強面セキュリティ
会社の出入口は、広々とした受付の自動ドアと、東館・西館それぞれの通用口だった。
東館の入り口には守衛室があったが、西館は誰でも開けられる、何のセキュリティもない状態だった。
今のように防犯カメラもなく、設置されていたところは受付のみ。
そう考えると、何事もなく平和に済んでいたこと自体が奇跡だったのかもしれない。
しかし、それはある日を境に変わった。
女子更衣室は、西館から入り地下へ向かった先にある。
同じ電車で来る女性社員が固まって出勤することもあったが、多くはそれぞれがばらばらに出社していた。
ある日出勤すると、地下が騒がしかった。
総務課長をはじめ、男性社員たちも集まっている。
事情を聞くと、出勤してきた後輩の女性社員の後をつけてきた見知らぬ男が同時に入り込み、地下で背後から抱きついたという。
ロッカー室から出てきた別の女性社員に気づき、男はそのまま逃走。
会社はこういう時、なぜか警察を呼ぶことを嫌がる。
過去に別の事件があった時も同じ対応だった。
その後、西館の出入口にはプッシュボタン錠が設置され、
「通用口から入る際は背後に注意するように」と総務から通達が出た。
さらに防犯カメラも設置された。
それ以降、同様の事件は起きなかった。
だがその後、新館が建てられ旧館と接続されると、受付はアートギャラリーを兼ねた広い空間へと変わった。
通常の入口に加え、新たな入口も設けられ、誰でも自由に入れるようになった。
とはいえ、実際には入りづらいのか、普段はほとんど人がいない。
広い空間に受付は一人だけ。
その状況が裏目に出たのか、芸術鑑賞を装った“おかしなやつ”が現れるようになった。
暴れるようなことはないが、ほとんどがワイセツ系事案。
そのため受付の机の下には非常ボタンが設置され、総務に直結するようになった。
非常ボタンが押され、総務課長がモタモタ駆けつけるのだが、何の効果もない。
結果として、“おかしなやつ”が何度も出没するようになってしまった。
しかし、この状況はある日あっけなく終わる。
例の“おかしなやつ”が来た時、たまたま関連会社のN課長が受付に用事で訪れた。
その姿を見た瞬間、相手は慌てて逃げ出したという。
N課長は体格が大きく、スキンヘッドで、かなり迫力のある強面だった。
瞬時に“おかしなやつ”を追い払い、二度と寄りつかせなかったN課長の風貌は、称賛に値した。
私はこういう輩に会ったことはない。
でも
「今、何時ですか男」と
「振り袖オヤジ」にお会いした
ことがある。
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