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謎日本語の使い方 ―なるほどですね、ある意味、逆に、知らんけど

日本語には、意味は分かるのに、よく見ると何をしているのか分からない言葉がある。

「なるほどですね」

分かる。

分かるのだが、少し変である。

「なるほど」でいい。
「そうですね」でもいい。
「なるほど、そうですね」ならまだ分かる。

しかし、なるほどですね。

合体している。

理解と同意が、途中で事故を起こしている。

たぶん、お互い無事ではある。

でも、車体は少しへこんでいる。


なるほどですね

「なるほどですね」は便利である。

理解したように見える。
同意したようにも見える。
でも、強く賛成したわけではない。

相手の話を受け止めたい。
でも、完全には持ちたくない。
かといって、無言だと感じが悪い。

そこで出てくる。

なるほどですね。

これは、会話の受け身である。

投げられた話を、いったん畳の上で転がす。

痛くない。

ただ、一本ではない。

「なるほど」と言えば、分かった感じが強くなる。
「そうですね」と言えば、同意した感じが強くなる。

しかし「なるほどですね」なら、その中間に立てる。

分かったような。
同意したような。
まだ帰れるような。

かなりいい位置である。

居心地がいい。

たぶん、長居はしない方がいい。


ある意味

「ある意味」もかなりすごい。

ある意味、正しいですね。

どの意味なのか。

ある意味である。

意味が一個、どこかにあるらしい。

便利である。

完全に正しいとは言っていない。
間違っているとも言っていない。
ただ、どこかの意味では正しい。

どこか。

場所を言え。

しかし言わない。

「ある意味」は、発言に小さな非常口をつける言葉である。

火災時にはそこから逃げる。

たとえば、

ある意味、成功ですね。

これはすごい。

成功なのか。
失敗なのか。
成功と言い切るには苦しいのか。
でも全否定すると角が立つのか。

全部を一度にぼかせる。

「ある意味」は優しい。

優しすぎる。

優しさで、事実が少し眠る。


逆に

「逆に」もかなり怪しい。

逆に、今日は早めに帰ります。

何の逆なのか。

誰の逆なのか。

何と何が反転したのか。

分からない。

でも「逆に」をつけると、ただの退勤が少し作戦っぽくなる。

今日は早めに帰ります。

これは普通である。

逆に、今日は早めに帰ります。

これは何かを読んでいる。

空気。
戦況。
明日の自分。
冷蔵庫の中の賞味期限。

たぶん、眠いだけである。

でも「逆に」と言うと、眠いだけではなくなる。

自分の疲労を、戦略に変換できる。

ほかにもある。

逆に、何もしない方がいいかもしれません。

かなり強い。

何もしない。

でも、ただサボっているわけではない。

逆に、である。

何もしないことに、急に作戦名がつく。


それはそう

「それはそう」も強い。

かなり同意しているようで、実は何も進んでいない。

それはそう。

そうなのである。

それはそう。

だが、それがそうであることと、次に何をするかは別である。

ここがすごい。

同意している。
でも、責任は発生していない。

「それはそう」は、会話のハンコである。

押した。

ただし、決裁ではない。

受付である。

相手の言葉は受理された。
しかし、処理が始まったわけではない。
担当部署に回ったかどうかも分からない。

それはそう。

この一言で、会話は一度床に置かれる。

誰が拾うのか。

知らない。

それはそう。

否定しない。
追加もしない。
でも、場は少し落ち着く。

何も進んでいないのに、全員が一回うなずける。

社会性が高い。


知らんけど

そして「知らんけど」である。

これはもう、文化財にしていい。

たぶんいけると思う。知らんけど。

言った。

しかし、持っていない。

意見を出したあと、責任をそっと玄関に置いている。

しかも感じが悪くない。

むしろ少し愛嬌がある。

ずるい。

かなりずるい。

「知らんけど」は、発言に付ける小さな脱出ボタンである。

押すと、言葉だけ残して本人が少し後ろに下がる。

便利である。

ただし、使いすぎると危ない。

何を言っても、最後に知らんけどを付ける人になる。

それはそれで強い。

でも、周囲は少し困る。

明日までに終わると思います。知らんけど。

これはだめである。

知らんでは済まない。


謎日本語は、会話を止めない

こうして見ると、謎日本語はかなり働いている。

なるほどですね。
ある意味。
逆に。
それはそう。
知らんけど。

どれも、決定はしていない。

でも、会話は止めていない。

理解したように見せる。
同意したように見せる。
考えているように見せる。
責任は少しだけ逃がす。

最低である。

しかし、ありがたい。

全部を正確に言うと、会話はすぐ重くなる。

「私はあなたの発言のうち、この部分には同意しますが、この部分については判断材料が不足しており、現時点では保留します」

こんなことを毎回言っていたら、昼休みが終わる。

だから人は言う。

なるほどですね。

ある意味。

逆に。

それはそう。

知らんけど。

何も決まっていない。

でも、会話は続いている。

すごい。

かなりすごい。


ここまで見てきたように、謎日本語は会話の潤滑油である。

ある意味。

いや、ある意味ではない。

たぶん本当にそうである。

知らんけど。

この文章も、だんだん怪しくなってきた。

謎日本語を説明しているつもりだったのに、途中から普通に使っている。

なるほどですね。

便利である。

逆に、使わない方が不自然なのかもしれない。

それはそう。

いや、何がそうなのか。

分からない。

でも、なんとなく話は終わりそうである。

謎日本語は、結論を出すための言葉ではない。

結論が出ていないのに、会話を畳むための言葉である。

だから最後も、きれいには終わらない。

ただ、こう言っておく。

なるほどですね。

ある意味、そういうことです。

知らんけど。

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セイ この構造整理やレイヤー観測が刺さったら、チップで投げてもらえるとうれしいです。