大塚HDは2030年にどこまで成長するのか――VOYXACTと新薬群から利益と株価を読む
大塚ホールディングス(4578)が発表した2026年12月期第2四半期決算は、かなり強い内容でした。
ただ、今回注目したいのは「今期の数字が良かった」ということだけではありません。
VOYXACTという新しい成長ドライバーが想定以上のスピードで立ち上がり、その後にも複数の新薬候補が控えていること。
今回は決算を確認したうえで、
「大塚HDは2030年にどこまで成長できるのか」
という視点から、売上・利益・EPS、そして株価まで考えてみます。
まずは今回の決算を確認
2026年上期の業績は、
売上収益:1兆3,324億円(前年同期比+12.8%)
事業利益:2,806億円(+17.3%)
営業利益:2,785億円(+15.0%)
親会社帰属利益:2,156億円(+24.3%)
となりました。

特に医療関連事業は、
売上収益9,516億円(+14.1%)
事業利益2,528億円(+18.2%)
と好調です。
会社は2026年通期計画も、
売上収益:2兆5,200億円 → 2兆7,250億円
事業利益:3,550億円 → 4,700億円
へ大幅に上方修正しました。

今回の決算は、単なる一時的な好業績というより、次の成長フェーズが見え始めた決算だったと考えています。
最大の注目はVOYXACT
今回、私が最も注目したのがIgA腎症治療薬**VOYXACT(シベプレンリマブ)**です。
会社は2026年の売上計画を当初の250億円から600億円へ引き上げました。
さらに会社資料では、順調な立ち上がりを受けて2027年に1,000億円以上を目指す目標を1年前倒ししています。

これはかなり強い動きです。
なぜVOYXACTは売れているのか
VOYXACTの好調は、単なる「新薬効果」だけではありません。
最大の特徴は、IgA腎症の病態形成に関わるAPRILを選択的に阻害するFirst-in-classの治療薬であることです。
さらに会社は24カ月のeGFRデータをもとに、腎機能低下を抑える疾患修飾的な治療アプローチとしての価値を強調しています。
実際、新規患者だけでなく、既存治療からVOYXACTへ切り替える症例も想定以上に進んでいると会社は説明しています。
つまり、
新しい作用機序
+ 長期的な腎機能維持への期待
+ 既存治療からの切り替え需要
という薬そのものの優位性が、現在の売上拡大につながっていると考えられます。
さらに日本・欧州ではIgA腎症で申請が進み、中国では2026年6月に承認を取得しました。
そこで2030年売上について、
強気:2,500億円
基本:2,000億円
弱気:1,350億円
と想定しています。
VOYXACTは「将来売れるかもしれない薬」ではなく、すでに売上が立ち上がり、その実績を確認しながら将来を考えられる薬になっている点が大きいと思います。
もう一つの成長ドライバー――SIMTRIYO
2030年予測でもう一つ重要なのが、ADHD治療薬**SIMTRIYO(センタナファジン)**です。

会社資料ではSIMTRIYOについて、ADHD治療では忍容性などの問題から治療満足度が十分でない患者が存在するとしたうえで、持続的な効果、良好な忍容性・安全性、併存症状への効果を持つ薬剤として位置付けています。
会社の開発ロードマップでは2026年下期の上市が示されています。
SIMTRIYOが売れる可能性を考えるうえでは、大きく3つのポイントがあります。
一つは、ADHDという大きな患者市場を対象としていること。
二つ目は、既存治療で十分な満足が得られていない患者に対して、新たな治療選択肢となる可能性があること。
そして三つ目が、大塚HDが精神・神経領域ですでに強い販売基盤を持っていることです。
レキサルティやエビリファイなどを世界展開してきた経験を、SIMTRIYOでも活用できます。
安全性・忍容性も注目ポイント
SIMTRIYOについては、会社資料でも良好な忍容性・安全性が強みとして示されています。
ただし、現時点で**「既存のADHD治療薬より副作用が少ない」**と断定するのは適切ではありません。
そのため、
「良好な忍容性・安全性が期待される新しい治療選択肢」
として見るのが妥当でしょう。
今後、実際の医療現場でも忍容性の良さが評価されれば、処方拡大を後押しする材料になります。
私はSIMTRIYOの2030年売上について、
強気:約1,500億円
基本:約1,100億円
弱気:約600億円
程度を想定しています。
ただし、すでに売上が立ち上がっているVOYXACTに対して、SIMTRIYOはこれから販売実績を確認する段階です。
したがって、現時点ではVOYXACTより予測の不確実性が高いと考えています。
VOYXACTとSIMTRIYOは「売れる理由」が違う

VOYXACT=治療価値を武器に専門領域で大型化する薬
SIMTRIYO=大きな市場に大塚HDの販売力を生かして浸透させる薬
と考えています。
さらに次の新薬も控えている
大塚HDの成長候補は、この2つだけではありません。
会社のロードマップでは、ジパレルチニブ、ウロタロント、ASTX030、TSND-201など複数の開発品が続きます。

つまり大塚HDでは、VOYXACTの次にも成長候補が続いているということです。
2030年の業績を考えてみる
ここからは会社予想ではなく、決算資料と現在のパイプラインをもとにした独自シナリオです。
出発点となる2026年会社計画は、
売上収益:2兆7,250億円
事業利益:4,700億円
事業利益率:約17.2%
EPS:約675円
です。
2030年までを見るうえで、
① VOYXACT
② SIMTRIYOなど後続新薬
③ 既存医療事業
④ NC関連事業
⑤ 全社利益率
の5点から積み上げました。
2030年の売上を事業ごとに積み上げる

後続新薬2,300億円の中身
基本シナリオでは、VOYXACT以外の新薬を次のように見ています。

ここは2030年予測の中でも最も不確実性が高い部分です。
逆に言えば、開発成功が増えるほど業績には上振れ余地があります。
既存医療事業も大きな土台
2026年計画では、
レキサルティ:3,900億円
ロンサーフ:1,220億円
エビリファイ メンテナ:2,435億円
ロイヤリティ収入:2,186億円
など、すでに複数の大型収益源があります。
2030年には一部製品でLOEや後発品の影響も想定されますが、大塚HDにはすでに大きな医療事業の基盤があります。
基本シナリオでは、新薬以外の既存医療事業を約2兆2,000億円と見ています。
つまり大塚HDは、
既存の巨大な収益基盤の上に、新しい薬を積み上げる会社
と見ることができます。
NC関連事業は安定成長を想定
NC関連事業とは、ポカリスエット、カロリーメイト、SOYJOY、サプリメ
ントなどを展開するニュートラシューティカルズ関連事業です。
医薬品ほどの高成長は期待しにくい一方、特許切れや新薬開発失敗の影響を
受けにくく、大塚HDの安定収益を支える重要な事業です。
2026年上期のNC関連事業は、
売上3,001億円(+8.7%)
事業利益387億円(+7.4%)
でした。
ここには医薬品のような急成長を求めず、安定成長を想定します。
2030年は、
強気:約7,800億円
基本:約7,300億円
弱気:約6,750億円
としました。
新薬開発には失敗リスクがありますが、NC関連事業が収益を下支えする点も大塚HDの特徴です。
利益率の改善も重要
2026年会社計画の事業利益率は約**17.2%**です。
一方、2026年上期の医療関連事業は、売上9,516億円に対して事業利益2,528億円。利益率は約**26.6%**あります。
そのため、高収益の医薬品売上が増えれば全社利益率にも改善余地があると考えます。

基本シナリオでは、利益率が17.2%のままなら事業利益は約6,070億円ですが、19%まで改善すれば約6,710億円。
利益率改善だけでも約640億円の差になります。
3つの業績シナリオ
以上をまとめると、2030年の姿は次の通りです。

強気では、VOYXACTとSIMTRIYOに加えて後続新薬から複数の成功例が出るケース。
基本では、VOYXACTが2,000億円級へ成長し、後続新薬も一部成功するケース。
弱気では、新薬の上市延期や開発中止、既存薬のLOEなどを強めに織り込みます。
実際、大塚HDでもウロタロントの大うつ病向け開発は中止されています。
私は現時点では、基本シナリオを中心に見ています。
2030年の株価はどこまで狙えるか
次に2030年EPSから株価を考えます。
今回は、
強気:PER22倍
基本:PER18倍
弱気:PER15倍
としました。
PERは「製薬会社だから○倍」と一律に決まるものではありません。
利益成長率、新薬の成功確度、特許切れリスク、財務体質、2030年以降の成長余地
によって市場から与えられる評価は変わると考えています。

強気ケースでは、新薬を継続的に生み出せる企業として評価されることでPER22倍。
基本ケースでは、年率10%前後のEPS成長と安定性を両立する企業としてPER18倍。
弱気ケースでは、成長率低下を反映してPER15倍としました。
重要なのは、株価には、
EPSの成長
+
PERの変化
の両方が影響することです。
新薬の成功が続けば、利益が増えるだけでなく、「成長企業」として評価倍率そのものが高まる可能性があります。
リスクも忘れてはいけない
当然ながら、成長シナリオにはリスクがあります。
特に注意したいのは、
新薬開発の失敗・延期
既存大型薬のLOE
円高
研究開発費の増加
M&Aに伴う減損
です。
会社自身も2026年度の利益変動要因として、主要製品のLOEと「グローバル10プラス2」の成長を分けて管理しています。
つまり今後は、新薬の成長が既存薬の減少をどこまで上回れるかが重要になります。
まとめ――大塚HDは次の成長期に入れるか
大塚HDの2030年を左右するのは、
VOYXACTがどこまで大型化するか。
そして、
SIMTRIYO以降の新薬が何本続くか。
この2点です。
私の基本シナリオでは、
2030年売上:3兆5,300億円
事業利益:6,710億円
EPS:約991円
を想定しています。
そしてPER18倍なら、
2030年株価目安:約17,800円
です。
もちろんこれは会社予想ではなく独自シナリオです。
それでもVOYXACTは、First-in-classとしての薬剤特性、長期腎機能データ、既存治療からの切り替え需要を背景に、すでに想定以上の立ち上がりを見せています。
その後にはSIMTRIYOをはじめとする次の成長候補も控えています。
大塚HDが本当に「次の成長期」に入るのか。
今後の決算では、VOYXACTの売上、SIMTRIYOの立ち上がり、後続新薬の上市確度を重点的に追いかけたいと思います。
※本記事は特定銘柄の売買を推奨するものではありません。2030年の業績、新薬売上、EPS、PER、株価については公開資料をもとにした独自試算であり、会社予想ではありません。将来の業績・株価を保証するものでもありません。

