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433MHzの民俗学

――ISMの村、アマチュア無線の町内、コンテナと車輪の通路――

前編:「ISMの風土記」
https://note.com/lopra_lab/n/n3c8616a4ed74 [1]

並立する後編:
「2.4GHzの民俗学」
https://note.com/lopra_lab/n/n5254ab719a7c [2]

「13MHzの民俗学」
https://note.com/lopra_lab/n/n3b29ce952cce [3]


序 ISMの民俗学としての433MHz

前編「ISMの風土記」では、ISMバンドを「電波の工業地帯」として眺めた。そこでは電波は、通信以前に、熱し、焼き、震わせ、物質に作用する力であった。電子レンジ、誘導加熱、医療用装置、実験機器。ISMの土地には、言葉を運ぶ通信民よりも前に、電波を力として使う工業と医療の民がいた。

その後編はいくつかの道へ分かれる。2.4GHzへ降りる道があり、13.56MHzへ近づく道があり、そして433MHzへ向かう道がある。

2.4GHzは、家庭と機器が雑居する盆地である。Wi-Fi、Bluetooth、電子レンジ、Zigbee、アマチュア無線局が、同じ谷でそれぞれの作法を持って暮らしている。13MHzは、手のひらと都市のあいだに生まれる小さな門である。改札口やレジ前で、人はカードやスマートフォンを「かざす」。電波は土地から所作へ変わる。

では、433MHzは何か。

433MHzは、港湾、倉庫、コンテナ、自動車のタイヤ、リモコンキーの周囲にいる。華やかな周波数ではない。2.4GHzのように家庭内で名を知られているわけでも、携帯電話のように巨大な基地局網を伴うわけでもない。だが、現代社会の移動する物のそばに、確かにこの電波の生活がある。

本稿が追うのは、433MHzの制度史そのものではない。ISMの民俗学として、433MHzに生まれた小電力機器の村と、その移植、翻訳、衝突を見ることである。

欧州の一部では、433MHzはISMの土地に生まれたLPDの村であった。その村の作法は、世界各地でSRD、LPD、LIPDとして翻訳された。しかし日本では、その土地はアマチュア無線の町内であった。そこへ総務省は、国際的な整合性のために、コンテナと車輪の通路を彫った。

本稿の主題は、この地誌である。


一 ISMの土地に生まれたLPDの村

欧州において433MHzは、まずISMの土地として見えてくる。

433.050MHzから434.790MHz。中心周波数433.920MHz。この小さな帯域は、ITU第1地域のうち一部の欧州諸国で、産業・科学・医療、すなわちISM用途に指定される帯域と重なる[4]。

ただし、ここで注意がいる。「ITU第1地域のISM帯」と言うと、あたかも第1地域のすべての国で一律に同じ意味を持つように聞こえる。しかし実際には、国ごとの制度の差がある。したがって本稿では、433MHzを「欧州の一部でISMの地質を持ち、そこから小電力機器の村が育った土地」として扱う。

その村の名が、LPD433である。

LPDとは Low Power Device の略である。LPD433では、433.075MHzから434.775MHzまで、25kHz間隔で69の小道が並ぶ、と説明される[5]。そこを歩くのは、ガレージドア、気象センサー、無線スイッチ、警報装置、車のキーレスエントリだけではない。アナログFMを使う、免許不要の低出力ハンディ機もまた、この村の住人であった[5]。

ここで用語を分けておきたい。ISMは地質である。SRDは行政上の区画である。LPDは村の呼び名である。そしてLPD433のFMハンディ機は、その村を歩き回る人の声である。

LPD433の音声通信は、アマチュア無線のようにコールサインを掲げ、交信の作法を持つ声ではない。もっと日用品に近い声である。家族、作業者、屋外の短い連絡。PMR446の混雑を避けるための、もう一つの小声の通路。届く距離も長くはない。声は小さく、出力も小さい。

だが、この小ささこそが村の作法であった。

ガレージドアが「開け」と言う。気象計が「温度が変わった」と言う。キーレスエントリが「解錠せよ」と言う。LPDハンディ機が「こちらへ来て」と言う。どれも長話をしない。どれも帝国の通信ではない。どれも短く、低く、近くにだけ届く。

433MHz帯の民俗を一言でいえば、それは「小声の民俗」である。

会話であれ、報告であれ、命令であれ、そこにあるのは長距離の支配ではない。身近な物と人が、短い用件だけを伝える電波である。

欧州の433MHzは、ISMの野に開かれたLPDの村であった。


二 ISM民俗の翻訳――SRD、LPD、LIPDとして広がる433MHz

433MHzの小電力村は、欧州のISM指定だけで説明しきれるものではない。

ここが大事である。LPD433は、欧州のISMの土地に生まれた村であった。だが、その村の作法は、ISM指定の有無を越えて、各国の制度語へ翻訳されていった。

香港では、433.00MHzから434.79MHzが Generic Short Range Device、たとえばリモートカーキーのような機器の帯域として示され、10mW e.r.p.の条件が置かれている[6]。UAEでは、433.05MHzから434.79MHzが Non-specific short range devices の帯域として扱われ、10mW e.r.p.やデューティ比制限つきの小道として整えられている[7]。Belarusでは、LPD433として433.075MHzから434.775MHz、最大10mWの低出力無線機が許可不要機器リストに現れる[8]。

Kazakhstanを含むEAEU圏の通関・認証文脈でも、433MHz帯の低出力機器、RFID、遠隔制御、テレメトリ、警報、データ伝送といった用途が姿を見せる[9]。オーストラリアにも、433.05MHzから434.79MHzの低出力機器の小道がある。ただし、ここでは欧州的な意味で「433MHzはISM帯」と言い切るより、ACMAのLIPD、Low Interference Potential Devices、すなわち低干渉機器の制度として開かれている、と見る方がよい[10]。

つまり、433MHzには二つの顔がある。一つは、ISMの地質である。もう一つは、LPD/SRD/LIPDの村である。

ISMは、電波の土地の由来を語る言葉である。LPD/SRD/LIPDは、その土地に実際に住む小さな機器たちの制度名である。ガレージドア、リモートキー、気象センサー、警報装置、低出力トランシーバ、RFID、テレメトリ、データ伝送。これらは、必ずしも「ISMだから」住んでいるのではない。各国の行政が、低出力で、短距離で、他者を大きく妨げないという条件のもとに、433MHzの一角を小さな機器たちへ開いたのである。

ここで主題を見失ってはいけない。

433MHzが面白いのは、世界のあちこちでSRD/LPDとして使われている事実だけではない。欧州のISMの土地に生まれた低出力機器の民俗が、各国で制度名を変えながら翻訳され、そして日本や米国のような、すでに別の住人がいた土地では、衝突と調整を必要としたからである。

欧州では、ISMの野に開かれたLPDの村。香港やUAEでは、SRDとして整えられた小電力機器の村。BelarusやEAEU圏では、LPD433や遠隔制御・テレメトリの村。オーストラリアでは、LIPDとして開かれた低干渉機器の村。

433MHzの小声の民俗は、名前を変えながら広がっていった。しかし、その村をどこにでもそのまま置けるわけではなかった。


三 日米――ISMの村ではなかった土地

欧州で433MHzは、ISMの土地に生まれたLPDの村であった。また各地では、その作法がSRD、LPD、LIPDとして翻訳された。

しかし、日本と米国では、433MHzはそのまま小電力機器の村になる土地ではなかった。

日本で433MHz付近といえば、多くのアマチュア無線家にとっては430MHz帯の生活圏である。JARLのアマチュアバンドプランでも、433.00MHzは呼出周波数・非常通信周波数、433.30MHzはデジタル呼出周波数・非常通信周波数、433.50MHzは非常通信周波数として示されている[11]。

ここには、声を持つ住人がいる。ハンディ機を持った人、山頂から呼び出す人、車載機で移動する人、災害時の連絡を意識する人、コールサインを名乗る人である。

日本の周波数割当計画でも、432MHzから438MHzの欄にはアマチュア業務用が置かれ、その同じ欄に、移動業務の小電力業務用として、国際輸送用データ伝送用、ならびにTPMS/RKE用が加えられる形になっている[12]。JARL資料も、日本では433MHz帯のアマチュア業務が国内独自分配により一次業務とされている、と説明している[13]。

したがって、日本の433MHz付近を「アマチュア無線の町内」と呼ぶ比喩には、制度上の裏づけもある。制度上も、運用文化上も、そこにはアマチュア無線の濃い生活感がある。

一方、米国でも433MHzは空き地ではなかった。

米国では、420MHzから450MHzがアマチュア局に認められる70cm帯の一部である[14]。さらに420MHzから450MHz帯は、連邦政府系のレーダーなどとも関係の深い土地である。そこへFCCは、433.5MHzから434.5MHzを、商業用海上コンテナの内容識別用装置に限る通路として制度化した。運用場所も、港、鉄道ターミナル、倉庫などの商業・産業地域に限られる。音声通信は禁止される[15]。

これは、まさにコンテナ専用の細道である。誰にでも開かれた村道ではない。港湾と倉庫と鉄道ターミナルにだけ通じる、物流の路地である。

つまり、日米の433MHzは、欧州のようなLPDの村ではない。

日本では、アマチュア無線の町内。米国では、アマチュア無線と政府系業務の土地。そこへ行政が、国際物流や自動車流通のための通路を彫ったのである。

ここで見たい対比は、欧州対日本という地理の違いにとどまらない。本当の対比は、こうである。

ISMの土地に生まれた村。
既存業務の土地に彫られた通路。

欧州の433MHzは前者であり、日米の433MHzは後者であった。


四 縄張りの引き直し――総務省という地割り役

総務省がしたことは、新しい無線機器を認める行政手続に収まらなかった。それは、国際的な整合性のために、電波の縄張りを引き直すことであった。

日本には、すでに315MHz帯のTPMS/RKEがあった。TPMSとは Tire Pressure Monitoring System、タイヤ空気圧監視システムである。RKEとは Remote Keyless Entry、リモートキーレスエントリである。

JARL資料では、TPMS/RKEは日本では平成19年に315MHz帯を使用する免許不要の特定小電力無線局として導入された、と説明されている[13]。つまり、日本の自動車はもともと315MHzで小声を出していた。

しかし国際的には、433MHz帯を使うTPMS/RKEが広がっていた。総務省資料でも、433MHz帯がTPMS/RKEにおける世界標準周波数となっており、国際的な周波数協調を見据えて国内でも新たな周波数利用が求められている、と整理されている[16]。

理由は明快である。コンテナは国境で周波数を着替えない。自動車も国境でタイヤセンサーやリモコンキーを作り替えない。

ここでいう国際協調とは、抽象的な国際協調主義ではない。もっと硬く、もっと現場的な国際整合である。船が寄港する。貨物が積み替えられる。輸入車が港に上がる。部品が国境を越える。認証が重なる。そのたびに、国ごとに周波数の作法が違いすぎれば、物流も自動車流通も重くなる。

だから、433MHzの導入は、便利な新機能の追加よりも、国際的な整合性に合わせて縄張りを引き直す作業に近かった。

ここでの行政は、電波の地主である。制度改正とは、地図の上に新しい通路を描き込む作業である。総務省は、アマチュア無線の町内を更地にしたのではない。その町内に、国際物流と自動車流通のための細い道を通したのである。

ここで起きたのは、ISMの民俗をそのまま輸入することではなかった。既存の周波数地図に、国際物流と自動車流通の実務が要求する道を描き込むことだった。


五 第一の通路――港湾・倉庫・コンテナ

433MHzの第一の通路は、港湾・倉庫・コンテナの通路である。

ARIB STD-T92は、「特定小電力無線局433MHz帯国際輸送用データ伝送用無線設備」の標準規格である。この規格は、国際輸送用貨物の管理業務に使うため、433.67MHzを超え434.17MHz以下の電波を使用する無線設備について規定している[17]。

その対象システムは、433MHz帯アクティブタグシステムである。主として港湾、空港、工場、倉庫に設置されるインテロゲータと、国際輸送用貨物に装着されるアクティブタグ。その両者からなるシステムである[17]。

この列挙は美しい。港湾、空港、工場、倉庫、国際輸送用貨物。ここに、433MHzがなぜ日本へ来たのかが刻まれている。

コンテナは国際物流である。船に載り、港を渡り、ヤードを通り、倉庫へ入り、また別の国へ出ていく。国際輸送用貨物に付くタグは、港ごとに別の声へ着替えるわけにはいかない。日本だけが、433MHzを使わない、というわけにもいかなかった。

コンテナは、本来しゃべらない。だが、タグは言う。「私はここにいる」「私は通過した」「私は開けられていない」「私は別の場所へ移った」。

港湾における433MHzは、物に声を与える。それは雄弁な声ではない。むしろ、帳簿の端に記されるような短い声である。しかし物流において、この短い声は重い。

かつて貨物を見張ったのは、人の目、帳簿、判子、封印、鍵であった。やがてバーコードが加わり、RFIDが加わり、GPSやセルラー通信が加わった。433MHzのアクティブタグは、その中で、鉄の箱に声を与える道具となる。

コンテナの通路とは、国際物流のために433MHzへ彫られた細い道であった。


六 インテロゲータとタグ――港の問答

ここで、読み取り側とタグの関係を少し丁寧に見ておきたい。

433MHzアクティブタグでは、タグが勝手に名乗る場面だけを想像すると足りない。読み取り側が呼びかけ、タグが応答する。そこには、港の門番と貨物の証人のような問答がある。

ARIB STD-T92の説明では、読み取り側はリーダーではなく、インテロゲータと呼ばれている[17]。この言葉がよい。インテロゲータとは、問いかける者、問いただす者である。港湾や倉庫の入口に立ち、通過する貨物へ向かって呼びかける。

「起きよ」「名乗れ」「状態を返せ」「通過を記録する」「もうよい、眠れ」。

タグは、電池を持つ小さな札である。パッシブRFIDのように、ただ外から照らされて反射するだけの札ではない。内蔵電池などのエネルギーで、自ら電波を発射できる札である。

もちろん、実際の通信手順は比喩ほど単純ではない。タグの始動、停止、データ伝送、衝突回避、応答タイミングなど、システムには技術的な作法がある。だが、民俗学的に見れば、ここで起きているのは「読む」ことではなく「問う」ことである。

バーコードリーダーは、黙って印刷された縞を読む。パッシブRFIDのリーダーは、電波で札を照らし、その反射を読む。433MHzのアクティブタグでは、インテロゲータが呼びかけ、タグが答える。

人間の通関であれば、係官が書類を見て、番号を照合し、判を押す。433MHzの通関では、インテロゲータが問い、タグが答え、データベースが通過を受け取る。

コンテナは、門をくぐる。インテロゲータは、問いかける。タグは、応答する。システムは、通過を記録する。

ここに、433MHzの港湾的な儀礼がある。433MHzは、物に声を与えるだけではない。港湾の門に、問答の儀式を作るのである。


七 第二の通路――車輪と鍵、TPMS/RKE

433MHzの第二の通路は、車輪と鍵の通路である。

TPMSは、タイヤの内側から空気圧を告げる。RKEは、手のひらの鍵から車へ開閉の命令を送る。一方は車輪の身体情報であり、もう一方は鍵の合図である。

日本では、これらの自動車用小電力無線には315MHz帯の作法が先にあった。ARIB STD-T93は、315MHz帯テレメータ用、テレコントロール用、データ伝送用の特定小電力無線設備の標準規格であり、2007年に策定されている[18]。

ところが、世界の車はしだいに433MHzで話すようになった。そのため日本でも、433MHz帯のTPMS/RKEが制度化され、ARIB STD-T124として、433.795MHzを超え434.045MHz以下を使うTPMS/RKE用無線設備の規格が策定された[19]。

315MHzから433MHzへの単純な引っ越しではない。日本の315MHzの家は残る。その横に433MHzの別宅が建つ。そしてその別宅の玄関が、国際流通に合わせて広げられようとする。

2026年には、自動車の国際的な流通拡大への対応として、433MHz帯TPMS/RKEの制度改正案が扱われた。総務省資料では、433MHz帯TPMS/RKEの使用帯域の拡張等を検討する旨が示されている[20]。報道では、433.05MHzから434.79MHzへの拡大、占有周波数帯幅1.74MHzへの拡大として説明されている[21]。

ここでも、国際的な整合性が縄張りを動かす。

コンテナが「私はここにいる」と言うなら、タイヤは「私は少し空気が足りない」と言う。鍵は「開け」と言う。

ただし、TPMS/RKEはコンテナRFIDほど明確な問答ではない。TPMSの基本形は、タイヤ側センサーから車両側受信機への報告である。RKEの基本形は、キーから車両への命令である。つまり、基本は一方通行に近い。

タイヤが報告する。鍵が命じる。車が聞く。

もちろん、現代のスマートキーや一部の登録・起動方式では、車両側や整備機器が低周波などで呼びかけ、センサーや鍵が応答することもある。そこでは、コンテナのインテロゲータとタグに似た小さな問答が生まれる。しかし、民俗学的に見れば、TPMS/RKEの主たる性格は、報告と命令である。

タイヤは車の身体を報告する。鍵は車の扉へ命令する。433MHzの第二の通路は、車輪の身体情報と、鍵の合図を運ぶ道であった。


八 混信という近所づきあい

電波の共用を考えるとき、技術者は混信を問題として扱う。信号が重なる。受信が乱れる。通信が失敗する。重要な連絡が聞こえなくなる。それは確かに避けるべき現象である。

だが、民俗学的に見るなら、混信とは近所づきあいでもある。

隣家の声が聞こえる。祭りの太鼓が響く。工場の機械音が漏れる。子どもの声が路地を渡る。社会は完全な静寂の中には成立しない。そこには、許容される音と、許容されない音の境界がある。

電波も同じである。出力を小さくする。送信時間を短くする。帯域幅を制限する。用途を限る。場所を限る。識別符号を用いる。制度は、この近所づきあいを数値に翻訳する。

10mW。1mW。25mW。250kHz。1.74MHz。433.92MHz。港湾、倉庫、工場。国際輸送用貨物。TPMS/RKE。

冷たい数字の背後には、住民どうしの距離感がある。

ここで、アマチュア無線家の違和感を、抵抗という一語で片づけてはいけない。433MHz付近には、すでに声の文化がある。呼出周波数があり、非常通信の意識があり、コールサインを名乗る人間たちがいる。そこへ、名乗らぬ機械が入ってくる。それは、技術条件だけでは済まない感情の地層を伴う。

欧州では、ISMの村にLPDの小声が育った。各地では、その小声がSRDやLIPDとして翻訳された。日本では、アマチュア無線の町内に、国際物流と自動車の機械民が入った。米国では、アマチュア無線と政府系業務の土地に、コンテナ専用の細道が通された。

この違いを見落とすと、433MHzの民俗は見えてこない。

混信をノイズとしてだけ見ると、433MHzの民俗は見えにくい。誰が先にいたのか。誰がどれだけ声を出せるのか。誰が保護されるのか。誰が遠慮するのか。その問いの束である。

433MHzの問題は、名乗る人間と、名乗らぬ機械の隣人関係である。


結 ISMの村から、コンテナと車輪の通路へ

433MHzには、見張るという仕事がある。港湾でコンテナを見張る。倉庫でパレットを見張る。車でタイヤを見張る。鍵の合図を見張る。アマチュア無線の声のそばで、機械の短い報告を走らせる。

欧州の433MHzは、ISMの土地に生まれたLPDの村であった。その村の作法は、世界各地でSRD、LPD、LIPDとして翻訳された。しかし日本の433MHzは、アマチュア無線の町内であった。そこへ総務省は、国際的な整合性のために、コンテナと車輪の通路を彫った。

この通路を通るものは、声高ではない。コンテナタグ、倉庫のパレット、タイヤの空気圧、手のひらのキー。どれも短く、小さく、用件だけを伝える。

「私はここにいる」
「私は通過した」
「圧が足りない」
「開け」

それだけである。

しかし、現代の物流と自動車の文明は、こうした小さな声に支えられている。物が動き、人が動き、車が動き、荷が動く。その移動を見失わないために、電波は小さな杭を打つ。ここにいた。ここを通った。開いた。閉じた。低下した。応答した。

433MHzとは、見えない物の移動に、声を与える電波である。

ISMの村であり、小電力機器の民俗であり、アマチュア無線の町内に通された道であり、現代の物流と自動車にとっては通路である。

その声は小さい。その出力は弱い。その通信は短い。だが、港に、倉に、コンテナの扉に、タイヤの内側に、名乗らぬ番人がいる。

その番人の声が、433MHzである。


注釈・参考資料

[1] 前編:「ISMの風土記」。2026年6月1日公開。
URL: https://note.com/lopra_lab/n/n3c8616a4ed74

[2] 並立する後編:「2.4GHzの民俗学」。前稿「ISMの風土記」の後編として、2.4GHz帯を「もっとも身近な盆地」として扱う。
URL: https://note.com/lopra_lab/n/n5254ab719a7c

[3] 並立する後編:「13MHzの民俗学」。前編「ISMの風土記」の後編として、13.56MHzを「かざす」都市の所作へ展開している。
URL: https://note.com/lopra_lab/n/n3b29ce952cce

[4] 433.050〜434.790MHz、中心433.920MHzは、ITU第1地域の一部欧州諸国でISM用途に指定される帯域として説明される。
URL: https://www.itu.int/en/ITU-R/study-groups/workshops/RWP1B-SRD-UWB-14/Presentations/International%2C%20regional%20and%20national%20regulation%20of%20SRDs.pdf

[5] LPD433は、433.075〜434.775MHz、25kHz間隔、69チャンネルの低出力機器帯として説明される。アナログFMによる免許不要音声通信、最大10mW、一体型アンテナ等の条件も説明されている。
URL: https://en.wikipedia.org/wiki/LPD433
URL: https://docdb.cept.org/document/845
URL: https://docdb.cept.org/download/4916

[6] 香港OFCAは、Generic Short Range Device、例として remote car key、について、433.00〜434.79MHz、最大10mW e.r.p.を示している。
URL: https://www.ofca.gov.hk/en/consumer_focus/guide/help_for_consumers/information_on_radio_applications/short_range_devices/index.html

[7] UAE TDRAのSRD規則では、433.05〜434.79MHzがNon-specific short range devicesとして示され、10mW e.r.p.やデューティ比制限などが扱われている。
URL: https://tdra.gov.ae/-/media/About/regulations-and-ruling/EN/UWB-and-SRD-Regulations-50.ashx

[8] Belarusの許可不要機器リストでは、LPD433として433.075〜434.775MHz、最大10mWが示されている。
URL: https://belgie.by/en/ap/ap_u/list-res-without-permitions/

[9] EAEU圏の通関・認証文脈では、433MHz帯の低出力機器やRFID、遠隔制御、テレメトリ等が現れる。
URL: https://en.cyclopedia.ifcg.ru/wiki/Legal%3AList_of_radio-electronic_equipment_and_high-frequency_devices_for_civil_use_that_may_be_imported_to_the_EAEU_without_a_license%2C_conclusion_%28permit%29_or_information_from_the_Common_register

[10] オーストラリアでは、433.05〜434.79MHzがLIPD class licenceの文脈で低干渉機器向け帯域として示される。
URL: https://www.acma.gov.au/licences/low-interference-potential-devices-lipd-class-licence
URL: https://www.legislation.gov.au/F2025L01047/asmade/text

[11] JARLのアマチュアバンドプランでは、430MHz帯において433.00MHz呼出周波数・非常通信周波数、433.30MHzデジタル呼出周波数・非常通信周波数、433.50MHz非常通信周波数が示されている。
URL: https://www.jarl.org/English/6_Band_Plan/JapaneseAmateurBandplans20200421.pdf

[12] 総務省告示第41号、令和7年2月27日。周波数割当計画の432〜438MHz欄に、アマチュア業務用と、移動・小電力業務用として国際輸送用データ伝送用ならびにTPMS/RKE用が示されている。
URL: https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/download?seqNo=0000288223

[13] JARL資料「433MHz帯を使用したタイヤ空気圧モニタとリモートキーレスエントリとの周波数共用について」。日本ではTPMS/RKEが平成19年に315MHz帯の特定小電力無線局として導入されたこと、433MHz帯が世界的にISMバンドとして使われる国や地域が多いこと、日本ではアマチュア業務が国内独自分配により一次業務とされていることなどが説明されている。
URL: https://www.jarl.org/Japanese/7_Technical/TPMS_RKE_202409.pdf

[14] 米国FCC規則47 CFR §97.301は、アマチュア局に認められる周波数帯として420〜450MHzを含む70cm帯を示している。
URL: https://www.ecfr.gov/current/title-47/chapter-I/subchapter-D/part-97/subpart-D/section-97.301

[15] FCC規則47 CFR §15.240は、433.5〜434.5MHzでの運用を商業用海上コンテナの内容識別用装置に制限し、港、鉄道ターミナル、倉庫などの商業・産業地域に限定し、音声通信を禁止している。
URL: https://www.ecfr.gov/current/title-47/chapter-I/subchapter-A/part-15/subpart-C/subject-group-ECFR2f2e5828339709e/section-15.240

[16] 総務省資料では、TPMS/RKEについて、日本では平成19年に315MHz帯の特定小電力無線局として導入され、一方で国際的には433MHz帯を使用した同システムの普及が進み、433MHz帯がTPMS/RKEにおける世界標準周波数となっている、と説明されている。
URL: https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/download?seqNo=0000288229

[17] ARIB STD-T92「特定小電力無線局433MHz帯国際輸送用データ伝送用無線設備」は、433.67MHzを超え434.17MHz以下を使う国際輸送用貨物管理向けの433MHz帯アクティブタグシステムで、港湾、空港、工場、倉庫のインテロゲータと国際輸送用貨物に装着されるアクティブタグからなる。
URL: https://www.arib.or.jp/kikaku/kikaku_tushin/desc/std-t92.html

[18] ARIB STD-T93「特定小電力無線局315MHz帯テレメータ用、テレコントロール用及びデータ伝送用無線設備標準規格」。2007年5月29日策定。
URL: https://www.arib.or.jp/kikaku/kikaku_tushin/desc/std-t93.html

[19] ARIB STD-T124「特定小電力無線局433MHz帯タイヤ空気圧モニタリングシステム及びキーレスエントリシステム用無線設備」。433.795MHzを超え434.045MHz以下を使うTPMS/RKE用無線設備として、2025年10月30日に策定。
URL: https://webstore.arib.or.jp/jp/products/detail.php?product_id=1023

[20] 総務省の2026年制度改正案では、自動車の国際的な流通拡大への対応として、433MHz帯TPMS/RKEの使用帯域の拡張等を検討する旨が示されている。
URL: https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/download?seqNo=0000311895

[21] 433MHz帯TPMS/RKE制度改正案について、433.05〜434.79MHzへの拡大、占有周波数帯幅1.74MHzへの拡大などを報じた記事。
URL: https://www.hamlife.jp/2026/05/29/rikujyo-tushin-iinkai-pabukome2026-kekka/


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