「一人で3人分」と言われた日――救命の現場で薬剤師が担ったこと
出血性ショックの患者さんが搬送されました。
出血性ショックの初療では、止血処置、輸液、輸血、薬剤投与など、さまざまな対応が同時並行で進みます。そのため、通常よりも多くの医師や看護師が診療に当たります。
一方、薬剤師は院内では相対的に人数が少なく、病棟、手術室、ICUなど、さまざまな部署に配置されています。そのため、緊急時であっても、一つの部署に薬剤師を集中的に投入することは簡単ではありません。
この日、救急外来を担当する薬剤師は、私一人でした。
次々と飛び交う薬剤の指示
一人とはいえ、弱音を吐いている余裕はありません。
次々と飛んでくる薬剤の指示を聞き取り、緊急度と重要度を判断しながら、優先順位をつけて対応していきます。
限られた時間の中で、どの薬剤を先に準備するのか、どの指示をすぐに確認する必要があるのかを判断し、診療が滞らないように動き続けます。
大量輸血に伴うカルシウム低下
大量輸血が始まると、輸血製剤に含まれるクエン酸の影響によって、血中カルシウム濃度が低下することがあります。
そのため、血液ガスの結果を確認しながら、繰り返しカルシウムを補正する必要があります。
しかし、その都度カルシウムを緩徐に静注するとなると、処置に当たっている医師の手を止めることになります。
出血を止め、循環を維持し、患者さんの状態を評価し続けなければならない状況では、医師の時間も思考力も貴重な医療資源です。
薬剤師から持続静注を提案
そこで、薬剤師からカルシウムの持続静注を提案しました。
さらに、血液ガスの結果を踏まえて必要な補正量を計算し、具体的な投与方法まで提示しました。
薬剤に関する判断や計算を薬剤師が担うことで、医師は止血処置や全身管理に、より多くの思考と時間を集中できます。
薬を準備するだけではなく、薬物治療を組み立て、チーム全体が動きやすい環境をつくることも、救急医療における薬剤師の重要な役割だと思います。
チームの力でICUへ
チーム全員の懸命な対応により、患者さんは一命を取り留め、ICUへ入室することができました。
医師、看護師、薬剤師をはじめ、多くのスタッフがそれぞれの専門性を発揮し、一つの目標に向かって動いた結果です。
「3人分働いてくれて、ありがとう」
診療が一段落した後、医師や看護師から声をかけられました。
「一人で3人分くらい働いてくれて、ありがとうございました。本当に助かりました」
このような言葉をもらえる瞬間は、やはりうれしいものです。
「こちらこそ、ありがとうございました」
そう挨拶を返しながら、自分の知識や経験が、最も必要とされる場面で患者さんのために役立ったことを実感します。
自分が薬剤師としてそこにいることで、チーム全体の力を少しでも高めることができる。
救急医療に携わる薬剤師として、そこに大きなやりがいを感じています。
