日本の免許不要無線局の俯瞰――免許という入口を外したあと、法はどこへ行くのか
2026年9月1日現在。
「免許不要無線局」という呼び方は日常的には分かりやすい。しかし、電波法施行規則第6条が用いる表現は「免許を要しない無線局」である。本稿では、一般的な呼称として「免許不要無線局」を用いながら、法制度を論じる場合には、この正式な表現を念頭に置くことにする。[1]
修正版の基礎シートも、表題を「電波法施行規則第6条 免許を要しない無線局(免許不要無線局)一覧」と改めた。そして確認基準日を2026年9月1日とし、現行法で削除された制度は旧制度として残し、公式原典を確認できない事項には「未確認」又は「公式原典未確認」と明示している。これは法令資料として重要な修正である。
電波法第1条は、電波の公平かつ能率的な利用を確保し、公共の福祉を増進することを目的としている。電波法第4条は無線局の開設について免許を原則とし、その原則の外側に、一定の条件を満たす「免許を要しない無線局」を置く。[2]
ここから見えてくるのは、免許の有無という二分法よりも、電波利用をどのような方法で統制するかという、規制技術の違いである。
一 修正版一覧から見える制度の地形
修正版シートを文章上の箇条書きに置き換えると、制度の骨格は次のようになる。なお、以下で「未確認」とした部分は、原典を推測して補わない。
第6条第1項第1号――3 m電界強度基準による著しく微弱な無線局。周波数帯に応じて電界強度の上限が定められる。322 MHz以下では500 μV/m以下、322 MHz超10 GHz以下では35 μV/m以下などである。[1]
第6条第1項第2号――無線設備から500 mの距離における電界強度が200 μV/m以下で、用途、電波の型式及び周波数について告示による指定を受ける類型。シートに旧来記載されていた昭和32年郵政省告示第708号については、今回の確認では公式原典を直接確認できなかったため、「公式原典未確認」とした。
第6条第1項第3号――標準電界発生器、ヘテロダイン周波数計その他の測定用小型発振器。
第6条第3項――市民ラジオの無線局。26.968 MHz、26.976 MHz、27.04 MHz、27.08 MHz、27.088 MHz、27.112 MHz、27.12 MHz、27.144 MHzの8波を使用し、空中線電力は0.5 W以下である。[1]
第6条第4項第1号――コードレス電話の無線局。
第6条第4項第2号――特定小電力無線局。修正版シートでは、テレメーター・テレコントロール・データ伝送、医療用テレメーター、体内植込型医療用データ伝送・遠隔計測、国際輸送用データ伝送、無線呼出、ラジオマイク、補聴援助用ラジオマイク、無線電話、音声アシスト用無線電話、移動体識別、ミリ波レーダー、移動体検知センサー、人・動物検知通報システムの13類型として整理している。これは本シートにおける整理であり、2026年中の告示改正を踏まえた永久不変の類型数という意味では用いない。
第6条第4項第3号――小電力セキュリティシステムの無線局。
第6条第4項第4号――小電力データ通信システムの無線局。シートでは2.4 GHz帯、2.47 GHz帯、5 GHz帯、6 GHz帯、24 GHz帯、60 GHz帯の6区分に整理される。主たる技術基準は無線設備規則第49条の20系に置かれる。
第6条第4項第5号――デジタルコードレス電話の無線局。
第6条第4項第6号――Personal Handy-phone System(簡易型携帯電話システム、PHS)の陸上移動局。
第6条第4項第7号――狭域通信システムの陸上移動局等。
第6条第4項第8号――現行法では「削除」。修正版では、以前ここに存在した5 GHz帯無線アクセスシステムを「旧制度」として残した。また、それに対応した旧無線設備規則第49条の21も削除済みであることを明示した。
第6条第4項第9号――超広帯域無線システムの無線局。旧シートに欠けていたため追加した。Association of Radio Industries and Businesses(一般社団法人電波産業会、ARIB)にはARIB STD-T91「UWB(Ultra-Wideband、超広帯域)無線システム」が実在する。ただし、修正版では現行の無線設備規則の対応条番号及び告示番号について確定できなかったため「未確認」とした。[3]
第6条第4項第10号――700 MHz帯高度道路交通システムの陸上移動局。無線設備規則第49条の22の2との関係及びARIB STD-T109の実在はARIB公式資料で確認できる。[4]
第6条第4項第11号――5.2 GHz帯高出力データ通信システムの陸上移動局。無線設備規則第49条の20の2が対応する。
この一覧で興味深いのは、「免許を要しない」という同じ法的効果へ至るまでの道筋が一つではないことである。
3 m地点の電界強度を測る方式がある。500 m地点の値を用いる方式がある。用途を限定するものがある。周波数を限定するものがある。空中線電力、帯域、送信時間、混信防止機能などを組み合わせるものもある。
免許不要制度という一枚の扉の後ろに、かなり異なる法技術が並んでいる。
二 免許をなくしても、秩序はなくならない
「免許不要」という言葉からは、行政規制が取り払われたような印象を受けやすい。
しかし、電波法の構造を追うと違う風景が現れる。
免許を要しない小電力系の無線局では、使用可能な周波数、空中線電力、技術的条件、混信防止機能などがあらかじめ定められ、多くの場合、技術基準への適合を確認された無線設備を用いることによって制度が成立している。[2]
ここで軽減されるのは、主として利用者ごとの免許手続である。
行政庁が個々の利用者について「あなたにはこの周波数、この設備、この場所で運用することを認める」と判断する方式から、一定の条件を満たす機器であれば多数の利用者が使用できる方式へ移る。
規制の量だけを見るより、規制が作用する場所を見る方が、この制度は理解しやすい。
三 人を審査する行政から、機械を規格化する行政へ
従来型の免許行政では、国家と利用者の関係は分かりやすい。
申請書があり、審査があり、免許状がある。
ところが小電力無線機器の多くでは、利用者が行政庁と直接接触する必要がない。
そこで重要になるのが、技術基準適合証明や工事設計認証である。電波法は特定無線設備について認証制度を設け、製造・設計段階で技術基準への適合を確保する仕組みを持つ。[5]
この仕組みでは、法は機械の外側から命令するだけではない。
許された周波数以外へ容易に送信できないこと、出力が一定範囲を超えないこと、必要な送信制御が働くことなどが、機器の回路や制御ソフトウェアの設計に組み込まれる。
利用者は法令集を読まずとも機械を使える。
しかし、その使いやすさを支えているのは、機械の設計段階まで入り込んだ法的・技術的規律である。
現代の法は、人間の行為を後から取り締まるだけでなく、可能な行為の範囲を人工物の設計によって先に区切ることがある。
免許不要無線局は、その典型例の一つである。
四 13類型は、電波ではなく社会を分類している
修正版シートが特定小電力無線局について整理する13類型を眺めると、その名称の多くが社会的用途を表していることに気付く。
医療。
補聴援助。
国際輸送。
無線電話。
移動体識別。
人・動物検知。
これらは電磁波の物理学的な分類名ではない。
人間が電波を「何のために使うのか」という分類である。
病院で生命情報を伝える通信と、舞台上のラジオマイクと、物流現場の識別装置では、必要な通信距離、信頼性、継続時間、許容できる混信の程度が異なる。
その社会的差異が法令上の用途分類へ変換され、さらに周波数、出力、送信方法という技術条件へ翻訳される。
したがって周波数制度は、自然界に存在する電磁波を整理するだけの制度ではない。
社会活動を分類し、それぞれに電波空間の居場所を割り当てる制度でもある。
五 移動体識別規格の更新に見る「一覧表の時間」
修正版シートでは、移動体識別用のARIB標準規格について重要な変更を行った。
旧シートにはARIB STD-T90が記載されていたが、これは旧950 MHz帯の規格であり、すでに廃止されている。920 MHz帯についてはARIB STD-T107「特定小電力無線局920MHz帯移動体識別用無線設備」が存在する。
ARIB公式資料によれば、STD-T107は電波法施行規則第6条の特定小電力無線局における移動体識別用途で、無線設備規則第49条の14第6号に規定される916.7 MHz以上923.5 MHz以下の周波数を使用する無線設備を対象としている。[6]
この変更は、一見すると規格番号の訂正にすぎない。
しかし、一覧表という資料の性質をよく表している。
電波制度では、周波数再編、技術革新、新たな利用方法の出現に伴って規格が変わる。かつて正しかった対応表が、年月の経過によって歴史資料へ変わることがある。
だから一覧表には「いつの時点で確認したか」という日付が必要になる。
修正版で「確認基準日 2026年9月1日」を明記した意味はここにある。
六 第8号を消さずに残した理由
現行の電波法施行規則第6条第4項第8号は「削除」である。[1]
修正版では、だからといって第8号の行自体を消してはいない。
「5 GHz帯無線アクセスシステムの陸上移動局・携帯局(旧制度)」として残した。
これは制度史を見るうえで意味がある。
法令の「削除」という表示は、そこに何もなかったことを意味しない。以前は規定があり、その後の政策判断によって制度が変更されたことを示している。
4.9 GHz帯をめぐっては、第5世代移動通信システムへの利用を含む制度整備が進められた。周波数は一度ある用途に割り当てれば永久にその用途だけのものになる資源ではなく、技術需要や公共政策によって再配置される。[7]
この意味で、「削除」は法令上の空欄であると同時に政策史の記録でもある。
現在の利用制度だけを確認したい場合は第8号を「削除」と読む。
制度の変遷を調べたい場合には、その前に何が置かれていたのかを読む。
修正版シートは、この二つの読み方を両立させようとしている。
七 第9号は追加したが、分からないところは残した
旧シートでは第8号の旧制度が載っていた一方、現行第9号の超広帯域無線システムが抜けていた。
そこで第9号を追加し、関連する民間規格としてARIB STD-T91を記載した。
ARIB公式資料上、ARIB STD-T91「UWB(超広帯域)無線システム」は実在し、近距離高速通信や高精度測位などに用いられる超広帯域無線システムを対象とする規格である。[3]
ただし、ここでは慎重さも必要になる。
ARIBのSTD-T91公式説明が参照する法令条項と、電波法施行規則第6条第4項第9号との対応関係については、今回の確認だけで無線設備規則の現行条番号や全関連告示を一意に確定できなかった。
そこで修正版では、
主対応する無線設備規則――未確認(現行条番号)
主な関連告示――未確認(現行告示番号)
ARIB規格――ARIB STD-T91
とした。
「未確認」は資料の穴を隠すための言葉ではない。
確認済みの情報と推測を混ぜないための境界線である。
法令番号は、分からない場合に空白を恐れない方がよい。
八 700 MHz帯高度道路交通システムは確認を一歩進められた
反対に、旧シートで「未確認」であったものを、公式資料によって確定できた例もある。
第6条第4項第10号の700 MHz帯高度道路交通システムである。
ARIB公式資料にはARIB STD-T109「700MHz帯高度道路交通システム」が存在し、その概要には無線設備規則第49条の22の2に規定される700 MHz帯高度道路交通システムの無線設備を対象とする旨が明記されている。[4]
このため、修正版ではARIB規格番号を「未確認」から「ARIB STD-T109」へ変更した。
一覧資料の更新とは、本来こういう作業である。
分からないものを推測で埋めるのではなく、公式資料で確定できたところから一つずつ「未確認」を減らしていく。
九 法令とARIB規格を同じ列に置くときの注意
修正版シートは、無線設備規則や総務省告示とARIB標準規格を並べている。
一覧性という点では便利である。
しかし、その法的性質は区別しなければならない。
ARIBは、自らの標準規格について、国の技術基準と、品質・互換性・利用者の利便などのための民間の任意基準を取りまとめて策定される「民間の規格」と説明している。[8]
したがって、
電波法
電波法施行規則
無線設備規則
総務省告示
ARIB標準規格
は、同じ階層の規範ではない。
法律や省令・告示は公的な法令体系に属する。
ARIB規格は民間標準である。
もっとも、実際の機器設計や互換性の確保において、民間規格の社会的影響は小さくない。
行政法規が境界を示し、標準規格がその境界の中で機器を実装するための共通言語になる。
現代の技術社会では、国家法と民間標準が接する場所で、実際に人々が使う製品が生まれる。
十 免許の窓口は、機器の中へ移った
免許不要無線局が普及するほど、一般利用者が電波行政を意識する機会は少なくなる。
コードレス機器を購入する。
無線LANを設置する。
センサーを置く。
医療機器や物流機器が情報を送る。
そのたびに役所へ申請する社会ではない。
だからといって、国家と電波利用の関係が切れたわけでもない。
関係の場所が変わったのである。
免許申請という行政窓口から、
技術基準へ。
認証へ。
製造工程へ。
規格へ。
機器の送信制御へ。
法的統制の一部が移されている。
これは、現代行政の特徴をよく表している。
利用者に多数の手続を課さず、製品の側に一定の秩序を組み込むことによって、大規模な自由利用を可能にする。
免許不要無線局は、その仕組みを日常生活の至るところで実現している。
十一 小さな電波を支える、大きな制度
一覧表には小さな数字が並ぶ。
500 μV/m。
35 μV/m。
0.01 W。
0.5 W。
0.58 W。
240 mW。
しかし、それらの小さな電波を社会の中で大量に共存させる制度は小さくない。
法律、省令、告示、技術基準、認証、標準規格、製造、流通。
その連鎖があって初めて、多数の人が相互に大きな混乱を起こさずに無線機器を利用できる。
ここに「免許不要」という言葉の面白さがある。
利用者から見える行政手続は軽い。
その背後にある技術法制は精緻である。
十二 結び――一覧表は完成しない
修正版シートを前提にすると、免許不要無線局一覧についてもう一つ重要なことが見えてくる。
この種の一覧表には、最終完成版というものがなかなか存在しない。
第8号は削除された。
第9号は追加する必要があった。
STD-T90は旧規格となり、STD-T107との関係を示す必要が生じた。
STD-T109は公式資料から確認できた。
一方、現在も「未確認」とすべき条番号や告示番号が残っている。
この変化そのものが電波行政なのである。
周波数政策は技術の発達とともに変わる。
法令が変わる。
告示が変わる。
標準規格が改定される。
そして、それまで正確だった一覧表も更新を要求される。
だから、この表を読むときに最も大切なのは、すべての空欄を埋めることではない。
何が確認済みで、何が旧制度で、何がまだ確認できていないのかを区別することである。
免許不要無線局の一覧は、周波数と規格番号を並べた技術資料である。
同時にそれは、国家が共有資源である電波をどのように社会へ開放し、個別免許による統制から、規格・認証・機器設計を通じた統制へと制度を展開してきたかを映す資料でもある。
免許状が見えなくなったところで、法が消えたわけではない。
法は、規格書へ、認証へ、回路へ、ソフトウェアへと場所を変えている。
その姿を見渡すことこそ、「日本の免許不要無線局を俯瞰する」という作業の核心なのである。
註
[1] 電波法施行規則(昭和25年電波監理委員会規則第14号)。「免許を要しない無線局」については第6条を参照。
URL:
[2] 電波法(昭和25年法律第131号)第1条、第4条ほか。
URL:
[3] 一般社団法人電波産業会、ARIB STD-T91「UWB(超広帯域)無線システム」。ARIB公式資料ではSTD-T91の実在、規格名称及び概要を確認できる。現行第6条第4項第9号との詳細な法令対応について、本稿では確認できた範囲を超えて推定していない。
URL:
[4] 一般社団法人電波産業会、ARIB STD-T109「700MHz帯高度道路交通システム」。公式概要に無線設備規則第49条の22の2との対応が記載されている。
URL:
[5] 電波法第38条の24以下。工事設計認証等について参照。
URL:
[6] 一般社団法人電波産業会、ARIB STD-T107「特定小電力無線局920MHz帯移動体識別用無線設備」。公式概要は、無線設備規則第49条の14第6号及び916.7 MHz以上923.5 MHz以下の周波数との関係を明記する。
URL:
[7] 4.9 GHz帯の第5世代移動通信システムへの利用を含む制度改正については、総務省の制度整備資料・e-Govパブリック・コメント資料を参照。第8号の旧制度から現行の「削除」への変化を考える政策的背景となる。
URL:
[8] 一般社団法人電波産業会「標準規格策定」。ARIBは標準規格について、国の技術基準と民間の任意基準を取りまとめて策定される民間規格であると説明している。
URL:
ほかの記事も用意しています。よろしければ、
http://www.lowpowerradiolab.org/ にもアクセスしてください。
