日本にも“AIで本当に稼ぐ企業”はあるのか――PKSHAのAI SaaSモデルを徹底分析
先日の記事では、米国のAI企業Palantirを取り上げました。
Palantirが面白かった理由は、「AI関連企業だから」だけではありません。
世界中でAIへの巨額投資が続くなか、PalantirはAIを実際の企業活動へ組み込み、すでに大きな売上と利益を生み出している会社だったからです。
そこで次に気になったことがあります。
日本にも、「AIへの期待」で買われている会社ではなく、「AIを使って本当に稼いでいる会社」はあるのだろうか?
調べていく中で、非常に興味深かったのが、
PKSHA Technology(3993)
です。
PKSHAは生成AIブームが始まってからAI事業へ参入した会社ではありません。
自然言語処理、機械学習、画像認識などのアルゴリズムを長年研究し、それを企業の実際の業務へ実装してきました。
そして現在、その蓄積がAI SaaSとAIエージェントという形で収益化され始めています。
ただし、決算を見る際には一つ注意が必要です。
2026年9月期第3四半期累計の売上収益は、
283.4億円、前年同期比+84.1%。
一見すると非常に高い成長率です。
しかし、この「+84%」をそのままPKSHAのAI事業の実力と考えてはいけません。
今回は、この数字の中身まで掘り下げてみます。
■ PKSHAとは何をしている会社なのか?
PKSHA Technologyは2012年設立のAI企業です。

現在の事業は、大きく3つに分けられます。

この中でPKSHAという会社を理解するうえで、特に重要なのが、
AI Research & Solution → AI SaaS
という流れです。

企業の個別課題をAIで解決し、そこで得られた技術やノウハウを標準化する。
そして、他の企業にも利用できるSaaSへ発展させる。
つまり、
個別企業でAIを実装する
↓
共通する課題を発見する
↓
AI製品として標準化する
↓
多数の企業へ販売する
というモデルです。
ここが普通のAI受託開発会社との大きな違いです。
■ PKSHAのAI SaaSとは?
代表的なのが、
PKSHA ChatAgent
PKSHA VoiceAgent
PKSHA FAQ
などです。

例えばChatAgentなら、Webサイトなどで顧客からの問い合わせにAIが回答します。
VoiceAgentなら電話対応をAI化します。
PKSHA FAQでは、企業内に蓄積された大量の問い合わせ情報を整理し、必要な情報を探しやすくします。
これらの製品は、それぞれの市場で高いシェアを獲得しています。
ここで重要なのは、
一度開発したAIを、何社にも販売できる
ということです。
個別開発では、売上を増やすために人員も増やす必要があります。
しかしSaaSなら、一度製品を作れば、多数の顧客へ提供できます。
これがAI SaaSのスケーラビリティです。
■ 「答えるAI」から「仕事をするAI」へ
PKSHAが現在進めているのが、
AI Agent化
です。
従来のチャットボットなら、
「住所変更をしたい」
と質問すると、
「こちらのページから手続きしてください」
と案内して終了します。
しかしAI Agentが進化すれば、
本人確認
↓
必要情報を取得
↓
社内システムと連携
↓
手続きを実行
↓
完了を通知
というところまでAIが担える可能性があります。
つまり、
「質問に答えるAI」から「仕事を完了させるAI」へ。
これはPKSHAの将来を考えるうえで非常に重要な変化です。
AIが単なる問い合わせ対応ツールから、企業の実際の業務を担う存在になれば、PKSHAが提供できる価値も大きくなります。
■ 音声AIにも広がる
PKSHAは音声AIにも力を入れています。
VoiceAgentに加えて、音声AIをAPIとして外部提供し、複数の音声AIエンジンを用途に応じて利用できる環境も整えています。
重要なのは、単一のAI製品を販売するだけではなく、
企業が業務に応じてAIを使い分けられる基盤
へ事業領域を広げようとしていることです。
AI Agent化が進めば、音声も企業業務を自動化する重要な入口になる可能性があります。
■ AI Powered Workerとは?
3つ目の事業が、
AI Powered Worker
です。
これはAIと専門人材を組み合わせ、企業の課題解決そのものを支援する事業です。
2025年にグループ入りしたサーキュレーションのプロ人材事業などが中心となっています。
サーキュレーションは、企業の経営課題に対して外部のプロ人材を活用する「プロシェアリング」サービスを展開する企業で、2025年にPKSHAグループへ加わりました。
現時点ではAI SaaSより利益率の低い事業ですが、
AIによって人材1人あたりの生産性を高め、利益率を改善できるか
が今後の注目点です。
今回は、PKSHAの中でも特に収益性の高いAI SaaSを中心に見ていきます。
■ 決算を見ると「売上+84%」
では数字を見てみましょう。

2026年9月期第3四半期累計は、

売上+84%。
これだけを見ると、非常に高い成長を続けるAI企業に見えます。
しかし、ここからが重要です。
■ 「+84%」をそのまま信じてはいけない
事業別に分解してみます。

一目瞭然です。
売上を大きく押し上げているのは、
AI Powered Worker
です。
ここには子会社化したサーキュレーションの業績が大きく寄与しています。
したがって、
「PKSHAのAI事業が84%成長している」
と理解するのは適切ではありません。
むしろ注目すべきなのは、
AI Research & Solution:約+31%
AI SaaS:約+32%
という数字です。
PKSHA本来のAI事業も、十分高い成長を続けています。
私は派手な「+84%」よりも、
100億円規模へ成長してきたAI事業が、なお約30%成長している
ことの方が重要だと思います。
■ そしてAI SaaSはかなり儲かっている
さらに面白いのが利益率です。
3Q累計のAI SaaSは、
売上:約85億円
セグメント利益:約28億円
で、利益率は、
約34%
です。
これはかなり高い水準です。
一方、AI Powered Workerの利益率は約7%。
つまり現在のPKSHAでは、
AI SaaS=高成長・高利益率
AI Powered Worker=高成長・低利益率
という、性格の違う事業が同居しています。
だからこそPKSHAを見るときは、
「売上がどれだけ増えたか」以上に、「どの売上が増えたのか」を見る必要があります。
ここは今回の記事で最も重要なポイントの一つです。
■ ストック売上も強い
AI SaaSの魅力は、利益率だけではありません。
継続課金型なので、毎年売上をゼロから作り直す必要がありません。
AI SaaSの**ARR(Annual Recurring Revenue:年間継続収益)**は100億円を超えています。
ARRとは、継続課金型の契約から得られる収益を年間ベースに換算した指標です。
また、**NRR(Net Revenue Retention:既存顧客売上維持率)**も100%を大きく上回る水準です。
NRRが100%を超えるということは、既存顧客の解約や契約縮小を差し引いても、既存顧客群からの売上が前年より増えているということです。
つまり新規顧客を獲得するだけではなく、
FAQ
↓
ChatAgent
↓
VoiceAgent
↓
AI Agent
と既存顧客内で利用領域を広げることで、売上を成長させられる可能性があります。
これはSaaS企業を見るうえで非常に重要なポイントです。
■ PKSHAの競争優位性は何なのか?
私は大きく3つあると考えています。
一つ目は、
生成AIブーム以前から蓄積してきた日本語AIの技術と実装経験。
PKSHAは自然言語処理、音声、対話AIなどを長年開発してきました。
二つ目が、
すでに大企業の業務へ入り込んでいること。
AIは単に性能が高ければ簡単に入れ替えられるものではありません。
企業の業務システムへ組み込まれ、FAQ、コールセンター、社内ナレッジなどへ定着すると、別製品への切り替えにはコストが発生します。
そして三つ目が、
Solution → SaaSという循環。
顧客企業の難しい課題をSolutionで解く。
そこで得た知見を製品へ戻す。
製品化したAIを多数企業へ販売する。
さらに利用データや顧客ニーズが蓄積され、製品を改善する。
私はこの循環こそ、PKSHAの重要な競争優位性だと思います。
■ 一方で、弱点もある
一つは、海外の巨大AI企業との競争です。
OpenAI、Microsoft、Googleなどが企業向けAIをさらに強化すれば、
「日本のAI企業を使う意味は何か?」
という問いに答え続ける必要があります。
PKSHAには、
日本企業の業務への実装
既存システムとの連携
日本語・音声への対応
業界固有のノウハウ
といった部分で差別化する必要があります。
もう一つがAI Powered Workerです。
売上規模は一気に大きくなりましたが、現状の利益率はAI SaaSよりかなり低い。
今後この事業の構成比が高まり続ければ、
「売上は増えるが、全社利益率は上がらない」
という可能性もあります。
逆にAIによって専門人材の生産性を高め、利益率を改善できれば、次の成長ドライバーになる可能性があります。
■ 2026年会社予想
会社は2026年9月期について、
売上収益:350億円
事業利益:50億円
親会社帰属利益:28.5億円
を予想しています。
売上350億円に対する事業利益率は約14%です。
しかし、ここでも全社利益率だけを見るとAI SaaSの実力を見誤ります。
AI SaaS単体では30%を超える利益率を出しているからです。
したがって今後PKSHAの企業価値を大きく左右するのは、
AI SaaSとAI Agentが全社利益のどこまでを占めるようになるか
だと思います。
■ 現在の株価は高いのか?
2026年8月25日時点の株価は、
3,200円。
発行済株式数を約3,195万株として計算すると、時価総額は約、
1,022億円
です。
会社予想EPS 91.84円 に対する予想PERは、
約34.8倍。
また、2026年9月期の予想売上350億円に対するPSRは、
約2.9倍
です。
PER約35倍ですから、一般的な日本企業と比較すれば決して安くありません。
しかし、
AI SaaSの売上成長率:約30%
セグメント利益率:約34%
という数字を考えれば、「AI期待だけで極端に割高」とも言い切れません。
問題は、
現在の約30%というAI事業の成長を、あと何年維持できるのか?
です。
そこで将来を3つのシナリオに分けて考えてみます。
■ PKSHAの3年後・4年後・5年後をシミュレーション
ここからは会社予想ではなく、一定の仮定を置いたシナリオ分析です。
2026年会社予想の売上350億円を出発点とします。
※想定PERは現在の予想PER約36倍を基準に、将来の売上成長率・利益率・企業規模の拡大を考慮し、弱気・基本・強気の各シナリオごとに段階的に設定しています。
■ 弱気シナリオ
前提は、
売上成長率:年10%
AI SaaSの成長が鈍化し、AI Powered Workerの利益率改善も限定的なケースです。

このケースでは、会社そのものは成長しています。
売上は350億円から5年後には約564億円まで増えます。
それでも株価は現在と大きく変わりません。
理由は、
成長率の低下によってPERも低下する
と考えているからです。
つまり成長株の場合、
業績が伸びる=株価が必ず上がる
ではありません。
■ 基本シナリオ
前提は、
売上成長率:年16%
現在約30%成長しているコアAI事業が、会社規模の拡大とともに徐々に成熟することを想定しています。
同時に、AI SaaS・AI Agentの構成比上昇によって利益率も改善すると仮定します。

現在株価3,200円に対し、基本ケースでは5年後約7,000円。
ただし重要なのは株価そのものではありません。
このシナリオを実現するためには、
売上を5年間16%前後で伸ばし続ける
だけでなく、
高利益率のAI SaaS・AI Agentが全社利益を押し上げる
必要があります。
この条件を本当に達成できるのか。
そこを毎回の決算で確認していく必要があります。
■ 強気シナリオ
前提は、
売上成長率:年22%
AI Agent市場が本格的に立ち上がり、既存顧客へのクロスセルが加速。
さらにAI Powered WorkerでもAIによる生産性向上が進むケースです。

かなり大きなアップサイドです。
しかし当然、このケースを実現するハードルも高くなります。
売上22%成長を5年間維持しながら、利益率まで改善させなければならないからです。
AI AgentがPKSHAにとって本当の大型成長市場になることが必要でしょう。
■ 3つのシナリオから何が分かるのか
今回のシミュレーションで一番重要なのは、
「PKSHAの5年後株価はいくらなのか」
ではありません。
5年後を見ると、
弱気:約3,000円
基本:約7,000円
強気:約14,200円
と大きな差があります。
なぜここまで差が出るのでしょうか。
成長企業の企業価値は、
成長率 × 利益率 × PER
の組み合わせによって大きく変化するからです。
特に成長株の場合、業績成長が鈍化すると、利益の伸びだけでなくPERそのものも低下する可能性があります。
だからPKSHAを見るうえでは、
AI SaaSの成長率
AI Agentへの移行
AI SaaSの利益率
AI Powered Workerの収益性
を継続して確認する必要があります。
■ 私がPKSHAで一番注目している数字
売上+84%ではありません。
私が最も注目しているのは、
AI SaaSの売上成長率約32% × 利益率約34%
という組み合わせです。
ここにPKSHAの本当の魅力があると思います。
もし今後、
AI SaaS
↓
AI Agent
↓
企業の実際の業務を自動化
という流れが進めば、PKSHAが企業から得られる売上と利益はさらに大きくなる可能性があります。
一方でAI Powered Workerの低利益率が続き、海外AI企業との競争でAI SaaSの成長が鈍化すれば、弱気シナリオへ近づきます。
つまり今後見るべきなのは、
連結売上の伸び率だけではない
ということです。
■ Palantirとは似ているようで違う
Palantirは、企業のデータ、AI、権限、意思決定、実際の行動までを大きなプラットフォームで統合します。
PKSHAはもっと業務単位です。
コンタクトセンター。
社内FAQ。
音声。
ナレッジ。
バックオフィス。
こうした具体的な仕事を、一つずつAI化していく。
したがって、
Palantirが「企業全体をAI化するOS」を狙っているとすれば、PKSHAは「企業の仕事を一つずつAI Agentへ置き換えていく会社」
と考えると分かりやすいと思います。
同じ「企業向けAI」でも、アプローチはかなり違います。
■ 結論――日本にも「AIで稼ぐ会社」はあった
今回PKSHAを調べてみて、私の印象はかなり良くなりました。
理由は単純です。
AIの将来性を語っているだけではありません。
すでにAI SaaSで売上を作り、約30%の成長を続け、30%を超える利益率を出している。
これは非常に重要です。
一方で、
売上+84%
という派手な数字だけを見るのは危険です。
M&Aで加わったAI Powered Workerは売上を大きく押し上げていますが、利益率はまだ低い。
だからPKSHAを見る場合、
「売上が何%伸びたか」ではなく、「高収益なAI売上が何%伸びたか」
を見る必要があります。
今後確認したいのは、
AI SaaSの成長率
AI Agentへの移行
既存顧客へのクロスセル
AI Powered Workerの利益率改善
です。
この4つが進めば、PKSHAは単なる「日本のAI関連株」ではなく、
日本を代表する「AI収益化企業」
へ成長する可能性があります。
現在の株価は決して激安ではありません。
しかし、AI SaaSの高い成長率と利益率を考えれば、今後の業績次第では現在の評価を上回る余地もあります。
PKSHAを見るうえで最も重要なのは、連結売上の伸びそのものではありません。
高成長・高利益率のAI SaaSとAI Agentが、今後どこまで全社利益の中心へ育つのか。
そこが、この会社の企業価値を左右する最大のポイントだと思います。
※本記事に掲載した将来業績・理論株価は、一定の仮定を置いたシナリオ分析であり、会社予想や目標株価ではありません。将来の株価を保証するものでもありません。また将来の増資、M&A、ストックオプション等による株式数の変化は完全には織り込んでいません。
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