「カンニングの練習」をした学生、まさかの退学
ある日、学生が事務室にやってきた。
「さきほどの授業で臨時試験があったんですが……」
そして、こう続けた。
「試験前の休み時間に、学生AとBがカンニングの練習をしていました」
どうやら、然るべき処分をしてほしいという思惑もあったようだ。
話を聞くと、なかなか奇妙な「練習」だった。
Aが教壇の上に立ち、Bは机の下でスマホを操作する。その状態で、教壇からスマホの画面が見えるのかを試していたという。
「OK、OK 見えへん!」
そして二人の結論は、
「これなら見えないだろう」
だったらしい。
決定的な証拠はない。
すでに試験も終わっているし、教室に防犯カメラもない。
とはいえ、学生からの申し出を「はい、そうですか」と受け流すわけにもいかない。
そこで、とりあえずAとBを呼び、事実確認をすることになった。
「試験前に、教壇に立って、Bとカンニングの練習をしたという申し出があったんだけど」
私は、当然否定すると思っていた。
「そんなことするわけないです!」
あるいは、
「証拠でもあるんですか!」
と反論してくるかもしれない。
ところが。
「あー、やりました、やりました」
あっさり認めた。
「え?」
「あれは遊びですよ。もしカンニングする人がいたら、先生は見つけられるのかなって、角度とか試してみただけです」
なるほど。
休み時間に「実験」はした。
しかし、試験中にカンニングをしたわけではない。本人たちは、そういう主張だった。
次に、担当教員にも報告した。
「AとBが、試験前の休み時間に、教室でカンニングの試行をしていたという申し出がありました」
教員は驚いた。
自分の監督が甘かったことも反省していた。
私自身は正直、かなり疑わしいと思った。
「本当に試験中はやっていないのか?」
しかし、決定的な証拠はない。
証拠がない以上、それ以上の追及はできなかった。
ただ、私が思ったのは、
「やるなら、なぜ試験直前に、その教室でやるんだ?」ということだ。
別の教室で試行してみたらよい。
本人たちに悪意がなかったとしても、他の学生から見れば、完全にカンニングの疑惑である。
あまりにも浅はかだ。
ところが事件は、思わぬ方向へ進んだ。
その後、Aが自主退学したのである。
え?
退学するの?
だったら、
単位、欲しかったの?
欲しくなかったの?
カンニングを疑われるような「練習」までしておいて、最後は大学を辞めてしまう。
結局、試験中に本当にカンニングをしたのか。
あの「練習」は何だったのか。
大学職員の私にも、最後まで分からなかった。
事件は謎に包まれたまま、幕を引いた。
