【植物×アート】#13 デューラーの祈りと雑草の小宇宙
━━この記事を書いた人━━
植物の情報サイト『ラブリープランツ』及び、noteブログ『lovely plants@note』の管理人。美大卒・学芸員資格保有者が【植物×アート】をテーマに、植物の魅力を新たな視点から読み解く物語をお届けします。
▼有料マガジン『植物×アート』
毎月1日更新/全15本公開予定 (#01と#02は無料公開中)
※一度マガジンをご購入いただければ、今後追加される新しい記事も追加料金なしで読むことができます。記事を単体でご購入いただくよりも、こちらのマガジンでまとめてご購入いただく方がずっとお得です!
一枚の絵を見てください。

タンポポ、オオバコ、セイヨウノコギリソウ、カモガヤ――名前を挙げるのも野暮に思えるほど、ありふれた野草の群れです。誰かの家の庭先、道端、あるいは空き地。そんな場所にいくらでも生えていそうな、なんの変哲もない雑草たち。
正直に言えば、多くの人がこの絵を前にしてこう思うはずです。
「……ただの雑草では?」
その感想は、間違っていません。少なくとも、表面的には。
しかしこの作品は、1503年、ドイツ・ルネサンスを代表する画家アルブレヒト・デューラー(Albrecht Dürer, 1471-1528)によって、水彩とグワッシュを用いて描かれました。タイトルは《草の茂み》(Das große Rasenstück)。現在はウィーンのアルベルティーナ美術館に所蔵されています。
なぜ、当代随一の画家が、これほどまでに「何の変哲もないもの」を、これほどまでに緻密に描いたのでしょうか。
この問いに答えるために、少し遠回りをします。デューラーという画家が、何を信じ、何を見ていた人物だったのかを知る必要があるからです。手がかりは、彼が遺した二つの作品にあります。
本記事では、《草の茂み》を植物学的に読み解きながら、デューラーの中で「信仰」と「自然」がどのように結びついていたのかを見ていきます。読み終える頃には、きっとこの絵が、最初に見たときとはまったく違うものに見えているはずです。
《自画像》(1500年)――自らをキリストに似せて描いた男

作品基本情報
作者:アルブレヒト・デューラー(Albrecht Dürer, 1471–1528)
作品名:《自画像(1500年の自画像 / 毛皮の襟の自画像)》(独:Selbstbildnis im Pelzrock / 英:Self-Portrait at Twenty-Eight)
制作年:1500年
技法:油彩、板(菩提樹)
サイズ:67.1 × 48.9 cm
所蔵:アルテ・ピナコテーク(ミュンヘン)
デューラーが28歳のときに描いた《自画像》は、美術史上でもきわめて異例な作品です。正面を向き、左右対称に整えられた長い巻き毛、まっすぐにこちらを見据える瞳、そして祝福を与えるかのように胸の前に置かれた右手。
この構図は、当時の画家たちが誰かを描くときの「ある約束事」を踏襲していました。それは、キリストの聖顔像(ヴェロニカの布に写し取られたとされるキリストの顔)の伝統的な図式です。正面性、左右対称、こちらを見つめる眼差し――これらはすべて、中世を通じて「神の顔」を描くための型でした。
つまりデューラーは、自分自身の顔を、キリストの顔の型に重ねて描いたのです。
この記事が参加している募集
最後までご覧いただき、ありがとうございます。 本記事の内容が少しでもお役に立てましたら、ご支援いただけますと幸いです。 今後の執筆活動の励みとして、大切に活用させていただきます。

