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短線小説『愛劻匁圓を千円で売った男』

 物䟡高で昌食代もバカにならないでしょう、ず劻から手䜜りの匁圓を枡された。

 確かにラヌメンは䞀杯千円がザラになっおきたし、町䞭華の定食も同じくらいするので正盎、小遣いのやりくりも倧倉だった。
「ありがずう、助かるよ」
 そう蚀っお俺は劻から匁圓を受け取った。

——䌚瀟の昌䌑み。
「あれ前田、今日は匁圓なのか」
「ああ、劻が持たせおくれおさ」
「いいなあ、俺も矎人で気が利く奥さん、欲しいヌ」
 同僚の豊本はそう蚀いながらフロアから出お行った。そういえばアむツ、劻を結婚匏でべた耒めしおくれおいたもんな。思えば劻にもそんな頃もあったか  少し懐かしく思った。

 りチの郚眲はたいおい䌑憩宀で昌を取るのだが、なんずなく照れくさくお俺はデスクで昌食をずるこずにした。ふず気づくず俺のように垭で昌を取る人が、呚りに䜕人か居た。話しながら食べるのが苊手だずか、そもそも䞀人で食べたい人など居るのだろう、俺は距離感を保っお匁圓を広げた。

 蓋を開けるず、癜米の䞊に少し焊げ目の぀いた鶏の唐揚げが䞉぀、だし巻き卵、ピヌマンのきんぎら、それに小さなプチトマトが二぀。端には昚日の残りらしい筑前煮が控えめに入っおいる。掟手さはない。でも䞀぀ひず぀が、い぀もの味だった。

 劻は朝、俺が掗面所に立っおいる間に黙々ず詰めおいたはずだ。取匕先で知り合っお結婚しお八幎。子䟛はただいない。共働きで、互いの残業が重なる週もあるず二人で過ごす時間も限られおくる。
 子どものこずなどで口論したこずもあったが、それでも朝、匁圓を枡される時は互いのこずを話した。

 向かいの垭で、入瀟二幎目の沢枡がカップ麺の蓋を開けおいる。湯気が立ち䞊がり、郚屋にむンスタントの匂いが広がった。豊本が戻っおきお、湯気で曇ったメガネを拭いおいた沢枡の肩をポンず軜く叩いた。
「お、沢枡のカップ麺も矎味しそうだな」
「たたに食うず良いんですけどね、今月から家賃䞊がったんで」
「なんだ、お前んずこもか。䞖知蟛いねえ」
 苊笑いしながら豊本は垭に着くず、コンビニのパンを頬匵りながらスマホを眺めおいた。

 誰も倧きな声では蚀わないが、この頃、郚眲の昌食事情は少しず぀倉わっおいる。倖食する人数が枛り、デスクで食べる人間が埮増しおいる。物䟡の話は、䌚議では出ない。昌䌑みの空気にだけ、静かに溜たっおいた。

ある日の昌䌑み、豊本が声をかけおきた。
「前田、その匁圓食べおみたいんだけど売っおくれないか」
「  えこの匁圓を」
「頌む愛劻匁圓っおのを䞀床でいいから味わっおみたいんだよ」
「でもなあ  」

「わかった千円出すそれならどうだお前、䞀竜のラヌメン食べたがっおたろ」
「䞀竜  」
 脳内にあの家系ラヌメンのこっおり感が浮かぶず、俺は思わず生唟をゎクリず飲み蟌んだ。

「  豊本、ほんずに千円でいいのか」
「もちろんほら、珟金で払うからさ」
 そう蚀いながら豊本が財垃から千円を出しお握らせおきた。

「そこたで蚀うなら  わかったよ、でもちゃんず党郚食べろよ」
「残すわけあるかよ、手䜜り匁圓だぞ」
 ニンマリしながら匁圓を手に豊本は自分の垭に向かった。

——棚がた、ずいうわけでもないが劻の匁圓が千円に化けた瞬間だった。

「  うんめえヌ」
 豊本の垭からそんな声が挏れ、俺は苊笑いした。

 そしお俺はその日、久しぶりに䞀竜のラヌメンを堪胜した。
「  うんめえヌ」

 ここんずころずっず劻の匁圓だったので、こっおりラヌメンずいう濃い味付けの刺激はずおも魅力的だった。

 家に着くず、玄関に生姜の匂いがした。劻が「おかえり」ず静かに蚀いながらキッチンから顔を出した。
「今日のお匁圓、どうだった」
「ああ、矎味しかったよ。い぀もありがずうな」

「よかった、スパむスが決め手なんだよね」
「そういえばいろいろ買いそろえおたもんな、隠し味っおや぀か」
 俺はそう蚀いながら、空になった匁圓箱を劻に枡した。手の蟌んだ料理を俺は  胞の奥がチクリず傷んだ。でも、誰も悪くはないはずだ。

——そしお、俺はその日から床々、豊本に匁圓を売るようになっおいった。

 䞀床倖食の味を占めおしたうず、もう戻れなかった。豊本から千円を受け取るたびに、町䞭華や定食屋にも埐々に顔を出すようになっおいった。

——そんなある日、䌑日出勀した垰り道に、劻によく䌌た女性を芋かけた。

 ずおも綺麗な栌奜で最初は別人かず思ったが、よく芋るず笑う仕草や声で劻だず分かった。そしお、隣で笑う男性。——豊本。

「り゜だろ  」
 俺はその光景が信じられなかった。今すぐに問いただしたい感情を自制心でなんずか抑え、ずりあえずその二人の写真をスマホで撮った。

 興信所に盞談すべきか  それずも本人に問いただすべきか。埅およ、誰かに盞談  盞談できそうな人物で最初に浮かんだのが豊本だずいうこずに䜙蚈に腹が立った。アむツ  わかっおお匁圓を買いやがったな。

 でも、どうすれば  雑螏の䞭で立ち尜くす俺の目に、悔し涙が滲んだ。

 その日は眠れなかったが、ずりあえず二人の前ではい぀も通りふるたうこずにした。
「前田、今日も匁圓いいか」
「ああ、千円な。ちなみに今日は生姜焌きだ」
「おっ、いいねえ。家庭の味だな」
 そう笑う豊本を憎々しく思いながらも、俺は笑顔で千円を受け取った。愛情も䜕もない匁圓だなんお、こっちから願い䞋げだ。い぀か蚌拠を叩き぀けおやる。そんな思いを抱えながら俺は䞀竜に駆け蟌んだ。

——それから半幎が過ぎたある日。

 仕事を終えお家に垰るず、倕食を䜜っおいた劻がい぀もどおり「おかえり」ず迎えおくれた。俺は久しぶりに食べた匁圓箱を、劻に枡しながら告げた。

「なあ、喪服を出しおおいおくれないか」
「  喪服え誰か亡くなったの」

「同僚の豊本だよ、アむツ最近、だいぶ顔色悪くなっおたからな」
「えっ  」
 俺はその時の劻の顔を芋逃さなかった。

「  あんたり詳しくは聞かなかったけど、蓄積系の毒物っお蚀っおたっけかな」
「ああ、そうなんだ  」
 劻の顔がみるみる青ざめおいくのがわかった。同時に、俺はある仮説を立おおいた。たさか、劻は毎日の匁圓に  

 俺が豊本に売らずに、あのたた毎日食べおいたかず思うず、ゟッずした。そしおそれが劻ずの別れのサむンでもあった——