【エッセイ】 焼きそば一口ちょうだい作戦
みなさん、ご飯を食べに行ったとき、相手の注文した料理が、ものすごく美味しそうに見えることはないだろうか?
私は、いつもだ。
そして、「なぜ自分はこっちを頼んだのだ……。あっちはあんなに美味しそうなのに」と後悔する。
メニューの岐路に立たされた私は、いつも望まぬほうへ行ってしまう。
これは、家族で定食屋に行ったときの話。
私はチキン南蛮定食。
息子は大好きなハンバーグ定食。
妻は焼きそば定食。
私と息子の料理が先に到着し、程なくして妻の料理も運ばれてきた。
鉄板の上に乗った焼きそばが、ジュージューと音を立てている。
初めから嫌な予感がしていた。
何なのだ、あの『ジュージュー』という音は。
まるで、「私、美味しいので、少しうるさめに失礼します」と自己紹介しているかのよう。
焼きそばのコーラス隊が、私の食欲の鼓膜に直接語りかけてくる。
さらに、鉄板から漏れる香ばしい匂いが私を誘う。
『この焼きそばめ、艶めかしくクネクネしやがって』
『そんなもので、この私は惑わされんぞ!!』
「………。」
(ひとくち、ほしい!!)
秒速で焼きそばの誘惑に落ちた私は、何とかして食べる方法を模索し始めた。
だが、よだれを垂らしながら「ひとくち恵んでくだせぇ……」と言うのも品がない。
もっとスタイリッシュに奪うことはできないものか。
私はいくつかのプランを立てた。
まずは、作戦Aを決行する。
「あっ、焼きそば頼んだんや。全然知らんかった。ふ〜ん………美味しい?」
「うん、めっちゃ美味しい」
「………。」
くれない……。妻は焼きそばをくれない。
ただイタズラにその美味しさを再認識させられ、食べたい欲求が暴走しただけだった。
作戦A、あえなく失敗。
これより、作戦Bに移行する。
「俺のチキン南蛮、ひと切れ食べる?」
「うん、食べる」
「………。」
くれない……。妻はやっぱり焼きそばをくれない。
えっ?どういうこと? ギブ・アンド・テイクやろ?
チキン南蛮のひと切れの割合、エグいぞ!
焼きそば何本分やと思ってんねん……。
チキン南蛮の1/6を持っていかれた私は、
泣きながら残りをむさぼっていた。すると、
「はい」
妻が焼きそばを差し出してくれた。
(えっ、泣きそう……。妻よ、愛してる、結婚しよう)
だが、ここでふやけた顔で「えっ、ええの!ほな、いただきやす!」なんて言えば、旦那としての格好がつかない。ここはこらえろ、ワシ!
私はすまし顔で答えた。
「おっ、お、お腹いっぱいなんか? しゃあないな、食ったるわ……」
妻はすべてを見透かした顔で言う。
「いや、食べたいんやろ?」
「………。」
私は目をイワシくらい泳がせながらほざいた。
「そ、そないなこと、あるかいな……」
と言いながら、箸はすでに妻の焼きそばへと伸びている。
『おいしい……すごく……おいしい』
今すぐ呼び出しボタンを押して、「シェフを呼んでくれないか?」と言いたい。
だが、ここはチェーン店の定食屋。多分呼べば、アルバイトの子が来る。
私は静かに心のボタンを押し、「ありがとう」と呟いた。
その焼きそばが格別に美味しく感じたのは、
ソースと一緒に妻の「優しさ」が乗っていたからかもしれない。
――焼きそば一口ちょうだい作戦Cを、皆さんにお見せしなくて本当に良かった。
なぜならそれは、「頼むから、そのそばを何本かだけ食わせてくれ!!」と、テーブルに頭をこすりつけながら懇願する、見るに堪えないおっさんの姿だったからだ。
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