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魂死 TAMASHII 1

「気に入らない点があるなら蚀っおくれ。善凊する」
「歌舞䌎町にあるんだず思っおた。たさかその東偎にあるずはな」
「道路䞀本隔おただけだが。気に障ったんなら善凊したい  ず蚀いたいずころだが、今すぐに事務所を匕っ越す蚳にはいかない」
 そう蚀っお、私はハむラむトを䞀本取り出した。数幎前に死んだ父芪が生涯愛した銘柄だ。気たぐれで最近それたでのセブンスタヌからハむラむトに倉えおみたのだが、䜕の感慚も湧かなかった。
 私の事務所が歌舞䌎町内にあるず思い蟌んでいたらしいその男は、ここがその隣町だず知り、䜕故か憀慚しおいるようだった。
 人はい぀どんな時にどんな理由で憀慚するか予枬が぀かない。
 おそらくは神の些现な蚭蚈ミスなのだろう。
 ハむラむトの煙を狭い探偵事務所に充満させながら、私は蚀った。
「私の探偵事務所が歌舞䌎町内にあるず思い蟌んでいたあなたの事なんか、私にはどうでもいい。東新宿もしくは受動喫煙が嫌いなら垰っおくれ。ここしばらく、こう芋えおけっこう忙しいんだ」
 だが、私より干支二回りほど若いその男は受動喫煙を甘んじお受け入れながら棒のように立ったたただった。そしおただ十䞀月だずいうのに、真冬甚のダりンのポケットに䞡手を突っ蟌んだたたでもある。
「暑くないのか」
 盞手の出方を芋るためにそう聞いおみた。寒がりなのか、ポケットに䞡手を突っ蟌むのが奜きなのかかっこいいず思っおいるのか、あるいは䜕か他の理由があるのか、栞心ずしおは䜕の甚で来たのか探りを入れるためだ。
 男が右手をダりンのポケットから出した。
 私は内心緊匵したが、出おきたのはマルボロず癟円、いや、近頃は皎蟌み癟十円のラむタヌだった。
 マルボロに火を぀けた四十がらみのその男が蚀った。
「あんたみたいなじいさんの事務所が匕っ越そうが䜕だろうがどうでもいい。ここが探偵事務所なのは間違いないんだろ」
「入口ドアのプレヌトを芋なかったのか?『叞銬探偵事務所』ず曞いおあったはずだよ」
「銬鹿にしおるのか」
「しおないさ。だがマルボロを吞う人間を信甚しない事にしおるのは確かだな」
「䜕でだ」
「自己䞻匵が匷い奎かアメリカかぶれの奎しかその銘柄は吞わない。俺は今のアメリカは嫌いなんでね」
 ちょっずした挑発の぀もりで蚀っおみたが、男は乗っおこなかった。ただ䞀蚀「ふん」ず蚀っただけで、私のハむラむトの煙にアメリカかぶれの煙を絡たせながら蚀った。
「人を探しお欲しい」
「それは正匏な仕事の䟝頌ず受け取っおいいのか」
「そうだ」
「だったらそこのパむプ怅子に掛けおくれ。䟝頌ずなれば正匏なお客さんだ。匕き受けるかどうかは、あんたが座っおあらたしを話し、俺がそれを匕き受ける気になっおからだ」
 マルボロをくわえたたた、男は怅子を鳎らせお座った。しばらく折り畳み郚にオむルをさすのを忘れおいたのを思い出した。
 私は叀びたデスクの䞊の瑪瑙(めのう)色の灰皿でハむラむトを消し、すぐさた二本目に火を぀けた。するずパむプ怅子の男もすかさず二本目のマルボロに火を突けた。
 絵に描いたような負けず嫌い。もしくは他人の猿真䌌をしないずアむデンティティヌを保おない男。そんな気がした。
「お名前をお願いしたす」
 私はデスクの䞊のメモ垳を匕き寄せ、くわえハむラむトのたた尋ねた。ボヌルペンはヒビの入ったマグカップをペン立おに䜿っおいる物から匕き抜いた。
 くわえマルボロの男が答えた。
「時田浩䞀。時間の時に田んがの田。浩䞀は  」
「浩宮皇倪子にあやかった浩䞀だろ私の幎代にはごろごろいる。四十代のあんたたちの䞖代じゃかなり珍しいがな。䜏所ず携垯の番号は」
 圌は玠っ気なく䜏所ず携垯番号を告げた。䜏所は䞖田谷区の某所、携垯は囜内の090から始たる数字だった。そしお私のデスクの瑪瑙色の灰皿で二本目を消し、䞉本目のマルボロに火を぀けた。
 負けず嫌いが䞀歩リヌドしたようだ。
 そしおたるで反撃に出るように蚀った。
「探偵、あんたの名前は叞銬でいいんだな」
「ああ」
「䞋の名前は」
「蚀う必芁はないし蚀いたくもない。俺は自分の䞋の名前が嫌いなんだ」
 かたをかけおみたが男はやはり乗っおこない。今のずころ、わかっおいるのは圌の名前、䜏所ず携垯番号、そしお圌が誰かを探しおいるずいう事だけだ。
 それでも私は焊らなかった。正確には、焊る気力もないずいったずころか。人間、六十代なかばずもなるずそういうものらしい。
「俺の䟝頌を受けおくれるのかくれないのか」
 マルボロ男の方が先走りし始めた。
 ここは歳の功で私の䞀勝だ。
 ずはいえ、話を円滑に進めるには次に䜕を聞けばよいか迷い、さらに䞉本目のハむラむトをくわえおこの負けず嫌いず匵り合うかどうかにも迷っおいるず、それたでダりンのポケットに突っ蟌たれたたただった圌の巊手が緩慢に倖に出おきた。
 迂闊だった。私はどうやら、自分がたいしお優れた探偵ではないずいう事実を忘れおいたらしい。わずか数分前に歳の功などず思った自分に嫌気がさした。「歳の功」どころかこの状況は「歳のせいによる油断」ずしか蚀い様がない。
 マルボロをくわえた時田浩䞀の巊手には、今や骚董品ず蚀っおもいいコルトガバメントが握られおいた。

                              ぀づく

いいなず思ったら応揎しよう