静かな夜の片隅シリーズ~手乗り象の飼い主~

いらっしゃいませ。そしてお帰りなさいませ。
庄内多季物語工房へ、ようこそおいで下さいました。
山形県庄内地方は、澄んだ空気と肥沃な土壌、そして清冽な水に育まれた、新鮮で滋味豊かな野菜や果物の宝庫です。
それに加えて、瑞々しい物語が収穫出来る場所でもあるのです。
さて、今回、物語収穫人である私、佐藤美月が収穫致しました物語は、『静かな夜の片隅』シリーズとして、お届け致します。
シリーズ物とは言え、読み切りタイプになっております。
それではどうぞこちらから、物語の世界へお入り下さいませ。↓
☆★☆ 手乗り象の飼い主 ☆★☆
静かな夜の片隅に、ひっそりと息衝くような存在になりたい。
それも、舗道の隅に転がって煌めく片方だけのピアスや、小さな公園で揺れるブランコの上に忘れ去られたハンカチのような、滅多なことでは気付かれない存在が良いのだ。
何故ならば、そんな些細な存在に気付ける人は、心の底に、然り気無い優しさを隠し持っていると思うからだ。
それと言うのも、玲央(れお)には、優しさにも種類があると思っている節があるからだった。
それは、押し付けがましい優しさと、然り気無い優しさである。
優しさを持っていること自体は、素晴らしいことなのだが、その表現方法を間違えると、忽(たちま)ちのうちに、押し付けがましい物になりかねない。
それは言い換えれば、相手に優しくしたことをいつまでも覚えていて、その見返りを要求してくるような粘着質の人種と、相手に優しくしたことなど、すっかり忘れてしまっている、さっぱりとした人種に分かれるということだ。
SNSが狂ったように発達している昨今、玲央はもう、押し付けがましい優しさを受け取ることには、ほとほと辟易(へきえき)していた。
だからこそ、然り気無い優しさの持ち主にしか気付かれないような、静かな夜の片隅に、ひっそりと息衝くような存在になりたいのだ。
それは取りも直さず、玲央自身が、然り気無い優しさの持ち主でありたいということでもあった。
元々控え目な性分である玲央は、太陽の光が全てを赤裸々に暴く日中よりも、ミッドナイトブルーの濃い闇が、全てを護るように包み込む夜の時間帯の方が好きだった。
日中は、沢山の人々で、色めき立つようにざわついていた街も、夜になれば、しっとりとした静けさを取り戻すところも気に入っていた。
そうして夜になれば、その闇に溶け込むようにして、夜に似合ったことをしたくなる。
それは玲央の場合、琉球硝子を思わせる青い硝子ペンの先を、ミッドナイトブルーのインクに浸して、分厚いノートの片隅に、小さな象を落描きすることだった。
小さな象は、少しずつ動作を違えて描かれている。
だから、ノートの端を持って、勢い良くぱらぱらと捲(めく)ると、小さな象が大きな耳をぱたぱたと動かしたり、長い鼻の先にボールを乗せて、それを空中に投げてからキャッチすることを、繰り返しているように見えるのだ。
いわゆる、ぱらぱら漫画の一種である。
玲央は、そんなささやかなイラストが描かれた分厚いノートを、ネット上で販売して、生計を立てている。
これが学生達には結構評判が良く、無味乾燥で退屈な授業の合間に、小さな象をぱらぱらと稼働させては、心の安寧(あんねい)を得ているらしい。
玲央は、そんな彼らに敬意を表して、手乗り象の飼い主と呼んでいる。
そして、手乗り象の飼い主になりたいと望む者もまた、然り気無い優しさの持ち主であると、玲央は感じるのだった。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
🧡佐藤美月は、小説家・エッセイスト・ライター・コラムニストとして、活動しております。執筆依頼は、こちらから承っております💫↓
いいなと思ったら応援しよう!
応援ありがとうございます😊頂いたチップはクリエイターとしての活動費に当てさせて頂きます💝