#186【連載】指導とパワハラの境界線 Vol.3 ~「誰がやった!」と叫ぶ上司がいる組織は、必ずまた墜落する~
航空機の残骸が語る、沈黙の真実
墜落現場の朝は、異様な静けさに包まれます。
そこにあるのは、無残に引き裂かれた機体の残骸と、もはや語ることのない「真実」の欠片だけ。
私は航空事故調査担当者として、幾度となくその凄惨な現場に立ちました。
そこで私たちが最初に行うことは何かご存知でしょうか?
パイロットを吊るし上げること? 整備員を尋問すること? いいえ、違います。
「なぜ、そのミスが起きる状況(環境)が生まれてしまったのか?」
徹底的に、冷徹なまでに、その一点だけを追及します。
しかし、今の企業社会を見渡すとどうでしょうか。
何かトラブルが起きるたびに聞こえてくるのは、「誰がやった!」「お前のせいだ!」という怒号ばかり。
まるで魔女狩りのように特定の個人を血祭りに上げ、反省文を書かせて一件落着。
断言します。
「犯人探し」で終わる組織は、必ず同じ事故を繰り返します。
それも、次はもっと致命的な形で。
「個人」を責めると「事実」が地下に潜る
なぜ「犯人探し」がいけないのか。
それは、社員の「防衛本能」を刺激し、最も重要な「事実」を隠蔽させるからです。
「ミスをしたら怒鳴られる」
「評価が下がる」
そう刷り込まれた部下は、ミスをした瞬間に何を考えるか。
「どうすればリカバリーできるか」ではありません。
「どうすればバレずに隠せるか」です。
自衛隊に限らず航空事故調査では、当事者の証言が人事評価や懲戒処分に直結しないよう、厳格に情報が管理されます。
そうしなければ、誰も本当のことを話さないからです。
「実はあの時、マニュアルが見えづらかったんです」
「実は、前日から熱があったんです」
こうした「真実の告白」こそが、次の事故を防ぐ唯一の鍵なのです。
犯人探しをする上司は、自らの手でこの鍵を捨て、組織全体を目隠し運転させているに等しい行為です。
(もっとも、我が国の航空事故調査においては、欧米ほど司法からの独立性が担保されていないという、未だ解決すべき構造的な課題が残っていることも事実です。)
「Why(なぜ)」ではなく「How(どのような仕組みで)」を問え
では、事故(ミス)が起きた時、指揮官であるあなたはどう振る舞うべきか。
今日から、ミスの原因追及における「主語」を変えてください。
× 「You(お前)」を主語にする
「なんで(You)確認しなかったんだ!」
「お前(You)の不注意だ!」
→ これは人格攻撃です。相手は萎縮し、心にシャッターを下ろします。
○ 「It(それ=仕組み)」を主語にする
「何が(It)確認を難しくさせたんだ?」
「どんな手順(It)が、そのミスを誘発したんだ?」
→ これが事故調査です。相手は「一緒に問題を解決するパートナー」として、真実を語り始めます。
ヒューマンエラーは「撲滅」できない、「管理」するもの
人間はミスをする生き物です。
どんなに優秀なパイロットでも、どんなに熟練した職人でも、疲れていれば見落とすし、焦っていれば手順を飛ばします。
精神論でミスをゼロにすることは不可能です。
だからこそ、私たちに必要なのは「気合」ではなく「システム」です。
ダブルチェックが形骸化していないか?
マニュアルは、誰でも誤解なく読めるか?
ミスを誘発しやすい配置になっていないか?
部下がミスをした時、それは「個人の罪」ではなく、「組織のシステムの欠陥」が露呈した瞬間です。
その貴重な警告を、「たるんでいる!」という精神論で握りつぶさないでください。
「罪を憎んで人を憎まず、仕組みを憎んで改善せよ」
これが、空の安全を守り続けてきた鉄則であり、あなたの組織を墜落から守る唯一の道です。
以上いかがでしたでしょうか?
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ワラビー社会保険労務士事務所 社会保険労務士 渡辺 忍
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