私のカトラリーレストにはいつもお箸だけ、涙が流れてしまった友人とのランチ
洋食屋さんって、独特の匂いがします。
バターの香りと、少し焦げたソースの匂い。
それだけで、前は嬉しくなっていたのに。
席に案内されて、椅子に座って。
ナプキンを膝に置いて。
いつもの流れのはずなのに、ふと目に入るものがあります。
私のカトラリーレストの上には、
お箸しか置かれていないこと。
フォークもナイフも、ない。
「お箸だけ」
その光景を見ると、胸の奥が少し冷たくなる気がします。
ああ、そうなんだよねって。
言葉にしないまま、そこでいったん立ち止まってしまう。
フォークとナイフは、もう私には不要だって。
お店の方が気を利かせてくださっているのは分かるのに、
その優しさが、やさしいほど、寂しさもついてくるみたいで。
だから私は、洋食屋さんに行けないなって思うことがあります。
「行けない」というより、
行ったあとに、心が傷つくのが怖いのかもしれません。
和食なら大丈夫かというと、
それも、そう単純じゃありません。
和食でも、上手に食べられないことがあります。
前は何気なくできていたことが、
いまは、いちいち気を張らないといけない。
ひと口ごとに、ナプキンで、左の口元を拭くくせが増えました。
食べるって、こんなに疲れるの、と思ってしまいます。
食事をするのが、とっても悲しくなることがあります。
自分でも、うまく説明できないのですが、
“できないこと”が増えた、というより、
“できていた自分”を思い出してしまうから、なのかもしれません。
以前は、
「食べ方が綺麗ね」って言われていました。
母の躾は結構厳しくて、でも大人になってからは助かる事ばかりで感謝していました。
その言葉を思い出すたびに、
情けなくなる、というより、
なんだか…遠い場所に置いてきたみたいな気持ちになります。
最近の私は、
左側の口元だけは、いつも必死に拭いているような気がします。
食べながら、何度も何度も・・・
ソースは付いてないかしら?口元は汚れてない?
私も恥ずかしいけど、友人にも申し訳ないと思い
手が忙しくなる。
拭いても、拭いても、気になって。
それがまた悲しくて、
悲しいのが恥ずかしくて、
恥ずかしいのに、どうしても拭いてしまう。
外食が苦手になってしまいました。
「苦手」って軽く言うと、違う気もします。
本当は、怖いに近いのかもしれない。
楽しいはずの時間に、
口元ばかりを気にしてしまうのが辛い。
誰かと一緒にいるのに、
どこか一人になってしまう感じがするんです。
それでも、
お箸を持って、食べようとしている自分がいます。
うまくいかない日があって、
泣きたくなる日もあって。
でも、今日も私は、口元を拭き来続けています。
たぶん、必死なんだと思います。
綺麗に食べたいし、
友人と一緒にその場にいたいから。
……それだけなのに、
それが、難しい日もあります。
