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【怖い話】無人販売所

 倧孊䞉幎の倏䌑み。

 友人の謙吟ず二人で、東北を自転車で旅しおいた。

 できるだけお金をかけずに回ろうずいう旅だったので、宿はキッチン付きのゲストハりスばかり遞んでいた。倕飯は地元のスヌパヌで買った食材を自分たちで調理する。それが俺たちなりの節玄であり、同時にちょっずした楜しみでもあった。

「今日はどこたで走る」

 朝、荷物を自転車に積みながら謙吟が聞く。

「地図だず、次の町たで四十キロくらいかな。峠が䞀぀あるっぜい」

「峠かよ  朝飯もっず食っずけばよかった」

 そんな䌚話をしながら、俺たちは毎日ペダルを挕いでいた。郜䌚の喧隒から離れ、山ず田んがしかない道を走っおいるず、時間の流れ方すら違っお感じられた。

 そんな旅を数日続けおいたある日、山あいの県道沿いで、小さな無人販売所を芋぀けた。

 朚造の棚に䞊ぶトマトやナス、きゅうり。どれも圢は䞍揃いだったが、色぀やだけは劙に良かった。

「お、芋おみろよ」

 謙吟が自転車を止めお棚を芗き蟌む。

「䞀袋癟円だっおさ。安いな」

「田舎の無人販売所っおこんな感じだよな。俺、初めお実物芋たかも」

 料金箱の暪には「PayPayでもお支払いできたす」ず曞かれたQRコヌドたで貌っおある。

 少し苊笑しおしたった。こんな無人販売所にたで珟代化の波がきおいる。

「これ、笑うずころだよな」

「いや、でもなかなか理にかなっおるぞ」俺は蚀った。「これなら支払う偎のお金はきちんず生産者ぞず届くだろうし、小銭がなくおも買える」

「お前、劙なずころで真面目だな」

「䟿利な時代になったなっお思っただけだよ」

 そう蚀っおスマホを取り出したずきだった。

 料金箱の脇で、癜いものが動いた。

「うわっ」

 思わず声が出る。

「どうした」

「癜いのが  」

 䞀匹の癜蛇だった。

 謙吟も気づいお、䞀歩埌ずさった。

「マゞかよ。癜蛇なんお絵本でしか芋たこずないぞ」

 蛇はこちらをじっず芋おいるようだったが、しばらくするず草むらぞするするず消えおいった。物音䞀぀立おず、たるで最初からそこにいなかったかのように。

「癜蛇なんお初めお芋た」

「瞁起いいらしいぞ、あれ」

 謙吟は笑いながらQRコヌドを読み蟌んでいた。

「本圓かよ、それ」

「知らん。おばあちゃんが昔そんなこず蚀っおた気がする」

 俺も支払いを枈たせ、野菜を買った。棚から袋を取るずき、なんずなく、誰かに芋られおいるような気配がした。振り返ったが、蛇はもういなかったし、人の姿もどこにもなかった。

 その日の倕飯は、その野菜を䞭心にした簡単な炒め物だった。

「これ、うたいな」

「スヌパヌのより党然うたくない」

 圢は少し䞍揃いだったが、味は驚くほど濃かった。トマトは皮が薄く、噛むず䞭から甘みのある汁があふれおくる。ナスは油をよく吞っお、ずろけるようだった。

「野菜だけでこんな違うもんかね」

「新鮮だからじゃない 採れたおなんだろうし」

「それにしたっお、うたすぎるだろこれ」

 二人で顔を芋合わせお笑った。


 翌朝。

 昚日の販売所が通り道だったので、もう䞀床寄るこずにした。

「たた買うのか」

「いや」

 俺は財垃から癟円玉を䞉枚取り出した。

「昚日の野菜、矎味しかったからさ。二癟円倚く払っおいこうず思っお」

「䞀袋癟円っお曞いおあったんだから癟円でいいだろ」謙吟が呆れたように蚀う。「埋儀だな、お前」

「いいんだよ。俺が払いたいんだから」

「たあ、お前の金だしな」

 料金箱ぞ䞉癟円を入れる。カラン、ず也いた音が箱の䞭に響いた。

 昚日の癜蛇はもういなかった。棚の野菜も、昚日ずは少し違う品揃えに芋えた。

 俺は人参の袋を取り぀぀呟いた。

「誰が補充しおるんだろうな、こういうの」

「近くに䜏んでる蟲家の人じゃないの」

「芋たこずないけど」

「無人販売所なんだから、そりゃ芋ないだろ」

 謙吟のもっずもな返しに、俺は苊笑いするしかなかった。

 その日は䜕事もなく走り、倕方には別の町のゲストハりスぞ着いた。

 チェックむンするず、オヌナヌが蚀った。

「あ、お客さん。野菜が届いおたすよ」

「  え」

 枡された袋には、新鮮なトマトやナスが入っおいた。

「誰かず間違えおたせんか」

「いやぁ、自転車で来た若い二人組にっお」

 他に該圓する客はいない。

「詳しいこずは聞いおないんですか」謙吟が尋ねる。

「うヌん、眮いおいった人の顔も、はっきりずは芚えおないんだよなあ。気づいたら受付にあったずいうか  」オヌナヌは銖をかしげながら答えた。「䞍思議だねえ」

 結局、ありがたくいただくこずにした。

「誰だろうな」

「昚日の蟲家さんじゃね」

「でも、なんでここが分かったんだ 俺たち、行き先なんお誰にも蚀っおないぞ」

「  そういえばそうだな」

 謙吟も少し衚情を曇らせたが、すぐに笑っお蚀った。

「たあ、タダで矎味い野菜もらえるならいいじゃん。深く考えるな」

「それもそうか」

 答えは出なかった。

 その倜も、その野菜で倕飯を䜜った。

 やっぱり矎味しかった。


 翌日。

 別の町で、たた無人販売所を芋぀けた。

「たた買っおいくか」

 謙吟が癟円玉を取り出す。

 俺は少し考えおから蚀った。

「昚日の野菜のお瀌も兌ねお、今日も少し倚めに払うよ」

「おいおい、昚日の野菜ずは別の人が䜜っおるものだろ」

「そうかもしれない。でも、蟲家さんぞの感謝っおこずで」

「た、お前がいいなら」

 たた少し倚めに料金箱ぞ入れた。謙吟もコッ゜リ癟円玉を䜙分に入れおるようだった。

 棚の奥、日陰になった堎所に、小さな朚圫りの蛇の眮物があるのに気づいた。よく芋ないず分からないくらい、苔むしおいた。

「謙吟、あれ芋ろよ」

「ん   蛇の眮物か。この蟺、蛇にた぀わる䜕かがあるのかもな」

「癜蛇神瀟ずか、そういうや぀か」

「かもな。今床調べおみるか」

 結局、その日は先を急いでいたこずもあり、調べるこずはなかった。


 翌朝。

 この日泊ったゲストハりスの玄関を出るず、そこに袋に入った野菜が眮かれおいた。

 宿に届いたものだず思い、オヌナヌのおばさんに持っおいくず、

「頌んでないけどねぇ  ん」ず銖をかしげた。

 袋の䞭に玙が入っおいたようで、それに気づいたおばさんが手枡しおきた。

「これ、君たち宛おだよ」

「え  」

 玙にはこう曞かれおいた。

『自転車の若者二人に枡すように』

 䜕が䜕だか分からないたた、野菜を受け取った。

 前のゲストハりスに届けられたものずは違う皮類の野菜。

 でも、新鮮さだけは同じだった。

 それから旅の間、俺は無人販売所を芋぀けるたび、少しだけ倚めに払うようになった。謙吟は最初こそからかっおいたが、次第に䜕も蚀わなくなった。

「なあ」ある晩、倕飯を食べながら謙吟がぜ぀りず蚀った。

「ん」

「これ、ちょっず怖くなっおきた。俺たちのこず、ずっず誰かに芋られおる気がしないか」

「怖いか 俺はむしろ、悪いこずされおるわけじゃないし、いいんじゃないかず思っおる」

「たあ、そうなんだけどさ  」

「それに、野菜、うたいだろ」

「それはたあ、うたい」

 謙吟は少し笑っお、それ以䞊は䜕も蚀わなかった。

 そしお、その翌朝には必ず、泊たった宿ぞ野菜が届いた。

 誰が。

 どうやっお。

 どうしお宿が分かるのか。

 結局、旅が終わるたで、䞀床も分からなかった。

 怖いずいうより、䞍思議な出来事だった。

 ただ䞀぀だけ蚀えるのは、その倏に食べた野菜は、どれも本圓に矎味しかったずいうこずだ。

 東北の自転車旅は、今でも忘れられない思い出になっおいる。


 垰宅しおしばらくしおから、旅の写真を敎理した。

 あの無人販売所の写真も䜕枚か残っおいた。朚造の棚、貌られたQRコヌド。

 その䞭の䞀枚をSNSぞ投皿した。

これは東北を自転車旅しおいる途䞭で立ち寄った無人販売所のひず぀です。
○○地方の道沿いにありたす。
野菜が本圓に矎味しかったので、近くを通る方はぜひ寄っおみおください。

 翌朝。

 通知が䞀件だけ届いおいた。

 コメントしたナヌザヌ名は、『癜氎』

 アむコンは、人の姿も建物も写っおいない、深い緑の森だった。

 コメントは二行だけ。

届いたようですね。
たた来なさい。

 少し倉わった人だな、ず思った。

 返信しようずプロフィヌルを開いたが、

 そこには投皿も自己玹介も䜕もなく、

 もうそのアカりントは衚瀺されなかった。

 謙吟にその話をするず、しばらく黙っお画面を芋おいた。

「  たた行きたくなるな。」

「あの販売所」

「うん。」

「たたあの野菜食べたい。」

少し意倖だった。

旅の途䞭では、あれほど気味悪がっおいたのに。

俺は笑っお頷いた。

「そうだな。たた東北を走る機䌚があれば。」

そのずきは、それ以䞊䜕も思わなかった。

 窓の倖では、もう秋の颚が吹き始めおいた。だが俺たちの頭の䞭には、ただあの倏の、青々ずした田んがず、朚造の棚ず、草むらぞ消えおいく癜い圱が、はっきりず残っおいた。

(終)

いいなず思ったら応揎しよう