鰻の匂いを嗅いでいるのがバレた
私が週1で通っているテニス教室の近くに鰻屋がある。炭火香るパリッとした焼き目に、甘辛いタレが絡む関西風の鰻は評判で、週末になると待ち列が伸びるほどだ。
特別な外食の時にしか行けないけれど、炭火の匂いを嗅ぐだけでも幸せな気持ちになるので、店の裏道を通る時には車の窓を開けることを私は密かな習慣にしている。
風にのって車内に運ばれる鰻の香り。香りだけじゃなくて、うな重も運んで来て欲しい。(無理)だから出来るだけ匂いからイメージする鰻の解像度を上げたい。上げ続けたい。
テニス教室の時間は午前10時から12時までなので、終わりが近づくと鰻の匂いが漂ってくる。夏が近づいてきてお客さんも多いからか、このところ鰻の香りはより一層強くなった気がする。食べてもいないのに、梅丼から松丼になった感じ。
レッスンのラスト30分くらいになると身体も疲れてくるけれど、鰻からの声援によって乗り切れているところがあった。
しかし朝から暑かった今日。テニス教室にはクーラーがついており当然、窓は締め切った状態になっていた。
“今日は鰻の匂いがしないなぁ”と思っていたところへ「今日は暑いですね」突然コーチから声をかけられた。咄嗟に私は「窓が閉まっているから、今日は鰻の匂いしませんね」と、頭で考えていたことをそのまま口にしていた。
脳内の声と現実の境界が曖昧になって、不思議な発言をしてしまうことが私にはよくある。
「しまった!」と思っていた矢先「レッスンの終わりが近づくと、ちくわさんが吸い寄せられるように窓際へ行くの気付いていましたよ」とコーチは言った。しっかりバレていた。
土用の丑の日は混んでいるだろうから、少しずらして鰻を食べに行きたいと思う。
実際に口にするのはもちろん幸せなんだけど、匂いをクンクン嗅ぎながら、次に食べる日を心待ちに想像を膨らませるのは、また違った歓びがあるんだよなぁ〜。そんなことを考えながら帰り道、今日も私は窓を開ける。
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