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微弱無線局はなぜ電界強度で決まるのか――100 m・15 μV/mから3 m基準へ、自作者には測りにくい免許不要の境界


「微弱無線は、何mWまでなら免許がいらないのか」。

電子工作をする側からすれば、ごく自然な問いである。

送信機を作れば、発振周波数とともに出力電力が気になる。無線機の仕様も、10 mW、1 W、50 Wというように電力で表されることが多い。それなら、電波法第4条第1号にいう「発射する電波が著しく微弱な無線局」にも、「何mW以下」という境界がありそうに思える。

ところが、日本の微弱無線局の制度は、そのようには組み立てられていない。

現行の電波法施行規則第6条第1項が一般的な類型について見ているのは、送信機の出力端子に現れる電力ではなく、無線設備から3 m離れた場所に現れる電界強度である。[1][2]

そして、この考え方には長い前史がある。

1960年の電波研究所の資料を見ると、当時の一般的な基準は、100 mの距離において15 μV/m以下であった。[3]

現在とは測定距離も数値も違うが、すでに法は、送信機内部のWではなく、空間に現れたμV/mを免許不要の境界としていた。

微弱無線局の歴史を追うと、そこで問題になってきたのは「どれほど弱ければ免許を要しないか」だけではない。

その弱さを、誰が、どのような方法で確かめるのか。

この問いまで含めて見ると、微弱無線局という小さな制度は、電波工学の話であると同時に、法が技術的事実をどのように測定可能な法律事実へ変えてゆくかという、法制史と法社会学の問題でもあることが分かってくる。

「免許不要」は法の外を意味しない

電波法第4条は、無線局を開設しようとする者は、原則として総務大臣の免許を受けなければならないとする。

その例外の第一に置かれているのが、

「発射する電波が著しく微弱な無線局で総務省令で定めるもの」

である。[1]

この条文構造は重要である。

微弱無線局は、「弱い電波だから電波法が関知しない」のではない。

電波法自身が「著しく微弱」という領域を設け、その範囲にある無線局について、個別の免許という事前統制を要求しないのである。

したがって、「免許不要」は「無制限」と同義ではない。

むしろ、

この程度までなら、個別に免許を与えなくても電波秩序を維持できる

という法政策上の判断が、免許不要という形を取っている。

「微弱」という日常語が、そのまま法律上の基準になるわけでもない。どこまでを「著しく微弱」とするかは、電波法施行規則第6条によって数値化される。[2]

現行の一般的な基準は、おおむね次のようになっている。

  • 322 MHz以下では、3 mで500 μV/m以下

  • 322 MHzを超え10 GHz以下では、3 mで35 μV/m以下

  • 10 GHzを超え150 GHz以下では、周波数に応じた値。ただし500 μV/mを上限とする

  • 150 GHzを超えるものでは、500 μV/m以下

322 MHz以下なら、

$$
E\leq500,\mu\mathrm{V/m}
$$

を、

$$
r=3,\mathrm{m}
$$

の距離で満たすことになる。

322 MHzを超え10 GHz以下では、

$$
E\leq35,\mu\mathrm{V/m}
$$

を、

$$
r=3,\mathrm{m}
$$

で満たすことになる。

したがって、「微弱無線は3 mで500 μV/m」とだけ覚えるのも正確ではない。

周波数によって、法の引く境界そのものが異なる。

法が見ているのは、送信機の内部より外部に現れた結果である

それでは、なぜ何mWという数字を使わないのだろうか。

仮に、微弱無線局を、

$$
P_{\mathrm{TX}}\leq1,\mathrm{mW}
$$

と定めたとする。

同じ1 mWを発生する送信機でも、周囲に形成する電界は同一にはならない。

その結果を変えるものとして、

  • 空中線の長さと形状

  • 空中線利得

  • 放射効率

  • 給電損失

  • 整合状態

  • 基板配線

  • 筐体

  • 電源線

  • 外部ケーブル

  • 接地状態

  • 設置方法

などがある。

波長に適した効率のよい空中線を接続した設備と、波長に比べて極端に短く、弱く結合された空中線を持つ設備とでは、同じ高周波電力を扱っていても空間への放射は違う。

さらに、製作者が「アンテナ」と考えていない部分が放射に参加することもある。

電源線、測定ケーブル、プリント基板上の導体、筐体の隙間などである。

送信出力という値は、送信機内部の特定の位置を表す量である。

これに対して電界強度は、送信回路、給電系、空中線、筐体その他を含む設備全体が外界に作った結果を見る。

公共の電波空間への影響という観点から考えるなら、こちらのほうが規制目的に近い。

法社会学的にいえば、これは行為者が内部で何をしたかよりも、その行為が共有された空間にどのような作用を現したかを基準にする仕組みである。

電波法が問うているのは、発振器が何mWを作ったかという一点より、設備全体が電波空間にどれほどの電界を作ったかなのである。

自由空間なら電界強度をWに換算できる

もっとも、「電界強度で規制されるから、電力には換算できない」と考えるのも適切ではない。

理想的な自由空間で、観測地点が十分な遠方界にあるという条件を置けば、電界強度と放射電力との間には明確な関係がある。

International Telecommunication Union Radiocommunication Sector(国際電気通信連合無線通信部門)のRecommendation ITU-R P.525-5(ITU-R勧告P.525-5「自由空間減衰の計算」)は、自由空間における電界強度とEIRPの関係を示している。[4]

EIRP, equivalent isotropically radiated power(等価等方放射電力)をP_EIRPとすれば、

$$
E=\frac{\sqrt{30P_{\mathrm{EIRP}}}}{r}
$$

となる。

したがって、

$$
P_{\mathrm{EIRP}}=\frac{(Er)^2}{30}
$$

である。

現行の322 MHz以下の基準について、

$$
E=500,\mu\mathrm{V/m}
$$

であるから、

$$
E=500\times10^{-6},\mathrm{V/m}
$$

となる。

また、

$$
r=3,\mathrm{m}
$$

である。

したがって、

$$
P_{\mathrm{EIRP}}=\frac{(500\times10^{-6}\times3)^2}{30}
$$

となる。

まず、

$$
500\times10^{-6}\times3=1.5\times10^{-3}
$$

なので、

$$
P_{\mathrm{EIRP}}=\frac{(1.5\times10^{-3})^2}{30}
$$

となる。

これを計算すると、

$$
P_{\mathrm{EIRP}}=7.5\times10^{-8},\mathrm{W}
$$

である。

したがって、

$$
P_{\mathrm{EIRP}}=75,\mathrm{nW}
$$

となる。

ERP, effective radiated power(実効放射電力)は半波長ダイポールを基準とする。

EIRPとERPの差を約2.15 dBとして換算すると、おおよそ、

$$
P_{\mathrm{ERP}}\simeq46,\mathrm{nW}
$$

となる。

物理モデルの中では、μV/mからWへの換算はできる。

しかし、この46 nW ERPを「微弱無線局の送信出力上限」と読み替えることはできない。

自由空間・遠方界という条件を置いて得られた値だからである。

100 m・15 μV/mと3 m・500 μV/m

制度史を見ると、ここに興味深い数値の対応が現れる。

1960年の電波研究所資料には、当時の一般的な微弱無線局について、

$$
E=15,\mu\mathrm{V/m}
$$

を、

$$
r=100,\mathrm{m}
$$

で満たす基準が記されている。[3]

自由空間では、電界強度は距離に反比例する。

したがって、

$$
Er=\mathrm{constant}
$$

という関係を見ることができる。

旧基準では、

$$
15,\mu\mathrm{V/m}\times100,\mathrm{m}=1500,\mu\mathrm{V}
$$

となる。

現在の322 MHz以下の基準では、

$$
500,\mu\mathrm{V/m}\times3,\mathrm{m}=1500,\mu\mathrm{V}
$$

である。

したがって、

$$
15\times100=500\times3=1500
$$

となる。

自由空間・遠方界として計算すれば、旧基準と現行の322 MHz以下の基準は、同じEIRPに対応する。

旧基準について計算すると、

$$
P_{\mathrm{EIRP}}=\frac{(15\times10^{-6}\times100)^2}{30}
$$

となる。

したがって、

$$
P_{\mathrm{EIRP}}=7.5\times10^{-8},\mathrm{W}
$$

であり、

$$
P_{\mathrm{EIRP}}=75,\mathrm{nW}
$$

となる。

ERPに換算すれば、

$$
P_{\mathrm{ERP}}\simeq46,\mathrm{nW}
$$

である。

この数値上の一致は興味深い。

ただし、ここから、

「100 m・15 μV/mを自由空間換算した結果として3 m・500 μV/mが制定された」

と制度改正の理由まで断定することはできない。

1984年の国会審議では、郵政省側が、旧来の100 m・15 μV/m基準について、昭和32年当時には主として中波放送受信の保護を念頭に置いたものであったこと、その後マイクロ波、ミリ波、宇宙通信など電波利用の形態が変化したため、微弱無線局の基準を見直す必要が生じたことを説明している。[5]

したがって、数式上の対応は工学的に指摘できるが、法制史上の改正理由はそれだけではない。

電波利用の変化とともに、何を保護し、どこまでを「著しく微弱」とみなすかという政策判断も変化したのである。

現実の3 mは、自由空間の3 mとは限らない

自由空間換算ができるなら、

$$
P_{\mathrm{ERP}}\simeq46,\mathrm{nW}
$$

を下回ればよい、と考えたくなる。

しかし、現実の測定空間には、

  • 地面からの反射

  • 壁、床、天井からの反射

  • 金属物による再放射

  • 遮蔽

  • 回折

  • 偏波

  • 指向性

  • 人体の影響

  • 配線や筐体からの放射

がある。

さらに、周波数やアンテナ寸法によっては、3 m地点を単純な遠方界として扱うことが適切でない場合もある。

したがって、

$$
E=500,\mu\mathrm{V/m}
$$

を、

$$
r=3,\mathrm{m}
$$

で観測したからといって、現実の設備について常に、

$$
P_{\mathrm{ERP}}=46,\mathrm{nW}
$$

と一意に断定することはできない。

自由空間モデルによる換算と、法令に従った現実の設備の適否判定とは区別しなければならない。

「微弱無線は何mWまでか」という問いに、全国共通の一つのmW値を答えられない理由はここにある。

法令に数字を書くだけでは、測定方法は決まらない

かつての基準は、

$$
E\leq15,\mu\mathrm{V/m}
$$

を、

$$
r=100,\mathrm{m}
$$

で満たすというものであった。

数字だけを見れば、境界は明確に見える。

しかし、法令に数値を書くことと、実際の設備についてその数値を再現可能な方法で判定することは別の仕事である。

1960年1月の『電波研究所季報』に掲載された中村利幸、新井益夫、須藤叡朗「発射電波が微弱な送信機の電界強度測定方法」は、この問題を正面から扱っている。[3]

そこでは、電界強度が送信機の使用条件や測定条件によって変化するため、そのままでは施行規則第6条への該当性を判定することが非常に困難であるとして、標準的な測定条件を検討している。

たとえば、

  • 送信機の地上高

  • 受信アンテナの高さ

  • 最大放射方向

  • 測定場所の地形

  • 周囲の反射条件

などを一定にしなければ、同じ装置でも異なる値が現れ得る。

しかも、100 mあるいは500 mという測定距離を確保しながら、周囲の反射物や外来波を避けられる場所を用意するのは容易でなかった。

そこで同資料では、およそ5 mから50 m程度の近距離で測定し、距離に対する電界強度特性から所定距離の値を推定する方法も検討された。[3]

法制史的に見ると、ここは重要である。

法はまず、

$$
15,\mu\mathrm{V/m}
$$

という数値を置く。

しかし、その規範を個別の機器へ適用するためには、

何を、どこで、どのように測れば、その15 μV/mという法的境界と比較できるのか

という別の技術が必要になる。

規範が存在することと、規範への適合を観測可能にすることは同じではない。

免許不要局は行政からも見えにくい

もう一つ、免許不要という制度そのものに由来する問題がある。

免許局であれば、免許申請という行政との接点がある。

免許人が存在し、設備について行政が把握する仕組みもある。

ところが、微弱無線局は免許を要しない。

利用者側から見れば手続負担がないが、行政から見れば、一台一台を事前に審査し、所在を把握する制度でもない。

1958年の電波法改正では、第82条について「免許を要しない無線局」が対象に加えられた。[6]

制定当初の第82条は受信設備に対する監督を扱う規定だったが、この改正により、免許不要の無線局から発する電波が他の無線設備に継続的かつ重大な障害を与える場合についても、行政が必要な措置を求める仕組みが設けられた。

同年の国会審議では、政府側が、微弱電波局は免許を必要とせず郵政省が把握していない一方、重要な無線局へ妨害を与える場合があり、それまで十分な対処手段がなかったことを問題として説明している。[7]

ここは史料上の限界にも注意したい。

100 m・15 μV/m基準の測定が困難だったことを理由として、第82条が改正されたと直接示す史料は、今回確認した範囲では見つかっていない。

したがって、両者を直接の因果関係で結び付けることは控えるべきである。

確認できるのは、1950年代末から1960年前後の制度に、

微弱性をどう測定するかという問題

と、

行政が事前に把握しない免許不要局が現実に妨害を生じさせた場合にどう対処するかという問題

が併存していたということである。

前者には測定技術の研究が必要だった。

後者には第82条という事後的な行政手段が用意された。

この二つを並べて見ると、微弱無線局が、数値基準だけで完結する制度ではなかったことが分かる。

100 mから3 mへ

1980年代になると、微弱無線局の基準そのものが見直される。

1984年5月9日の衆議院逓信委員会では、郵政省側から、従来100 mで測定していた基準を3 mで測る方式へ改める方向が説明されている。[5]

また、322 MHzを超える領域について、より厳しい電界強度基準を設ける考えも示された。

その後、1986年5月27日の郵政省令第24号によって電波法施行規則が改正されたことは、国立国会図書館「日本法令索引」で確認できる。[8]

ただし、今回の確認では、この郵政省令第24号の官報掲載改正文そのものを原典として直接照合できていない。

したがって、本稿では、

1986年5月27日郵政省令第24号による改正の存在と日付は確認できる

ところまでを確実な事実として扱い、改正文の逐語的な内容について、確認していない原典を補うことはしない。

法制史を扱ううえでは、分からないものを原典らしく作るより、「ここまでは確認できる」「ここから先は未確認」と境界を示すほうが重要である。

そして測定方法が告示された

制度の変化は、測定距離の変更だけでは終わらなかった。

1988年2月25日、昭和63年郵政省告示第127号「発射する電波が著しく微弱な無線局の電界強度の測定方法」が公布されたとされる。[9]

この告示は、電波法施行規則第6条第2項に基づき、微弱無線局の電界強度をどのような条件で測定するかを具体化するものである。

ここで、出典について注意を要する。

告示の存在、番号、題名、日付、そしてその内容については、後年の複数資料から確認できる。また、日本財団図書館には告示本文の収録があり、試験場、被測定機器の設置、測定条件などを確認できる。[9]

一方、今回の確認では、総務省電波利用ホームページに置かれた公式本文を直接取得し、その全文を原典として照合することはできなかった。

そのため、本稿では日本財団図書館の掲載文を告示本文の二次収録として扱う。

確認できる範囲では、告示は測定場所の条件、被測定機器の設置方法、測定アンテナその他について具体的な手順を設けている。[9]

ここに、制度史上の一つの転換を見ることができる。

1960年には、電波研究所が、

どこに置くのか、どちらを向けるのか、どのような場所で測るのか

という問題を研究課題として扱っていた。

1980年代末には、その種の測定条件が告示という法形式の中へ取り込まれた。

法が、

$$
500,\mu\mathrm{V/m}
$$

という数値を掲げるだけでは、安定した適合判定はできない。

その数値を、

どの測定方法によって得られた値なら法律上比較可能なものとして扱うのか

まで定めて、初めて技術基準は実務上の判断基準になる。

測定方法の告示は、工学的な手順書であると同時に、何を法的事実として認識するのかを定める規範でもある。

測定方法は明確になった。それでも個人には容易でない

測定方法が告示されたことは、「今も測定方法が不明確である」という意味ではない。

問題の性質は変わった。

1960年前後には、

法令上の電界強度をどのような標準状態で測るか

自体が研究上の問題であった。

現在は、

測定方法は制度化されているが、その方法に従った絶対電界強度測定を個人の自作者が行うのは容易でない

という問題である。

個人でも、

  • 電源電圧

  • 電源電流

  • 発振周波数

  • 高周波出力

  • スペクトル

などは比較的測りやすい。

これに対して3 m地点で500 μV/mあるいは35 μV/mという絶対電界強度を評価するには、

  • 特性の分かった測定アンテナ

  • アンテナファクタ

  • ケーブル損失

  • 測定系の校正

  • 適切な測定場所

  • 反射への配慮

  • 外来電波

  • 背景雑音

などを考慮しなければならない。

一般財団法人テレコムエンジニアリングセンターは、微弱無線設備について専門の試験を実施している。[10]

TELEC(一般財団法人テレコムエンジニアリングセンター)の資料は法令原典ではないが、現在の測定実務を知るための資料として有用である。

制度は客観的なμV/mという数字をすべての設備に要求する。

しかし、その数字を自分で確かめる能力や設備は、すべての利用者に同じように備わっているわけではない。

規範上の平等と、測定能力へのアクセスの平等とは異なる。

ここに、自作する側から見た微弱無線制度の難しさがある。

自作では「46 nWの発振器」を作れば済むわけでもない

自由空間換算で、

$$
P_{\mathrm{ERP}}\simeq46,\mathrm{nW}
$$

という数字が得られると、

「ならば発振器を46 nWより十分小さくすればよい」

と考えたくなる。

しかし、それでは再び装置全体の問題を発振器一点へ戻してしまう。

発振器からの高周波出力を極端に小さくすることはできる。

一方で、現実の設備では、

  • 基板配線

  • 電源線

  • 外部ケーブル

  • 筐体

  • 測定線

などからの放射も考えなければならない。

また、低い周波数では、波長に比べて短い空中線を使い、空間への結合そのものを弱くするほうが現実的な場合もある。

そこで自作上は、

  • 空中線との結合を弱くする

  • 電気的に短い空中線を使う

  • 給電系で十分に減衰させる

  • 不要な外部配線を短くする

  • 筐体で不要放射を抑える

といった方法によって、設備全体として外部へ出る電波を小さくすることになる。

通常の送信機が「いかに効率よく飛ばすか」を考えるのに対し、微弱無線では、

必要な働きを残しながら、いかに必要以上に飛ばさないか

が設計課題となる。

簡易測定には、それでも意味がある

個人の測定が役に立たないわけではない。

Software Defined Radio(ソフトウェア無線)受信機やスペクトラムアナライザを一定の場所に置き、

  • 空中線を短くした

  • 結合を弱くした

  • シールドを追加した

  • 電源線を変更した

という前後で受信レベルを比較すれば、どちらが放射を減らす方向に働いたかは分かる。

たとえば変更後に10 dBあるいは20 dB低下したなら、相対的には放射が小さくなったことを判断できる。

こうした測定は、自作設計上、有益である。

しかし、そのような測定は主として相対測定である。

それをそのまま、

$$
E\leq500,\mu\mathrm{V/m}
$$

を、

$$
r=3,\mathrm{m}
$$

で満たすという絶対的な適合判定へ置き換えることはできない。

したがって、自作実験では、

  • 発振器の出力値だけで適否を判断しない

  • 自由空間換算したERP値を法的上限と扱わない

  • 簡易測定は変更前後の比較に利用する

  • 法令限度ぎりぎりを狙わない

  • 調整中の長いリード線や測定ケーブルにも注意する

  • 可能な試験はダミー負荷、減衰器、遮蔽を使って行う

  • 「数mしか届かなかった」を適合判定にしない

といった慎重さが必要になる。

それでも残る500 mという制度の地層

現行の電波法施行規則第6条には、3 m基準とは別に、

$$
E\leq200,\mu\mathrm{V/m}
$$

を、

$$
r=500,\mathrm{m}
$$

で満たすという類型も残っている。[2]

こちらは、500 mで200 μV/m以下なら用途を問わず利用できるという規定ではない。

用途、電波の型式、周波数が限定される。

現在の実務資料では、ラジコン用発振器やラジオマイクなどがこの類型として扱われている。[10]

現代の2.4 GHz帯ラジコンなどを見慣れた目には、いささか古風に見えるかもしれない。

しかし、法令には過去の技術利用が地層のように残ることがある。

新しい制度が成立するたびに、旧制度がすべて消えるわけではない。

既存の利用形態、機器、産業、運用慣行を抱えながら、特例や用途限定の規定が重なってゆく。

3 m基準と500 m基準が同じ第6条の中に並んでいることも、そのような制度史の断面として読むことができる。

米国法は「測定できない自作者」を条文の中に置いた

比較法的に興味深いのが米国である。

Title 47 of the Code of Federal Regulations(米国連邦規則集第47編)Part 15の§15.23 “Home-built devices”(自作機器)は、個人の自作者を明示的に扱う。[11]

販売されず、キットから製作されたものでもなく、個人使用のため5台以下製作される機器について、一定の機器認証を要求しない。

さらに§15.23(b)は、個人の自作者が規則への適合を判定するために必要な測定手段を持たない場合があることを規則自体が想定している。[11]

ここは、日本の微弱無線制度と比較すると興味深い。

日本では、客観的な電界強度基準と、その正式な測定方法が制度として整えられている。

米国のこの条文はさらに、規制を受ける主体が実際にどのような測定能力を持っているかを条文上の問題として扱う。

法が技術者だけでなく、制度を利用する普通の個人まで視野に入れているのである。

47 CFR §15.235(c)(2)という「第二の入口」

さらに47 CFR §15.235 “Operation within the band 49.82-49.90 MHz”(49.82~49.90 MHz帯における運用)には、一定の自作送信機について興味深い規定がある。[12]

対象帯域は、

$$
49.82,\mathrm{MHz}\leq f\leq49.90,\mathrm{MHz}
$$

である。

この帯域で動作するhome-built intentional radiator(自作の意図的放射機器)について、所定の条件を満たせば、通常の放射電界による基準とは別の技術条件を利用できる。

条件には、

  • 搬送波と変調成分を所定帯域内に保つ

  • 電池端子または電源端子で測定した機器全体への入力電力を100 mW以下とする

  • 空中線を1 m以下の単一素子とする

  • 空中線を筐体へ恒久的に取り付ける

  • 帯域外放射を所定量低減する

などが含まれる。[12]

§15.235(c)(2)で問題になるのは、高周波出力100 mWではない。

機器全体への入力電力について、

$$
P_{\mathrm{input}}\leq100,\mathrm{mW}
$$

とするものである。

たとえば直流電源なら、概念的には、

$$
P_{\mathrm{input}}=VI
$$

であるから、電源電圧と電流を測れば確認できる。

空中線長についても、

$$
L_{\mathrm{antenna}}\leq1,\mathrm{m}
$$

という、個人にも直接確認しやすい条件である。

もちろん、この100 mWという値を日本へそのまま移植できるわけではない。

対象となるのは、

$$
49.82,\mathrm{MHz}\leq f\leq49.90,\mathrm{MHz}
$$

という限定された周波数帯であり、空中線長、構造、帯域外放射などが一体となった制度だからである。

参考になるのは100 mWという数字そのものではない。

専門的な放射電界測定が難しい個人にも、自分で確認可能な量と構造条件によって適合へ到達できる別の経路を用意していること

である。

日本に必要なのは「mW規制」ではなく第二の入口かもしれない

ここまで見ると、「日本も微弱無線を何mW以下と決めればよい」という結論にはならない。

公共の電波空間への影響を見るなら、電界強度基準には十分な合理性がある。

問題は、

規制目的に適した物差しと、規制を受ける個人が実際に測れる物差しとの間に距離があること

である。

もし個人の自作実験について別の仕組みを考えるなら、

  • 周波数帯を限定する

  • 個人使用、非販売に限定する

  • 製作台数を限定する

  • 容易に測定できる入力電力に上限を設ける

  • 外部高周波増幅器を認めない

  • 外部アンテナ端子を設けない

  • 空中線の長さと構造を制限する

  • 帯域外放射について条件を設ける

といった組合せが考えられる。

これは電界強度規制を放棄する話ではない。

電界強度を最終的な規制思想として維持しながら、限定された自作実験について、個人自身が確認できる第二の入口を設ける

という発想である。

47 CFR §15.235(c)から見るべきものは、その制度設計であろう。

法は「微弱」を発見するのではなく、制度として作る

「微弱」という言葉には、自然科学的な響きがある。

自然界のどこかに「ここから下が微弱」という境界があり、法律がそれを発見したかのようにも見える。

しかし制度史を見ると、そうではない。

かつては、

$$
E=15,\mu\mathrm{V/m}
$$

を、

$$
r=100,\mathrm{m}
$$

で満たすことが一つの境界だった。

その基準を実際の設備へ適用するには、測定条件を研究する必要があった。

免許不要局による現実の妨害については、1958年に第82条の対象が広げられた。

電波利用の変化に伴って、1980年代には100 m基準が見直された。

現在の322 MHz以下では、

$$
E=500,\mu\mathrm{V/m}
$$

を、

$$
r=3,\mathrm{m}
$$

で評価する基準が置かれている。

そして測定方法そのものも、告示という形で制度化された。

こうして見ると「著しく微弱」というカテゴリーは、自然科学だけから自動的に導かれたものではない。

  • 保護すべき無線通信

  • 当時利用可能な測定技術

  • 測定結果の再現可能性

  • 行政による事前監督の必要性

  • 妨害発生時の事後的介入

  • 利用者に求める負担

それらを組み合わせながら、法が実用可能な境界を作ってきたのである。

電界強度という数字は自然科学の値である。

しかし、その数字をどの距離で測り、どの測定方法による値を法律上の判断材料とし、超えた場合にどのように対処するかは、制度によって決められる。

境界を測る者は誰か

「微弱無線は、結局何mWまでですか」。

この問いに対する電波工学上の第一の答えは、

共通のmW値では決まらない

である。

自由空間ならERPやEIRPへ換算できる。

旧基準については、

$$
E=15,\mu\mathrm{V/m}
$$

$$
r=100,\mathrm{m}
$$

である。

現行の322 MHz以下については、

$$
E=500,\mu\mathrm{V/m}
$$

$$
r=3,\mathrm{m}
$$

である。

両者について、

$$
Er=1.5\times10^{-3},\mathrm{V}
$$

となる。

したがって、理想的な自由空間では、

$$
P_{\mathrm{EIRP}}=75,\mathrm{nW}
$$

そして、

$$
P_{\mathrm{ERP}}\simeq46,\mathrm{nW}
$$

に相当する。

しかし、現実の設備には空中線、給電、筐体、配線があり、現実の空間には反射や近傍界がある。

だから法は、最終的に空間へ現れる電界強度を基準としている。

そこには理由がある。

しかし、法制度として見るなら、問いはもう一つ残る。

その電界強度を、誰が測れるのか。

1960年には、専門の研究機関自身が測定方法を研究していた。

その後、測定方法は告示によって制度化された。

今日では「どう測るのか」が全く定まっていないわけではない。

けれども、その正式な測定を個人の自作者が容易に実施できるともいい難い。

法律上の境界が客観的であることと、市民がその境界を自分自身で確認できることは別の問題である。

法は境界を引く。

技術はその境界を測る。

行政は必要に応じてその結果を判断し、あるいは現実の妨害に介入する。

そして市民は、その三者の間で、自分の行為がどこに位置するのかを判断しなければならない。

微弱無線の歴史は、「どこまで弱ければ免許を要しないか」を決めてきた歴史であると同時に、「その弱さを誰が、どの方法で測るのか」を制度化してきた歴史でもある。

「何mWまでですか」という素朴な問いは、そこまでたどって初めて、十分に答えられたことになる。

註釈・参照資料

[1] e-Gov法令検索「電波法」第4条。現行法令本文を確認。
URL: https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000131

[2] e-Gov法令検索「電波法施行規則」第6条。現行の3 m電界強度基準、500 m基準、測定方法の告示への委任を確認。
URL: https://laws.e-gov.go.jp/law/325M50080000014

[3] 中村利幸・新井益夫・須藤叡朗「発射電波が微弱な送信機の電界強度測定方法」『電波研究所季報』Vol.6 No.22、1960年1月。100 m・15 μV/mおよび500 m・200 μV/mという当時の基準、標準測定条件、近距離測定からの推定方法等を確認。国立研究開発法人情報通信研究機構の公開PDF。
URL: https://www.nict.go.jp/publication/kiho/06/022/Kiho_Vol06_No022_pp035-038.pdf

[4] International Telecommunication Union Radiocommunication Sector(国際電気通信連合無線通信部門), Recommendation ITU-R P.525-5 “Calculation of free-space attenuation”(ITU-R勧告P.525-5「自由空間減衰の計算」)。自由空間における電界強度とEIRP、距離の関係を確認。
URL: https://www.itu.int/dms_pubrec/itu-r/rec/p/R-REC-P.525-5-202411-I!!PDF-E.pdf

[5] 第101回国会衆議院逓信委員会第8号、1984年5月9日。旧100 m・15 μV/m基準の背景、電波利用の変化、3 m測定への見直し方針等についての政府説明を確認。
URL: https://kokkai.ndl.go.jp/simple/detail?minId=110104816X00819840509

[6] 「電波法の一部を改正する法律」昭和33年法律第140号。1958年の第82条改正について、衆議院の制定法律情報で改正文を確認。
URL: https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_housei.nsf/html/houritsu/02819580506140.htm

[7] 第28回国会衆議院逓信委員会第30号、1958年4月22日。免許不要で郵政省が事前に把握しない微弱電波局による妨害と、第82条改正の必要性に関する政府説明を確認。なお、100 m・15 μV/m基準の測定困難と第82条改正を直接の因果関係で結ぶ史料は、今回確認できなかった。
URL: https://kokkai.ndl.go.jp/simple/detail?minId=102804816X03019580422

[8] 国立国会図書館「日本法令索引 電波法施行規則」。1986年5月27日郵政省令第24号による改正の存在と日付を確認。ただし、今回、この省令第24号の官報掲載改正文そのものは原典として直接照合できていない。
URL: https://hourei.ndl.go.jp/

[9] 昭和63年郵政省告示第127号「発射する電波が著しく微弱な無線局の電界強度の測定方法」。告示の存在、番号、題名および内容は後年の複数資料から確認できる。日本財団図書館に告示本文の収録がある。ただし、今回、総務省電波利用ホームページ上の公式本文を直接取得して全文照合することはできなかったため、以下は原典ではなく二次収録資料として用いた。
URL: https://nippon.zaidan.info/seikabutsu/1996/00439/contents/214.htm

[10] 一般財団法人テレコムエンジニアリングセンター「微弱無線設備」。現行制度の測定実務、3 m基準、500 m基準、ラジコン用発振器・ラジオマイク等について参照。法令原典ではなく、実務上の補助資料として用いた。
URL: https://www.telec.or.jp/services/examination/weak_radio_equipment.html

[11] Title 47 of the Code of Federal Regulations(米国連邦規則集第47編), §15.23 “Home-built devices”(自作機器)。Electronic Code of Federal Regulations(電子版米国連邦規則集)の現行公式条文。個人使用の自作機器および自作者が適合測定手段を持たない場合について確認。
URL: https://www.ecfr.gov/current/title-47/chapter-I/subchapter-A/part-15/subpart-A/section-15.23

[12] Title 47 of the Code of Federal Regulations(米国連邦規則集第47編), §15.235 “Operation within the band 49.82-49.90 MHz”(49.82~49.90 MHz帯における運用)。Electronic Code of Federal Regulations(電子版米国連邦規則集)の現行公式条文。自作機器について、機器全体への入力電力100 mW以下、1 m以下の単一素子空中線、帯域外放射等を組み合わせた条件を確認。
URL: https://www.ecfr.gov/current/title-47/chapter-I/subchapter-A/part-15/subpart-C/subject-group-ECFR2f2e5828339709e/section-15.235


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