ソニー・クラークにおける初リーダー作の構造分析とハード・バップ旋律美の確立
―― 『DIAL S FOR SONNY』(TOCJ-7013 / BLUE NOTE BLP 1570)における和声をめぐる試みと音響的特徴 ――
【基本情報・対象データ】
対象録音盤: SONNY CLARK — Dial S for Sonny (東芝EMI / TOCJ-7013, BN 1500 Summer Limited 1500 Series)
原盤情報: Blue Note BLP 1570 (12inch LP Edition) / モノラル録音(1957年7月21日録音)
研究領域: ジャズ・ピアノ演奏論・ハードバップアンサンブル論・ブルーノート音響史
1. 序論:1957年におけるソニー・クラークのニューヨーク進出と初リーダー作
1957年、アメリカ西海岸での活動を経てニューヨークへ進出したピアニスト、ソニー・クラーク(Sonny Clark)は、ブルーノート(Blue Note Records)主宰者アルフレッド・ライオンの目に留まり、同レーベルでの初リーダー・セッションを設ける機会を得た。
同年7月21日、ニュージャージー州ハッケンサックのルディ・ヴァン・ゲルダー・スタジオにて録音された『Dial S for Sonny』(BLP 1570 / TOCJ-7013)は、クラークの作曲能力の高さと、哀愁を帯びた独特のシングル・ノート(単音)旋律美を世に知らしめた金字塔的作品である。
この後、BN 1588 を"Cool Struttin'" "Blue Minor" 収録する。
2. 録音年月日とパーソネル構造
本作は、3ホーン(トランペット、アルトサックス、テナーサックス)をフロントに据えた豪華なセクステット(6人編成)で録音されている。
役割 メンバー 音楽的特徴およびアプローチ
Piano Sonny Clark ブルースに根ざした哀愁の旋律美と、洗練
されたコード・バッキング
Trumpet Art Farmer 知的で端正なトーンと、曲構造を整える美しい
ソロ・アプローチ
Alto Sax Curtis Fuller 重厚かつ温かみのあるトーンでアンサンブルの
(※Trombone) 中低域を支える
Tenor Sax Hank Mobley スムーサーで叙情的なフレーズと、ハード・
バップ特有のスウィング感
Bass Wilbur Ware 独自の「空間」を活かした力強い打弦と、独特
のリズム・タクト
Drums Louis Hayes 鋭く正確なハイハットと、若さ溢れる強力なド
ライブ感
3. TOCJ-7013(東芝EMI盤)の資料的・音響的価値
東芝EMIの「BN 1500 Summer Limited 1500」シリーズ(TOCJ-7013)は、ルディ・ヴァン・ゲルダー(RVG)の手によるオリジナル・モノラル・マスターのダイナミクスを忠実に再現している。
特にカーティス・フラーのトロンボーンとハンク・モブレーのテナーサックスが織りなす中低域の和声感や、ウィルバー・ウェアの独特なベースのアタック音が鮮明に捉えられており、RVGスタジオ特有のアコースティックな空間を体感できる資料的価値の高い復刻である。
4. 全収録曲の音楽学的解読とコンポジション解析
1. Dial S for Sonny
作曲: Sonny Clark | 形式: ミディアム・テンポ・ブルース
記念すべきアルバムのタイトル曲。キャッチーでありながら切ないメロディ・ラインを持ったブルース・ナンバー。3ホーンによる重厚なリフと、クラークの滑らかで哀愁に満ちたピアノ・ソロが光る。
2. Boot 'N' Shoog
作曲: Sonny Clark | 形式: アップテンポ・ハードバップ
クラーク作の疾走感溢れるハード・バップ・コンポジション。ルイ・ヘイズの推進力あるドラムに乗せ、フロント陣のソロとクラークの軽快な右手のタッチが絶妙に交錯する。
3. Sonny's Mood
作曲: Sonny Clark | 形式: マイナー・バラード / ミディアム
クラーク独特の哀愁漂うマイナー調の旋律が印象的なオリジナル曲。アート・ファーマーの美しいトランペット・トーンと、クラークの感情豊かな打弦が楽曲の陰影を深めている。
4. Shoutin' Lax
作曲: Sonny Clark | 形式: ファンキー・ブルース
ゴスペルやファンクの要素を感じさせるアーシーなブルース・ナンバー。フロント陣のアーシーなソロ回しと、ウィルバー・ウェアの力強いベースラインが黒いグルーヴを生み出す。
5. Rock Salt
作曲: Sonny Clark | 形式: アップテンポ・バップ
アグレッシブなリフと複雑なコード展開を持つクラークのオリジナル曲。各プレイヤーの技量が試される高速テンポの中で、クラークの卓越したバップ・フレーズが炸裂する。
6. Love Walked In
作曲: George Gershwin | 形式: スタンダード解釈
ジョージ・ガーシュウィンによる名作スタンダードのカバー。3ホーンのアンサンブルを巧みに配置し、クラークのモダンな和声感によって洗練されたハード・バップ・ナンバーへと昇華されている。
5. 考察:初リーダー作におけるアンサンブルの構築美
【理論的考察】ソニー・クラークにおける3ホーンの配置と鍵盤タッチ
『Dial S for Sonny』におけるソニー・クラークの美学は、自作のオリジナル曲における3ホーン(トロンボーン、テナーサックス、トランペット)の緻密な和声配置にある。クラークはフロント陣に重厚なサウンドを担わせる一方で、自身のピアノ・ソロでは余分な音を削ぎ落とした「引き算の美学」を貫いている。この空間を活かしたシングル・ノートと、マイナー感を強調したフレーズ構成が、後の『Cool Struttin'』へと至る彼のスタイルの確固たる基礎を築いた。
6. 結論
『DIAL S FOR SONNY』(TOCJ-7013)は、ソニー・クラークという偉大なピアニスト/作曲家が、ニューヨークのジャズ・シーンに衝撃的な第一歩を踏み出した歴史的ドキュメントである。
自作曲を中心とした優れた楽曲群と、豪華な共演者たちを統率するクラークの瑞々しい感性は、ハード・バップの黄金期を象徴する名盤として今なお強い存在感を放っている。
【主要参考文献・資料】
Cuscuna, Michael. The Blue Note Label: A Discography. Greenwood Press, 2001.
Rosenthal, David H. Hard Bop: Jazz and Black Music 1955-1965. Oxford University Press, 1992.
東芝EMI『DIAL S FOR SONNY』(TOCJ-7013)付属ライナーノーツ
