高配当だけではもう足りない――国債3%時代に選びたい“成長高配当株”3選
2026年9月1日、日本の10年国債利回りが一時3%に到達しました。
3%台を付けるのは1996年以来、およそ30年ぶりです。
もちろん、これは「個人投資家が国債を買えば誰でも3%の利息を受け取れる」という意味ではありません。
10年国債利回りは市場で取引される国債の価格によって変動する、市場金利の代表的な指標です。
それでも、日本の長期金利が3%まで上昇したという事実は、投資環境の大きな変化を象徴しています。
少し前までの日本では、
預金はほぼ0%。
国債の利回りも極めて低い。
だから配当利回り3~4%の高配当株には大きな魅力がある。
そんな考え方が比較的成り立ちやすい環境でした。
しかし、日本にも「金利のある世界」が戻ってきたことで状況は変わりつつあります。
債券や預金など、株式以外の資産からも一定の利回りを得られるようになれば、
「配当利回りが高い」という理由だけで株式を選ぶ意味は、以前より小さくなります。
株式には、企業業績の悪化や市場環境の変化によって株価が大きく下落するリスクがあります。
だからこそ、これからの高配当株投資では、
「今、何%の配当がもらえるか」
だけでは不十分になってくると私は考えています。
重要なのは、
「そのリスクを取ってでも保有するだけの成長力があるのか」
そして、
「5年後、その企業が今より多く稼ぎ、今より多く株主に還元できるのか」
という視点です。
今回は、そんな「配当+成長」という観点から、
JT、INPEX、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)
の3社をご紹介していきます。
一見すると全く異なる企業ですが、3社には共通点があります。
それは、
すでに大きなキャッシュを生み出す事業を持ちながら、そのキャッシュを将来の成長投資と株主還元の両方に使っている
ということです。
なぜ「高配当」だけでは足りなくなったのか
例えば、年間3%の利息が得られる国債と、配当利回り3%の株式があったとします。
利回りだけ見れば同じです。
しかしリスクは同じではありません。
国債は満期まで保有すれば償還される一方、株式は企業業績や市場環境によって株価が大きく変動します。
それなら国債の方が良い。
ここまでは非常に分かりやすい話です。
では、それでも株式を持つ理由は何でしょうか。
答えの一つが、
「成長」
です。
企業の利益が増えれば、
利益成長
↓
EPS(1株当たり利益)成長
↓
増配
↓
株価上昇
という好循環が起こる可能性があります。
国債の利息は原則として、保有期間中に増えていきません。
一方で株式は、企業が成長すれば受け取る配当そのものが増えていく可能性があります。
だからこそ国債3%時代には、
単なる高配当株ではなく、「配当を成長させられる企業」を選ぶ
ことが、これまで以上に重要になってくるのではないでしょうか。
1.JT――本当に「成熟した高配当株」なのか
最初はJTです。
JTと聞くと、
「国内の喫煙人口は減っている」
「たばこ産業は成熟産業」
「成長性は低いが配当は高い」
というイメージを持つ人も多いと思います。
ところが最近のJTの業績を見ると、そのイメージだけでは説明しきれません。
JTの強さを理解するうえで重要なのが、
価格決定力
です。
紙巻たばこの販売本数が減少したとしても、値上げや市場シェア上昇によって利益を補うことができます。
つまり、
販売数量が減る=利益も必ず減る
という単純な構造ではありません。
JTは現在も紙巻たばこを大きな利益源としており、そこで生み出したキャッシュを次の成長分野へ投資しています。
次の成長エンジン「Ploom」
その代表が、加熱式たばこの「Ploom」です。

世界のたばこ市場では、紙巻たばこから加熱式たばこなどへ需要が移行しています。
この市場ではPhilip Morris Internationalの「IQOS」が強い存在感を持っていますが、JTもPloomへの投資を加速しています。
その成果は、少しずつ数字にも表れ始めています。
2026年上期の、
RRP販売数量は84億本相当で、前年同期比33.8%増。
さらに、
RRP関連売上収益は786億円となり、前年同期の558億円から40.7%増加
しました。
加熱式製品の販売数量も前年同期比43.5%増と高い伸びを記録しています。
ここでいうRRPとは、
RRP(Reduced-Risk Products:紙巻たばこと比べて健康リスクの低減を目指した製品群。加熱式たばこなどを含む)
のことです。
JTのRRP成長を牽引しているのがPloomです。
ただし、ここには注意が必要です。
JTはPloom単独の売上高や営業利益を開示していません。
また、RRP関連売上収益786億円に対して、2026年上期の自社たばこ製品売上収益は1兆8,284億円です。
つまりPloomを中心とするRRPは急成長しているものの、現時点ではまだ既存の紙巻たばこに代わる巨大な利益の柱になったわけではありません。
JTは2028年末までに、
主要市場における加熱式たばこのシェアを10%台半ばまで高め、RRP事業全体で損益分岐点に到達する
ことを目標としています。
さらに2026~2028年の3年間では、RRPへの投資を中心に約8,000億円を投じる計画です。
つまり現在のPloomは、
「すでに利益を稼ぐ第二の柱」ではなく、「売上を急速に伸ばしながら将来の利益の柱へ育てている途中」
と見るのが適切でしょう。
紙巻たばこで生み出した巨大なキャッシュを使ってPloomを育て、将来の利益につなげる。
これがJTの重要な成長シナリオです。
高配当だからこその弱点
JTの魅力は、今回取り上げる3社の中で現在の配当利回りが最も高いことです。
一方で注意したいのが、
配当性向の高さ
です。
JTは株主還元方針として、
配当性向75%を目安(±5%程度)
としています。
そして2026年の年間配当予想は、
272円。
予想配当性向は、
75.2%
です。
つまり単純化すれば、利益100円のうち約75円を株主に配当するイメージです。
これは株主にとって非常に魅力的です。
一方で裏返せば、
配当性向をさらに引き上げることで増配する余地は、それほど大きくない
とも言えます。
したがってJTが今後も増配を続けるためには、
配当性向を上げるのではなく、利益そのものを増やしていく必要がある
ということです。
そのため今後見るべきポイントは、
紙巻たばこの価格決定力
+Ploomの成長
↓
利益成長
↓
増配
という流れを作れるかどうかです。
JTは、
「今もらえる配当」と「次の成長」を同時に狙う銘柄
と位置付けられそうです。
2.INPEX――「石油会社」からLNGを軸とする総合エネルギー企業へ
次はINPEXです。
INPEXというと、
「原油価格が上がれば利益が増える会社」
という印象が強いと思います。
確かに資源価格や為替によって業績が大きく変動するため、安定成長株とは性格が異なります。
しかし現在のINPEXを見ると、単なる資源株とは少し違う方向へ進んでいます。
成長の中心は「LNG」
INPEXが掲げる「INPEX Vision 2035」では、
2035年までに事業規模を60%拡大
する目標を掲げています。


その中心になるのが、
天然ガス・LNG
です。
まず現在の主力が、オーストラリアの
イクシスLNGプロジェクト
です。
イクシスのLNG生産能力は、
年間約930万トン。
加えて、
LPG年間約165万トン
そしてコンデンセートを、
ピーク時で日量約10万バレル
生産できる大型プロジェクトです。
年間930万トンというLNGの生産能力は、日本の年間LNG輸入量の1割強に相当する規模です。
つまりイクシスは、すでにINPEXの収益を支える巨大なLNG事業になっています。
そして、もう一つの大型成長案件がインドネシアの
アバディLNGプロジェクト
です。
アバディはまだ生産開始前ですが、現在の開発計画では、
LNGを年間約950万トン
生産する計画です。
さらに、
コンデンセート最大日量約3万5,000バレル
に加え、インドネシア国内向けに天然ガスを日量約1億5,000万立方フィート供給する計画となっています。
ここでイクシスと比較すると、その規模がよく分かります。
イクシス:約930万トン/年
アバディ:約950万トン/年
です。
つまりアバディが計画通り立ち上がれば、
現在のイクシスにほぼ匹敵する規模のLNGプロジェクトが、もう一つ加わる
ことになります。
これはINPEXの2030年代を考えるうえで非常に大きなポイントです。
さらにINPEXは、
LNGトレーディング
CCS
水素
ガス火力
蓄電池
再生可能エネルギー
などにも事業領域を広げようとしています。
つまりINPEXは、
「原油を掘る会社」から「天然ガス・LNGを軸とする総合エネルギー企業」
への転換を進めていると見ることができます。
AIやデータセンターの普及によって世界的に電力需要が増加すれば、天然ガスや安定電源の重要性が高まる可能性があります。
その意味でも、
すでに年間930万トン規模を持つイクシス+将来年間950万トン規模を目指すアバディ
という2本柱は、INPEXの将来を見るうえで非常に重要でしょう。
成長投資と株主還元を同時に進める
INPEXのもう一つの特徴が、
成長投資を進めながら、株主還元も強化していること
です。

2025~2027年度について、
年間90円を起点とした累進配当
を掲げています。
さらに自社株買いを組み合わせ、
総還元性向50%以上
を目標としています。
2026年の年間配当予想は、
112円。
さらに2026年8月には、
最大1,400億円の自社株買い
を決定しました。
2026年の株主還元総額は2,703億円、総還元性向は約53%となる見込みです。
ここがINPEXの魅力です。
稼いだお金をすべて配当に回しているわけではありません。
将来のLNG事業へ巨額の投資をしながら、株主にも積極的に還元する。
もし大型LNG案件が計画通り成長すれば、
利益成長
+増配
+自社株買い
という好循環につながる可能性があります。
最大の弱点は資源価格
一方でINPEX最大のリスクは明確です。
それが、
原油・天然ガス価格の変動
です。
資源価格が大幅に下落すれば、利益も減少します。
また大型LNG案件には巨額の投資が必要であり、
開発の遅延
建設費上昇
地政学リスク
円高
LNG需給の悪化
などもリスクになります。
特にアバディについては、
年間950万トンがすでに生産されているわけではありません。
あくまでも将来の計画です。
したがってINPEXは、
安定高配当株というより、「資源価格や大型開発リスクを取りながら、成長と株主還元を狙う銘柄」
と見る方が適切でしょう。
ただし現在のバリュエーションは3社の中では比較的低く、
割安感という意味では最も興味深い存在
でもあります。
3.三菱UFJ――「金利上昇恩恵株」だけではない
最後は三菱UFJフィナンシャル・グループです。
日本銀行が金融正常化を進めることで、銀行には大きな追い風が吹いています。
ゼロ金利時代には、銀行が預金を集めても貸出金利との差が小さく、利益を増やすのは容易ではありませんでした。
しかし金利が上昇すれば、
預貸金利ざやが改善する
可能性があります。
実際、MUFGの2026年3月期の親会社株主純利益は、
2兆4,272億円
となり、3年連続で過去最高益を更新しました。

さらに2027年3月期については、
純利益2.7兆円
を目標としています。

ROEについても約12%を目標としています。
MUFGは「日本の銀行」だけではない
ただしMUFGを、
「日銀の利上げで儲かる銀行」
というだけで見るのは少しもったいありません。
MUFGは現在、海外事業を大きな成長分野としています。
特に、
インド
東南アジア
米国
などへの事業展開を進めています。
そしてMUFGの大きな特徴の一つが、
Morgan Stanleyとの関係
です。
投資銀行、資産運用、ウェルスマネジメントなど、幅広い金融分野で連携しています。
つまりMUFGは、
日本のメガバンクというより、グローバルな総合金融グループ
として見る必要があります。
さらに今後は、
資産運用
ウェルスマネジメント
決済
AI活用
など、従来型の銀行業務以外の収益も拡大しようとしています。
AIについてもMUFGは「AI-Native」企業への転換を掲げ、すでに約200の業務でAIを実装しています。
これは国内金利だけに依存しない利益構造を作るという意味でも重要です。
28円から96円へ
MUFGで特に注目したいのが配当です。
1株当たり年間配当は、

まで増えています。

2022年3月期の28円と比較すると、
わずか5年で3倍を超える水準
です。
さらに2026年3月期には、
5,000億円の自社株買い
を実施。
2027年3月期上期についても、
最大1,000億円の自社株買い
を決定しています。
MUFGの配当性向は現在、
約40%
を目安としています。
JTの約75%と比較すると、かなり違います。
つまりMUFGには、
利益成長
↓
増配
↓
自社株買い
↓
1株当たり価値の向上
という好循環を続ける余地があります。
今回取り上げた3社の中では、
「配当成長」という観点で最も分かりやすい銘柄
と言えるかもしれません。
最大の注意点は「株価」
ただし、MUFGには一つ大きな注意点があります。
それが、
すでに株価が大きく上昇していること
です。
数年前まで日本のメガバンクと言えば、
PBR1倍割れの割安株
という印象がありました。
しかし現在は状況が大きく変わっています。
つまり、
企業が良くなった分だけ、市場からの評価もかなり高まっている
ということです。
ここは非常に重要です。
良い会社だからといって、
いつ買っても割安とは限りません。
MUFGは3社の中で成長ストーリーが最も分かりやすい一方、
投資妙味については株価水準を以前より慎重に見る必要がある銘柄
だと思います。
3社を比較すると何が見えるのか
今回の3社はすべて高配当株として知られています。
しかし実際には、性格がかなり違います。

JT
現在の配当を最も重視したい人向け
3社の中では現在の配当利回りが最も魅力的です。
一方、予想配当性向は75.2%とすでに高い水準です。
したがって将来の増配には、紙巻たばこの価格決定力とPloomを中心としたRRP事業の成長によって、利益そのものを増やしていく必要があります。
INPEX
割安感と将来の成長を両方狙いたい人向け
すでに年間約930万トンのLNG生産能力を持つイクシスに加え、将来は年間約950万トンを計画するアバディがあります。
大型案件が順調に立ち上がれば成長余地は大きい一方、資源価格やプロジェクト遅延などのリスクは覚悟する必要があります。
MUFG
利益成長と増配を重視したい人向け
3社の中では最も分かりやすい配当成長ストーリーがあります。
配当性向も約40%で、利益成長が続けば今後の増配余地も残されています。
一方、株価はすでに大きく評価されているため、買値には注意が必要です。
国債3%でも、それでも株を持つ理由
ここでもう一度、最初の疑問に戻ります。
日本の長期金利が3%近くまで上昇し、預金や債券など株式以外の資産からも以前より高い利回りを得やすくなっているなかで、わざわざ株価下落リスクを取ってまで高配当株を買う意味はどこにあるのでしょうか。
私は、
「現在の配当利回り」だけで考えるなら、株式を選ぶ理由は以前より確実に弱くなった
と思います。
しかし、
5年後の利益と配当まで考えると、話は変わります。
例えばMUFG。
年間配当は2022年3月期の28円から、2027年3月期予想では96円まで増えています。
国債の利息は、基本的に保有期間中にこのような形で増えていきません。
一方、企業が成長すれば、
利益が増える
↓
配当が増える
↓
取得価格に対する配当利回りが上昇する
ということが起こります。
さらに株価そのものが上昇すれば、キャピタルゲインも期待できます。
もちろん逆もあります。
業績が悪化すれば減配する可能性がありますし、株価が20%、30%下落することもあります。
国債と株式は、そもそも同じリスクの商品ではありません。
だからこそ国債3%時代には、
「株式というリスクを取るだけの成長力が、その会社に本当にあるのか」
を以前より厳しく見る必要があります。
まとめ――「高配当株」から「配当成長株」へ
国債利回りが3%近くまで上昇したことで、高配当株投資の前提は大きく変わりつつあります。
これまでなら、
「配当利回り3~4%だから魅力的」
という単純な判断でもある程度通用しました。
しかしこれからは、それだけでは足りません。
国債3%時代に配当利回り3%の株を買う理由は、
単に「配当が欲しいから」「業績が安定且つ高配当」
ではダメだと思います。
その企業が5年後に、
「今より大きく成長し、多く株主へ返せるか」
ということまで見極めて投資すべきです。
今回取り上げた3社には、それぞれ違う成長ストーリーがあります。
「配当が高いから買う」
のではなく、
「その配当を生み出している利益が、5年後も成長しているのか」
まで見る必要があると思います。
※本記事は特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。

