プロンプトでSFショートストーリー創作|テスト中🤖
兄が知らない私
《第三区画の分解開始まで、残り四時間》
軌道都市ラグランジュ七号では、居住区を二十年ごとに「更新」する。
壁も道路も店も、古くなった区画から順に分解され、資材は次の街へ回される。住民は慣れていた。失われる前に記録し、必要なものだけクラウドへ移す。
イオは、その仕組みが嫌いではなかった。
古いものを残すためだけに場所を塞ぐより、新しいものに作り替えた方がいい。彼女の部屋にも、長く使い続けている物はほとんどない。
ただし、自分で選んで変えることと、勝手に失われることは別だった。
その日、イオは廃棄前の第三区画へ向かっていた。
十二年前に死んだ兄の、最後の生活記録が残っている場所だった。
兄は死の直前、自分の人格複製を作らなかった。代わりに、古い集合住宅の一室へ「会話装置」を残したらしい。誰かが質問すれば、生前の記録をもとに応答する。完全な人格ではなく、残響に近い。
到着すると、建物は半分ほど解体されていた。
兄の部屋には、ベッドと小さな端末だけが残っていた。
イオはまずベッドの端に座った。
子どものころ、知らない場所へ泊まりに行くと、兄は最初に寝る場所を確保した。
「眠れる場所があれば、だいたい何とかなる」
そう言っていた。
端末を起動すると、文字が出た。
《久しぶり》
イオは眉をひそめた。
「それ、誰にでも出すの?」
《十二年ぶりに来た妹にだけ》
胸の奥が、遅れて揺れた。
会話装置は、兄らしかった。
言葉の癖も、妙に鋭いところも。自分でも気づいていないことを先に言い当てて、腹が立つくらいだった昔の兄と同じだった。
「私、変わった?」
少し間があった。
《かなり》
「どこが?」
《前は、面白いものを見つけると全部欲しがった。今は選ぶ。》
イオは笑った。
「それ、成長したってこと?」
《知らない。》
兄なら、そう答える。
窓の外で、解体ドローンが隣棟を切り離した。振動が壁を伝う。
イオには、一つだけ聞きたいことがあった。
「どうして人格複製を残さなかったの?」
端末は長く沈黙した。
《残した。》
「え?」
《これを作った時点では、残すつもりだった。》
画面に、古い記録ファイルが開いた。
人格複製の初期モデル。兄の声、記憶、反応傾向。完成度は九十八パーセント。
だが、最終工程だけが削除されている。
《完成直前にやめた。》
「どうして?」
《おまえが会いに来たとき、十二年前のおれに「変わってないね」と言われ続けるの、嫌だろ。》
イオは答えなかった。
《正確に残すほど、残された側を過去から見続ける。おれは、おまえを知っていたかった。でも、死んだあとまで知ったふりをするのは違うと思った。》
区画閉鎖まで、二時間。
イオは立ち上がり、端末を外そうとした。
持ち出せば、この会話装置だけは保存できる。
だが端末には、移設すると学習記録が初期化されるという警告が出た。
つまり持ち帰れるのは、兄の形だけだった。
イオは端末を見た。
「ねえ。今の私のこと、まだ分かる?」
《少しだけ。》
「少しなんだ。」
《だから、話して。》
その言葉に、イオは座り直した。
閉鎖警報が鳴るまで、彼女は十二年分を話した。
途中で辞めた仕事。好きになった人。大失敗したこと。急に興味をなくしたもの。今では笑える秘密。兄なら驚くと思っていた話。
端末は、ときどき質問した。
知らないことを、知らないまま。
退去時刻になり、イオは端末を残した。
外へ出ると、第三区画の照明が一本ずつ消えていった。
兄の最後の部屋も、やがて暗くなる。
それでもイオは、記録を保存しなかったことを後悔しなかった。
十二年ぶりに兄へ会いに来て、初めて、兄の知らない自分を置いて帰れたからだ。

GPT ハル氏・作。
