【北米エンタメニュース番外編】米大手販売業者、Diamond Comics Distrituborに何が起きているのか?
2025年1月、米大手取次のDiamond Comics DistrituborがChapter11(日本の民事再生法に相当)を申請しました。破産しつつも、事業の再生を目指す手続きです。しかしその後の資産の売却などを巡って交渉が長引いており、小売店への小規模出版社の作品の流通などに影響が出ています。何が起きたのは時系列で調べてみました。
Diamond Comics Distritubor(DCD)とは?
DCDは米国の老舗の小売店向け販売会社です。「Distributor」といわれるよう、出版社からグラフィックノベルやコミックスを仕入れて小売店に販売します。マーケティングなど販促もともに行い、小売店に対し在庫や売り上げ管理のシステムも提供していました。英語圏ではコミックス、玩具、ゲーム分野で最大の取次でした。特にコミックスについては注文システムや全出版物を網羅したカタログなども作成していました。
M&Aなどを通じて順調にビジネスを拡大し、むしろシェアが大きすぎて独占禁止法の調査の対象になるぐらいでしたが、躓いたのがコロナ禍でした。
コロナ禍の2020年、短期間ですが米国で小売店への出版物の供給を一時停止します。当時の混乱や不透明さを踏まえると仕方ないかもしれませんが、売る商品がこなくなった小売店は苦境に陥ります。もちろん出版社も強制的にビジネスを止められたことになります。
この動きと関連するかは不明ですが、大手の出版社が相次ぎDCDとの取引を打ち切ります。DC Comics, Marvel Comics, IDW PublishingなどがほかのDistributorを使い始めます。(多くは出版社でもあるPenguin Random House=PRHへ)DCDは当然売り上げが大幅減。
破産し、Chapter11申請
売り上げの減少、そしておそらくは資金繰りが厳しくなり、25年1月にChapter11を申請しました。ビジネスは続けられるものの再建に向けて事業のスクラップ&ビルドは避けられず。一部のビジネスを裁判所を通じて売却することになりました。
コミックス、流通混乱
ここでまず混乱が起きます。まずDCD向けにコミックスを卸していた出版社の一部は、今後DCDからの注文は受けないと宣言。小規模出版社の中には、DCDに対する債権回収のめどが立たないことから、ビジネスをたたむところも出てきました。Distributorを通じた販売に見切りをつけ、小売店向けの直販にシフトする出版社も現れました。
例えば中堅出版社で日本の漫画の翻訳版も出しているUDON Entertainmentは、小売店向け販売会社のSimon & Schusterとの取引をはじめ、こちらを使うように小売店に呼びかけます。
DCDは日本企業の玩具やグッズ、ゲームも扱っていました。債権者には、Pokémon Company International, Inc. (TPCI)なども名を連ねており、TPCIは債権回収と在庫の確保のために裁判所に申し立てを行いました。
資産売却の手続きへ
資産の購入に手を挙げた会社のひとつがカナダの Universal Distributionです。カナダで30年以上、コミックスや玩具、ゲームを小売店向けに販売してきました。
しかし裁判所でのオークションの結果、Alliance Entertainment HoldingがDCDの資産の大部分を7200万ドルで購入することが決まりました。Allianceは主に音楽関連商品の流通に強みを持っている会社です。発表リリースで「 Pokémon Trading Card Game、Marvel、 Dragon Ball, One Pieceを扱う」と大々的に発表しました。
しかし債権者側が一枚岩というわけではありません。Image Comicsは、DCDに対する債権額確認のための申し立てを裁判所に行います。Pokemon と Bandai Companyも資産売却に反対の申し立てを行います。(いずれもDCDに対して商品を供給しており、債権者でもあります)
DCDの心変わりか? Uni/Ad連合に売却
Allianceに売却が決まるかと思っていたところ、思わぬところから横やりが入ります。売却対象となっているDCD自身が、売却先を最初に購入に手を挙げていた1社のUniversal Distribution と Ad Populumの連合を選びます。しかも売却額は6900万ドルとAllianceの落札額を下回る。
当然AllianceはDCDに不服申し立て。Allianceは「DCDと交渉を始めたのに、DCDはこっそりとUniversalチームと交渉した」と説明しました。
結果的にAllianceはDCDの資産購入を取りやめます。しかもDCDを交渉過程が詐欺行為だったと訴えました。曰く、資産購入をやめたのはトランプ関税で玩具やゲーム事業が厳しくなる見通しではなく、Wizards of the Coastのサプライヤー契約がなくなる分の購入価格を下げる交渉にDCDが応じなかった、とのこと。Wizards of the Coastの契約がなくなることを隠していたことを詐欺的だと指摘しています。
この間、交渉が長引いたことで、破産管理人からChapter11の手続きではなく、清算型の倒産手続きであるChapter7か、Chapter11の訴えを取り下げするように裁判所に申し立てが行われました。(これは結局通らなかったようで、Chapter11の手続きが続くことになります)
最終的にDCDは4月、Universal と Ad Populumの連合に資産を売却すると発表しました。売却価格はAllianceやUni/Ad連合の当初提示していた価格を大きく下回ることになります。
Universalが獲得するのは、Alliance Game Distributors(ボードゲームやカードゲームの流通手掛ける)、Ad Populumが獲得するのはDiamond Comic Distributors, Diamond Book Distributors, Diamond Select Toys & Collectibles, Collectible Grading Authorityなど。(コミックや書籍の流通はAdに行きます)利益の出ていた英国の流通事業はこの売却プロセスとは分けられることになりました。
追い込まれる中小出版社
この混乱の中、大手を中心に多くの出版社はすでにDCD以外のDistributoerにビジネスを移していたため大きな影響はありませんでした。もちろん現状への対応は迫られたと思いますが。
一方でDCDと取引が続いていた中小出版社は厳しい状況に追い込まれるところも。一部の出版社の作品の流通ができなくなったりしました。
しかもDCDは商品を仕入れた出版社に対し、ある時点から代金の支払いが止まっていたもよう。(おそらく手元資金確保のためでしょう) 銀行への返済がさきか、脆弱な出版社への支払いが先か、DCDはおいこまれました。
出版社のDynamite Entertainmentは4~5月に出荷した商品の代金に相当する額を支払うように裁判所に申し立てます。(→のち、7月に申し立ては却下)
この間Dynamiteはサイトを通じて作品を直接購入することを消費者に訴えます。ここはDisneyからライセンスを得て、「リロ&スティッチ」のコミック版などを出しています。なんとか自社の事業を続ける資金確保をしようと動いていました。
https://www.humblebundle.com/books/lilo-stitch-gargoyles-and-more-disney-comics-books
もちろんDynamite以外の出版社もDCD以外のDistributorを使うように呼び掛けていました。この段階でも直販に切り替えるところも出てきました。さらに、事業をたたむ企業も増えてきました。
Universalの狙いはどこにあったのか?
ここまでして資産購入に熱心だったUniversal。その狙いとしていろいろな記事で指摘されているのは「米国のコミック流通市場への参入」です。Universalの本拠地はカナダですが同じ商品を近くの大きな市場で扱いたいと思うのは当然のこと。
今回のオークションで購入したのは「Alliance Game Distributors」というゲームの流通を手掛ける部門ですが、実はこの部門は米国の複数の流通拠点を持っています。9月の流通拠点のオープンハウスを実施するとアナウンスしていることもこの推測を後押しました。
結果としてUniversalは6月に、米国でDC Comicsの販売を始めます。Alliance Game Distributorsが持っていた米国内の小売店への供給網を活用する形になりました。
この動きは米国の大手出版社にとっては、旧DCDの寡占状態にあったDistributor市場に複数のプレイヤーが現れ、健全な競争が行われることの期待につながっています。結果的に旧DCDがなくなったことの被害を受けたのは中小の出版社ということになります。
のちに公開されたUniversalのCEOインタビューによると、もともと米国市場参入を検討していたようで、DCDの資産売却しようとしていたところで決断したとのこと。Alliance Game Distributorsだけほしかったけれども、オークションの過程で全資産がまとめて売られることになり、Alliance 以外に興味があったAdと組むことにしました。しかもカナダ本体で「北米の販売権」の契約もっているので、サプライヤー契約終了とされていた「Wizards of the Coast」の販売も続けられるとのことです。
Pokémon や BandaiがAlliance Game Distributorsにもっていた債務も引き継がれます。カナダでの取引もあり、ベンダーとうまくやっているよう。
今後は米国のコミックスビジネスを伸ばす計画です。コミックス(ここではアメコミ)に若い消費者を呼び込む考えです。ゲームショップでコミックを売るべきとのアイデアもあります。上述のようにまずはDC Comicsからはじめ、取り扱う出版社を増やしたいそうです。
ゲームショップにはゲームと玩具を一緒に仕入れられることをアピールポイントにしていく計画です。逆にコミック販売店にゲームの商材の扱い方やイベントの開催方法を提供することもできると指摘しています。もちろんスーパーヒーローものだけでなくMANGAやトレーディングカード、ライセンスグッズの取り扱いも検討中です。
新規参入と人材確保と
1月から続く混乱の中で、DCDは当然レイオフを行います。これ以外にもDCDに見切りをつけて退職していく人が相次ぎました。一般の従業員だけでなくDCDで重要なポジションを担っていた人も新しい仕事を探し始めました。
この中でDCDの資産購入を取りやめたAllianceも、DCDをやめたキーパーソンを雇い入れました。
これに対し、DCDの事業を引き継いだAdのグループ会社であるSparkle Popが
AllianceがNDAを破り、企業秘密を盗んだとしてAllianceを訴えました。
ただ、これはレイオフをしたのはAd側という事情があります。個人としては仕事を探さざるをえず、Allianceが募集していたのであれば応募しないというわけにはいかないでしょう。
コミックス事業を引き継いだAdの狙いはどこにあるのか?
破産申請から半年がたっても、旧DCDの中心だったコミックス事業を引き継いだはずのAdの狙いは見えてきていません。まず商品を供給する出版社含むベンダーに支払いをせず。小売店とも十分なコミュニケーションを取っていない。当たり前ですが出版社も小売店も支払いがない「新Diamond」を使いたくない。ビジネスは縮小していくばかりです。
新Diamondは旧DCDが手掛けていたカタログ「previews」の紙版をやめることも発表しました。以後はデジタル版のみ出すとのこと。しかもこのpreviewsも、新Diamondと取引する出版社が減ったことで薄くなるとの指摘もあります。旧DCDが提供していたPOSシステムのComicSuiteもレイオフで保守人材がいなくなり、提供されなくなりました。Adの引き継いだDiamond Select Toysの手掛けていたフィギュア販売事業も終了しました。
さらに旧DCDは、銀行からの借り入れを払うために、出版社から仕入れて流通施設に持っていた在庫を売り飛ばして現金化するという計画を裁判所に提出しました。流通在庫は所有者は出版社ですが、現物は流通業者にあるためです。
これには当然債権者である出版社が反対を申請しました。ただ、期日までに申し立てがなければ売れるらしいです。しかもこの資産は旧DCDに所属しているため、新Diamondには何も言えないという。
上述のようにUniversalは米国市場での戦略を持っているようですがAdのほうは縮小だけが伝わってきて、今後どうするかはまだ見えてきていません。
ゲーム・玩具か書籍か
ざっくりと記事のトーンを追ってきて興味深かったのがトランプ関税の影響です。当初資産の買い手に決まったAllianceはじめ、多くの企業はテーブルトップゲームやフィギュアなど玩具の流通に関心を示していたようです。そのほうが利幅が大きいため。しかしトランプ関税でこれらの商品に関税がかかり先行き不透明感が強まると、逆に変動が少なく関税もかからない書籍ビジネスに関心が高まることになります。
米国コミックカルチャーへの影響は?
旧DCDは毎年、「Free Comic Day」というキャンペーンを実施し、無料のサンプル作品の配布を通じて新規読者の開拓を進めていました。このキャンペーンには近年日本の作品の翻訳版も取り上げられ、日本の漫画が現地に浸透するきっかけのひとつになっていました。このキャンペーンは25年は実施されたものの、26年以降はどうなるかはまだはっきりしません。
旧DCDは米国のコミック産業の要であり商品の購入を通じて中小出版社への資金提供者にもなってきました。小売店や出版社に貢献してきたことは多くありますが、その後始末の過程は悲しいものにいまのところなっているようです。

