見出し画像

紛争終結で解決しないヘリウム供給危機:著しく軽視されてきた代替不能な戦略物資がもたらすグローバルリスク

 現地 2026年4月4日、パルサー・ヘリウム社の社長であるクリフ・ケイン氏を招いてのBloombergのインタビュー・コンテンツを紹介します。

イランによるラスラファン工業地帯への攻撃を受け、カタールは世界最大の液化天然ガス施設を閉鎖。これにより、世界のヘリウム供給に混乱が生じています。このことは、医療サービスや半導体製造、そして国家の防衛技術を脅かす事態となっており、中東での紛争の長期化がこの業界の川下にどのような影響を及ぼしているかが解説されています。

[概況]
◇ 副産物ゆえの価格メカニズムの欠如
 ヘリウムは独立した資源ではなく、主に天然ガス(LNG)抽出の際の副産物として生産されます。そのため、ヘリウム自体の需要が急増しても、天然ガスの需要が増えなければ増産されません。多くの投資家は「価格が上がれば供給が増える」という通常のコモディティの法則がヘリウムにも適用されると考えていましたが、実際にはヘリウムの供給管理はガス田全体の運用に依存しているため、市場原理が効きにくいのが実情です。

◇ 見えないボトルネックとしての脆弱性
 インタビューでも触れられていた通り、米国が2024年に戦略的備蓄を民間に売却した際、市場はこれを単なる在庫整理と楽観視していました。しかし、備蓄というバッファーがなくなった現在、カタールのような単一の供給源への依存度は極限まで高まっています。効率性を追求した結果、マーケットは供給網のレジリエンス(回復力)を置き去りにしてきたのです。

◇ AI・半導体ブームの楽観論
 半導体の製造工程に不可欠なヘリウム供給が、これほどまでに地政学的リスクに晒されているという事実は、カタールに供給の65%以上を依存する企業、特に韓国のSamsungやSK Hynixのような企業にとっては極めて深刻な打撃となって、それら企業の株価にも大きな影響を与えています。
 また更には、供給回復までに3〜5年を要すると予測される中で市場は今、半導体やスマホのみならず、防衛や宇宙産業の未来に深刻な影響を及ぼしかねない状況にあることにようやく気づき始めている状況にあります。






1. インタビュー


[ジョー・マチュー](Bloomberg)
 
ヘリウムは、一部の医療サービスにおいて重要な成分ですが、半導体製造における冷却材としても不可欠なものです。私たちは、現在どの程度の苦境に立たされているのでしょうか。


[クリフ・ケイン](Pulsar Helium)
 そうですね、これは私たちが懸念していたブラック・スワン・イベントと言えます。世界のヘリウム供給量の33%が消失しました。過去20年間、様々な用途で半導体の需要が増加する中で、不足状態が続いてきました。国防から手元の携帯電話に至るまで、あらゆるものが関係しています。ヘリウムを増産するための余剰能力はありません。ですから、非常に深刻な状況です。


[クリスティーナ・ルフィーニ](Bloomberg)
 何か代替品はあるのでしょうか。アルゴンや水素は使えませんか。水素は、いつもあまり良い結果になりませんが。


[クリフ・ケイン](Pulsar Helium)
 いいえ、水素は使いたくありません。かつてヒンデンブルク号が水素を使用したのも、米国がヘリウムを販売しなかったためです。パーティー用の風船には使わないでください。とにかく、代替品はありません。MRIには窒素も酸素も使えませんし、半導体の製造工程でも同様です。やはり、代わりになるものはないのです。


[ジョー・マチュー](Bloomberg)
 クリフさん、この問題は非常に重要で、昨日ペンタゴンにいらしたほどですね。彼らは助けを求めているのでしょうか。


[クリフ・ケイン](Pulsar Helium)
 はい、彼らは明らかにこの状況を注視しています。国防にとって極めて重要だからです。弾薬の製造から、F-15戦闘機やパトリオット・ミサイル・システムに使われるチップまで、すべてに関わります。ヘリウムがなければ、その産業自体が存在できなくなります。


[クリスティーナ・ルフィーニ](Bloomberg)
 ワシントンDCにいた際、「それ見たことか」というような気持ちになったのではありませんか。米国は2024年にヘリウムの備蓄を海外の企業に売却しましたが、あなたは政府に対してそうしないよう助言していたと聞いています。


[クリフ・ケイン](Pulsar Helium)
 はい、業界の多くの人間が政府に反対を助言しましたが、議会の命令により売却が義務付けられていたため、売却せざるを得ませんでした。業界でクリフサイドと呼ばれていたその戦略的備蓄は、米国にとって、いわばはずみ車のような役割を果たしていました。例えば、エクソンモービルがラバージの施設をメンテナンスのために停止させたとしても、クリフサイドが供給を安定させ、円滑に保つことができていました。しかし、今はもう状況が違います。米国には戦略的備蓄がなくなりましたが、中国やロシアには備蓄があります。


[ジョー・マチュー](Bloomberg)
 米国は今でも世界最大の生産国ですよね。そして、生産国はそれほど多くありません。米国、すでにお話ししたカタール、アルジェリア、そしてロシアです。なぜこれほど少ないのでしょうか。


[クリフ・ケイン](Pulsar Helium)
 費用がかかり、複雑なプロセスが必要な上に、実現のためには適切な資源の埋蔵場所を見つけなければならないからです。現在生産されているヘリウムのほとんどは天然ガスに付随するもので、世界で生産されるヘリウムの約98%はLNGに関連しています。アルジェリア、ポーランド、カタール、そしてワイオミング州のラバージもすべてLNGです。純粋にヘリウムのみの探査や生産を行っている事業者は、極めてわずかしか存在しません。


[クリスティーナ・ルフィーニ](Bloomberg)
 あなたの視点から見て、すでにどのような供給の混乱が見られますか。先ほどチップの話が出ましたが、こうした混乱が産業向けの顧客ではなく、一般の消費者に実感を伴って波及するまでには、どの程度の時間がかかると考えますか。任天堂の元セールス担当責任者が、ヘリウム価格の影響でSwitch 2の価格が高騰する可能性があると述べている記事を目にしました。


[クリフ・ケイン](Pulsar Helium)
 ええ、家電製品や電子機器には、かなり早く影響が出るでしょう。欧州はすでに、今回のカタールの問題による不足の影響を受けています。アジアもスポット市場での供給を確保しようと、競争に加わることになるはずです。米国は資源が豊富ですが、追加の増産能力がありません。実際、米国内のヘリウム供給には、供給源が集中しているというリスクがあります。


[クリスティーナ・ルフィーニ](Bloomberg)
 それは、あなたが政府に対応を求めてきた点なのですか。増産能力をもっと拡大すべきだと考えていますか。米国内の生産能力を、より高める必要があるのでしょうか。


[クリフ・ケイン](Pulsar Helium)
 はい、業界の多くの関係者が、何年も前から連邦政府と協議を重ねてきました。ヘリウムを再び重要鉱物リストに戻すためです。数年前にリストから外された理由は、お話しすると長くなりますが、重要鉱物に指定される要件のひとつに、単一の重大な故障点があるかという項目があります。もしラバージの施設が稼働を停止すれば、世界のヘリウム供給の60%が消失することになり、私たちは本当の窮地に立たされることになります。


[ジョー・マチュー](Bloomberg)
 では、価格についてお聞きします。私たちは日頃、原油価格の動向を注視していますが、ヘリウムの世界についても教えてください。カタールが供給を停止して以来、すでに価格は2倍になっていますが、今後はどのような展開が予想されますか。もし海峡の封鎖がさらに数週間続いた場合、ヘリウムの取引において、原油の1バレル200ドルに相当するのはどのような価格水準になるのでしょうか。


[クリフ・ケイン](Pulsar Helium)
 はい、1フィートあたり2ドルという話になります。ええ、私たちは以前もこうした状況を目にしました。


[ジョー・マチュー](Bloomberg)
 それは現実になるのでしょうか。


[クリフ・ケイン](Pulsar Helium)
 ええ、間違いなくそうなります。市場で融通できる追加の供給量が全く存在しません。ですから、供給の割り当て制限については……


[クリスティーナ・ルフィーニ](Bloomberg)
 数量はフィート単位で数えるのですか。


[クリフ・ケイン](Pulsar Helium)
 はい、MCF(1,000立方フィート)やMMCF(1,000,000立方フィート)といった単位を使います。私たちは立方フィート単位で計算しています。


[クリスティーナ・ルフィーニ](Bloomberg)
 今日は新しいことを学びました。なるほど、わかりました。


[クリフ・ケイン](Pulsar Helium)
 私は立方フィートという単位を好んでいます。扱いやすい数字だからです。1991年まで遡ると、ヘリウムの価格は標準1立方フィートあたり5セントでした。前回の供給不足が解消された後は、標準1立方フィートあたり38セントから48セント程度で落ち着き始めていました。そして前回の不足がピークに達した時には、1フィートあたり2.50ドルまで上昇しました。


[ジョー・マチュー](Bloomberg)
 それは驚きですね。


[クリフ・ケイン](Pulsar Helium)
 ええ、非常に高い水準です。


[ジョー・マチュー](Bloomberg)
 以前にもこうした数字を経験しており、再びその最高値に戻ろうとしているということですね。


[クリフ・ケイン](Pulsar Helium)
 間違いなく高値に戻ります。すでに供給割り当てに関する通知が出回っています。少なくとも1社、Air Liquide社が不可抗力条項の適用を宣言しました。今後、さらに続く企業が出てくることは確実です。


[ジョー・マチュー](Bloomberg)
 それでは、ペンタゴンでの会議を終えた際、どのような感触でしたか。解決策は提示されていたのでしょうか。


[クリフ・ケイン](Pulsar Helium)
 彼らは間違いなくこの問題に取り組んでいます。改めて見直しを行っており、業界のリーダーたちの意見に耳を傾けているのは確かです。では、私たちは何をすべきでしょうか。液化装置などの設備を増やす必要があるのでしょうか。あるいは、ロシアが市場を低価格で埋め尽くして私たちの新たな生産能力の構築を阻もうとするのを防ぐため、各地の新興の探査業者を支援する必要があるのでしょうか。


[クリスティーナ・ルフィーニ](Bloomberg)
 アルテミス計画や宇宙旅行についてもよく話題になりますが、それにもヘリウムが必要です。どうやらその宇宙船の打ち上げには150万ドル相当のヘリウムが使われたようです。これは今や単なる半導体や生産能力の話ではなく、宇宙探査の未来に関わる話なのです。


[クリフ・ケイン](Pulsar Helium)
 ええ、その通りです。150万ドル相当のヘリウムが使用されました。SpaceXやBlue Origin、欧州宇宙機関、ロシア、インドなどが行うすべての打ち上げを考えると、ロケットの打ち上げにはヘリウムが必要なのです。Starlinkなどの人工衛星を宇宙に送るためにもヘリウムが欠かせません。ヘリウム供給が危うくなれば、間違いなく打ち上げの頻度に影響が出ます。例えば、年間200回の打ち上げを計画している場合、このような混乱があれば、その数は半分にまで減少する可能性があります。


[ジョー・マチュー](Bloomberg)
 不足が生じるまで、当たり前だと思っていたことがこれほど重要だったとは驚きですね。


[クリスティーナ・ルフィーニ](Bloomberg)
 その通りです。ヘリウムは複雑で、生産も困難です。中東で起きている問題の解決を待つ間、この不足を補うための短期的な解決策はあるのでしょうか。


[クリフ・ケイン](Pulsar Helium)
 短期的には解決策はありません。新しい生産を軌道に乗せようとしている生産者や探査業者以外には、手段がないのです。それがおそらく最短の方法ですが、それでも新しいプラントの建設には6か月から16か月ほどかかります。精製するための埋蔵場所が見つかれば、一般的な気体ヘリウムのプラントなら約6か月で稼働できるでしょう。しかし、極低温状態の液体ヘリウムであるファイブ・ナインの純度に達するには、液化装置の建設に16か月と5000万ドルが必要になります。


[ジョー・マチュー](Bloomberg)
 政策立案者たちは一体何をしていたのかと疑問に思います。国内の半導体製造を最前線に押し出すCHIPS法があり、他国への依存を減らすべきだという話は、ワシントンで毎日議論されています。NVIDIAやBroadcom、TSMCといった企業の名前も挙がりますが、ヘリウムがなければそれらすべてが不可能です。議会としての対応が必要なのではないでしょうか。備蓄を復活させるべきですか。


[クリフ・ケイン](Pulsar Helium)
 そう思います。本当にそう思います。


[ジョー・マチュー](Bloomberg)
 なぜ進展がないのでしょうか。


[クリフ・ケイン](Pulsar Helium)
 今回のトランプ大統領の政権は、前政権よりも確実に対策を講じていると思います。私はあくまで中立的な立場でいたいと考えています。


[クリスティーナ・ルフィーニ](Bloomberg)
 ありがたく受け止めます。


[ジョー・マチュー](Bloomberg)
 前政権もCHIPS法を支持していました。もっと緊急の優先事項だと考えるのが普通でしょう。


[クリフ・ケイン](Pulsar Helium)
 確かに、前政権もCHIPS法を支持していました。


[クリスティーナ・ルフィーニ](Bloomberg)
 なぜこれまでこれほど注目されなかったのか不思議です。重要鉱物や半導体、単一の故障点については語られてきましたが、ヘリウムがようやく議論の遡上に載ったのは、私の中では最近のことのように感じます。私たちはニュースをかなり深く追っていますが、それでもです。


[クリフ・ケイン](Pulsar Helium)
 ええ。私はいつも、ヘリウムのことを「指輪物語」に例えて、すべてを支配する「一つの指輪」のようなものだと言っています。レアアースについてお話しする際も同様です。この国には加工プロセスの問題があります。私たちは加工能力を全く持っていません。たとえ鉱物を見つけたとしても、加工するための能力がないのです。研究所での工程において、それらの鉱物が生産や利用に必要な高純度に達しているかを確認する試験を行う際、そこには必ずヘリウムが必要になります。ですから、ヘリウムがなければ、私たちの電子機器も航空宇宙産業も成り立ちませんし、Nintendo Switchさえも手に入らなくなるのです。


[クリスティーナ・ルフィーニ](Bloomberg)
 私はNintendo Switchを持っていませんが、それが手に入らなくなれば非常に困る人たちをよく知っています。


[クリフ・ケイン](Pulsar Helium)
 ですが、携帯電話はお持ちですよね。


[クリスティーナ・ルフィーニ](Bloomberg)
 ええ、複数持っています。そのお話は深掘りしないことにしましょう。さて、各国はどのような対応を取るべきでしょうか。政府が優先順位を決めるべきですか。あるいは配給制を導入すべきでしょうか。近い将来、パーティー用の風船が手に入らなくなるのは間違いありませんが、供給が限られ、多くの需要がある中でどのように対処すべきだとお考えですか。


[クリフ・ケイン](Pulsar Helium)
 そうですね、配給制は非常にデリケートな話題です。そのような措置を講じるには、戦争権限法のようなものを発動する必要があるでしょう。現在はすべてが民営化されていますので、対応は一筋縄ではいきません。


[クリスティーナ・ルフィーニ](Bloomberg)
 政府には、どのような対応を期待されますか。


[クリフ・ケイン](Pulsar Helium)
 政府には、この問題を真剣に受け止めてほしいと考えています。「今年は供給が十分だが、来年は不足する」といった場当たり的な対応では、結局のところ成長を阻害するだけです。半導体メーカーや光ファイバーケーブルなど、製造工程でヘリウムを使用する企業にとって、安定供給がなければ事業の将来予測や拡大は不可能です。ヘリウムなしに、どうやってAIの安定した成長を実現できるというのでしょうか。ロシアや中国といった競合国や敵対国は、その重要性を確実に見抜いています。ロシアが稼働させたアムール処理施設のすぐ隣には、ボストチヌイ宇宙基地が建設されました。これは彼らの新しい宇宙計画の一環であり、宇宙開発の拠点のすぐそばにヘリウム供給を確保したいという狙いがあります。米国には、現在そのような体制はありません。


[ジョー・マチュー](Bloomberg)
 問題は明確になりました。例えば海峡が再開されれば、エネルギー価格は急落すると予想されます。ヘリウムについても同様のことが起こり、供給過剰になる可能性はあるのでしょうか。


[クリフ・ケイン](Pulsar Helium)
 いいえ、プラントが損傷しているため、そうはなりません。


[ジョー・マチュー](Bloomberg)
 なるほど。


[クリフ・ケイン](Pulsar Helium)
 そうなのです。それに、敵対行為も終結していません。


[ジョー・マチュー](Bloomberg)
 つまり、海峡の再開だけでは解決しないということですね。プラントの修復が必要であり、それには数年かかる可能性があると。


[クリフ・ケイン](Pulsar Helium)
 カタール・エナジー自身が、少なくとも3年から5年はかかると述べています。




2. オリジナル・コンテンツ

 オリジナル・コンテンツは、以下リンクからご覧になれます。
尚、本投稿の内容は、参考訳です。また、意訳や省略、情報を補足したコンテンツを含んでいます。

Bloomberg Televisionより
(Original Published date : 2026/04/04 EST)


[出演]
  
  
Pulsar Helium
    クリフ・ケイン(Cliff Cain)
    President

  Bloomberg
    ジョー・マチュー(Joe Mathieu)
    クリスティーナ・ルフィーニ(Christina Ruffini)



御礼

 最後までお読み頂きまして誠に有難うございます。
役に立ちましたら、スキ、フォロー頂けると大変喜び、モチベーションにもつながりますので、是非よろしくお願いいたします。 

だうじょん


免責事項


 本執筆内容は、執筆者個人の備忘録を情報提供のみを目的として公開するものであり、いかなる金融商品や個別株への投資勧誘や投資手法を推奨するものではありません。また、本執筆によって提供される情報は、個々の読者の方々にとって適切であるとは限らず、またその真実性、完全性、正確性、いかなる特定の目的への適時性について保証されるものではありません。 投資を行う際は、株式への投資は大きなリスクを伴うものであることをご認識の上、読者の皆様ご自身の判断と責任で投資なされるようお願い申し上げます。



いいなと思ったら応援しよう!

この記事は noteマネー にピックアップされました

noteマネーのバナー