管理職試験は、声がかかってからでは少し遅い

30代も半ばに差しかかると、会社の中で少しずつ景色が変わってくる。

数年前まで同じフロアで普通に仕事をしていた先輩が課長になり、同期の誰かが管理職試験を受けたという話が聞こえてくる。人事異動の発表を見ると、「あ、この人も上がったのか」と思う名前が増えてくる。

それでも最初のうちは、自分のこととしては考えない。

まだ少し先だろう。

そう思っている。

ところがある時期から、上司との面談で聞かれることが変わってくる。

「今後はどんな仕事をしていきたい?」

「後輩の面倒を見ることについてはどう思っている?」

「もう少し部署全体を見るようにしてみて」

はっきりと「来年、管理職試験を受けてもらう」と言われたわけではない。

だが、会社員を長くやっていると、こういう微妙な空気は何となく分かる。

もしかしたら、自分にもそろそろ順番が回ってくるのかもしれない。

私は、この感覚が生まれた時点が管理職試験の準備を始める一番いいタイミングだと思っている。

まだ面接対策をする必要はない。論文を書く必要もない。

むしろ、その段階から想定問答集を作り始めるのは少し早い。

それより先にやるべきなのは、自分の仕事を見る目線を変えることだ。

管理職試験は、実力だけでは決まらない

管理職への昇進について語るとき、少し扱いにくい話がある。

それは、昇進にはどうしてもタイミングがあるということだ。

会社では「実力がある順にきれいに昇進する」ということは、まずない。

本人の評価だけではなく、年次、ポストの空き、組織改編、上司の推薦、部門ごとの人員構成、その年の候補者数など、かなり多くの要素が絡む。

極端な話、同じ実力でも一年違えば状況が違う。

上司が替わることもある。

ポストそのものが減ることもある。

反対に、大きな組織再編があって、突然チャンスが回ってくることもある。

これは本人ではコントロールできない。

だからこそ、私は、

タイミングを選ぶことはできなくても、タイミングが来たときに取り切る準備はできる

と思っている。

ここは、管理職試験を少し軽く考えている人にこそ伝えたい。

「今年駄目でも、また来年受ければいい」

確かにそういう会社も多い。

ただ、会社人生はそんなに整然とは進まない。

次の年に同じ上司がいる保証はない。仕事が変わっているかもしれない。海外赴任になっているかもしれない。次世代の候補が一気に増えることもある。

一度の試験で人生が決まる、とまで大げさに言うつもりはない。

それでも、35歳で管理職になるのと38歳でなるのとでは、その後に経験できる仕事の量は意外と変わる。

40歳前後で部長候補になる会社なら、なおさらだ。

だから、上を目指すのであれば、回ってきたチャンスはできるだけ一度で取りたい。

そのための準備は、受験通知を受け取ってからでは少し遅い。

最初に見るべきなのは「管理職本」ではなく会社そのもの

管理職試験を意識し始めた人が最初にやりがちなのが、Amazonで「管理職」「リーダーシップ」と検索することだ。

それ自体は悪くない。

私も本を読むことには大賛成だ。

ただ、管理職試験という意味では、その前にもっと重要な教材がある。

自分の会社そのものだ。

なぜなら、あなたが受けるのは「日本企業共通管理職認定試験」ではないからだ。

自分が働いている会社の管理職試験である。

ここは非常に重要だ。

ある会社では、強く方針を打ち出して人を引っ張るタイプが評価される。

別の会社では、各部署との利害を丁寧に整理しながら調整できる人が評価される。

現場第一の会社もある。

数字への強さを重視する会社もある。

若手育成を非常に重視している時期もあれば、業績改善を最優先している時期もある。

同じ会社でも、時代によって求める管理職像は変わる。

だから、管理職試験が見えてきたら、少し周囲を観察する。

最近、課長になった人はどんな人だったか。

その人はなぜ評価されていたのか。

部長たちは会議で何を気にしているのか。

経営層は最近どんな言葉を繰り返しているのか。

「人材育成」なのか。

「収益性」なのか。

「海外」なのか。

「変革」なのか。

会社というのは、意外なほど同じ言葉を何度も使う。

そこには、その時期の会社が欲しがっている人材像がにじむ。

面接で強い人は、「会社の話」と「自分の話」がつながっている

管理職試験で強い人には、一つ共通点があると思う。

会社の経営課題、自部署の役割、自分の仕事。

この三つが一本につながっている。

逆に、弱い回答はそれぞれがバラバラだ。

「会社の課題は何ですか?」

と聞かれると、中期経営計画に書かれている言葉を答える。

「あなたは何をしますか?」

と聞かれると、突然自分の担当業務の話になる。

「なぜあなたが管理職になる必要がありますか?」

と聞かれると、急に精神論になる。

聞いている側からすると、

「それで、あなたが管理職になると何が変わるの?」

という疑問が残る。

一方、通りやすい人は違う。

会社が今ここへ向かっている。

その中で、自部署にはこういう役割がある。

しかし現状はここが弱い。

自分はこれまでこの領域の経験をしてきた。

だから管理職になれば、この経験を使ってこの部分を変えたい。

話が一本につながっている。

特別に難しいことを言っているわけではない。

むしろ説明はシンプルだ。

ただ、筋が通っている。

こういう人を見ると、面接する側としても、

「この人は管理職になった後の自分を考えているな」

という印象を持ちやすい。

優秀なプレイヤーなのに通らない人

一方で、会社には、

「どう考えても仕事はできるのに、なかなか管理職試験で評価されない」

という人もいる。

資料は速い。

専門知識も深い。

問題があればすぐ解決する。

後輩からも頼られている。

実務だけ見れば申し分ない。

それでも、管理職候補として話を聞くと弱い。

理由は、視点が最後まで「自分」だからだ。

自分はこういう仕事をした。

自分がこの問題を解決した。

自分の専門性を生かした。

自分ならもっとできます。

プレイヤーとしては100点である。

でも管理職になると、会社が知りたいのは、

「この人が10人、20人を持ったとき、その組織は強くなるのか」

ということだ。

ここが違う。

私は、管理職試験を意識し始める年齢になったら、この評価軸の変化に早めに気づいておいた方がいいと思う。

昨日まで評価されていた働き方を捨てる必要はない。

だが、それだけでは足りなくなる。

30代半ばからは、仕事の見え方を少し広げる

何も突然、経営者のように考える必要はない。

自分の一つ上を見るくらいでいい。

自分が担当者なら、課長の視点で考えてみる。

課長の立場なら、この問題をどう見るだろう。

この仕事は部署全体ではどれくらい重要なのか。

他部署から見ればどう見えるのか。

この若手に今仕事を任せることは、半年後に何につながるのか。

そういうことを少し考える。

最初は面倒だ。

若い頃は自分の担当をきちんと終わらせればよかった。

それが年次を重ねると、人の仕事まで気にしなくてはいけない。

しかし、管理職とは結局その延長にある。

自分自身で成果を出す仕事から、

組織として成果が出る状態を作る仕事

へ移っていく。

管理職試験というのは、その移行が始まっているかを確認する試験でもあるのだと思う。

「まだ言われていないから」は、最も危ない

私は、管理職候補の時期に一番もったいないと思う言葉がある。

「まだ会社から何も言われていないので」

だ。

正式に言われていないから考えない。

受けることが決まってから準備する。

もちろん、それでも受かる人はいる。

ただ、その人が長い間すでに管理職的な働き方をしていたから受かるのであって、二か月の面接対策で別人になったわけではない。

自分の経験。

人を動かした経験。

後輩を育てた経験。

組織課題。

会社への問題意識。

これらは、試験直前に作れるものではない。

だから「そろそろ自分かもしれない」と感じたときに始める。

それで十分早い。

チャンスをものにする人は、チャンスが来る前から準備している

会社員生活を長く続けていると、不思議なことに気づく。

大きなチャンスをものにした人を見ると、本人は、

「たまたまです」

「運がよかったです」

と言うことが多い。

確かに運はある。

ただ、よく見ると、その人たちはチャンスが来る前から、少しずつ次の仕事をしている。

管理職になる前から後輩を育てている。

海外赴任が決まる前から海外案件をやっている。

部長になる前から部全体を見ている。

だから、突然ポストが空いたときに名前が出る。

運は最後の一押しだっただけで、その前の準備が長い。

管理職試験も同じだ。

受験通知がスタートではない。

「そろそろかもしれない」

と思った瞬間から、自分の働き方を少しだけ変えてみる。

管理職試験の最初の対策は、おそらくそれで十分だ。

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