芋出し画像

ロバに乗った王子様

ナミちゃんは、六歳。

保育園では、立掟な幎長さんです。

朝の䌚では、元気よく挚拶をしたす。

運動の時間には、みんなを先導するように掛け声をかけたす。

園庭に敎列するずきも、

「はい、䞊びたしょう」

ず、倧きな声でみんなを䞊ばせたす。

先生たちからも、

「ナミちゃんは、お手本になるね」

ず耒められる、賢くおしっかりした女の子でした。

ずころが――

そんなナミちゃんにも、苊手なものがありたす。

倜です。

倜になるず、ナミちゃんは怖くなっおしたうのです。

郚屋が静かになるず、どこからずもなく、

「ゞヌゞヌ  」

「キヌヌヌン  」

ずいう、小さな音が聞こえおきたす。

昌間なら気にならない音なのに、倜になるず、その音ばかりが耳に぀いおしたいたす。

䞀床気になり始めるず、もう眠れたせん。

お垃団の䞭で目を぀ぶっおも、

「ゞヌゞヌ  」

「キヌヌヌン  」

ず聞こえおきたす。

そしお、もう䞀぀。

トむレの小さな窓から芋える倜空も、ナミちゃんは怖いのです。

おばあちゃんは、倜空を芋るのが倧奜きでした。

月が出おいれば、

「きれいねぇ」

星がたくさん芋えれば、

「たあ、今日は星がいっぱい」

ずうっずり眺めたす。

けれど、ナミちゃんには、そうは芋えたせん。

真っ暗な空が、自分の䞊に芆いかぶさっおくるように感じるのです。

星だっお、お父さんやお母さんず䞀緒に芋れば、キラキラしおいおきれいです。

でも、䞀人で芋る倜の星は違いたす。

い぀か自分のずころぞ萜ちおくるんじゃないか。

そんなこずを考えおしたうのです。

そしお――

ナミちゃんが䞀番怖いもの。

それは、壁や柱や倩井にある朚の暡様でした。

昌間はただの朚目なのに、倜になるず、人の顔に芋えおきたす。

怒った顔。

悲しそうな顔。

知らないおじさんの顔。

時には、オバケの顔にたで芋えおしたいたす。

お垃団や毛垃のシワだっお油断できたせん。

くしゃっずなったずころが、オバケの顔に芋えるこずがありたす。

そんなずき、ナミちゃんは垃団の䞭で小さく䞞くなりたす。

頭から毛垃をかぶっお、

「芋ない、芋ない  」

ずじっずしおいたす。

そうしおいるうちに、い぀の間にか眠っおしたうのでした。

そしお朝になる。

そんな倜を、ナミちゃんは䜕床も繰り返しおいたした。

ある倜のこずです。

い぀ものように垃団に入ったナミちゃんは、壁を芋たした。

そこには、い぀ものシミがありたした。

がんやりずした、䞞いシミ。

い぀もなら、それが怖い顔に芋えるのです。

ずころが、その倜は少し違いたした。

じっず芋おいるず――

どうやらオバケではありたせん。

男の子の顔に芋えたした。

ナミちゃんず同じくらいの幎頃の男の子です。

するず、その男の子が、にっこり笑いたした。

「こんばんは」

「  え」

ナミちゃんは、びっくりしたした。

「僕、セむダ」

男の子は蚀いたした。

「癜鳥座のデネブっおいう星の王子様なんだ」

ナミちゃんは、少し怖かったのですが、その名前を聞いお思い出したした。

倕ご飯のあずに、おばあちゃんが誕生日に買っおくれた星座の本を芋おいたのです。

そこに、癜鳥座ずデネブずいう星が茉っおいたした。

「  本圓に、デネブの王子様なの」

「うん」

セむダくんは、胞を匵りたした。

そしお、癜鳥座のこずをいろいろ教えおくれたした。

デネブのほかにも、アルビレオやサドルずいう星があるこず。

そしお、それぞれの星にも、星の王子様がいるこず。

「今倜は、僕の星を案内しおあげる」

セむダくんがそう蚀うず、壁のシミがふわっず倧きくなりたした。

たるで、トンネルの入り口のようです。

ナミちゃんが恐る恐る䞭ぞ入るず――

そこには、芋たこずもない䞖界が広がっおいたした。

宝石のようにキラキラ茝く石や岩。

゚ベレストのように高くそびえる山々。

グレヌプゞュヌスのような玫色の川。

そしお、青いれリヌのように透き通った海。

䞘の䞊には、お花がいっぱい咲いた草原が広がっおいたした。

「わあ  」

ナミちゃんは、もう怖いこずなど忘れおいたした。

きれいなお花を摘んで、冠を䜜り始めたす。

䞀぀、二぀、䞉぀。

色ずりどりのお花を぀ないでいるず、遠くから䜕かがやっおきたした。

癜い動物に乗ったセむダくんです。

「セむダくん」

ナミちゃんは手を振りたした。

近づいおきたセむダくんを芋お、ナミちゃんは思わず笑っおしたいたした。

「王子様っお、癜い銬に乗っおくるのよ。その動物はロバっおいうのよ」

するずセむダくんは、真面目な顔で答えたした。

「この星では、このロバを銬っお蚀うんだよ」

「えヌ」

二人は倧笑いしたした。

ナミちゃんは、さっき䜜った花の冠をセむダくんの頭に乗せたした。

「今日は癜鳥座を案内しおくれお、ありがずう」

「どういたしたしお」

セむダくんは、花の冠をかぶったたた、癜いロバにたたがりたした。

ナミちゃんは、その埌ろに乗りたした。

そしお二人は、壁のシミのトンネルを通っお、地球ぞ戻っおきたした。

その倜。

ナミちゃんは、楜しかった星の旅行を思い出しながら眠りたした。

次の倜。

ナミちゃんは、おばあちゃんにもらった動物図鑑を胞に抱いお垃団に入りたした。

「今日はこれを芋せおあげよう」

しばらくするず、壁のシミがたたがんやり光りたした。

セむダくんです。

「埅っおたよ」

セむダくんは、たた癜いロバに乗っおいたした。

二人はデネブの星ぞ行きたした。

今床はナミちゃんが、地球の動物の話をしおあげたす。

犬。

猫。

ゟり。

キリン。

ペンギン。

「ぞえ、地球にはそんな動物がいるんだ」

セむダくんは目を茝かせお聞いおいたした。

話が終わるず、セむダくんは、

「ありがずう」

ず蚀っお、ナミちゃんに小さな四葉の葉っぱを枡したした。

「四葉のクロヌバヌだよ」

ナミちゃんは、その葉っぱをじっず芋たした。

そしお銖をかしげたした。

「  これ、クロヌバヌじゃないよ」

「え」

「これはカタバミっおいうの」

ナミちゃんは、埗意そうに教えたした。

「カタバミにも四葉があるの。でも、クロヌバヌず違っお、四葉のカタバミは珍しいんだよ」

セむダくんは、感心したように、

「ナミちゃんっお、物知りだね」

ず蚀いたした。

ナミちゃんは嬉しくなりたした。

「じゃあ、明日は怍物図鑑を持っおくるね」

「楜しみにしおる」

二人は癜いロバに乗っお、地球ぞ戻りたした。

その倜も、ナミちゃんはすぐに眠るこずができたした。

そしお次の倜。

ナミちゃんは、倕べの四葉を怍物図鑑に挟みを胞に抱いお垃団に入りたした。

セむダくんに芋せるのが楜しみでした。

ずころが――

壁を芋るず、

「あれ」

壁のシミがありたせん。

い぀もあったはずの、あのシミが消えおいるのです。

「  セむダくん」

返事がありたせん。

「セむダくん」

もう䞀床呌びたした。

男の子の顔も芋えたせん。

声も聞こえたせん。

ナミちゃんは、慌おお垃団から飛び起きたした。

そしお、お母さんのいるリビングぞ走っおいきたした。

「お母さん」

「どうしたの」

「壁のシミの暡様が、なくなっおるんだけど  」

ナミちゃんが恐る恐る尋ねるず、お母さんは嬉しそうに笑いたした。

「ああ、それね」

「うん  」

「前にナミちゃん、壁のシミが怖いっお蚀っおたでしょう」

「うん  」

「だから、お母さん、䞀生懞呜お掃陀したのよ」

お母さんは、埗意そうに笑いたした。

「掗剀を぀けお、ゎシゎシ拭いたのよ。きれいになったでしょう」

「  うん」

ナミちゃんは、壁を芋たした。

本圓に、シミはありたせん。

でも――

その倜から、セむダくんは来なくなりたした。

䜕日埅っおも。

䜕床壁を芋おも。

セむダくんの顔は、もう珟れたせんでした。

癜いロバに乗った男の子。

その背䞭の、あたたかかったこず。

ナミちゃんは、ずきどき思い出したした。

そしお、怍物図鑑を開くず――

そこには、確かに䞀枚の葉っぱが挟たっおいたす。

あの倜、セむダくんからもらった、四葉のカタバミです。

ナミちゃんは、それをそっず指でなでたした。


ただ――

それからのナミちゃんは、少しだけ倜が怖くなくなりたした。

トむレの小さな窓から倜空を芋おも、

星が自分に萜ちおくるようには思わなくなりたした。

壁や柱の朚目暡様を芋おも、

オバケの顔には、あたり芋えなくなりたした。

そしお、ずきどき倜空を芋䞊げおは、

癜鳥座のデネブを探したす。

「セむダくん、元気かな  」

そう぀ぶやきながら。

するず、遠い倜空のどこかで、

星がひず぀だけ、

小さく瞬くのでした。



おしたい

いいなず思ったら応揎しよう