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ダンマパダ146

黄金の都、闇の灯火

その高僧──**法顕(ほうけん)**が、長い航海の果てに日本の都へ降り立ったとき、目の前に広がっていたのは眩いばかりの黄金の世界でした。
見上げるほどの巨大な羅生門、ひしめき合う壮麗な邸宅、そして行き交う人々が身にまとう色鮮やかな絹織物。夜になれば、数多の篝火(かがりび)や提灯が街を照らし出し、まるで不夜城のような賑わいをみせています。人々は酒を酌み交わし、歌い踊り、現世の春を謳歌しているかのように見えました。
しかし、法顕の澄んだ眼(まなこ)に映っていたのは、全く別の景色でした。
都の若き貴族や僧侶たちが、名高き異国の高僧を一目見ようと集まった夜のことです。彼らは誇らしげに、この都の繁栄と華やかさを法顕に語りかけました。
「いかがですか、我が国の都は。これほどまでに豊かで、歓びに満ちた場所は他にないでしょう」
法顕は静かに目を閉じ、深く息を吸い込むと、悲しげに首を振りました。そして、集まった人々の心を射抜くように、釈尊の言葉を静かに語り出したのです。

「何の笑いがあろうか。何の歓びがあろうか?──世間は常に燃え立っているのに──。汝らは暗黒に覆われている。どうして燈明を求めないのか?」

一瞬にして、堂内が静まり返りました。人々は呆気に取られ、お互いに顔を見合わせます。一人の若者が、怪訝そうに問い返しました。「常に燃え立っている? 暗黒に覆われている? 老師、失礼ながらこの都のどこに闇があるというのです。これほど光に溢れているというのに」

華やかさの裏にある「無明」

法顕は、そっと窓の外の煌びやかな街を指差しました。
「皆の者、あの灯りを見るがよい。一見すると美しいが、あれは人々の**『欲』という薪(まき)が激しく燃え盛っている炎なのだ。
もっと欲しい、もっと認められたい、他者より優位に立ちたい……。その渇きは、どれだけ満たされても決して消えることはない。むしろ、満たされれば満たされるほど、失う恐怖に怯え、嫉妬に狂い、心は焦がされていく。世間は今も、欲望の炎で常に燃え立っているのだ」
高僧の言葉は、集まった者たちの胸に鋭く突き刺さりました。華やかな都の生活の中で、彼らが日々感じていた、名付けようのない不安や孤独、足蹴り合う権力闘争の虚しさを、そのまま言い当てられたからです。
「お前たちが『光』だと思っているものは、ただの幻影にすぎぬ。物事の本質が見えなくなっている心の闇──すなわち
『無明(むみょう)』の暗黒に、この都会は深く覆われているのだ。自らが闇の中にいることすら気づかぬほどに。
なぜお前たちは、そんな偽りの光に目を奪われ、心を救う真実の光──
『仏法の燈明』**を求めようとはしないのか?」

暗闇を照らす一本の灯火

法顕は懐から、小さく、しかし決して消えることのない一本の蝋燭を取り出し、火を灯しました。
「都会の華やかさは、風が吹けば一瞬で消え去る砂上の楼閣。だが、仏法の教えという灯明は、どれほど激しい欲望の嵐が吹き荒れようとも、お前たちの足元を、そして進むべき道を永遠に照らし続ける。
己の欲の深さを知り、無明の闇を自覚したとき、初めてこの本物の灯火が必要になるのだ」
若者たちは、先ほどまで自慢げに眺めていた都の夜景が、急に冷たく、暗い修羅の街のように見えてくるのを感じました。それと同時に、法顕が灯した小さな火の温かさに、吸い寄せられるように引き込まれていったのです。
その夜を境に、都の華やかさに溺れていた若者たちは、こぞって法顕の元へ足を運ぶようになりました。街の喧騒から離れ、自らの心の闇を見つめ、真の救いである「仏法の灯明」をその胸に灯すために。

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