AIゴールドラッシュで本当に儲かるのは誰か――電源・通信・冷却を支える富士電機と古河電工
1.はじめに
19世紀半ば、アメリカ西部でゴールドラッシュが起きました。
一攫千金を夢見て多くの人が金鉱へ向かいましたが、実際に大金を手にしたのは一部にすぎません。
一方、金を掘る人につるはしやシャベル、作業着を売った商人は、金が見つかるかどうかに左右されず、着実に需要を取り込みました。
この話は、現在のAI・半導体ブームにも重なります。
AI半導体の開発競争では、NVIDIAをはじめとする企業が注目の中心です。しかし、どのAI企業や半導体が最終的に市場を制するのかを見極めるのは簡単ではありません。
それでも、比較的確度の高いことがあります。
AIの計算量が増えれば、データセンターの消費電力は増える。GPUを大量に並べれば、通信量と発熱量も増える。そして、電力を安定供給し、膨大なデータを高速で運び、熱を逃がす設備が必ず必要になる――ということです。
現代の「つるはしとシャベル」は、GPUだけではありません。
受変電設備、無停電電源装置(UPS)、光ファイバー、光コネクター、光半導体、そして冷却装置です。
今回取り上げるのは、その周辺インフラを支える富士電機と古河電工です。
両社は、顧客の要求に応じた製品を開発し、受注を獲得し、その需要へ対応するため国内外で生産能力を増強しています。
企業の将来を考えるには、業績予想やPERだけでなく、数字がどの製品から生まれ、増産投資がいつ売上と利益へ変わるのかを見る必要があります。
今回は、AIデータセンターの裏側で何が起きているのかを、両社の製品、顧客、設備投資、業績から掘り下げます。
2.企業紹介
①富士電機――AIデータセンターへ「止まらない電気」を届ける
AIデータセンターは巨大な電力消費施設
データセンターには、サーバーやGPUを24時間365日動かす電源設備が必要です。
高い電圧を施設内で使える電圧へ変える変圧器、電気の流れを切り替える開閉装置、各設備へ電力を分配する配電盤。そして、停電や瞬間的な電圧低下が起きても給電を途切れさせないUPSが設置されます。
発電機が長時間の停電を支える設備だとすれば、UPSは停電直後から給電を引き継ぎ、電力品質を守る設備です。両者が連携することで、データセンターの「止まらない電源」が成立します。
富士電機の強みは、受変電設備、変圧器、配電盤、UPS、監視制御、設備工事までを組み合わせ、施設全体の電源システムとして提案できることにあります。
業界最大クラス――単機容量2,400kVAの大容量UPS
富士電機は2023年、大容量UPS「7500WXシリーズ」に、単機容量2,400kVA/2,400kWの機種を追加しました。

同社は、この製品を「業界最大クラス」と位置づけています。
ハイパースケールデータセンターでは、2万kVAを超える大容量電源が必要になるケースがあります。UPS一台当たりの容量が大きければ、設置台数や配線、接続箇所を減らし、限られたスペースをサーバー設備へ振り向けられます。
同製品は、高効率運転モードで電力変換効率98.5%、通常運転時でも96%を実現しています。

富士電機の従来機種5台で同等容量を構成した場合と比べ、設置面積を25%削減。配線構造の見直しとバスダクト接続によって、工事時間と工事費も30%削減できるとしています。

さらに同社の試算では、2,400kVA機一台を通常運転から高効率運転へ切り替えた場合、電気料金を年間最大1,441万円、CO₂排出量を最大245トン削減できます。
世界市場にはSchneider Electric、Vertiv、Eatonなどの有力メーカーが存在し、高効率運転で最大99%を掲げる製品もあります。
そのなかで富士電機は、業界最大クラスの単機容量に加え、受変電設備から設備工事まで一括して提案できる点を強みとしています。
単純な変換効率だけでなく、設置面積、工事期間、保守性、施設全体の設計まで含めて競争する事業なのです。
「機器を売る」から「工期を売る」へ
富士電機の取り組みで注目したいのが、スキッドシステムとコンテナパワートレインユニットです。

従来、配電盤、UPS、変圧器などは個別に現場へ運び、据付、配線、試験を行っていました。しかし、建設現場では電気工事の技術者が不足し、工期の長期化が課題となっています。
富士電機は、これらの機器を共通架台に組み付け、工場で配線や試験まで済ませて現場へ搬入します。屋外に設置する場合は、設備一式をコンテナへ格納します。
これにより、出荷前試験から現地据付までの期間を40%短縮し、現場の作業員も減らせます。
顧客が購入するものが「UPSや配電盤」から、「早く確実にデータセンターを稼働させる仕組み」へ変わっているのです。
AIデータセンターの完成が数か月遅れれば、高額なGPUを稼働できないことによる機会損失が膨らみます。建設期間の短縮そのものが、大きな付加価値になります。
実名で確認できるIIJへの納入実績
富士電機の代表的な納入先が、株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ)の「白井データセンターキャンパス」です。

IIJは、インターネット接続、クラウド、ネットワーク、セキュリティ、データセンターなどを提供する国内の通信事業者です。
2019年に開設された同施設では、2023年夏に第2期棟が運用を開始しました。富士電機は大容量化への対応として、必要な容量に応じて拡張できるモジュール型UPSを開発し、同施設へ納入しています。
現在は、IIJの主要クラウド拠点「松江データセンターパーク」の案件にも携わっています。
2026年度第1四半期には、施設・電源システムの受注が前年同期比で約600億円増加しました。その大半がデータセンター向けで、3分の2弱が国内、3分の1強が海外です。
海外事業者が日本に建設するデータセンターのほか、北米、タイ、オーストラリアでも案件を獲得しています。
北米では2026年7月に対象製品のUL認証取得を完了し、少量ながらすでに受注を獲得しました。
UL認証は、米国の安全規格への適合を第三者機関が確認する制度です。北米で製品を採用してもらうための重要な条件になります。
富士電機の顧客層は、国内企業から外資系事業者、さらにアジアや北米へ広がり始めています。
データセンター売上は約1,000億円
富士電機は、2026年度のデータセンター向け売上高について、約1,000億円を見込んでいます。
同年度の連結業績予想は、売上高1兆3,000億円、営業利益1,565億円です。データセンター向け売上は、連結売上高の約7.7%に相当します。


ただし、データセンター向けの利益額は開示されていません。エネルギー部門には発電、変電、蓄電システムなども含まれるため、同部門の利益率をそのまま当てはめることはできません。
一方、第1四半期の施設・電源システムは、大型案件の反動で減収となりながら、案件構成の改善によって増益を確保しました。
データセンター向け設備の拡大が、売上だけでなく利益にも結びつき始めていることがうかがえます。
国内外で進む生産能力増強
富士電機は、増加する受注に対応するため、複数工場を増強しています。


データセンター・半導体工場向けの受変電設備・電源装置の受注高は、2026年度に2023年度比で約2倍になる見込みです。
主な工場の能力増強が1.5倍であることを考えると、これは将来需要だけを見込んだ先行投資というより、すでに増えている受注へ対応する投資といえます。
2026年度の全社設備投資計画は560億円で、営業利益予想は1,565億円、フリーキャッシュフロー予想は650億円です。
現時点では古河電工と比べ、財務負担を抑えた増産計画と評価できます。ただし、実際の投資回収は受注の継続や新設備の稼働率に左右されます。
能力増強の効果が年間を通して表れやすくなるのは2027年度以降です。一方、北米市場のさらなる拡大は2029~2030年頃と会社は見ています。
富士電機には、国内・アジアの増産と、その先の北米展開という二段階の成長シナリオがあります。
②古河電工――AIの「通信量」と「発熱量」を同時に取り込む
GPUが増えるほど光ファイバーが必要になる
AIデータセンターでは、多数のGPUを高速ネットワークで接続し、計算処理を分担させます。
GPU間で大量のデータを遅延なくやり取りできなければ、高価な半導体を十分に働かせることができません。
そのため、AIデータセンターではラック間や建物間の通信量が増え、限られた配管や敷地に、より多くの光ファイバーを収容する必要があります。
古河電工は、この「通信の高密度化」に対応する技術を持っています。
直径40mm未満に13,824本を収める
古河電工グループのLighteraは、2026年2月から13824心光ファイバーケーブルの量産を開始しました。

直径200マイクロメートルの細径光ファイバーを16本ずつ間欠的に接着した「ローラブルリボン」を使い、ケーブル直径を40mm未満に抑えながら、従来品の2倍の伝送容量を実現しています。
ローラブルリボンは、接着部分と分離部分を交互に設けることで柔軟に変形します。
大量の光ファイバーを高密度に詰め込みながら、接続時にはリボンとして複数本を一括融着できる。この「高密度」と「施工性」の両立が製品の核心です。
13,824心ケーブルはフジクラも製品化しており、海外のハイパースケールデータセンターへの敷設実績を公表しています。
したがって、古河電工だけの技術ではありませんが、外径40mm未満に13,824心を収め、施工性も確保した製品は世界最高水準と評価できます。
古河電工は三重事業所に超多心光ケーブル専用の第2工場を開設し、生産能力を2023年度比で2倍以上へ引き上げました。

製品仕様だけでなく、急増する需要へ対応できる量産体制も強みです。
接続部品と光源まで押さえる
光ファイバーを使うには、ケーブル同士や通信機器をつなぐ、低損失で高密度なコネクターも必要です。
古河電工は2024年11月、光コネクター部品を手掛ける白山の株式約67%を取得する契約を締結し、2025年1月に子会社化しました。

白山は、多心型光MTフェルールで世界シェア2位と古河電工が説明しています。
MTフェルールは、多数の光ファイバーを正確に並べ、一括接続する精密部品です。わずかな位置ずれでも光信号の損失が増えるため、高い加工精度が求められます。
古河電工は、超多心ケーブル、MTフェルール、MPO・VSFFコネクター、端末加工済みケーブルなどを組み合わせ、素材メーカーから「光接続ソリューション企業」へ移ろうとしています。

さらに同社は、光信号を発生させるDFBレーザーチップも手掛けています。
通信速度が400Gbpsから800Gbps、1.6Tbpsへ移行するなか、光源には高い出力と効率が求められます。
古河電工は、100mWという業界最高水準のDFBレーザーチップを2024年1月から量産しています。800Gbpsを超える高速光トランシーバーへの搭載が想定される製品です。
将来は、スイッチ半導体の近くに光通信機能を組み込むCPO(Co-Packaged Optics)の外部光源としての採用も狙います。
古河電工は、光ファイバー、接続部品、光半導体まで、幅広い製品群を持っているのです。
GPUの熱を逃がす
古河電工のもう一つの事業機会が、GPUの発熱量増加です。
同社は長年、ヒートパイプやヒートシンクなどの放熱部品を手掛けてきました。

しかし、GPUの発熱量とラックの実装密度が高まると、空気だけでは十分に冷やせない領域が増えます。
そこで採用が進んでいるのが、GPUやCPUにコールドプレートを取り付け、内部へ冷却液を循環させる水冷方式です。

古河電工は、データセンター全体のチラーや空調機を供給する会社ではありません。
主戦場は、GPUやCPUの近くで熱を受け取り、拡散・輸送する部品やモジュールです。いわば「熱源に近い冷却技術」を手掛けています。
既存施設では空冷需要が残り、高発熱のAIラックでは水冷が増える。その先には液浸方式も考えられます。
古河電工は、空冷から水冷、液浸へ広がる技術変化へ対応しようとしています。
独占技術ではなく、製品構成と同時投資が強み
光通信と冷却の両方を手掛けているのは、古河電工だけではありません。
フジクラも13,824心ケーブル、光接続部品、ヒートパイプ、ベーパーチャンバー、コールドプレートなどを展開しています。住友電工も、光ファイバー、光ケーブル、コネクター、光デバイスを持っています。
したがって、古河電工の競争優位性を「他社にない唯一の技術」と捉えるのは適切ではありません。
同社の特徴は、超多心ケーブル、MTフェルール、光半導体、空冷・水冷製品という複数の成長領域へ、同じ時期に大規模投資を行っていることです。
個々の製品には有力な競合が存在しますが、AIデータセンターで同時に増える「通信量」と「発熱量」の双方を、複数の事業から取り込める製品構成を持っています。
ただし、光通信製品と冷却製品を一括販売している事実までは公表されていません。現時点では、事業間の販売シナジーよりも、複数の成長市場へ同時に参加できることが強みと考えるのが妥当です。
データセンター関連製品が利益を押し上げる
古河電工の2026年度第1四半期は、売上高3,652億円、営業利益255億円となりました。
前年同期比で売上高は24%増、営業利益は205%増となり、約3倍へ拡大しています。

通期では、光ソリューションの営業利益を430億円、情報コンポーネントを510億円と予想しています。
両部門の合計940億円は、連結営業利益予想1,230億円の約76%に相当します。
両部門にはデータセンター以外の製品も含まれるため、940億円すべてがデータセンター関連の利益ではありません。
それでも会社は、ローラブルリボンケーブル、MTフェルール、水冷モジュール、光半導体など、高付加価値製品の増産を利益拡大の要因として挙げています。
古河電工は、販売数量だけでなく、製品構成の転換によって利益率を改善しているのです。
相次ぐ大型投資
古河電工は、AIデータセンター関連で大型投資を進めています。

水冷設備の累計投資約740億円には、今回発表された約550億円が含まれるため、表の金額を単純合算することはできません。
注目したいのが、水冷モジュールの売上目標です。
2025年11月時点では、2027年度500億円以上、2030年度1,000億円でした。しかし、2026年3月には、2027年度1,000億円以上、2030年度4,000億円へ引き上げました。
短期間で目標を大幅に引き上げたことは、顧客需要が当初想定を上回っている可能性を示します。
一方、急激な拡大には、工場の立ち上げ、歩留まり、部材調達、顧客認証などの実行リスクも伴います。
2026年度の全社設備投資は1,500億円と、営業利益予想1,230億円を上回ります。ネット有利子負債も、2026年3月末の2,475億円から6月末には2,921億円へ増加しました。
ただし、約1,000億円を投じる光ファイバー・ケーブル増産では、長期契約を含む顧客の購入コミットメントを確認しています。
需要予測だけで工場を建てるのではなく、良好な受注環境と顧客との一定の約束を背景に、能力を増やしているのです。
古河電工は富士電機より投資負担と実行リスクが大きい一方、計画が実現した場合の利益成長余地も大きいといえます。
業績寄与は2028年度以降に加速
古河電工の増産は段階的に進みます。

現在の好業績は、既存設備と先行増産によって始まっている成長です。
一方、約1,000億円の光投資や約380億円のDFBレーザー投資が本格的に利益へ結びつくのは、2028年度以降になります。
会社は2030年度に、連結営業利益2,500億円、そのうちデータセンター関連事業で2,000億円を目指しています。
なお、データセンター関連事業には、Lightera、冷却製品、光半導体のほか、半導体製造用テープ、メモリーディスク、銅箔、光電融合デバイスなども含まれます。
非常に野心的な目標だけに、AI投資の継続、工場立ち上げ、顧客認証、高付加価値製品の価格維持が重要になります。
3.まとめ
AIゴールドラッシュの主役は、AI企業や高性能GPUを供給する半導体メーカーだけではありません。
大量のGPUを動かすには、巨大な電力を安定して届け、大量のデータを高速で運び、発生する熱を逃がす必要があります。
富士電機は、受変電設備、変圧器、配電盤、UPS、設備工事を通じて「止まらない電気」を届けます。
古河電工は、超多心光ケーブル、光コネクター、DFBレーザーでデータを運び、ヒートシンクや水冷モジュールでGPUの熱を逃がします。

両社の違いを端的に表せば、富士電機は「受注を背景にした堅実な能力増強」、古河電工は「複数の成長市場を狙った大型先行投資」です。
もちろん、データセンター建設の延期や価格競争、工場の稼働率低下が起これば、両社も影響を受けます。
特に古河電工は投資額と2030年度目標が大きいため、今後は受注だけでなく、設備投資に見合うキャッシュフローと利益を生み出せるかを確認する必要があります。
それでも両社は、AIという言葉を事業説明に加えただけではありません。
製品を開発し、顧客の採用を得て、受注の増加に対応するため工場を増強している。AI需要が、現実の設備、受注、売上、利益へ変わり始めています。
現代のAIゴールドラッシュで、最終的にどのAI企業が勝つのかは分かりません。
しかし、AIの利用が広がる限り、電源、通信、冷却というインフラは必要です。
半導体の性能競争だけでなく、その半導体を実際に動かす設備へ目を向けること。
それが、AIブームを一段深く理解するための投資の視点ではないでしょうか。
※本記事は、企業の事業内容や公表情報を基にした考察であり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。業績予想や設備投資計画には不確実性があり、実際の結果が会社計画と異なる可能性があります。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。

