【剣奏録】地区内会の防災・防呪フェア【小噺】【モキュメンタリー】
※この物語はフィクションです
はじめに-メイン軸はこちら
season.1(完結済)
season.2(随時アップ)
物語
回覧板
常磐神社生活棟。
書斎から3〜4冊の書籍や文献を出し、律は調べ物に夢中だ。
そこへ湊が町内会のお知らせが書かれたバインダーを居間のテーブルに置く。
「町内会から何か来てるぜ〜、律。」
「え!」
律は顔を上げて、湊の近くに駆け寄り、バインダーを手に取る。

「訓練はほぼ強制だろうな。」
横で湊がそう言う。
「ここだとあんまり無いけど…、他の地区の人は割とあるのかなぁ。」
と、律は上を向きながらそう言う。
生活棟は神社の神通力の恩恵を得てる分、穢れや位相ズレとはほぼ縁遠い。
「説明会で聞いてみようぜ。」
湊にそう言われ、律は少し考えた後。
「そうだね!」
と、無邪気な笑顔を浮かべた。
位相災害訓練
時刻が迫り、湊と律は境内に集まる。
会長と思われる高齢の主婦がメガホンを持って呼びかける。
「ではこれより、氏子町内会による災害訓練を始めます!」
会長はメモを手にしながら、
「『突然、見覚えのない道が現れる』『住宅街に異界側の建物が出現する』『通信が一時的に繋がらなくなる』『町内の時計が異なる時刻を示す』を想定した訓練となります。」
と、話した。
人々が騒めき出す。
「あ〜、あの人のとこであったとこでしょ。」
「帰り道に見覚えの無い道が現れるなんてことあったわぁ。」
他の主婦たちが口々にそう言う。
「…どうやら、神域の外では笑い事じゃなさそうな状況だな。」
たまたま聞き耳を立ててしまった湊が小さくそう言った。
「…そんなことがたまにあるんだ。」
律も驚きを隠せなかった。
神域外のことは町内会を通じて得ないと、湊も律も分からないことだらけだった。
「では!始めましょう!」
会長に付いていき、湊たちも街中へ出る。
訓練開始
「異界の中でも魔界・冥界は特に危険と聞きます。もし日常生活でそういった世界と偶然繋がってしまった場合は…。」
会長がそう言うと、
「専門機関に連絡します!」
「慌てない、焦らない!」
と、参加者が口々に言う。
「では、時計が異なる時刻を示した場合…。」
「専門機関に報告します!」
どんな想定でもだいたい自治体が提示されている機関に報告・相談が住民たちに出来ることのようだ。
「朝倉さん、宵宮さん。貴方達からのご意見あると助かります。」
会長は遠慮がちにそう言う。
湊と律は日頃の任務では力技で解決できる為、こうした場合の庶民感覚はよく分からない。
「何でもかんでも専門家任せじゃ困るんだけどな。…俺もそんな暇じゃねぇし。」
と、湊はどこか冷めた様子。
「護身法とかは何か無いんですかねぇ。」
と、律はなんとなく疑問を投げかける。
「しかし、我々で術式身に付けられるのでしょうかねぇ。」
と、会長は困ったように肩を落とす。
湊は少し考え、
「異界側から何か意見来てるんなら後で聞いてやるよ。」
と、言った。
「あ、はい!説明会で後ほど!」
そう言い、会長は少しだけ顔が明るくなった。
異界問題に関する住民会
陽が沈み、空が黄昏色に染まる頃。
湊と律は説明会が行われる公民館へ、開催時刻に合わせて訪れる。
「あ。朝倉さん、宵宮さん!来て頂いたのですね!」
会長は嬉しそうにそう笑う。
「よろしくお願いします!」
と、律は明るく笑みを返す。
「異界側の話が気になるからな。」
と、湊が言うと
「ねっ。普段なかなか聞けないもんね!」
律は一番興味津々の様子だ。
「オカルト好きなのも困ったもんだぜ。」
口元を緩ませながら、湊はそう肩を落とす。
時刻になると、会長の挨拶で説明会が始まった。
「ではまず、朝倉さんからご指摘あった異界側のご意見です。」
会長は1つ1つ読み上げた。
夜道で異界住民を見つけると、人間側が大声を出す。
異界住民を見かけた際に、写真撮影をするな。
珍しいからといって触らないで。
供物を勝手に置かないで。
無断で結界設置しないで。
と、いったところか。
「なんだか心霊スポットでの話を聞いてるみたい…。」
律がポツリとそう呟く。
「まあ、気持ちは分からんでもねぇけどな。」
と、湊が返答する。
「結界についてはさすがにイチャモン付けたいだけじゃないですか。」
若い主婦がそう反論する。
「まともな奴ならそう言うだろうな。だが、異界にも人間にも話通じねぇ厄介な連中がいることには変わりねぇよ。」
湊が言うことに妙に説得力を感じ、会長も参加者も頷く。
「では、もしもの場合。この間の昼間の訓練で上がったご意見について。私たち民間人は専門機関に問い合わせることしか出来ない、ということが朝倉さんからご指摘ありました。」
少し間を置き、
「今回は防呪フェアということで我々でも扱える簡易護符や浄化儀式といった実演が日本陰陽協会 常陸支部様よりありました。我々でも身を守る方法について考えていきたいと思います。」
と、言い切ると周りが騒めき出す。
それぞれ話し合っているようだ。
「よくあるほら、南無阿弥陀仏とかはダメなのかしら。」
「神様仏様お願いします〜!みたいなことしか出来ないわ〜。」
と、言った言葉が聞こえる。
「そもそも型がちゃんとなってねぇじゃねぇか。」
「陰陽協会側から護身法の指導も何も無いの!?」
湊と律は周りの危機感の薄さに驚愕と呆れの顔をする。
「確かに、陰陽協会側から何も無いわねぇ。」
主婦の一人がそう言うと、
「あの時の濃穢警報、よく生き残れたわ〜。」
と、また別の主婦が言った。
「護符と浄化儀式の実演あったんなら、ついでに聞いときゃ良いだろ。わざわざ出向いてくれる辺り、協会側も何か考えあるんじゃねぇのか。」
湊は強めの口調でそう言う。
少しの間。
「うーむ。仰る通りでございます。日本陰陽協会 常陸支部様、及び首領の梅清音様に氏子町内会のご意見を提出したいと思います!皆さん、よろしいでしょうか。」
会長が見渡すと全員頷いているようだ。
「では、次の町内会会議にてその旨について詳しくまとめていきたいと思います。」
話はまとまり、住民説明会は終わったようだった。
「あ、朝倉さん、宵宮さん。今夜はもう遅いですし、良かったらお弁当いかがでしょうか。」
会長がそう言うと、
「え!良いの!」
と、律は目を輝かせる。
「ええ。参加者分のお弁当頼みました。良かったらお召し上がりください。」
「助かる。…食費が浮くぜ。」
湊もどこか嬉しそうだ。
説明会が終わった後、他の参加者はしばらく交流を楽しんでいるようだ。
会長から弁当を受け取ると、湊と律はすぐに生活棟へと帰って行った。
