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「血筋」を守る国家と「目の前の命」を見つめる猫猫  『薬屋のひとりごと』から考える男系男子継承問題

2026年7月10日、皇室典範などの改正案が衆議院を通過した。

皇族数を確保するため、女性皇族が結婚後も皇族の身分を保持する仕組みや、旧宮家の男系男子を皇族の養子として迎える案などが盛り込まれている。

しかし、女性天皇・女系天皇を含め、皇位継承のあり方そのものが本格的に検討されたとは言い難い。現行の皇室典範は、皇位継承者を「皇統に属する男系の男子」に限定している。

そもそも、なぜ皇位は男系の血筋によって継承される必要があったのだろうか。

その背景を考える手がかりになるのが、TVアニメ『薬屋のひとりごと』である。

1. 『薬屋のひとりごと』が描く「血筋と戦争」の王朝国家

『薬屋のひとりごと』は、日向夏が小説投稿サイト「小説家になろう」で連載を始めた小説を原作とするアニメだ。

現在はNetflix、Amazon Prime Videoをはじめ、各種配信サービスで第1期・第2期を視聴できる。

物語の主人公は、花街で薬師(くすし)として育った少女・猫猫(まおまお)だ。

誘拐されて後宮へ売られた彼女は、毒と薬の知識を使い、妃や皇子を襲う病、毒殺未遂、宮中の陰謀を解き明かしていく。

舞台となるのは、中国王朝史を思わせる制度や文化を下敷きにした架空国家である。後宮や官僚組織、皇帝を頂点とする権力構造が生々しく描かれている。

第2期では、それまで別々に見えた事件が結び付き、やがて国を巻き込む争いへと発展する。終盤では、帝の血筋を引く人物が反乱鎮圧の前面に立つ。

重要なのは、その人物が単に戦闘能力に優れているから選ばれたのではないことだ。

帝の血筋を持つ者が軍勢の前に姿を現すことで、戦いは一部勢力による「私闘」ではなく、帝の権威に基づく「国家の軍事行動」となる。

『薬屋のひとりごと』の舞台は、そんな激動の王朝国家なのだ。

2. 戦う国が求めた「男の後継者」

政治も戦争も男性が担う時代では、帝の息子が次の統治者となり、軍を動かす権威まで受け継ぐことは、自然な仕組みに見えた。

だからこそ、血筋を守るためなら、人生や家族、さらには命まで切り捨てられる。

この構造は、程度や時代は異なるものの、戦前の日本とも重なる。大日本帝国憲法下の天皇は、統治と軍事の最高権威だった。

しかし、敗戦後、前提は大きく変わる。

日本国憲法の下で、天皇は「日本国及び日本国民統合の象徴」となり、国政に関する権能を持たない存在となった。

また、憲法が定めているのは「皇位が世襲」であることまでだ。

男系男子という条件は皇室典範によって定められている。しかし、戦争を放棄し、天皇が象徴となった戦後日本で、その継承原理を残す合理性はどこにあるのか。

少なくとも、制度を支えていた社会情勢が変わった以上、女性天皇・女系天皇も含めて、改めて検討されるべき問題ではないだろうか。

3. 血筋を守る残酷な世界で、責任を引き受ける猫猫

話を『薬屋のひとりごと』に戻そう。

本作の魅力は、王朝国家の残酷さを暴いて終わるところにはない。

第2期で起きる大事件にも、一人の分かりやすい悪人がすべてを企てていたという答えは用意されていない。

国家を守ろうとする者。一族を守ろうとする者。過去に奪われたものを取り戻そうとする者。それぞれが、自分なりの正義を貫こうとする。

本作には、決し許されないであろう加害行為も描かれる。それでも、なぜ過ちをおかしたのか、背後にある家族関係や制度、過去の傷まで描く。

その複雑な世界の中心にいるのが猫猫だ。

猫猫は、王朝の制度を改革する革命家ではない。権力や出世にも興味がなく、理不尽な社会を正面から変えられるとも考えていない。

しかし、後宮で繰り広げられる毒殺や謎の病の原因に気づいてしまうと、見なかったことにはできない。

本来なら関わらなくてもよい事件へ踏み込み、命じられてもいない責任まで引き受けてしまう。

そこにあるのは単純な善意だけではない。

薬師としての「倫理」、毒や人体への「好奇心」、異常の正体を確かめずにはいられない「衝動性」、そして本人が正義感とは認めたがらない「熱量」が混ざっている。

4. ずっと猫猫が見つめているもの

国家は、人間を帝の血筋、皇族、妃、世継ぎ、反逆者、一族といった役割によって見る。

一方、猫猫が見るのは、毒に侵された身体であり、病気の原因であり、まだ救えるかもしれないひとつの命である。

つまり、猫猫という存在こそが『薬屋のひとりごと』を冷たい権力闘争だけではなく、熱い人間のドラマにしている。

そして、今年の10月から待望の第3期がはじまる。物語の舞台は後宮から市井へ広がり、災害の予兆や謎の巫女などが描かれる。

第2期で浮かび上がった「血筋を背負う者」と「目の前の命を見る猫猫」の対比が、さらに大きな社会の中でどう展開するのか。

10月から始まる新章で、猫猫がまたどんな責任を引き受けてしまうのか。今から楽しみでならない。

※本稿はAmazonアフィリエイトを含みます。

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