「家を建てるのはやめてくれないか」と義母が電話してきて1時間闘った思い出
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ある日、妻と日帰り温泉に行った。日はすでに沈み、露天風呂で星空を眺めながら気持ちよく湯につかる。温泉を出て、車内で妻を待つ前にトイレに行くことにした。トイレに入った瞬間、ポケットに入れていたスマホがブブブと振動する。
画面に映っていた発信者は妻の母親。僕にとっては義母だ。これまでお義母さんから直接電話がかかってきたことなんてない。ただならぬ気配を感じて個室に入り、「もしもし」と少し緊張に震える声で電話に出た。
義母:急にごめんなさいね。
僕:いえいえ〜。
そういった定型のやりとりを済ませたあと、お義母さんは本題を切り出した。
「家を建てるの、今からでもやめられない?」
このときは、田舎の山中に家を建てることが本格的に決定し、まもなく着工するというタイミングだった。お義母さんが僕たちの移住に心から賛成していないのは知っていた。とはいえ「人間なんて少なからず価値観は違うものだから」と呑気に構えていたのだが、僕の見立ては甘かったらしい。娘を介さず僕に直接電話をかけてくるなんて、よっぽどの覚悟である。
こちらとて折れるわけにはいかない。しかし、これはディベートではない。相手は今後も長く付き合う妻の実家だ。禍根を残せば関係にヒビが入り、ゆくゆくの子育てにも悪影響が出かねない。
負けてはいけない。ただ勝てばいいというものでもない。これは5年前に勃発したある闘いの記録である。舞台は温泉の男子トイレの個室。ここで過ごした1時間がその先の家族の人生を決めた。
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