見出し画像

幸せになろうとするほど、苦しくなっていた


もっといい生活がしたい。
もっと認められたい。
もっと充実した毎日を送りたい。

その「もっと」を追いかけているうちに、気づいたら疲れ果てていた。

幸せになろうとしているのに、なぜかしんどくなっていく。

この矛盾に気づいたとき、ある哲学者の言葉が少し刺さりました。

幸せは、追いかけるものじゃなかった

19世紀のドイツに、ショーペンハウアーという哲学者がいました。

「絶望の哲学者」と呼ばれるほど、人生に対して徹底的に冷めた視点を持っていた人物です。

彼はこう言っています。

幸せになるためには、幸せを追い求めるのではなく、苦痛を減らすことに全力を注げ、と。

一見すると地味な話です。
でも考えてみると、深いところを突いている。

新しいものを手に入れる喜びは、一ヶ月もすれば消えていきます。
どんな贅沢も、慣れれば当たり前になる。
どんな豪華な食事も、毎日食べれば飽きる。

一方で、頭痛や虫歯の痛みは、絶対に慣れません。
人間関係のストレスは、どんなに楽しいことがあっても一瞬で台無しにします。

プラスを積み上げる喜びは消えやすく、マイナスの苦痛は消えにくい。

だとすれば、幸せに近づく一番の方法は、快楽を積み上げることではなく、苦痛を一つずつ取り除いていくことだ——というのがショーペンハウアーの結論です。

贅沢が、苦しさの入口になっていた

欲しいものを手に入れる。
一瞬、満たされる。
でもすぐに慣れる。
また次の欲しいものが出てくる。

この繰り返しを、彼は「富や名声は海水のようなもの、飲めば飲むほど喉が渇く」と表現しました。

一億円手に入れたら次は十億円。
フォロワーが一万人になったら次は十万人。

その際限のなさに気づかないまま走り続けると、どこまで行っても満たされない。

「自然かつ必要なもの」を満たすことは大切です。
お腹が減ったら食べる、眠れる場所がある、体が健康でいられる。
これらの苦痛を取り除くことは、まず優先すべきことです。

でも、そこから先の「もっと上へ」を追いかけることが、苦しさの入口になっていることがある。

幸福の9割は、健康が決める

ショーペンハウアーはこう言い切っています。

幸福の9割は健康で決まる、と。

どんなに素敵な場所にいても、お腹が痛ければ楽しめません。
どんなに恵まれた状況にあっても、眠れない夜が続けば全部色あせる。

健康な乞食の方が、病気の王様より圧倒的に幸せだ、とも。

なのに現代人の多くは、お金や出世のために健康を犠牲にしています。

睡眠を削る。
食事を抜く。
休日まで仕事のことを考える。

これは豪華な食事を楽しむために、お腹を壊し続けているようなものです。

よく運動して、よく食べて、よく笑う。

シンプルすぎる言葉ですが、ここに戻ることが、幸せの土台を作ります。

人との距離が近すぎると、傷つけ合う

ショーペンハウアーには「ヤマアラシのジレンマ」という有名な話があります。

寒い冬、ヤマアラシたちが体を寄せ合って暖を取ろうとしました。
でも近づきすぎると、お互いのトゲが刺さって痛い。
離れると、今度は寒くてたまらない。

痛いと離れ、寒くて近づき、また痛くて離れる。

その繰り返しの中で、彼らはやがて「トゲが刺さらないギリギリの距離」を見つけました。

人間関係も、同じです。

親密になりすぎると、荒が見えて傷つけ合う。
離れすぎると、孤独が痛い。

くっつきすぎず、離れすぎず。

その「ちょうどいい距離感」を保てる人間関係が、長く穏やかに続きます。

深く繋がろうとしすぎない。
少ない人間関係を、適度な距離で大切にする。

それだけで、人間関係からくる消耗がずいぶん減ります。

一人でいられる力が、自由の土台になる

欲望を手放すと、今度は退屈がやってきます。

刺激がない。
何をしていいかわからない。
ぼんやりとした虚しさがある。

でもショーペンハウアーはこう言います。

退屈するのは、自分の中身が空っぽだからだ、と。

精神が豊かな人間は、自分の頭の中に無限の遊び道具を持っている。
だから一人でいても退屈しない。

読書、音楽、創作、自然を眺めること、何かを作ること。

一人でいられる力を育てると、誰かや何かに依存しなくても、自分の時間が豊かになっていきます。

これは引きこもりの推奨ではなく、自分の内側に充実感を作れる人間になる、ということです。

お金は、嫌なことを断るために使う

お金を何に使うか、という話をするとき、ショーペンハウアーはこう言います。

贅沢のためではなく、嫌なことを断るために使え、と。

自由な朝。
誰にも命令されない時間。
行きたくない場所に行かなくて済む選択肢。

それが、お金の一番価値ある使い方だと彼は考えていました。

ブランドを買う喜びより、自分の時間を守る自由の方が、長く豊かさをもたらします。

比べてしまうなら、下を見る

SNSを開くと、誰かの幸せそうな投稿が目に入ります。

自分より充実しているように見える誰かと比べて、自分の生活がしょぼく感じる。

ショーペンハウアーは言います。

どうしても比べてしまうなら、上を見るな。下を見ろ、と。

自分より辛い状況にいる人を想像すると、今の自分がどれだけ恵まれているかがわかる。

馬に乗っているとき、自分より速い馬を羨むより、歩いている人を見て「私は馬に乗れている」と思う。

比べないのが理想ですが、それができないときの緊急脱出装置として、この視点は確かに効きます。

苦痛を一つ減らすことが、幸せに近づく道

幸せになろうとして、どんどん欲しいものを増やしてきた。

でも増えたのは、欲しいものの数と、それが手に入らない苦しさだけだったかもしれない。

幸せの本質は、何かを得ることよりも、苦痛を一つずつ減らしていくことにある。

健康を守る。
人間関係の距離感を適切にする。
一人の時間を豊かにする。
嫌なことを断れる自由を少しずつ作る。

派手じゃないけれど、確実に。

その積み重ねの先に、静かで揺るがない幸せがある。

それがショーペンハウアーの、2300年の時を超えた答えです。

いいなと思ったら応援しよう!