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世界とお付き合いスピンオフ⑬ 反時計回りの回想──Brotherhood takes place



「残念だったな、親父さん。もう…大丈夫なのか? 」

リアムは私の心を気遣うように、語りかけた。

「ああ、大丈夫。ありがとなブラザー」

親父のささやかな四十九日の法要が身内だけで行われ、アネッテの兄リアムがわざわざ来日して参列してくれたのだ。

「ほんとうは、葬式に参列したかったんだが、仕事の調整がつかなかった。スマン……。
いい親父さんだったよな。お前たちの結婚式の後のパーティでもさ、挨拶にいったらオレと飲んでくれて、日本のナイトクラブの話しで盛り上がったんだ……アメリカでまたお祝いするから、絶対に来てくださいって約束してたんだが……」

「ぷっ、親父とそんな話ししてたんだ。相変わらずだな、ブラザー。会えて本当に嬉しいよ」

私とリアムは抱き合った。

「タァクちゃん、思ってたより元気そうで何よりだ。それより…」

「ああ、それよりアネッテのほうが気落ちしてしまってな。転移した脳腫瘍の影響で、親父がもう周りにいる人が誰かわからなくなっても、親父の好きなカステラを持って、アイナと毎日のように病院まで通い詰めて、一生懸命親父に語りかけたり、足もんであげたりしてくれてた。お袋も頭が上がらないって言ってたよ。…それだけに、親父が亡くなってから、落胆しちゃってな」

「……凄いな、オレの妹は。そうか、グッ…誇りに思うよ、本当に…グハッ…」

リアムは慌てて、サングラスをかけた。

「え、泣いてんのか。涙脆いところも変わらないな……愛してるよブラザー」

「グス…オレもだ、タァクちゃん」

「そこでだ、リアム……兄の来日が塞ぎ気味のアネッテにとって、良い救いになると思うんだ」

「ガッハッハッハ、任せとけ。昨日はオレも着いてから時差ボケで、すぐ寝ちゃったけど、今日から本気だすぜ」

いつもの陽気なリアムが飛び出してきた。
こういう時に彼以上に心強い存在はない。

法要のあと私たちは、リアムとお袋と連れ立って三宮にある肉料理店で、晩餐会となった。

「皆さん、今日はお疲れ様でした。リアムさんも、ありがとうございます。わざわざLAから来ていただいて」

お袋がリアムに向かって一礼した。

「そんな、お母さん、お葬式に参列できなくて…グッ…グハッ」

「もう泣くなって、兄貴…お袋、リアムは超涙脆いから気ぃつけてや」

お袋も吹き出していた。

「ホンマにええ人やね…男前やし」

お袋が褒めると、

「えっ、そうですか!? それほどでもないですよ、ハッハッハ」

そんな兄を見て、アネッテも目に力は未だないが、優しく微笑んでいた。

「何ゆーてんの、周りの女性がほっとかへんでしょう」

ますますリアムの顔が崩れていく。

「えっ! 日本人女性から見ても、そう思いますか!? 」

アネッテがとうとう吹き出した。

「ぷっ! ちょっとやめなさいよ、リアム。お母さんに向かって」

「あ、わりい。いや日本でもモテモテの予感が今ビッビッと来てさ」

「何バカなこと言ってんのよ。本当にオリビアに言いつけるわよ!」

「ちょっ! それはやったらダメなやつだぞ」

オリビアというリアムのフィアンセの存在をお袋に説明すると、彼女も大笑いした。

「兄妹漫才やな。みて、アンちゃんが普通に妹の顔してるわ。リアムさんが来てくれて良かったわ」

お袋も安堵の表情を浮かべた。

すき焼きが運ばれてくると、最初は店員さんが手際よく肉を焼いてからタレを絡めていく。

香ばしくたちのぼる肉の焼ける匂いに、リアムが反応した。

「ワオ! なんてセクシーな匂いなんだ…」

「ふふっ、そりゃあセクシーよ。なんせ神戸牛の一番いいところなのよ」

アネッテの解説に、

「なんだって、これが有名な神戸ビーフなのか!? 」

リアムがそう言うや否や、店員さんがタレを絡めて焼き上がった肉を、あらかじめ卵をといてあったリアムの小鉢に入れてくれた。

「どうぞ、最初の一枚はこないして召し上がってください」

「アリガトウ…」

リアムが肉を口に運んだ。

「うまっ‼️ なんだこれは、肉の食感が溶けていくようなのに、肉の旨さだけはめちゃくちゃある‼️ 味付けも最高だ……あの、もう一枚入れてください」

リアムが手振りで、店員さんにおかわりをリクエストする。

「リアム❗️ 私とアイナの番よ。こっちだってお腹ぺこぺこなんだから、ねえ〜アイナ」

「ママ…まんま」

アイナが二言喋るのを見て、リアムが目を細めた。

「アイーナちゃん、ごめんなちゃいね。ダメなオジちゃんだったよね。アイーナちゃんの次にするからね」

「おいおい、リアム。次はお袋とオレだ。肉はまだいっぱい来るから、落ち着いてくれよ。まったく、この食いしん坊兄妹は…しょうがないな」

「私をリアム側に入れないでよ!! あっ、お母さん、すいません。先にいただいちゃって……リアムが全部食べちゃいそうで…リアムのせいよ!」

一同大爆笑した。



お袋を実家まで送ってから、私たちとリアムはマンションに戻った。

「あなた、ビールでいい?」

「うん、ありがとう。あと、オレやるから」

私はグラスを二つ用意して、リアムとリビングのローテーブルの前に並んで座った。

グラスを一つ彼に渡してビールを注ぐと、リアムは美味そうに一息で飲んだ。

「アーッ!久々のスーパードライは抜群だな」

195センチの巨体で、ビールを飲む姿を見ると、グラスがお猪口にしかみえない。

「リアム、明日からオレも有休取ってるからさ、温泉でもみんなで行くか? 前から行きたいって言ってたよな」

もうリアムは勝手に手酌でビールを何杯も注ぎ足し始めていた。

「連れてってくれるのか!? そりゃあ、嬉しいな。 なんか、部屋にも温泉がついてるんだよな、ジャパニーズスタイルのホテルは」

「旅館っていうんだ。あと部屋付きの温泉は、内風呂っていう」

アネッテもグラスとおつまみのオイルサーディンを持って、私の横に座った。
私は彼女のコップにも、ビールを注いだ。

彼女は、小悪魔のような表情を浮かべていた。

「だめよ。内風呂のサイズにリアムが入ったら、お湯が全部溢れて、みんな溺れちゃうわ。内風呂は女性陣で使わせてもらいます。あなたとリアムは仲良く大浴場に行ってらっしゃい」

私は苦笑した。

「オレもかよ。ま、いっか。連れと入るほうが楽しいからな。なっ、ブラザー」

「オキドキ❗️もちろんだぜ。あとさ…あとでタァクちゃんに、ちょっとしたお願いがある」

私も、アネッテも怪訝そうにした。

「オレに…?」

アネッテが何かに気づいたようで、冷たく目を細めてリアムを見る。

「どうせ、ろくでもないこと企んでんでしょ。いいなさいよ。絶対怒らないから」

リアムは少し戸惑っていたが、観念したかのように呟いた。

「で、できたら、混浴スタイルの風呂がある温泉がいいかなぁって……」

「はぁっ‼️ 呆れた、本気でまたそんなこと言ってんの? 冗談はそのガタイだけにして」

リアムの眉毛が、八の字になる。

「やっぱり、怒ったじゃないか」

私は思わず笑ってしまった。

「当たり前です! 絶対にダメよ。…たくちゃんまで、ニヤニヤしないでよ!」

「いや、オレは別に…リアムが可笑しかったから……」

とんだとばっちりだった。
ただ、アネッテがリアムと絡むごとに元気になっていくのが嬉しかった。

そこは、さすが、頼れる私たちのビッグブラザーだった。

翌朝、私たちは少し早めにマンションを出た。
お袋を迎えに実家へ立ち寄り、そのまま車を日本海側へ向けて走らせた。

市街地を抜け、高速に乗る頃には、車内にもすっかり旅行気分が漂っていた。
リアムは窓の外に流れる景色を珍しそうに眺め、アネッテは助手席から時折り振り返っては、お袋やアイナと楽しそうに言葉を交わしている。

昨日までの重たい空気が、少しずつ遠ざかっていくようだった。

しばらく車を走らせ、予約しておいた老舗旅館に到着すると、風情ある木造の回廊が私たちを出迎えてくれた。

玄関で靴を脱ぎ、仲居さんに案内されて館内を進む。磨き込まれた木の床や、庭を望む大きな窓、ほのかに漂う畳の香りに、リアムは感嘆の声を漏らしていた。

部屋に通されて一息つくと、仲居さんが人数分の浴衣を用意してくれた。

案の定、部屋に用意されていた一番大きな「LLサイズ」の浴衣を着ても、195センチのリアムが着ると袖は七分丈、裾は膝上まで捲れ上がり、まるでキャプテン・ツバサのユニフォームのようになっていた。

「たくちゃん、見てよこれ! 冗談みたいじゃない!」

アネッテが腹を抱えて笑っている。それにつられてお袋も肩を揺らし、アイナもキャッキャと声を上げていた。
久々に見る、明るく弾けるような彼女の笑顔だった。

「よし、リアム。男同士、大浴場に突撃しようぜ」

「オーキドーキ! 待ちきれないぜ、タァクちゃん!」

私たちはタオルを手に、大浴場へと向かった。
脱衣所で服を脱ぐと、リアムのアメリカンフットボール選手のような恵まれた体躯が圧倒的な存在感を放つ。
しかし、洗い場に入った瞬間、彼の巨体がフリーズした。

「……タァクちゃん、このプラスチックの椅子は、キッズ用かい?」

「いや、大人用。そこに腰を下ろすんだよ」

小さな風呂椅子に必死で巨大な体を折りたたみ、膝を胸にくっつけるようにして座るリアムの姿は、まるでクマのぬいぐるみのようだった。

「あと、リアム。その手ぬぐいだけど……」

私が渡した小さなフェイスタオルは、彼の巨体に対して小さすぎた。
前を隠そうとすると後ろが丸見えになり、後ろを隠せば前が無防備になる。

「オーマイガー! どっちを守ればいいんだ!?」

「いや、男しかいないから気にするな」

私は腹を抱えて笑いながら、先に湯船へと浸かった。

リアムもおずおずと足を入れる。
「……ウワーッ! 熱い! 熱いよ!これ本当に人間が入る温度か!?」

「最初はそう感じるんだよ。肩まで浸かって十数えてみて。慣れるから」

リアムは意を決したように「グヌヌ……」と唸りながら湯船に体を沈めた。

「ワン……ツー……スリー……フォー……」

大男が、必死の形相で湯船の中で数を数えている。

十まで数え終わると、ふぅーっと大きな息を吐き、湯船の縁に頭を預けた。

「……ワオ。なんだこれ……全身の細胞が解けていくみたいだ……最高じゃないか」

「だろ? これが日本の『温泉』だよ」

大きな湯船に身をゆだね、私たちはしばらく無言で湯の温もりを味わった。

やがて体の芯まで十分に温まると、私たちは名残惜しそうに湯船を出た。脱衣所に戻って浴衣に着替える頃には、リアムの顔もすっかり上気し、額にはうっすら汗が滲んでいた。

「いやぁ……これはクセになるな、タァクちゃん」

私たちは、湯上がりのほてった体に、冷えたフルーツ牛乳を一気に流し込んだ。
脱衣所の外にあるベンチに二人で腰掛け、火照った顔に風を受けていると、リアムがふと空を見上げて静かに口を開いた。

「……タァクちゃん」

いつもの陽気な声とは違う、少し低く落ち着いたトーンだった。

「ん?」

「実はさ……おまえたちの結婚式の後のパーティーで、おまえの親父さんと話したっていったろ。その時の話なんだが…」

「親父と……? ナイトクラブの話だけじゃなかったのか? 」

私は手にした牛乳瓶を止め、リアムの横顔を見た。

「あの時さ、オレは親父さんに言ったんだ。『アネッテも不慣れなことが多いかもしれないので、皆さんで助けてやってください。宜しくお願いします。何かあったら私もすぐ飛んできます』って。そしたら親父さん、なんて言ったと思う?」

リアムは懐かしそうに目を細めた。

「親父さんは笑ってビールを飲んだ後、こう言ったんだ。『もちろんです……けど、アネッテさんのことは大丈夫ですよ。たくがついてます。彼が何があってもアネッテさんを守るでしょう。でもたく自身は……一人で背負い込むタチがあるんで、そこがちょっと心配なんですわ。あいつは私に似て、ええカッコしいで強がりだから』ってな」

「……」

胸の奥が、湯上がりの熱さとは違う何かで一気に熱くなった。

「親父さんは、タァクちゃんのことを誰よりも分かってたんだよ。親父さんの訃報を聞いてな、オレは今回、絶対に日本に来なきゃいけないって思った。アネッテを励ますためだけじゃない。抱え込み過ぎの、おまえの負担を少しでも軽くするためにさ」

リアムはまた目頭を赤くして鼻をすすった。

「グッ……自分で言って感動してしまった。また泣いちゃったわ……」

「……いや、本当に頼れる兄貴だよ」

「あと、昨日の晩なんだけどな。ほらオレ時差ボケで、真夜中に目が覚めたら腹減っててさ、冷蔵庫になんかないか物色してたんだよ」

「うん」

「そしたら、アネッテも起きてきて、『お腹空いたの。なんか作るわよ』って。で、ほら冷凍の?ギョウザ焼いてくれてさ、それで少しばかり二人で飲んだんだ」

リアムは続けた。

「日本で寂しくなったりしてないか? って聞いたら、『ない、それは本当にないわ。自分でも不思議なくらい。でも、きっとそれはたくちゃんの御両親や、お友達、街の色んな方々が支えてくれたから。そして、アイナが生まれてきてくれた……
もう私はこの国がホームなの。リアムも感じてるでしょうけど、びっくりするくらい、素敵な国よ。人も風土も』……そんな大人びた妹をみて、オレも圧倒されたよ。凄い母親になったってな。その後こう言ってたな……
『でも、一番の支えはたくちゃんだった……まるで私の身体の一部になったかのように感じるくらい、懸命に動いて助けてくれたの…私の心にも寄り添ってくれた。
兄さん、LAに戻ったらパパとママに伝えて。私、本当に幸せなの。彼を心から愛してるわ。……なのに、お父さんが亡くなって、私ずっと塞ぎ込んでたから、自分が情けなくってね。
でも兄さんの顔みてたら凄く元気になったの。…ありがとう、来てくれて嬉しいわ。』ってな。なんだかオレが照れちまってな、ハハ」

リアムが一呼吸置いた。

「タァクちゃん、オレのかわいい妹を大事にしてくれて……こんなにも幸せにしてくれて、感謝してるぜ。あいつ、本当におまえと出会えて良かったな」

私は、込み上げるものを誤魔化すように、残りの牛乳をぐっと飲み干した。

「よし、部屋に戻ろう。アネッテたちが待ってる」

「おう! 今夜はおまえの親父さんに乾杯しようぜ、ブラザー!」

リアムが私の肩に大きな手をまわしてきた。
その手は親父の手と同じくらい温かく、そして力強かった。



部屋に戻ると、すでに夕食の準備が整っていた。
テーブルの上にずらりと並べられた色鮮やかな懐石料理、刺身の舟盛り、そして但馬牛のステーキに、リアムの目が輝いた。

「ワ〜オ……! ビューティフル……! これは料理というよりアートじゃないか!」

「リアム、これは『懐石料理』っていうのよ。目でも楽しむの」

アネッテが得意げに解説する。風呂上がりで少し濡れた髪と、すっかり元気を取り戻した柔らかな笑顔が眩しかった。

「よし、それじゃあ……親父に乾杯しよう」
私がビールグラスを掲げると、全員がグラスを合わせた。

「乾杯!!」

「アーッ! 温泉上がりのビールは世界一だな!」

リアムが豪快にグラスを干し、すかさず但馬牛のステーキを口に運んだ。

「う、うまい……! 肉が……肉が舌の上で踊ってるぜ、タァクちゃん!」

「大げさだな、兄貴は」

アネッテが呆れつつも、嬉しそうにアイナに柔らかい煮物を小さく崩して食べさせている。
お袋も久しぶりに表情がやわらぎ、賑やかな食卓を嬉しそうに見つめていた。

「リアムさん、ホンマにおいしそうに食べてくれて、見てるこっちまで嬉しくなるわ」

「お母さん! 日本の食べ物は全部ファンタスティックですよ! オレ、日本に引っ越してこようかな!」

「ダメよ! オリビアを置いてくる気!?」

アネッテの即座のツッコミに、部屋中がまた大爆笑に包まれた。

夜が更け、お袋とアネッテ、そしてアイナが布団に入り、静かな寝息を立て始めた頃。

私とリアムは、広縁(部屋の窓際にあるスペース)の小さなテーブルに移動し、静かに日本酒のグラスを傾けていた。

外は温泉街の湯煙が夜の闇に白く立ち上っている。

「タァクちゃん」

リアムが声を潜め、上着のポケットから小さな黒いベルベットの箱を取り出した。

「ん? なんだそれ」

彼がそっと箱を開けると、月光を浴びてキラリと輝く、シンプルだが上品なダイヤモンドのリングが入っていた。

「……オリビアへの婚約指輪だ。日本に来る直前に買ったんだ」

「へえ! 凄いじゃないか、ブラザー。ついに決めたんだな」

リアムは巨躯を少し小さく丸め、照れくさそうに頭をかいた。

「これまで、おまえの親父さんとお袋さん、そしておまえとアネッテを見てて……家族っていいなって、心から思ったんだよ。病気や辛いことがあっても、お互いを思いやって、笑い合って乗り越えていく。オレもオリビアと、そんな家族を作りたいんだ」

私は酒器を持ち、リアムのグラスにそっとお酒を注いだ。

「リアムなら、絶対になれるよ。最高の夫に、最高のパパにさ。…こんなに頼りになる兄貴なんだから」

「……ありがとな、タァクちゃん」

リアムは日本酒をクイッと飲み干すと、グッと拳を握りしめた。

「プロポーズは、帰国したら、LAの海辺でやるつもりだ。応援してくれよな!」

「ああ、もちろん大成功を祈ってるよ」

男同士、静かにグラスを打ち鳴らした。
親父が残したものは、海を越えてリアムの中にも息づいている。そんな気がした。


翌朝。

初夏の空の下、私たちは宿の玄関前で記念撮影をした。
旅館のスタッフの男性が、デジカメで撮影してくれる。

真ん中にはアイナを抱いたアネッテ、両隣に私とお袋、そして後ろから大きな手で私たちの肩を抱きかかえるリアム。
『カシャッ』
写真の中の全員が、最高の笑顔を浮かべていた。
帰り道の車内、後部座席でアイナが気持ちよさそうに眠っている。
助手席のアネッテが、ふと窓の外を見つめながら呟いた。

「たくちゃん」

「ん?」

「お父さん、どこかで今日の私たちを見て、あの大っきな声で笑ってるわね」

親父のデカい笑い声が聞こえた気がして、私は思わず吹き出してしまった。

「ああ、絶対に笑ってるよ。『たく、アンちゃんを大事にせえよ』って言いながら」

「あら、そこは『グレース・ケリーを大事にせえよ』だわ」

「たしかに…。てか親父のやつ、やっぱわかってないよな。どう考えても、君のほうが綺麗だろ」

バックミラーを見ると、後部座席でリアムとお袋が並んで楽しそうに外の景色を眺めていた。

悲しみが消えたわけじゃない。
親父が逝ってしまった寂しさは、これからもふとした瞬間に胸を締め付けるだろう。
けれど、私たちには守るべき家族がいて、受け継いだ温かい夢がある。

「なぁ、グレース・ケリーってなんの話だ」

事情を知らないリアムが呟いた。

私は力強くアクセルを踏み込み、私たちの日常へと車を走らせた。



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