新しい航海の始まり。 | 里海への航海 #06
全6回にわたってお届けしてきた、私たち楠橋紋織の「新しい航海」の記録。 今回はその締めくくりとして、私たちの現在地をお話しさせてください。
故郷の島に戻り、95年続く老舗で見つけたのは、世界に誇れる実直な手仕事と、その裏側に潜んでいた「不都合な真実」でした。
「魔法を解き、もう一度自分たちのものづくりを見つめ直す。」
オリジナル商品売上の31%を占める看板商品を廃止するという決断。それは経営的には大きな痛みを伴うものでしたが、私たちの掲げる「里海(satoumi)」という目的地を目指す上では、避けては通れない関門でした。
今日は、8月31日のブランドサイト公開を前に、私たちの「現在地」をありのままにお話しします。
20年来の技術とともに、これからの「答え」を探す。
「PVA(水溶性プラスチック)を使わずに、かつての看板商品を超えていくことはできないか」
この無理難題に対し、私たちの武器となったのは、職人たちが20年以上前から磨き続けてきた「カバーリング技術」でした。
通常、タオルの圧倒的な柔らかさを出すためには、糸の撚(より)を解く必要があります。しかし、撚りのない糸はあまりに弱く、これまではPVAで芯糸を覆って補強し、最後にそれを溶かす手法が業界のスタンダードでした。
しかし、その「魔法」には弱点もありました。柔らかさと引き換えに糸のコシが失われ、毛羽が落ちやすく、お世辞にも長く使えるとは言えない耐久性の低さという課題を抱えていたのです。
私たちが「カバーリング技術」で目指しているのは、単なる無撚糸の置き換えではありません。
極細の天然繊維を中心の柔らかい芯糸に螺旋状に巻き付ける。化学の力に頼らず、糸の「構造」そのものを工夫するアプローチです。

これにより、プラスチックを使わずに、心地よい柔らかさと、しっかり肌を拭える「コシ」を両立させることができます。さらに、カバーリングすることで毛羽落ちを抑えることができ、繰り返し洗っても風合いが損なわれにくいという、これまでのタオルの常識を超える強さも兼ね備えています。
化学の魔法を捨て、素材に向き合うことで、海への想いとプロダクトとしての理想の質感をカタチにしようとしています。
「完成」ではなく、「はじまり」としての8月31日
8月31日に新しいブランドサイトを公開しますが、その時、私たちが追い求める理想のタオルが棚に並んでいるわけではありません。
PVA(水溶性プラスチック)を一切使わず、かつ、かつての看板商品を超える心地よさと品質を実現すること。それは冒頭にお話しした通り、想像以上に高く、険しい壁でした。
数え切れないほどの試作を繰り返し、ようやく一筋の光が見えてきたところです。でも、まだ改善の余地はある。私たちは、中途半端な妥協で「完成」と呼び、お届けすることはしたくありません。
それでも、私たちはこの日にサイトをリニューアルし、ブランドの「旗」を掲げることにしました。
自分たち自身への誓いとして。そして、見守ってくださる皆さんと想いを分かち合いながら進むためです。
「誓い」は公式サイトへ、「プロセス」はこのnoteへ。
リニューアルされる公式サイトには、私たちの「誓い」を記した「里海ジャーナル」を創設します。 そこでは、私たちがなぜ看板商品を捨てたのかという「不都合な真実」や、それを乗り越えるための「技術的根拠」など、楠橋紋織としての公式見解を包み隠さず公開します。
一方で、理想の質感を求めて試行錯誤し、時には壁にぶつかっている「開発の裏側」や、島での暮らしから生まれる新しい問いについては、引き続きこのnoteで綴っていこうと思います。
サイトの公開は、ゴールのテープを切ることではなく、長い航海の出航の合図です。 納得のいく商品ができるまで、もう少しお時間をいただきます。理想にたどり着くまでの試行錯誤や葛藤も、包み隠さずお伝えしていきます。
もしよろしければ、私たちのこの新しい挑戦を一緒に見守り、応援していただけると嬉しいです。
100年後の海に、このバトンを繋ぐために
私が島で3人の子どもたちと海を眺める時、ふと考えることがあります。
「私が幼い頃、足を踏み入れれば魚が跳ね、岩陰に生命がひしめき合っていた、あの少し騒がしい海。この子たちが大人になり、その子供たちが海へ行く時、そこには再び、そんな生命の輝きが戻っているだろうか?」
私たちの仕事は、単にタオルを作ることではありません。 タオルを通じて、100年後の海へバトンを繋いでいくこと。その循環の一部として、仕事を積み重ねていくこと。
このタオルを手に取った時に、ふと未来の海に想いを寄せていただく。そんな静かな繋がりを使い手の方と持てたなら、作り手としてとても嬉しく思います。
8月31日、新しいHPで皆さまをお待ちしております。 まだ理想の途上にあり、荒波に揉まれ、足掻きながらも前に進む私たちの航海を、ぜひ見届けてください。

