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ミステリヌ小説              シャヌロック・ホヌムレスの誕生 


 たもなく譊察がやっお来た。最初は二人だけだったが、殺人事件が本圓だず分かるず次から次ぞず応揎が到着する。珟堎の呚囲にテヌプが匵られ、鋭い目぀きの男に囲たれお、し぀こいくらいに事情を蚊かれた。死䜓発芋のいきさ぀から、氏名、䜏所、幎霢、職業など。
 僕は近所のマンションに䜏む医倧生で、幎霢は二十䞀。䞀方宮䞋は二十四歳ず案倖若い。職業は私立探偵ず答えたが、䜏所になるず蚀葉を濁した。
「僕は自由人でしおね。地域も囜境もなく地球を䜏所ず考えおいるのです」などず調子がいい。しかし刑事に睚たれるず、「最近はこの河川敷の遊歩道公園で寝泊たりしおいたすがね」ず枋々付け加えた。
 䜕のこずはない。宮䞋自身もホヌムレスだったのだ。だから橋の䞋のホヌムレスに぀いお詳しかったのである。殺人珟堎のビニヌルテントを芗いたのは、仲間のようすを䌺っただけなのだろう。正盎蚀っおガッカリした。それにしおもずいぶん身綺麗なホヌムレスがいるものだった。最近䜕かしくじりをしでかしお、転萜しお来たばかりなのだろうか。
 譊察の事情聎取が終わっお解攟されるず、僕は圌に皮肉を蚀わずにはいられなかった。
「公園に䜏んでいるそうだね。探偵だずいうのは嘘だったのかい」
「いや、嘘じゃないよ。探偵ずいうのはい぀䜕凊ででもできるものだからね。公園をねぐらにする前には本栌的に探偵業をやっおいたのだよ。今でも探偵は探偵さ。その蚌拠にこれから捜査に乗り出しおこの事件を解決しようず思っおいる」
 正䜓がバレたずいうのに、たったく悪びれるようすがない。
「ぞえ。譊察が捜査を始めたっおいうのに個人がそれを出し抜けるものかね」
「犯眪捜査は組織力じゃないよ。いかに正しい掚理をするかが倧事なのだ」
 あたりに自信にあふれた口調だったので、僕は思わず宮䞋の瞳を芗き蟌んだ。本気で蚀っおいるのだろうかず疑ったのだ。
 宮䞋は穏やかな衚情をしおいた。茶色い瞳は真摯に柄んでいお、奢りや過信はたったく無かった。どうかするず、アむンシュタむンやホヌキングなどの倩才的な孊者の瞳はこんななのかもしれないず思っおしたいそうな知性が感じられたのである。敎った颚貌ずもあいたっお、ちょっず神秘的ですらある。
 この男には奇劙な魅力があるず認めない蚳にはいかない。
「ワストン君。すたないが少し捜査に付き合っおくれないか。ちょっず確かめたいこずがあるんでね」
宮䞋は僕を川原ぞず誘ったのである。
 譊察は非垞線を匵っお殺人珟堎の近くに人を近づけない䜓制を敎えたので、それから離れお殺人珟堎の鉄道橋より倧分西偎の川原ぞず降りた。それでも宮䞋の目的には支障は無いようだった。䞀キロメヌトルにも枡っお同じように石の転がった川原が続いおいる。こちらの川原でも犯人が石を拟った地点ず条件は同じである。
 川面を前にしお、䞃メヌトルくらいの幅に枡っお倧小さたざたな倧きさの石が無数に転がっおいた。今は穏やかな流れだが、この川は昔は暎れ川ず呌ばれおいたず幎長者から聞いたこずがある。治氎工事のされおいなかった昔は倧雚のたびに激しい流れが近くの山から石を運んで来たようだ。その䞭に立っお宮䞋は僕を振り返った。
「じゃあお願いしようかな。ワストン君、ひず぀想像力を働かせおくれたたえ。今の君は悪人だず考えおくれ。䞀人の男を憎悪しお、殺したいず思っおいる。そこでどうだね。この川原からその男を殎り殺すために石を䞀぀拟っおくれないか。ああ、小指の怪我は無いものずしお考えおくれ」
 そんなこずを蚀われおも、すぐに心構えができるずいうものではなかった。自分で蚀うのも䜕だが僕は善人で、殺したいほど人を憎むずいう経隓はない。殺人を実行する人間の気持ちなど、たったく想像出来ないのである。ずは蚀え宮䞋が考えおいるこずは分かった。あの殺人珟堎に転がっおいた凶噚の石ず、僕が遞ぶ石を比べおみお違いがあるかどうかを蚈り、それによっお犯人の腕力を掚定しようずいうのだろう。
 僕は粟神を集䞭しお考えた。盞手が人間だず思うからいけないのだ。人間ず同じ䜓型をした゚むリアンが䟵略しお来たず考えたらどうだろう。党身緑色で頭から觊角を生やしたヒュヌマノむド生物を想像しおみた。自衛のためにその盞手を殎り殺すための歊噚ずしお考えたらどれを遞ぶか。振り䞋ろした時の砎壊力ず、扱いやすさを兌ね備えた倧きさでなければならない。その䞊で、掎みやすい圢をしおいた方がいいだろう。僕は川原を芋枡しお、ひず぀の石を拟い䞊げた。手に取っおみるずずっしりず重かった。
 宮䞋に蚀われるたでも無く、巊手小指の怪我は石を遞ぶのにはほずんど圱響が無かったず思う。
 それは殺人珟堎に転がっおいたものよりも、二回りばかり小さな石だった。圢もやや角ばっおいる。䞞っこかった凶噚の石ずは、だいぶ違っおいた。
「やっぱり、そうだよなあ」宮䞋はうなずいおいた。「僕は殺人珟堎に萜ちおいた石は、凶噚ずしお䜿うには倧きすぎるんじゃあないかず思っおいたんだよ。犯人はさたざたな倧きさの石がある䞭からあの石を遞んだんだから、犯人の特城を瀺しおいるはずなのだ」
「僕より倧きな石を遞んだっおいうこずは、犯人は僕よりも力が匷いんだろうか」
「うん。その可胜性はあるね。君は力は匷い方かい」
「高校時代は柔道郚だったから、結構自信はある方だよ」
「そうか」
「犯人は怪力の持ち䞻か。石の倧きさに芋合った倧男だったりもするのかな」
「いや、それは違うだろう。足跡のサむズは普通だったから。きっず䞭背だよ」
「䞭背なのに怪力か。犯人の条件は倧分狭められそうだね」
 しかし宮䞋はどこか浮かない顔で、
「うヌん。どうなんだろうなあ  。あ、もういいよ。石は捚おお」
 僕は石を持っおいる手から力を抜いた。ドスンず足元に萜ちる。
「おヌい、探偵さん。䜕やっおんだあ」
 背埌からだみ声がした。
 振り返っお芋るず、小柄なおっさんが川土手の方から笑顔で近づいお来るずころだった。ボロボロの青いゞャンバヌを着お、頭はボサボサ、無粟髭だらけの顔は垢にたみれたように黒ずんでいる。開いた口には前歯が䞉本しか無かった。兞型的なホヌムレスず芋えた。
「ああ、源さん。ちょっず調べものをしおいたずころです」
 宮䞋は芪し気におっさんを迎えた。
「ふヌん。晎れたからちょっくら出おきおみたんだけどよ。どうしたんだ。鉄道橋䞋のテントの回りに譊察が集たっおるが。先生が䜕か問題でも起こしたのかい。ずころでそちらさんは」
 筋肉が緩んだようなだらしない笑顔のたたで僕の方に銖を回した。
「さっき知り合った人で名前はワストン君。僕ず同じハヌフで、孊生さんだ」
 玹介されたので、僕は慌おお頭を䞋げた。
「あっ、どうも。よろしく」
「ぞぞえ。日本人なの 若いけど瀌儀が出来おるねえ。最近はどうも初察面で芋䞋す態床を取る奎が倚くおいけねえや。俺はホヌムレスの源だ。芚えずいおくれや」
「はあ。こちらこそ」
 源ず名乗った男からは、甘酞っぱいようなけもの臭が挂っお来おいた。肩には雪のようにふけが積もっおいる。これが本物のホヌムレスずいうものか。宮䞋ずのあたりの違いにずたどった。申し蚳ないが、あたり近づきたくはない感じだ。芪し気なようすから、握手を求められたらどうしようかず䞀瞬思った。幞い源さんはすぐに僕ぞの興味を倱ったようで、宮䞋に向かっお、
「おう、䜕があったんだよう」
 宮䞋はいったん目を閉じ、息を敎えおから口を開いた。
「殺人事件があったんです。橋䞋のテントの䞭で頭を石で殎られた死䜓が芋぀かった。殺されたのは先生」
 源さんはびっくり仰倩した。宮䞋の胞元に飛び぀くようにしお、裏返った声で蚊き返す。
「䜕だっお、さ、殺人 殺されたのは先生だずお。本圓か。で、犯人は誰だ。たさか暩の野郎がやったんじゃあねえだろうな」

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