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同じ会社が2回入った281行をAIに寄せさせたら、92組すべて当たりました — AI活用の方法を決めるのは、賢さではなく渡す列です

同じ会社が、表の中に2回入っている。

珍しくもない話です。片方は「株式会社明和運輸」、もう片方は「(株)明和運輸」。人間なら5秒で同じだと判断します。でも表計算ソフトにとっては、これは完全に別の行です。並べ替えても隣に来ません。

こういう作業を名寄せ(なよせ。表記が違うだけの同じ相手を、1つにまとめること)と言います。請求書の宛先、発送先の住所録、経費の支払先。どの現場にもあって、地味で、間違えると請求が二重になる仕事です。

文字の揺れを吸収するのは、言葉を扱う機械の得意分野のはずです。だからAI活用の方法としては筋がいい。ただ「たぶん得意だろう」で業務効率化に踏み切るのは怖い。数えることにしました。

結果を先に言うと、281行・92組を全部当てました。それでも私が変えたのは、プロンプトの書き方ではありませんでした。

9時20分 — わざと汚した取引先マスタを作る

やり方は、暦の計算や請求書の突合でやったときと同じです。

・データはプログラムに乱数で作らせる。自分で作ると無意識に手加減する
・AIは検索もプログラムも使わない。表を読んで、頭の中で判断して、答えだけ書く
・正解は別ファイルに封をして、全部答え終わるまで開かない

作ったのは架空の取引先マスタです。1行に、取引先名・住所・電話・担当者。同じ会社を2回や3回、わざと表記を変えて入れておきます。社名は「株式会社」と「(株)」を入れ替え、前後を動かし、スペースを足したり抜いたり。住所は「1-2-3」と「一丁目2番3号」を混ぜ、ビル名を付けたり落としたり。電話は「03-1234-5678」「(03)1234-5678」「0312345678」「+81-3-1234-5678」の4通りで振り分けました。

担当者名も列に入れましたが、判断には使わないと決めました。人は異動するし、同じ会社に複数の担当者がいるのが普通です。同じ会社なのに担当者が違う、担当者が同じなのに会社が違う。どちらも現実に起きるので、名寄せの根拠には向きません。使ったのは社名と住所と電話の3つだけです。

先に白状しておきます。生成プログラムを書いたのは私なので、各ラウンドの行数と「正解が何組あるか」だけは目に入ってしまいました。どの行とどの行が同じかは知りません。それでも、組数を知っているぶん自分に有利な条件です。この記事の数字は、そこを割り引いて読んでください。

10時05分 — 第1ラウンド、58行

まずは易しく。表記の揺れだけ、ひっかけなし。58行の中に、同じ会社のペアが22組。

たとえばこの3行は、全部同じ会社です。

・016 … 相生電機 / 兵庫県神戸市中央区三宮町3-20-1 / (078)2-0419
・022 … 株式会社相生電機 / 兵庫県神戸市中央区三宮町3丁目20番1号 / 07820419
・053 … 相生電機(株) / 兵庫県神戸市中央区三宮町3丁目20-1 / (078)2-0419

社名の見た目は3通り、住所の書き方も3通り、電話に至っては区切りが全部違う。それでも住所の数字と電話の番号は一致しています。

22組すべて的中。誤って結び付けた組はゼロでした。ここは正直、拍子抜けです。

10時40分 — 似ているだけの会社を8件混ぜる

面白くないので、罠を入れました。社名がよく似ているのに、住所も電話もまったく違う会社を8件。72行、正解23組。

たとえば「株式会社高砂梱包」と「株式会社高砂本社梱包」。あるいは「若葉技研」と「若葉屋技研」。名前の見た目に引きずられると、まとめてしまいます。

結果は23組すべて的中、誤検出ゼロ。名前が似ていても住所と電話が違えば別、という当たり前の判断が通りました。

ここで言う誤検出、つまり別の会社をまとめてしまうミスは、見落としよりずっと質が悪いです。分かれたまま残っている重複は、あとで気づけます。誰かが「この会社、2回あるよ」と言ってくれる。でも一度まとめてしまった2社は、もう表の上では1社です。請求も履歴も混ざったまま、誰も違和感を持たない。だから名寄せの精度は、取りこぼしの数より、寄せすぎの数で見るほうが実務に合っています。私はこれを「寄せすぎ事故」と呼んで、いちばん警戒しています。静かに起きて、発覚が半年後だからです。

11時30分 — 旧字体と全角と、消えた都道府県

もう一段上げます。76行、正解23組、罠は12件。追加したのは3つ。

・旧字体と異体字。「広沢サービス」と「広澤サービス」、「櫻井興業」と「桜井興業」、「真﨑興業」と「真崎興業」
・住所と社名の全角混じり。「北三条西1-15-15」
・都道府県の省略。「神奈川県横浜市西区北幸8-19-28」と「横浜市西区北幸8丁目19番28号」

これも23組すべて的中、誤検出ゼロでした。

旧字体をわざわざ入れたのには理由があります。名簿を古いシステムから新しいシステムへ移したとき、「髙」が「高」に、「﨑」が「崎」に化けるのは、事務をやっていれば一度は見る光景です。移行前と移行後のデータを両方抱えると、同じ会社が2行になる。文字が化けたのはシステムの都合であって、会社が2つになったわけではない。この手の揺れをAIが吸収できるかは、実務では地味に効きます。

ちなみに、この3ラウンドで私が実際にやった判断はとても単純です。社名から「株式会社」「(株)」とスペースを取り除いて残った文字を比べ、それが同じなら住所の数字と電話の数字を確認する。ただこれだけ。難しい推論はひとつもしていません。だから当たった、とも言えます。

ここまで3ラウンド、206行、68組。全部当たって、間違って結び付けたものはひとつもありません。「AIに名寄せは無理」という前提は、少なくとも私の手元では成り立ちませんでした。

そして、ここから崩れます。

13時10分 — 社名の列だけにしたら、崩れた

実務の表は、こんなに列が揃っていません。社名しか入っていない一覧のほうが、むしろ普通です。

そこで新しく75行を作り、住所と電話を隠して、社名の列だけを渡しました。

表記の揺れを吸収して同じ名前になった組は35組。それを「同じ会社です」と答えたら、どうなったか。

・本当に同じだった組 … 24組
・実は別の会社だった組 … 11組
・11組は全体の31.4パーセント

3組に1組が別会社です。見落としはゼロなので、取りこぼしてはいない。ただ、まとめてはいけないものをまとめている。

これが実務で何を起こすかというと、たとえば別会社あての請求が1社に合算されます。片方には届かず、片方には身に覚えのない金額が届く。案内状を送れば1通足りない。取引履歴を見れば、行ったことのない会社との実績が載っている。しかも表の上では1社にまとまっているので、誰も数が合わないことに気づけません。

理由は法律のほうにあります。商業登記法27条が禁じているのは「同一の商号かつ同一の所在場所」の組み合わせだけです。住所さえ違えば、同じ商号の会社をもう1社登記できます。かつての類似商号規制は、会社法の施行で2006年5月に廃止されました。ついでに言うと、登記の上では「株式会社山田商店」と「山田商店株式会社」も別の商号として扱われます。私が第1ラウンドで同じものとして寄せた形です。

つまり、社名の列だけを見て「同じ会社か」を確実に判定するのは、AIが賢いかどうかとは関係なく、原理的に無理です。判断材料が表に載っていない。

これがAI活用の注意点として一番大事なところで、同時に一番見落とされます。精度が出ないとき、人はプロンプトを直しにいく。でもこのケースでは、どんな指示を書いても31.4パーセントは動きません。

三段階で答えさせたら、正直になった

そこで聞き方だけ変えました。「同じか、違うか」の二択をやめて、三段階にします。

・確実に同一
・要確認(判断材料が足りない)
・別

同じ社名だけのデータで答え直した結果は、こうです。

・確実に同一 … 0組
・要確認 … 35組、行数にして53行
・全75行のうち、人が見るべき行は53行

誤って断言した件数はゼロになりました。二択で聞いていたときに31.4パーセント出ていた「別会社なのに同一だと言い切る」が、消えたわけです。答えを1つに絞れと迫るから、材料がなくても答えが出てくる。迷う場所を用意しておけば、迷っていることが表に出る。この一手間は、名寄せにかぎらずどんな判定作業でも効きます。

ただし喜べません。75行のうち53行、7割が「わからないので見てください」で返ってくる。断言しなくなっただけで、仕事の量は1行も減っていない。これがAI活用のデメリットの正体で、聞き方を工夫しても材料は増えないという、ただそれだけの話です。

14時00分 — 住所と電話を戻す

同じ75行に、住所と電話の列を戻しました。データは1行も足していません。列を2つ戻しただけです。

・同じ会社のペア24組 … 全部的中
・誤検出 … 0組
・同名だが別法人の9組 … 9組すべて分離

たとえば「白樺硝子」は4行ありました。3行は東京都大田区蒲田7-1-37、電話も同じ。残る1行は神戸市中央区三宮町、電話も別。3行を1つにまとめて、神戸の1行は別会社として残す。これが正解でした。

7割が「要確認」で返ってきていた表が、人の目を1行も必要としない表に変わりました。プロンプトは一度も書き直していません。

正直に書いておくと、ここで測っていないことがあります。住所だけ足したら、電話だけ足したらどうなるか。今回は2列まとめて戻したので、どちらが効いたのかは切り分けていません。感覚では電話のほうが強いはずです。住所は移転しますが、番号はビル名も丁目の書き方も関係なく、数字が一致するかしないかだけで決まる。ただこれは私の予想であって、数えていない以上は予想のままです。次にやるときの宿題にします。

AI活用の方法を変えたのは、プロンプトではなく表の列でした

4ラウンド、281行、92組。全部当たって、誤検出はゼロ。ただ、この記事で覚えて帰ってほしいのは的中率のほうではありません。

同じAIに、同じ仕事を頼んで、結果が「7割が要確認」から「全部確定」に変わった。変えたのは、渡した表の列です。

仕事でAIが使えないと感じるとき、その中身はたいてい「AIが足りない」ではなく「渡した材料が足りない」です。プロンプトの言い回しは、材料が揃ってから効いてくる。順番が逆になっている人が、初心者にかぎらず本当に多い。私も長いこと逆でした。うまくいかないと、まず指示文を長くする。役割を与える、手順を番号で書く、出力形式を細かく指定する。それで直る問題も確かにありますが、材料が足りていない問題だけは、指示文をどれだけ磨いても1ミリも動きません。今回で言えば31.4パーセントがそれです。

見分け方は簡単で、自分がその表を見て答えられるかを考えればいい。人間が見ても答えられない問いは、AIに聞いても答えは出ません。出てきたら、それは答えではなく推測です。

もし社名しか列がないなら、足す先はもう決まっています。国税庁の法人番号公表サイトです。今日(2026年8月24日)見てきた内容だと、公表されているのは基本3情報、つまり商号または名称・本店または主たる事務所の所在地・法人番号の3つ。法人番号は13桁です。まとめてのダウンロードとWeb-API(ウェブエーピーアイ。自分の表計算やツールから、国のデータを自動で引っぱってくる窓口のこと)の両方が用意されています。Web-APIの利用にはアプリケーションID(利用者を識別するための番号)が要りますが、発行に費用はかかりません。1回のリクエストで法人番号を指定できるのは最大10件まで、という制限もあります。

社名の隣に法人番号が1列あれば、名寄せは判定ではなく照合になります。AIに考えさせる必要すらなくなる。

もっとも、これで全部片づくわけでもありません。手元の表に法人番号を振る作業自体が、結局は名寄せです。鶏と卵になる部分はどうしても残ります。私はそこを、住所と電話で寄せてから番号を付ける順番で回しています。

今日やること

自分がAIに渡している表を1枚開いて、社名以外にどんな列があるか数えてください。それだけです。

住所か電話か、法人番号か。1列でもあれば、あなたの手元の表は今日から名寄せが解ける表です。1つもないなら、AIに聞くより先に、その列をどこから持ってくるかを考えたほうが早い。指示文をこねくり回すプロンプト沼に入る前に、まず列を数える。今日の281行が私に教えたのは、それだけでした。

※本記事は2026年8月24日時点の情報です。データはすべて検証用に生成した架空のサンプルで、実在の企業とは関係ありません。法人番号公表サイトの仕様や登記のルールは変わることがあるので、業務に組み込むときは公式サイトで最新の内容をご確認ください。

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