一般人が入れない日本銀行本店の内部へ──レトロ建築と金融の中心で過ごした濃密な1時間と、「お金はチケット」だという感覚
隣にあった、気になる建物
第1回 東京建築祭。
わたしは三井本館の「合名玄関」を見ようと
長い列に並んでいました。
風に吹かれながら立つ、延々と続く列。
ふと、隣を見ると
重厚な建物があります。

目を凝らすと
窓枠には強固な鉄格子。

地図アプリで見ると
そこは「日本銀行本店」でした。
まさか
この建物の中に入れる日が来るとは
思ってもいませんでした。
「中を見てみたい」と思ってしまった
あの鉄格子の内部は、どうなっているんだろう。
日本銀行は、
日本国内で唯一の発券銀行。
内部は機密保持、極秘扱いのはずです。
それでも、見てみたい。
調べると、見学ができます。
しかもネットで申し込み出来ます。
うわあ、絶対に行く!
日本銀行見学は人気があり、
見学申し込みのサイトはいつ覗いても、
「残0名」

これは、新たな予約枠が出たタイミングで
申し込むしかない、と
リマインダーをかけて
やっと予約が取れました。
建物とのご縁は、
いつもこうやって突然始まります。
日本橋という場所が持つ意味
予約番号と身分証明書。
しっかり携えて「三越前駅」に降り立ちます。
そう、日本銀行本店は
華やかなショッピングエリア
日本橋にあるのです。
(三越前駅より徒歩1分)
財務省管下のお堅い法人が
ここにあるのは意外に感じます。
調べてみると
その理由は江戸時代にまでさかのぼりました。
ここはかつて
江戸の「金座*」があった場所でした。
お金を鋳造し、管理していた場所に
現代の金融の中心が置かれている。
日本銀行本店は、突然ここに現れたのではなく
長い歴史の上に築かれているのだと知りました。

右) 現在の日本銀行本店所在地
*「金座」とは、江戸幕府から大判を除くすべての金貨の製造を独占的に請け負った貨幣製造機関のこと
普段は立ち入れない場所へ
見学者の入り口は西門です。
門の周囲には警備の方が複数人。
見学者列に並び、
警備スタッフさんに受付番号を伝え
正門をくぐります。
門に厚みがあります。
石造りの重厚な門をくぐったところで
身分証明書を提示し
見学者バッチを身につけ受付完了です。
門を入った先には中庭があります。
本館玄関への入り口
地下金庫の現金搬入ルートに接する中庭は
外部と遮断された閉鎖的な空間です。
入った瞬間、
ここは“ 守られている場所 ”だと感じました。
中庭から建物内に入るときに
金属探知機による検査、
手荷物のX線検査をします。
写真撮影は基本NGです。
(本文の写真は撮影OKエリアのものです。)
閉じられた世界の中にある、美しい中庭
外部から守るための建築ですが
美しさを手放してはいません。
東京駅を手掛けたことで知られる
辰野金吾さんが設計、
建築工事監督も務められました。
石造りの古典主義建築は
堂々としながらも気品があります。

かつて現金は馬車で運ばれていました

宇野澤辰雄氏の作品

ドーム下の、華やかな空間
「日銀の役割」の動画を見たあと
ガイドツアーが始まります。
レトロ建築萌えのわたしにとっては、
ここからが本番でした。
階段の手すりや、タイル張りの床
ふかふかの絨毯
精緻に細工の入った蝶番まで
見ていると
細胞がぴちぴちと弾けるような
うれしさがありました。
ドーム下の空間は写真撮影NGなので
皆さんにお見せできないのですが
日本銀行公式のyoutube動画がありました。
VR映像も必見です ↓
(台帳や晩餐会のメニューなど
じっくり見たいものがたくさん。)
ここへは、
総裁の肖像画が並ぶ廊下から入りました。
少しの間
自由に見学ができました。
部屋を見て回っていると、
入ってきたドアを警備員さんが閉じ
誰も外へ出ないよう
静かにその場に立っていらっしゃいました。
見学は自由でも、
空間はしっかりと管理されている。
そう感じた場面でした。
お金が「物」だった時代の名残
お次は地下に。
耐震構造や金庫を見せてもらいます。
日本銀行本館は関東大震災にも耐え**
1営業日も休まずに業務を継続したそうです。
現在の免震構造はさらに強固になり
巨大建造物を覗くようでした。
(見学用に床の一部が透明になっています。)
その先は
つい20年ほど前まで使われていた、
巨大金庫があります。

重さ25トンの金庫扉はアメリカ製。
中に入るとさらに金庫扉(イギリス製)
その奥に日本製の金庫扉があります。
最も大切な箇所に日本製。
グッときます。
現金がたくさん積まれていた地下金庫。
広いです。
(面積1,426㎡)







(それまでは手作業)

1億円の束を持たせていただきました。
重かったです(約10㎏)

広い金庫室や強固な免震構造を見ていると
お金がデータになる前、
保管場所が必要な
重量のある「物」だった時代の名残に
触れている気がしました。
トロッコで現金を搬送していた回廊は
床が沈まないよう
強固な素材で作られていました。
お札も硬貨も、まとめると重たい。
日本銀行本店は、
「お金が重さを持つ" 物 ”だった時代」を、
建築そのもので語っている場所でした。
**正確には地震には耐えたが
火災により一部破損した。
現在はキャッシュレス社会が浸透し
お財布を持たずに出かけることもできます。
口座残高のデータやQR決済など
お金の現物に触れず、重さがなく、場所も取りません。
「日本銀行券」という文字に立ち止まる
「日銀の役割」動画にもありましたが
お札には〝日本銀行券〟と表記されています。
2024年、
お札のデザインが変わり新紙幣になったとき
〝日本銀行紙幣〟ではなく
〝日本銀行券〟と
書いてあることに気が付きました。
お金は特別なもの。
そう思っていましたが
「券」なのだと思うと、見え方が変わります。
何かと引き換えるためのもの。
物や、時間や、体験と交換するための—
—チケット。
日本銀行は、
紙幣を発行するだけの場所ではない。
光熱費等の引き落としや電子決済など、
私たちの生活の裏側にある金融システム全体が
滞りなく動くように支えている。
私たちがお金を「チケット」として
安心して使えているのも
日本銀行の役割があってこそなのだと思った。

お金は「チケット」。何と引き換えるかを、自分で選ぶ
お金そのものが尊い。
そう親や社会から教えられてきました。
けれど、お金の成り立ちを考えると
「便利で、長期間使える引き換え券」だと
思えます。
そう考えたとき
胸のつかえが取れるような感覚がありました。
チケットなら、
妥協したものと引き換えるのではなく、
心から良いと思うもの
ほんとうに好きなことや
体験と引き換えていきたい。
何と引き換えるかを、自分で選びたい。

「濃い1時間だった」
見学内容はとても充実していましたが、
所要時間は、全部で1時間ほどでした。
建物見学としても
「お金」という概念を学ぶ場としても、
短い時間とは思えない、密度の高い体験でした。
行ってよかった。
素直に、そう思います。




建築資材などに再利用されるそうです

建築祭の日は長い行列ができていた場所
今は、静かです



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