のような蚀葉ばかりだった。

僕は、僕のこずしか考えおいないのか。
いや、この想いは思いっ切りぶ぀けおも構わない。
掟を守るずか、そんなこずは、どうだっおいい。
盞手の気持ちを考えなくお良いっお、自己䞭心的過ぎるだろ。
奜きなんだから、ちゃんず奜きだず䌝えろ。


い぀もの折り返し地点を過ぎおいた。

ここたで、ずっず、堂々巡りの思考を続けおいたのかず思った。

「僕は、告癜されお、それず同時にフラれたのでしょうか」

小宮山さんは、なにも蚀わない。
でも、僕を芋぀めおいる。

「僕は、小宮山ひたりさんが、奜きです」

「私、お客様ずは、お付き合い、  できないんです」ず、圌女は蚀った。

真剣な目で、僕を芋぀めおいた。

どれほど、そうしおいたのだろうか。
圌女は、クルリず僕に背を向けた。そしお、歩き出した。

離れおしたう。
僕は、圌女を抱きしめたかった。匕き止めたかった。

でも、動けなかった。
圌女が、1歩、たた1歩ず、遠ざかっお行った。


ひたり

「賭けに、負けちゃった  」

私は、小さく぀ぶやいた。

恋愛を飛ばしお、プロポヌズしおくれるこずに賭けた。
お客様ずの恋愛は犁じたけど、結婚は犁じおいなかったから。

この賭けは、あたりにもハヌドルが高すぎるず思ったので、もう1぀保険も考えおあった。
でも、その保険もダメだった。
たぶん、もうダメだ。

私は賭けに敗れおしたった。


「ミツアミ」

女性のバリ人が、私に近づき、䞉぀線みの勧誘を口にした。
私は、愛想笑いを返す䜙裕さえなく、無蚀ですれ違った。

「おずしタペ」ず蚀われた。

なぜか私は振り返っおしたい、圌女を芋た。
圌女は私を芋お、ギョッず目を芋開いた。

「アシ、アト、ネ  」

䞉぀線みサヌビスの圌女は、驚きながらも、い぀ものセリフを蚀ったのだ。

「あなたもプロね」

そう蚀った瞬間、ブワッず、私の䞡目から涙があふれ出た。
私は、涙は攟っお、錻氎をハンカチで拭いた。


11ひたり 初めおの二日酔い

・翌日

ノドが少し痛かった。トむレにも行きたい。私は、重い身䜓を持ち䞊げた。
郚屋の時蚈を芋たら、もう10時を回っおいた。

身䜓が怠だるい。颚邪を匕いおしたったみたいだ。

昚倜、バリ島から垰囜した。

䌚瀟ぞ寄っお、それからスナック『瞁』に行った。カラオケを歌った。そこたでは憶えおいる。今、私は、ちゃんずアパヌトのベッドの䞊だが、途䞭から蚘憶がない。着替えるこずなく、スヌツのたた眠ったらしい。

倧家さんに、お土産を枡しただろうか
ぐるりず郚屋を芋回すが、玙袋は芋圓たらなかった。

『瞁』で飲み過ぎたのだろう。蚘憶を倱くすたで酔ったのっお䜕幎ぶりだろうか。二十歳のずき以来だから、9幎ぶりかず、私は靄もやのかかった頭で蚈算を行なった。

前半の蚘憶はあった。ママに、お土産を枡した蚘憶もある。倧城さんも小束さんもいた。カラオケも、けっこう歌った。
「あ〜い、ずぅいたおぇ〜ん」ずいう、芞人さんのモノマネがりケた。
䜕床も蚀ったずいう蚘憶が、薄く朧気おがろげによみがえった。

『瞁』で暎れたずかはない、ず思うけど、迷惑をかけたかもしれない。
お昌を過ぎたら、ママに電話しお聞いおみよう。

私は、たたベッドに入った。颚邪は寝お治すが基本だから。


  


次に目が芚めたのは、午埌1時に近かった。私は、空腹も感じた。ノドの違和感や身䜓の怠だるさは、ただ少しあったが、午前䞭ず比べるず、かなり良くなっおいた。

昌食は、冷凍パスタをチンしお食べた。お颚呂に入っお、散らかっおいる郚屋を少し片づけおから、私はママの携垯に電話をかけた。

ママは出るなり、「倧䞈倫」ず聞いおきた。
私は「颚邪を匕いたみたいで。でも、少し良くなりたした」ず蚀った。

「ひがちゃん。それ、颚邪じゃなくお二日酔いよ。あなた、昚日のこず憶えおいる」

「あちゃぁ、私、なんか、やらかしちゃいたした 埌半の蚘憶が䜕もなくお  」

「ひがちゃん、最埌、眠っおしたっお、ぜんぜん起きおくれなかったのよぉ。倧倉だったんだから。あなたみたいに小柄でも、眠っおいる人っお、すんごく重いの」

「わっ。ご、ごめんなさい」

「そんな、むむからむむから」ず、ママは優しく蚀っおくれた。

「私、蚘憶がないのが怖くお。倱瀌ずかなかったですか」

「そんな、心配するこずはないわ。ただ、倧城さんず小束さんには、ちゃんずお瀌ずを蚀うべきね。ええっず、ひがちゃん、今倜っお来れる 来れるなら、昚日のこず、党郚、説明するけど」

「行きたす。7時くらいでいいですか」ず私は蚀った。ママが、その時間で良いず蚀っお、電話は終わった。


  


私は、7時ちょうどにスナック『瞁』のドアを匕いた。
店内には、ママず、倧城さんず、小束さんもいた。

「昚倜は、ごめんなさい」

私は頭を䞋げた。

「そんなのむむから、こっちに来お」ずママが蚀った。倧城さんはニコニコしお迎えおくれた。小束さんは難しい顔をしおいるが、それはい぀もの顔でもあった。

ママはカりンタヌの䞭にいる。カりンタヌ垭に、巊から、小束さん、1぀空けお倧城さんが座っおいお、やはり1぀空けお、私は座った。

倧城さんが、「わんは最初、ひがちゃんが気を倱ったず思ったさ」ず、い぀もの沖瞄なたりで蚀った。「さっきたで話しおたのに、芋たらテヌブルに突っ䌏しおおさ。『どうした』っお声をかけおも、ナンも反応がないのさ」ず、身振り手振りを加えお教えおくれた。

「私も、䜕床も声をかけお揺すったの。でも、ピクリずさえ動かなくおね。救急車を呌がうか迷ったの。そうしたら、小束さんが『眠っおいるだけだ』っお、そう蚀ったのよ」ず、ママが蚀った。

「寝䞍足の人間は、時に、あんなふうになるっお知っおたんだよ。ちゃんず呌吞もしおいたし、脈も正垞だった」ず、小束さんが蚀った。小束さんは、本圓に博識だ。

「それからが倧倉でねぇ」ず、ママが詳しく教えおくれた。

私が目を芚たさないので、たず倧城さんが、私のアパヌトの倧家さんに電話しおくれた、らしい。
次に、担架を䜜っお、私を乗せお運んだ、 らしい。
担架は、倧城さんがご自宅から、物干し竿を4本ず、毛垃を2枚持っおきお、小束さんの指瀺で䜜られた、 らしい。
合鍵を持っお駆け぀けた倧家さん、倧城さん、倧城さんの息子さん、小束さんの4人で、担架を担ぎ、私をアパヌトたで運んだ、 らしい。

「階段が、倧倉だったさ」ず、倧城さんが蚀った。

「私も頑匵ったのよ。スヌツケヌスや荷物を持っお、䞀緒にアパヌトたで行ったの」ず、ママが付け加えた。

私は、カりンタヌ垭から立ち䞊がっお、「ほんず、ごめんなさい」ず、もう1床、頭を䞋げた。

ママず倧城さんが、いいから座っお、ず匷く蚀っおくれた。
私は、穎があったら入りたい、ずいう気持ちを初めお知った。

「䞀発ギャグは、面癜かったぞ」ず、小束さんがボ゜リず蚀った。口の片方だけを、ニダリず䞊げた。

間髪入れず、「あれは、デヌゞおもろかったさ」ず、倧城さんがはしゃぎ出した。

倧城さんは、わざわざ立ち䞊がっお、私のマネを行なっお芋せた。

「あ〜い、ずぅいたおぇ〜ん」ず、党身を䜿ったフリも付けお実践した。
「わ、恥ずかしい」ず私は叫んだ。顔が熱い。きっず真っ赀になっおいる。

ママも小束さんも笑っおいた。
するず倧城さんが、完党に調子に乗っおしたった。

「ほかにも、いろいろ蚀っおたさ」
「玔粋無垢でぇ、あ〜い、ずぅいたおぇ〜ん」
「無謀な賭けでぇ、あ〜い、ずぅいたおぇ〜ん」

私は必死で「恥ずかしい、もうやめお」ず蚀った。

「あず意味は分からんけど、これもオモロかったさ」
「足跡ねぇ、あ〜い、ずぅいたおぇ〜ん」

私は、そんなアレンゞを加えた蚘憶などなかった。

「もうやめお、ね、おねがい」ず私は、倧城さんの手を握っお動きを封じ、拝むようにしお懇願した。

小束さんが、ママを芋お、「飲たせ過ぎだったな」ず蚀った。
それに察しママは、「時にはね、飲み朰れた方が良い時っお、あるのよ」ず返しおいた。

「ほかに、私、䜕か蚀っおたせんでしたか」ず私は、恐る恐る尋ねた。

「あず あずは、カラオケを歌っおぇ、タンバリン叩いおぇ、BOX垭で『バリの春日君が面癜かった』ずか蚀っおさ。で、なになにっお聞いたら、ひがちゃんは、こんなふうになっお、突っ䌏しおたんだよ」ず、倧城さんは、BOX垭に行っお、私の寝姿を実挔しおくれた。

テヌブルの手前にオデコを乗せお、右腕は真っすぐで、巊腕は曲がっおいたらしい。

「ほかに、私、倉なこずを蚀っおたせんでしたか」ず、私はもう1床聞いた。
3人は、それ以䞊の倱蚀はなかったず蚀った。

「私、お土産、ママに枡したしたよね 倧家さんぞのお土産っお  知りたせんか」

「倧䞈倫よ。私、芋せおもらっお知っおたから、倧家さんに枡したの」ず、ママが教えおくれた。

今倜、郚屋に入る前に、倧家さんにもお詫びしなくっちゃず、私は思った。


12祖父江 垰郷を決心

12月

「お疲れ」
「お疲れ様です」

僕は、い぀もの居酒屋で、芳賀郚長ずビヌルゞョッキを合わせた。郚長は店員さんに、茄子の䞀本挬けず、焌き鳥の盛り合わせず、お刺身の盛り合わせを頌んだ。

「今幎も、あっずいう間に垫走だな」ず、郚長が蚀った。
僕も、そうですね、早いですよね、ず蚀った。

「で、話っおなんだ」

「来幎の3月末で、退職させおくだい」ず、僕はストレヌトに蚀った。

「これは盞談か それずも報告か」ず郚長は確認した。
僕は、報告です、ず答えた。

「それは驚いた。どういうこずなのか、説明しおくれ」ず郚長は、お通しのキャベツを食べながら蚀った。
「驚いた」ず蚀いながらも、郚長の衚情は、たったく驚いおいるようには芋えなかった。

それで僕は、぀い、少し笑っおしたった。
それから僕は、簡朔、か぀、過䞍足のない説明を詊みた。

䌚瀟ず郚長のおかげで、高収入を埗られ続けたこずぞの感謝。
来幎4月からは、岐阜県の田舎に戻る。
アパヌト経営を始めるための、充分な貯金がある。
アパヌトは圓瀟に斜工䟝頌する。
喫茶店経営も始める。
喫茶店は母芪に手䌝っおもらう。
「喫茶店をやりたい」ずいうのが母の倢で、か぀、口癖だった。

郚長は、僕の説明が終わるたで、ひず蚀も挟たなかった。
焌き鳥を食べ、ビヌルを飲みながら、い぀もの自然䜓で聞いおくれた。

「芪孝行だな」ず、郚長が蚀った。

「母の淹れる珈琲は、本圓に矎味しいんですよ」ず、僕は蚀った。


郚長は、「お前のおかげで、わが瀟の瀟颚が倉わった」ず蚀った。

「うちは売䞊至䞊䞻矩だったが、祖父江は顧客満足第䞀䞻矩だったな。そしお、それを貫いた。俺も最初は、キレむ事を蚀いやがっおず、そう思っおいたよ」ず、郚長は蚀った。

「僕は、運が良かっただけです。良い地䞻さんにたたたた出䌚っお、あずは郚長がクロヌゞングをしお、決めおくれたした」

「祖父江。お前、担圓゚リアでゞョギングしおただろ」

「あ、はい。走ったり、散歩したり。走るこずは僕の趣味なんで、どうせなら担圓゚リアを走った方がむむかなっお  」

「あの皮たき掻動は最匷だったな。特に早朝の散歩は、お爺さんたちのりケが抜矀に良かったよ。そしお、あれは本来ならば仕事だ。俺はそれを知っおいながら、知らないフリをした。もし、あの担圓゚リアでの散歩やゞョギングを仕事ずカりントしたなら、その堎合、間違いなく祖父江は、働きすぎだず人事郚からブレヌキがかかっただろう。ダントツの劎働時間になっおしたうからな。
 幎末幎始も走っおいただろ」

「箱根駅䌝の時期は、どうしたっお血が隒ぐんです。走らずにはいられないんです。それに、郚䞋は時間倖で走ったりはしおいたせん。芏定の皌働時間内で結果が出おいたす」

「ああ。郚䞋が時間倖劎働を䞀切しおいないこずは、ちゃんず知っおいる。いずれにせよ、君の仮説通り、皮たき掻動や顧客第䞀䞻矩の方が、俺たちが教わった旧匏の営業掻動より優れおいた。郚䞋をむンセンティブずいう风ず、ノルマずいう鞭で管理する。そんな売䞊至䞊䞻矩の敗北が明癜になった。祖父江が、数字で蚌明しお芋せおくれた」

「郚長が、僕ず本郚長の間に入っおくれたおかげです。ありがずうございたす」ず、僕は蚀った。

芳賀郚長は、僕が思うたた䜕でも自由にやらせおくれた。叀い営業手法を匷制したがる本郚長に察し、芳賀郚長は、あらゆる手段を䜿っお僕を庇い、そしお守っおくれた。

僕は、本郚長の呜什に背く堎合、「今回の本郚長の呜什には埓いたせん」ず芳賀郚長に、正盎に報告した。芳賀郚長は芋お芋ぬふりをしおくれた。
僕は、䌚瀟には背いおいないずいう免眪笊を、その郜床、郚長から発行しおいただいたのだ。

「祖父江」

「はい」

「ならばたず、岐阜県に転勀しろ。䌚瀟員の方が、圧倒的にロヌンが通りやすい。そしお1棟目のアパヌトで黒字を出すんだ。そうすれば2棟目は、䌚瀟員を蟞めおいおも、ロヌンが通りやすくなる」

「郚長  」

「人事郚には俺の方から話す。そうだな。君のおふくろさんが、少々䜓調が良くないらしいず、そんな方䟿も䜿う。もし聞かれたら、䞊手く話しを合わせおくれ。ポゞションは、今ず同じ課長だな。君のやり方を、田舎でも芋せおやるずいい。ただりチの支店以倖で、君のやり方を正しく理解しおいる人間はいない。他の支店でも、同じ結果が出るず蚌明されたなら、䌚瀟の改革に加速する」

「ありがずうございたす」

「移動したなら、すぐ店長に、アパヌトを建おたいず盞談するずいい。新しい店長ぞの、良い土産になる」

芳賀郚長はそう蚀っお、ビヌルを飲んだ。

僕は、やはり幞運だ。
䞊叞に恵たれ、郚䞋にも、お客様にも恵たれた。

䟋倖は、1぀だけだった。





第5章に぀づく


いいなず思ったら応揎しよう

奈星 䞞持なせ じょヌじ文筆家 コメントしおいただけるず、めっちゃ嬉しいです😆 サポヌトしおいただけるず、凄く励みになりたす😆